有責配偶者でも婚姻費用をもらえるケースと金額の計算方法

有責配偶者であっても、子どもを養育している場合には子どもの養育費相当分の婚姻費用を請求できます。婚姻費用の分担義務は民法第760条に定められており、有責性があっても義務が完全に消滅するわけではありません。
この記事では、有責配偶者が婚姻費用をもらえるケースともらえないケース、金額の計算方法と請求手続きを解説します。
目次
有責配偶者と婚姻費用の基本ルール
有責配偶者の意味と具体例
有責配偶者とは、夫婦関係が破綻した主な原因を作った側の配偶者を指します。代表的な例としては次のようなケースがあります。
- 不貞行為(不倫)をした
- 暴力や精神的な虐待を繰り返した
- 正当な理由なく同居を拒否し続けた
- 生活費を渡さず家族を困窮させた
婚姻費用とは何か
婚姻費用とは、夫婦が生活を維持するために必要な費用のことです。別居中であっても、収入の多い側が少ない側に対して、生活費を分担する義務があります(民法第760条)。
有責配偶者であるかどうかにかかわらず、婚姻関係が継続している限りこの義務は消滅しません。ただし、請求する側に有責性がある場合には、請求できる範囲に制限が生じることがあります。
有責配偶者でも婚姻費用をもらえる?
有責配偶者でも婚姻費用をもらえるケースはあります。ただし、請求できる内容は原則として子どもの養育費相当分に限られます。
民法第760条は「夫婦はその資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と定めており、この義務自体は有責性によって完全には消滅しません。
一方で、信義則(民法第1条第2項)および権利濫用の禁止(同第3項)の観点から、有責配偶者自身の生活費部分については請求が制限される傾向にあります。
重要なポイントは、請求する側が有責なのか、支払う側が有責なのかによって扱いが大きく変わることです。
| パターン | 婚姻費用の扱い |
|---|---|
| 請求する側が有責 | 子どもの養育費部分のみ認められる傾向 |
| 支払う側が有責 | 配偶者分・子ども分とも全額請求可能 |
それぞれのパターンについて、具体的に見ていきましょう。
請求する側が有責配偶者の場合
不貞行為などをした配偶者が、相手方に対して生活費を請求するケースです。
このパターンでは、自分自身の生活費部分については、請求が認められない傾向にあります。裁判所は信義則違反や権利の濫用として、配偶者本人の生活費部分を減額または免除することが多いです。
ただし、子どもがいる場合は話が別です。子どもの養育費相当分は、親の有責性とは無関係に支払われるべきものとされています。
また、婚姻費用の分担は、生活に困っている側を速やかに支援する必要があるため、有責性の有無やその程度がすぐには判断できない場合には、有責性を考慮せず、算定表に基づいて金額が算定されることもあります。
支払う側が有責配偶者の場合
配偶者の不倫や暴力が原因で別居するケースでは、有責配偶者である相手方が原則どおり婚姻費用を支払う義務を負います。
別居の原因が支払義務者にある場合、婚姻費用を分担する義務はより強く認められます。
裁判実務上も、有責であることを理由に支払いを免れたり、減額されたりすることはありません。
たとえば、配偶者が一方的に家を出た場合でも、法律上の支払義務はなくなりません。このようなケースでは、算定表に基づいた満額の婚姻費用を請求することができます。
有責配偶者が婚姻費用を請求できる特段の事情
有責配偶者からの婚姻費用請求は原則として制限される傾向にありますが、すべてのケースで一律に認められないわけではありません。
状況によっては、自身の生活費部分も含めた婚姻費用が認められる余地があります。
有責性が明確でない場合
婚姻費用の分担は生活に困っている側を速やかに保護する必要があるため、有責性の判断に時間を要する場合には、原則として算定表どおりの金額が認められることがあります。
有責性をめぐる争点が複雑な場合には、事実関係の厳密な判断は離婚訴訟などに委ね、婚姻費用については迅速な救済を優先するのが実務上の一般的な考え方です。
双方に責任がある場合
夫婦のいずれか一方だけに責任があるのではなく、双方に不倫などの事情があり、婚姻関係の破綻に両者が関与している場合には、婚姻費用は通常どおり認められる傾向にあります。
