道路外出入時の右折事故で連鎖衝突!過失割合8:2の決め手とは #裁判例解説
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「被告は右折の際、一時停止をしており、対向車発見から衝突まで約3秒の時間がありました。」被告側弁護士が準備書面を読み上げ、被告の責任がないことを主張する。
事故現場の見取図には、3台の車両が描かれている。路外施設への右折を試みた被告車両、対向直進してきた車両、そして運悪く巻き込まれた後続車両。
そして、原告側代理人が「被告は、対向車両への安全確認が不十分でした。重大な過失がある!」と反論。
路外施設への右折という日常的な運転行為の責任はどうなるのだろうか。
※大阪地方裁判所平成13年7月3日判決(平成13年(ワ)第39号)をもとに、構成しています。
この裁判例から学べること
- 路外出入時は対向車の動静確認が最重要で、これを怠ると8割の過失
- 直進車でも、前方注視義務違反があれば2割の過失が認められる
- 連鎖衝突の後続車は、予見困難な場合、過失なしになり得る
- 交通事故で複数の加害者がいる場合、加害者は連帯して損害賠償する
交通事故における過失割合は、事故の態様や当事者の注意義務違反の程度によって、細かく判断されます。特に路外施設への右折時の事故は、右折車両の安全確認義務と直進車両の前方注視義務が複雑に絡み合い、しばしば争点となります。
今回ご紹介する大阪地裁の裁判例は、路外施設への右折時に発生した連鎖衝突事故において、右折車両に8割、直進車両に2割の過失割合が認められた事案です。
また、連鎖衝突で巻き込まれた後続車両については過失なしと判断され、被告・原告双方が共同不法行為責任を負うという複層的な判断が示されています。
この事例を通じて、道路外出入時の注意義務の内容や、連鎖衝突における責任関係の考え方など、交通事故法の重要なポイントを詳しく解説していきます。
目次

📋 事案の概要
今回は、大阪地方裁判所平成13年7月3日判決(平成13年(ワ)第39号)をモデルにした事案です。 この裁判は、路外施設への右折時に発生した連鎖衝突事故について、保険会社が代位請求した事案です。
登場人物
- 原告:ツクバマウント保険会社(兎田ジュンコが運転していた車両の自動車保険。兎田、蟹江に支払った賠償金について、被告・猿谷に代位求償するため裁判をおこした)
- 被告:猿谷シンジ(右折車両の運転者)
- 訴外:兎田ジュンコ(直進車両の運転者。猿田シンジが運転する右折車両と衝突した)
- 訴外:蟹江コウタ(後続車両の運転者)
※登場人物はすべて仮名です。
事故状況等
- 事故状況:路上で発生した3台絡みの連鎖衝突
- 負傷内容:物損事故(人身被害の記載なし)
- 請求内容:保険会社の代位請求として114万円の損害賠償
- 結果:請求の一部(91万2000円)を認容。
過失割合は猿谷(右折車)8割、兎田(直進車)2割
🔍 裁判の経緯
3月のある朝、被告・猿谷シンジは、自分の普通乗用車を運転し、南から北へと続く車道を走行していた。そして、路外施設に入るため右折をしようと、ウインカーを出してブレーキを踏みながら減速した。
「右折の合図を出して一時停止もしました。それなのに…。」
猿谷シンジの主張によれば、一時停止してから衝突まで約3秒の時間があったという。しかし、その時すでに対向車線を北から南へ向かって、兎田ジュンコの車両が直進してきていた。
猿谷シンジが、兎田ジュンコの車を発見したのは、わずか10.7メートル手前。「まさかあんなに近くまで来ているなんて」という驚きと共に、回避する間もなく両車は激突した。
衝突の衝撃は想像以上に大きかった。猿谷シンジの車両は反動で後方に押し戻され、そこに運悪く後続していた訴外・蟹江コウタの車両が衝突。一瞬にして、兎田・猿谷・蟹江の3台が絡む連鎖衝突事故となってしまった。
「後ろの車まで巻き込んでしまって…。」と猿谷シンジはつぶやく。
後続車両の蟹江コウタにとっては全く予期しない災難だった。前を走っていた猿谷の車が右折しようとしているのは見えていたが、まさかそれが衝突の反動で自分の方に戻ってくるとは思いもしなかっただろう。
結果として、兎田(直進車両)は修理費が時価額を上回る経済的全損(45万円)、蟹江(後続車両)も修理費64万5000円と代車費用4万5000円の計69万円の損害を被った。この損害については、兎田が加入するツクバマウント保険会社(裁判の原告)が代位して賠償した。
そして、ツクバマウント保険会社が、被告・猿谷に求償するため、この訴訟が提起されることとなった。
※大阪地方裁判所平成13年7月3日判決(平成13年(ワ)第39号)をもとに、構成しています。登場人物はすべて仮名です。
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、路外施設への右折時における注意義務の内容を詳細に分析し、被告の安全確認義務違反を主たる原因としながらも、直進車両の前方注視義務違反も考慮して過失割合を被告8:原告2と判断しました。
また、連鎖衝突については共同不法行為の成立を認定しました。
主な判断ポイント
1. 右折車両(被告)の過失 – 8割
裁判所は、「路外施設に右折進入しようとする場合には、他の車両等の正常な交通を妨げないよう対向進行してくる車両の有無等に十分注意すべき義務がある」として、被告の安全確認義務違反を厳しく認定しました。
特に、対向車を発見したのが10.7メートル手前という至近距離であったことを重視し、「右折開始時に、対向車両の有無及び動静に対し注意を欠いていた」と判断しています。
2. 直進車両の過失 – 2割
一方で、直進車両についても、「前方を十分注視していれば、被告車両が右折合図を出していたことや減速していたことなどにより、同車両が路外へ右折進入しようとすることを認識し得た」として、適切なブレーキ・ハンドル操作による回避可能性を指摘し、前方注視義務違反の過失を認めました。
