離婚の慰謝料がもらえるのはどんな時?相場はいくら?
離婚慰謝料の相場はおよそ100〜300万円で、離婚の原因など個別事情によって上下します。また、離婚したからといって必ず受け取れるものではありません。
本来もらえたはずの慰謝料がもらえなかったり、慰謝料をめぐってトラブルになってしまったりすることを防ぐためにも、離婚慰謝料についての正しい知識が必要です。
この記事では、離婚を考えている方へ向けて、離婚で慰謝料を請求できるケースや、離婚慰謝料の相場、実際の請求方法など、離婚慰謝料に関する基礎知識を解説していきます。
目次
離婚と慰謝料の基本
離婚慰謝料とは?
離婚慰謝料とは、離婚の原因を作った方が、もう一方の精神的苦痛を補償するために支払うお金です。
離婚の慰謝料は、全ての場合で支払われるものではありません。請求できるのは、基本的に相手に不倫などの不法行為がある場合が前提となります。
離婚慰謝料は2種類に分けられます。離婚そのものから生じる苦痛に対する「離婚自体慰謝料」と、離婚の原因となったこと(不倫やDVなど)から生じた苦痛に対する「離婚原因慰謝料」です。実際の請求では、この2つを区別せずに「離婚慰謝料」として金額を決定することがほとんどです。
女性は必ず離婚慰謝料をもらえる?
妻は夫から必ず離婚慰謝料をもらえるというのはよくある誤解です。
慰謝料は離婚の原因を作った側が払うものですので、不貞行為やDVなどを行ったのが妻である場合は、当然妻が慰謝料を払うことになります。
慰謝料以外に請求できるお金は?
離婚や別居をするときに配偶者に請求できるお金は、慰謝料だけではありません。
以下の費目については、慰謝料と別に請求ができますので確認しておきましょう。
- 財産分与
- 養育費
- 婚姻費用
- 年金分割
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離婚慰謝料を請求できるケースは?
離婚で慰謝料が認められるのはこんなケース
離婚が成立するとしても、慰謝料が発生するケースとしないケースがあります。慰謝料の請求が認められやすいのは以下のようなケースです。
1.不貞行為(不倫・浮気)
配偶者の不貞行為が原因で離婚に至った場合は、慰謝料を請求することができます。
ただし、法律上の不貞行為にあたるのは性交渉があった場合のみであり、キスをしていた、抱き合っていたという場合だけでは不貞行為で慰謝料を請求することはできません。
2.悪意の遺棄
「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく夫婦の義務「同居義務」「協力義務」「扶養義務」に違反して夫婦生活を損なうことを言います。
例えば、一方的に家を出て生活費を送らない、配偶者を家から追い出して帰宅を認めないなどの行為が悪意の遺棄にあたります。こういった行為があった場合は離婚慰謝料を請求することができます。
3.DV(暴力、経済的DV)
殴る蹴る、物を投げつけるなどの身体的な暴力はもちろん、生活費を渡さないなどして配偶者を経済的に支配する「経済的DV」が原因の離婚でも慰謝料を請求することができます。
4.モラハラ
モラハラとは「精神的DV」とも言われ、心ない言葉を浴びせたり、仕事や外出を禁止して社会的に孤立させたりするなど、直接的な暴力などによらずに精神的苦痛を与えたり、相手を支配したりする行為です。モラハラがあった場合も、それを証明することができれば慰謝料を請求することができます。
5.性の不一致
配偶者が一方的に性交渉を拒否している場合や、反対にあまりにも頻繁に性行為を求めてくる場合、また「SMプレイ」を要求するなどの異常性癖といった性の不一致が原因の離婚でも、慰謝料が認められる場合があります。
ただし、いわゆるセックスレスといっても、病気が原因で性行為ができない場合や、夫婦が互いに性行為に消極的な場合などは、慰謝料は認められません。
慰謝料を請求できないケースは?
以下のようなケースですと、慰謝料が認められないことが多いです。
1.性格の不一致
性格の不一致が離婚の原因である場合、どちらが悪いと決めるのは難しいため、基本的に慰謝料の請求は認められません。
2.健康上の理由
離婚の原因に故意がなければ慰謝料は認められないため、配偶者の病気などの健康上の理由による離婚で慰謝料を請求することはできません。
3.借金
単に配偶者が借金をしているという理由での慰謝料の請求は難しいです。
しかし、ギャンブルや浪費で家庭のお金を使い込んでしまい家族が困窮している場合や、経済的DVもある場合など、過度な借金といえる場合には悪意の遺棄にあたるとして慰謝料を請求できることがあります。
4.配偶者の親族との不和(嫁姑問題)
配偶者の親族(義父や義母など)との不仲のみが理由の離婚では、基本的には慰謝料は認められません。
しかし、親族との問題に関して、配偶者が見て見ぬふりをしたり、嫌がらせに加担したりした場合は慰謝料が認められることがあります。ただし、婚姻は夫婦ふたりの問題ですので、離婚の直接的な原因となったのが姑でも、慰謝料は夫に請求することになります。
不貞相手にも慰謝料を請求できる?