このようなケースでは、一方に責任があるとまではいえないため、信義則違反や権利の濫用には当たらないと判断されます。
なお、これらのケースに該当するかどうかの判断は複雑です。自身の状況で婚姻費用が認められる可能性があるかどうかは、弁護士に相談して判断を仰ぐことを推奨します。
親が有責配偶者でも子どもの養育費は守られる理由
婚姻費用を考えるうえで最も重要なのは、子どもの生活を支える権利は、親の不倫や過失といった有責性によって左右されてはならないという原則です。
子どもには何の責任もない
夫婦間のトラブルはあくまで大人同士の問題であり、子どもに責任はありません。どちらの親に不倫などの有責性があったとしても、子どもが適切な養育を受ける権利は守られるべきものです。
そのため、実際の調停や裁判では、「配偶者本人の生活費」と「子どもの養育費に相当する部分」は区別して考えられます。
子どもの養育費は別扱いとされる
請求する側が有責配偶者であっても、子どもと同居している場合には、少なくとも子どもの養育に必要な費用については、相手方に請求できるのが原則です。
婚姻費用を算定する際には、有責配偶者の生活費部分を除外し、子どもの養育費に相当する金額のみを算出する場合があります。このような場合には、養育費の算定表を用いて金額を導くという実務上の取り扱いが見られます。
婚姻費用の相場と計算方法
婚姻費用算定表の使い方
裁判所が公表している「婚姻費用算定表」で婚姻費用のおおよその相場を把握することができます。
婚姻費用算定表は、支払う側と請求する側それぞれの年収に加え、子どもの人数や年齢を基に作成されています。実務では、この算定表を用いて婚姻費用の目安を算出するのが一般的であり、調停・審判や裁判でも広く活用されています。
最高裁判所司法統計(令和6年)によると、調停成立・審判認容で婚姻費用の支払いが取り決められた件数は10,961件でした。月額帯別では15万円以下が2,204件と最多で、次いで8万円以下(1,546件)、10万円以下(1,496件)、6万円以下(1,430件)と続きます。月額6万円超〜15万円以下の帯に全体の約47%が集中しています。
また、アトム法律事務所の婚姻費用・養育費計算機を利用すれば、簡単な操作で婚姻費用の相場を確認できますので、参考としてご活用ください。
有責配偶者が請求する場合の調整
請求する側が有責配偶者である場合、婚姻費用は算定表で算出された金額から、本人の生活費部分が減額されることがあります。
子どもがいない場合は支払い自体が認められないケースも多く、実際に受け取れる金額は算定表の数値を大きく下回ることがあります。
判断にあたっては、有責の程度や別居に至った経緯、立証の難易度なども考慮されます。
子どもがいる場合の計算例
- 夫の年収1,000万円(会社員)
- 妻の年収200万円(パート)
- 有責配偶者の妻が子ども2人(10歳、7歳)を引き取って別居
裁判所が公開している婚姻費用算定表では、月20万円から22万円程度の婚姻費用が目安とされています。
請求する側である妻に有責性がある場合には、妻自身の生活費部分が減額され、子どもの養育費に相当する月14万円から16万円程度のみが認められる可能性があります。
子どもがいない場合の計算例
- 夫の年収1,000万円(会社員)
- 妻の年収200万円(パート)
- 有責配偶者である妻が別居
婚姻費用算定表に当てはめると、月12万円から14万円程度の婚姻費用が目安となります。
しかし、請求する側である妻に有責性がある場合には、生活費の支援が認められにくく、実務上は大幅に減額されたり、支払い自体が認められなかったりする可能性が高いとされています。
裁判例から見る有責配偶者の婚姻費用
有責配偶者による婚姻費用の請求は、不倫や別居の経緯など、その内容や程度によって裁判所の判断が大きく変わります。ここでは、有責性の種類ごとに裁判例を分けて紹介します。
妻の不貞行為と婚姻費用請求が争われたケース
この事案は、妻に不貞行為の疑いがあったものの、うつ病により精神的に不安定な状態にあり、その後一度は夫と同居を再開して関係修復を試みていたことなどを踏まえ、妻からの婚姻費用請求は権利の濫用には当たらないと判断されました(神戸家審平27・11・27)。
もっとも、この判断は夫の即時抗告により控訴審で見直され、妻の不貞行為が認定された結果、婚姻費用の額は月額で約5万円減額され、子どもの養育費に相当する部分に限定されました(大阪高決平28・3・17)。