3. 後続車両の過失 – なし
後続車両については、「右折態勢に入っていた被告車両が衝突の衝撃で押し戻され後退してくることまでは予想しがたい」として、過失を否定しました。これは交通事故における予見可能性の原則を適用した判断といえます。
なお、後続車両に生じた損害については、右折車両(被告車両)と、直進車両(原告側の車両)がともに過失責任を負い、共同不法行為者として損害を賠償する義務を負うと判断しました。
👩⚖️ 弁護士コメント
路外出入時の注意義務の重要性
この判例が示す最も重要なポイントは、路外施設への出入りを行う車両の注意義務の重さです。
道路交通法第25条の2第1項では、車両は「正常な交通を妨害するおそれがあるとき」には、「道路外の施設」に出入するための「右折」をしてはならないと規定されており、判例はこの規定を厳格に適用しています。
実際の交通事故では、右折車両のドライバーが「ウインカーを出していた」「一時停止していた」などと主張することがありますが、これらの行為だけでは安全確認義務を果たしたことにはなりません。重要なのは、対向車の動静を十分に確認し、安全に右折できる状況を確実に把握することです。
過失割合決定の考慮要素
この事案では直進車にも2割の過失が認められましたが、これは単純に「直進車が優先だから無過失」ではないことを示しています。前方を注視していれば右折車の動きを察知でき、回避行動が可能だったという点が評価されました。
ただし、過失割合8:2という結果は、右折車の義務違反がより重大であることを明確に示しています。安全確認を怠った上での進路変更は、交通事故の重大な原因となるため、法的責任も重くなるのです。
共同不法行為の成立と実務上の意義
この裁判例では、後続車への損害について、過失のある両当事者に共同不法行為責任が認められました。
過失割合が被告80:原告20であっても、後続車両の運転手は、過失割合に関係なく、原告・被告のいずれか一方に全額、賠償請求ができます(二重取りは不可)。これは、加害者間に、不真正連帯債務が成立するためです。
本件では、裁判になる前に、原告が、被告の80%分についても肩代わりし、後続車両の損害を100%賠償していました。そのため、被告が負担すべき80%分の求償も問題となりました。
実務上、連鎖衝突事故(複数の車両が次々に衝突し合う事故)では、保険会社間で複雑な求償関係が生じます。複数加害者による連帯責任を認めることは、被害者の損害回復の実効性を高めることに資するため、制度的意義が大きいといえます。
📚 関連する法律知識
道路外出入に関する法的規制
道路交通法第25条の2では、路外施設への出入りに際して「他の交通を妨げてはならない」と規定されています。この規定は、路外出入車両に対して、道路上の正常な交通流を最優先に考慮すべき義務を課しています。
具体的には、右折や左折で路外に出る際には、対向車や後続車の動静を十分に確認し、これらの車両の正常な通行を妨げることなく安全に出入りできる状況を確保する必要があります。単にウインカーを出すだけでは不十分で、実質的な安全確認が求められます。
共同不法行為の要件と効果
民法第719条は、数人が共同して他人に損害を加えた場合の連帯責任を規定しています。共同不法行為が成立するためには、複数の加害者の行為が客観的に関連し合い、同一の損害を発生させることが必要です。
本件では、右折車と直進車の衝突が原因となって後続車への損害が生じており、両当事者の行為が客観的に関連していることから共同不法行為の成立が認められました。この場合、被害者は加害者のいずれに対しても全額の損害賠償を請求できる一方、加害者間では最終的に過失割合に応じた負担関係が生じます。
過失相殺の原則
民法第722条第2項は、被害者にも過失がある場合の損害額の減額について規定しています。過失相殺は、事故の発生や損害の拡大について被害者側にも落ち度がある場合に、公平の観点から損害額を調整する制度です。
交通事故における過失割合の認定では、道路交通法上の優先関係、事故態様、当事者の注意義務違反の程度などが総合的に考慮されます。本件のように、優先権のある直進車であっても、前方注視義務など基本的な注意義務を怠れば、相応の過失責任を負うことになります。
🗨️ よくある質問
Q1:路外施設に右折で入る際、対向車が遠くにいれば右折を開始してもよいでしょうか?
A1:距離だけでなく、対向車の速度も十分に考慮する必要があります。遠くに見えても対向車が高速で接近している場合は危険です。重要なのは「他の交通を妨げない」ことです。対向車が減速や回避行動を取らずに済む状況を確保してから右折を開始すべきです。この裁判例でも、10.7メートルという距離で初めて対向車に気づいた点が厳しく批判されています。
Q2:右折時に一時停止やウインカーを出していれば、過失は軽減されるでしょうか?
A2:これらの行為は基本的な義務であり、過失を否定する理由にはなりません。重要なのは実質的な安全確認です。ウインカーや一時停止は安全確認のための準備行為に過ぎず、最も重要なのは対向車の有無と動静を正確に把握することです。この裁判例でも、被告が一時停止していたと主張しましたが、安全確認が不十分だったとして8割の過失が認定されています。
Q3:連鎖衝突で巻き込まれた場合、必ず過失なしになるのでしょうか?
A3:必ずしもそうではありません。後続車が予見可能な状況であったかが重要な判断基準となります。この裁判例の事案では、右折車が衝突で押し戻されることは「予想しがたい」とされました。しかし、例えば、前車との車間距離が不十分だった場合や、前方の危険を察知できたにも関わらず適切な回避行動を取らなかった場合などは、後続車にも過失が認められる可能性があります。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了