不貞行為(不倫や浮気)は、配偶者とその不貞相手とが共同で行う行為であるため、賠償も配偶者と不貞相手が連帯してしなければなりません。
つまり、不貞をされた側は、有責配偶者にも不貞相手にも慰謝料を請求できます。なお、不貞行為に対する慰謝料は、離婚をしない場合も請求することができます。
ただし、以下の場合は不貞相手への慰謝料請求が認められません。
1.二重取り
有責配偶者と不貞相手とどちらにも慰謝料を請求しようとすると、場合によっては二重取りとされ、認められないため注意が必要です。
例えば、不貞行為によって生じた慰謝料の額が100万円だった場合、配偶者から100万円支払われていれば、それ以上不貞相手に請求することはできません。100万円のうちいくらをどちらに請求するかは自由ですが、賠償してもらえる金額は配偶者と不貞相手とで合わせて100万円になります。
2.既に夫婦関係が破綻している
不貞行為に対する慰謝料は、不貞によって夫婦関係が壊れてしまったという損害を償うためのものです。したがって、既に夫婦関係が破綻している状態で行われた不貞は、償うべき損害がないため慰謝料請求は認められません。
3.既婚者であることを不倫相手が知らなかった
既婚者であることを隠して行っていた不貞の場合は、不貞相手に落ち度がないため、不貞相手に対する慰謝料請求は認められません。
離婚慰謝料はどう決まる?相場はいくら?
離婚慰謝料を決める方法
まず、当事者同士の話し合いで慰謝料を決める場合であれば、双方が同意すれば自由に慰謝料の額を決定できます。極端に高い額でも相手さえ了承すれば払ってもらえることになります。
しかし、話し合いがまとまらなかった場合は離婚調停や離婚裁判へ進み、裁判所の調停委員や裁判官の介入を受けることになります。そうなった場合は、いわゆる「相場」を考慮して慰謝料が決定されます。
離婚慰謝料の相場
離婚の慰謝料は様々な要素を考慮してそのケースごとに判断されます。おおむね、100~300万円で支払われることが多いようです。
離婚の理由ごとの慰謝料の相場は以下の通りです。
離婚理由 | 慰謝料の相場 |
---|---|
不貞行為 | 100~500万円 |
悪意の遺棄 | 50~300万円 |
DV | 50~500万円 |
モラハラ | 50~300万円 |
慰謝料の額に影響する要素
離婚慰謝料の額に影響するのは以下のような要素です。
1.慰謝料を請求する側の事情
慰謝料を請求する側の事情で慰謝料の額に関わってくるのは以下のような事項です。
- 精神的苦痛の程度
- 離婚後の経済状態
2.慰謝料を払う側の事情
慰謝料を払う側の事情で慰謝料の額に影響するのは以下のような事項です。
- 行為内容(不貞、遺棄、DV、モラハラ等)
- 有責行為の態様、回数、期間
- 支払い能力
- 反省や謝罪があるか
3.その他の事情
夫婦それぞれの事情のほかにも、以下のような要素が慰謝料の額に影響を与えます。
- 婚姻の期間
- 別居の期間
- 夫婦に子どもがいるか
- 不貞相手との間に子どもがいるか
離婚と慰謝料の手続きと注意点
離婚の方法にも種類がある
1.協議離婚
当事者間のみで、離婚自体や親権のゆくえ、慰謝料、財産分与などの話し合いを行い、離婚を成立させる方法です。
この場合、双方が合意さえすれば、慰謝料の額など条件を自由に決定することができます。離婚をしたいときはまず、この協議から始めます。
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2.調停離婚
当事者間の話し合いで交渉がまとまらなかったり、話し合い自体が不可能だった場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、慰謝料についても離婚調停の中で話し合うことになります。
離婚調停では、裁判所の職員である調停委員が夫婦から別々に話を聞き、双方の意見を調整して合意に至る条件を探します。双方がこの条件に合意した場合は、所定の手続きを踏んだ後に離婚が成立します。
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3.裁判離婚
調停でも話がまとまらなかった場合は裁判に進みます。なお、離婚裁判は原則として調停を行った後でなければ起こすことができません。
裁判の途中で裁判官が和解案を出してくる場合が多く、そこで和解に応じれば判決を待たずに裁判は終了し、離婚が成立することになります。それでも和解が成立しない場合は、判決という形で裁判官が決定を下すことになります。
慰謝料の請求方法は?確実に支払ってもらうには?
