離婚でお金を取る方法は?相場以上を獲得する戦略と隠し財産対策
離婚を決意したとき、多くの人は感情面ばかりに気を取られがちです。
しかし、離婚には夫婦生活を清算する経済的な契約解消という側面があり、この点を軽視すると大きな損失を招くおそれがあります。
「相手の顔も見たくないから早く離婚したい」と条件交渉をおろそかにしたり、十分な知識がないまま合意したりすると、本来もらえるはずだった数百万円単位のお金を失うことになりかねません。
本記事では、離婚に際し、相手から相場以上のお金を獲得し、確実に回収するための実践的なポイントを解説します。
相手が財産を隠している可能性がある場合や、交渉で不利になりたくない方は、ぜひ参考にしてください。
目次
離婚でお金を取るための全体像|5つの重要項目
まず、離婚に際して相手に請求できるお金には、大きく分けて5つの種類があります。
これらを個別に考えるのではなく、トータルで獲得金額を最大化するという視点を持つことが重要です。
それぞれの項目の概要と、獲得に向けたポイントは以下の通りです。
| 婚姻費用 | 別居中の生活費です。 最優先で請求すべき即効性のあるお金であり、交渉を有利に進めるカードにもなります。 |
| 財産分与 | 夫婦が築いた資産の清算です。 割合は原則半分ですが、隠し財産を見逃さないことが金額を左右します。 |
| 慰謝料 | 不貞やDVなどによって受けた精神的苦痛に対する賠償です。 証拠の有無と強さが獲得の鍵となります。 |
| 養育費 | 子どもの生活を維持するための費用です。 算定表の金額に加え、進学費用などの特別経費を上乗せ交渉します。 |
| 年金分割 | 将来受け取る年金の確保です。 熟年離婚に限らず確認すべき手続きです。 |
これらのお金を最大限に引き出すための具体的な戦略を解説していきます。
婚姻費用は1日も早く請求して主導権を握る
離婚協議において、多くの人が見落としがちなのが婚姻費用の重要性です。
収入が多い側は、少ない側に対して、同水準の生活を保持するために生活費(衣食住の費用、医療費、養育費など)を離婚が成立するまで支払う義務があります。
請求が遅れると「もらい損ね」が発生する
婚姻費用は、原則として「請求時」以降の分しか認められません。
「別居して半年経ってから請求した」という場合、過去半年の生活費を遡って支払ってもらうことは極めて難しくなります。
別居を開始したら、あるいは別居を検討した段階で、直ちに婚姻費用の請求準備をすることが鉄則です。
離婚交渉の強力なカードになる
相手が離婚を急いでいる場合、適正な婚姻費用の請求を続けることは、高収入な側ほど大きな経済的痛手となります。
これが「早く離婚を成立させたい」という心理的圧力となり、財産分与や慰謝料の条件でこちらの譲歩を引き出すための強力な交渉材料になり得ます。
具体的な請求の手順や計算方法については関連記事『婚姻費用の請求方法|弁護士なしで自分で進める手順と注意点』で詳しく解説しています。
財産分与や慰謝料を最大化する交渉術
離婚時のお金の大部分を占めるのが財産分与と慰謝料です。
これらを相場以上に獲得するためには、事前の調査と交渉テクニックが不可欠です。
財産分与は隠された資産を暴けるかが勝負
財産分与は、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を原則2分の1ずつ分ける制度です。
ここで重要なのは分ける割合を変えることよりも、分ける対象となる財産総額を正確に把握することです。
相手が財産を開示しない場合や、意図的に隠しているケースも少なくありません。
通帳にある現金だけでなく、以下のような見えにくい資産がないかチェックしてください。
- 退職金の見込額
将来受け取る予定の退職金も、結婚期間に対応する分は分与対象になり得ます。 - 生命保険の解約返戻金
積立型の保険は資産価値があります。 - 投資資産
株式、投資信託、iDeCo、NISA口座なども、婚姻中に取得したものであれば分与対象になり得ます。 - デジタル資産
ネット銀行の口座、仮想通貨(暗号資産)、電子マネーの残高、ポイント投資なども資産価値があります。
これらの資産を見落とすと、数百万円単位で損をする可能性があります。
相手の財産を調査する具体的な手法については、関連記事『離婚の財産隠しの手口と調査方法|隠し口座やタンス預金を見抜くには?』をご覧ください。
慰謝料は証拠が鍵!難しい場合は解決金を狙う
不貞行為(浮気)やDVなど、相手に明確な離婚原因がある場合は、慰謝料を請求できます。
慰謝料請求で最も重要なのは証拠です。
写真、録音、LINEの履歴、医師の診断書など、客観的な証拠があればあるほど、高額な慰謝料を獲得しやすくなります。
性格の不一致のように法的な慰謝料が発生しにくいケースや、決定的な証拠がない場合でも、相手が世間体や早期解決を重視しているなら、解決金として金銭の支払いを求める交渉が可能です。
解決金は法的な慰謝料とは異なり、離婚条件の一つとして双方の合意で支払われるものです。そのため、交渉次第では相場以上の金額を受け取れる可能性があります。
慰謝料請求の具体的な手順や必要な証拠については関連記事『離婚の慰謝料請求方法|一括請求すべき?分割する際の注意点』で解説しています。
養育費と年金分割で将来の安定を確保する
離婚後、長期にわたって生活を支えるのが養育費と年金分割です。
養育費は算定表に特別経費を上乗せする
養育費の金額は、裁判所が公表している「養育費算定表」が実務上の基準となります。
しかし、この算定表は公立中学校・公立高校の子どもの教育費を考慮したものです。
もし、お子さんが私立学校に通っている場合や、塾・習い事の費用がかかる場合、あるいは持病があり医療費がかかる場合などは、これらを特別経費として算定表の金額に上乗せするよう交渉すべきです。
「算定表通りで仕方ない」と諦めず、具体的な必要経費を算出して提示することが大切です。
関連記事
・養育費・婚姻費用算定表の見方&自動計算ツール(新算定表対応)
・大学の学費は養育費として払うべき?離婚した親の教育費負担を巡る裁判
熟年離婚でなくても年金分割は必ず確認する
年金分割は、婚姻期間中の厚生年金の記録を夫婦で分割する制度です。
熟年離婚の話と思われがちですが、将来受け取る年金額に影響するため、年齢を問わず離婚時には必ず手続きを行いましょう。
特に、会社員の夫と専業主婦の妻というパターンの場合、3号分割という制度を使えば、相手の合意がなくても分割請求ができる場合があります。
関連記事
・離婚時の年金分割手続きとは?必要書類は?共働き・拒否した場合も解説
・離婚時に年金分割をしないとどうなる?知っておきたいリスクと対処法
合意後の不払いを防ぐ鉄壁の守り
いくら高額な養育費や慰謝料で合意しても、それが口約束であったり、離婚協議書を作成しただけだったりすると、支払いが止まったときに回収するのが困難になります。
公正証書の威力
お金の取り決めをする際は、公証役場で強制執行認諾文言付公正証書を作成しましょう。
この書類には、「もし支払いが滞ったら、裁判などの手続きを経ずに、直ちに給与や預金を差し押さえられても文句は言いません」という強い法的効力を持たせることができます(民事執行法22条5号)。
実際に差し押さえをするかどうかに関わらず、「支払わないと給料を差し押さえられる」という事実が相手への強力なプレッシャーとなり、結果として不払いを防ぐ効果があります。
公正証書の作成方法や、実際に未払いが発生した際の強制執行の手続きについては、以下の関連記事で詳しく解説しています。
関連記事
・離婚時の取り決めを強制執行で実現する方法|慰謝料・養育費など
弁護士に依頼して費用倒れにならない判断基準
「弁護士に頼むと費用がかかるから、手元に残るお金が減るのではないか」と心配される方は少なくありません。
しかし、ケースによっては弁護士を入れることで増額幅が費用を上回り、結果として手取りが増えることもあります。
弁護士への依頼を検討すべきケース
- 相手が高収入・資産家である
財産分与の対象額が大きく、正確な調査と交渉による増額効果が高い。 - 相手が不貞などを否定している
証拠を法的に構成し、交渉や訴訟を通じて慰謝料の獲得・増額を図れる。 - 相手がモラハラ気質である
相手の不当な主張や圧力に対抗し、適正な条件での解決を図れる。
ご自身の状況で弁護士費用がどの程度かかるのか、費用対効果はどうなるのかについては、関連記事『離婚の弁護士費用はいくらかかる?費用を払えない時はどうする?』で相場や内訳を解説しています。
離婚のお金に関するよくある質問
Q. 相手にお金がない場合でもお金は取れる?
相手に資産や収入が全くない場合、回収することは困難です。
相手が一時的に無職で働く能力があるなら、将来の就職を見越して養育費を取り決めたり、親族に保証人になってもらうよう交渉することは可能です。
なお、相手の個人的な借金(ギャンブル等)は、財産分与でマイナスとして考慮する必要はありません。
Q. 別居中に生活費をもらっていなかった場合、過去の分も請求できる?
原則として、婚姻費用は「請求時」以降の分しか認められません。
内容証明郵便やメール等で明確に請求意思を示している場合は、その時点から認められることもあります。
Q. 証拠がなくても慰謝料は請求できる?
慰謝料請求自体は証拠がなくても行えますが、相手が事実を否定すると、証拠がなければ裁判等で認めてもらうのは難しくなります。
被害者の供述のみで事実認定が行われることもありますが、客観的な証拠と比べると証拠価値は弱いです。
そのため、相手が自白した会話の録音や状況証拠を組み合わせ、交渉材料として活用する戦略が重要です。
Q. 養育費が支払われなくなったらどうすればいい?
強制執行認諾文言付公正証書を作成していれば、すぐに裁判所へ強制執行(差押え)の申立てが可能です。
離婚協議書や口約束のみの場合は、まずは債務名義を取得する手続きが必要となります。
養育費未払いへの対処法や、強制執行の具体的な手続き方法は関連記事『養育費の強制執行はどうやる?未払いの時の選択肢と手続きの流れ』をご覧ください。
まとめ
離婚におけるお金の問題は、「知っているか」「適切なタイミングで動けるか」で、最終的な獲得金額に数百万円もの差がつくことがあります。
「早く終わらせたい」という焦りから、安易な条件で合意してしまうのが一番の損失です。
まずはご自身の状況で、婚姻費用、財産分与、慰謝料などが「本来いくら取れる見込みがあるのか」を知ることから始めましょう。
相手の財産状況や交渉の進め方に不安がある場合は、離婚問題に強い弁護士に戦略を相談することをおすすめします。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