協議離婚の場合、口頭で慰謝料を請求することも可能です。しかし、口約束では反故にされる可能性が高く、そうなった場合の救済方法もありません。ですので法的効力のある書面を残すことをおすすめします。
具体的には、公証役場にて公正証書を作成することが有効です。慰謝料を支払うと約束した旨を公正証書に記録し、強制執行認諾文言を付けることで、もし慰謝料が支払われなかった場合に「強制執行」を行うことができるようになります。
離婚した後からでも慰謝料を請求できる?
離婚届が受理されて離婚が成立した後でも、慰謝料を請求することは可能です。
ただし、離婚の慰謝料については、離婚した時から3年間という時効があり、3年以上が経ってしまうと慰謝料を請求する権利は失われてしまいます。
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離婚で慰謝料を請求するには証拠が大事!
裁判・調停離婚で慰謝料を請求するには証拠が重要
離婚で慰謝料を請求するには、離婚の原因となった行為、つまり不貞行為やDV、モラハラ、悪意の遺棄などの事実が存在することが必要です。
そして、その事実を証明しなければならないのは慰謝料を請求する側です。
当事者間での話し合いで解決できる場合には、証拠を用意する必要はありません。もっとも、証拠もなしに慰謝料の交渉をしても納得を得ることは難しいでしょう。確実な証拠があれば、有利に働く可能性があります。
調停においても、必ずしも証拠が必要になるわけではありませんが、説得力を増すといった意味で役に立つことがあります。
裁判になった場合には、証拠を用意して離婚の原因となった行為の存在を証明することが必須になります。
配偶者に離婚を切り出してからでは証拠を集めるのが難しくなってしまうため、離婚に向けて動き出す前から証拠を集めておくことをおすすめします。
役に立つのはこんな証拠
離婚の原因によって、有効な証拠は違ってきます。
1.不貞行為
不貞行為で慰謝料を請求するためには性交渉の事実が必要です。以下のような証拠があればそれを証明できます。
- 性交渉を直接的に示す写真や動画、音声など
- 2人がラブホテルに出入りしている写真
- ラブホテルの領収書、レシート
- クレジットカードの利用明細
- 本人や不貞相手が不貞を自白している書面や音声、動画
これらの証拠を集めるためには、興信所(探偵)などを利用するのも有効な手段です。
2.悪意の遺棄
- 住民票の写し(配偶者が別居して住民票を移動させていた場合)
- 賃貸借契約書(配偶者が新たに別居先の住居を借りたことを示す)
- 通帳の写し(以前は送金されていた生活費が送金されなくなっていることを示す)
- メールやSNSのやり取り(別居に正当な理由がないことを示す)
- 配偶者の行動を記録した日記やメモ書き
3.DV・モラハラ
- 医師による怪我やPTSD(心的外傷後ストレス障害)の診断書、受診歴
- 暴力による怪我や、壊された物などの写真
- 警察や公的機関への相談記録
- 配偶者の言動を記録した日記やメモ書き
- 暴行や暴言を記録した映像や音声、メールやSNSなどのメッセージ
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離婚の慰謝料を弁護士に相談するメリット
弁護士ができること
1.配偶者との交渉
協議離婚の場合、相手と直接話し合いをしなければならないため、ヒートアップしてしまったり、話し合いが長期化してしまうおそれがあります。弁護士に依頼した場合、配偶者とのやりとりを代理で行ってもらうことが可能です。
また、離婚や慰謝料の合意がとれたとしても、離婚の際に決めなければいけないことは非常に多くかつ複雑なため、条件に漏れや不備があったことが後々発覚して問題になってしまうことも考えられます。トラブルなく離婚をし、慰謝料を受け取るためにも、専門家のサポートを受け、しっかりと話し合いをすることが重要です。
さらに、弁護士はどんな証拠があってどんな風に交渉をすれば慰謝料が認められるか、どのくらい慰謝料を請求できるかを良く知っているため、協議だけでなく調停・裁判においても有利に交渉を進めることができるでしょう。
2.手続きの代行
公正証書を残したい場合や、離婚調停・裁判となった場合なども、弁護士は煩雑な手続きを代わりに行ってくれます。
弁護士はこのような幅広いサポートを提供してくれます。離婚や慰謝料に関してお困りごとがある場合は、離婚に詳しい弁護士に相談し、安心かつスピーディーに解決を目指すことをおすすめします。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
「慰謝」とは心の痛みや苦痛を和らげることを意味する言葉です。