妻の暴力行為と婚姻費用請求が争われたケース
酔って帰宅した妻が長男の首を絞めるなどの暴力を振るい、制止した夫に包丁を向けてけがをさせたことが、別居のきっかけと認定された事案です(東京高裁平31・1・31)。
裁判所は、夫婦関係の悪化について妻の責任は極めて重いと判断しました。さらに、妻には年収約330万円があり夫名義の自宅に住み続けて住居費の負担がなかった一方で、夫は住宅ローンと別居先の家賃を二重に負担していた事情も考慮されています。
その結果、妻が夫と同程度の生活水準を求めて婚姻費用を請求するのは権利の濫用にあたるとして、申立ては認められませんでした。
夫の誹謗中傷と婚姻費用請求が争われたケース
夫が妻やその親族・友人、さらに子どもに対して差別用語や侮蔑的な内容を含む悪質な誹謗中傷のメッセージを執拗に送り続けたことが、婚姻関係破綻の主な原因と認定された事案です(東京高裁令6・11・19)。
裁判所は、夫が婚姻関係の破綻を招いた重大な原因を作ったことに加え、夫の住むマンションの住宅ローンなどを別居後も妻が負担していた点を踏まえ、夫による婚姻費用の請求は権利の濫用にあたるとして認めず、夫の抗告を棄却しました。
また、有責配偶者であっても生活に困窮している場合には最低限の生活を支える義務は残ると考えられていますが、本件では夫が約1,938万円の退職金を受け取っており、生活に困っている状況とはいえないとして、原審の判断が維持されました。
妻の家出と婚姻費用請求が争われたケース
別居中の妻から夫に対して婚姻費用を請求した事案です(大阪高裁令5・12・27)。夫は、妻が離婚理由もないまま多額の現金を持ち出して家を出たとして、同居義務に違反しており、請求は信義則に反すると主張しました。
これに対し裁判所は、夫の暴言や過度なこだわりによって妻が精神的・身体的に限界を感じ、やむを得ず別居に至ったと認定し、同居を拒否することに相応の理由があると判断しました。
結果として妻からの請求は信義則に反しないとして、夫が高額所得者であることから算定表の上限額にあたる月額32万円の婚姻費用が認められました。
婚姻費用を請求する具体的な手順
話し合いから始める
まずは相手方と直接話し合い、婚姻費用の支払いについて合意を目指します。感情的にならず、子どもの生活のために必要な金額を冷静に伝えることが大切です。
金額等について合意ができた場合は、合意書や公正証書を作成しておくことを推奨します。
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婚姻費用分担請求調停を申し立てる
相手が支払いを拒否したり、金額で折り合いがつかない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てます。
婚姻費用は、原則として調停を申し立てた時点以降の分が支払いの対象とされることが多いため、話し合いがまとまらない場合には、できるだけ早めに申立てを行うことが重要です。
調停では、裁判官や民間から選ばれた調停委員が間に入り、双方から収入や支出、資産状況を聴取した上で、合意を目指して話し合いが進められます。
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調停が不成立なら審判へ
調停で話し合いがまとまらず不成立となった場合には、手続きは自動的に審判へと移ります。審判では、裁判官が当事者双方の事情を総合的に考慮したうえで、婚姻費用の分担額を決定します。
請求する側が有責配偶者である場合、審判においても、信義則違反や権利の濫用といった観点から自身の生活費分については認められないか、制限・減額されることがあります。
ただし、子どもがいる場合には、親の有責性にかかわらず、子どもの養育費に相当する部分は確保される傾向にあります。
弁護士に相談するメリット
婚姻費用の請求では、法的な判断が複雑になることも多いため、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すると、次のようなメリットがあります。
- 金額の見通しと適切な判断
- 調停での主張の組み立てとサポート
- 相手方との交渉の代理
弁護士は、解決まで継続的にサポートする存在として、法的な支援だけでなく、依頼者の心情を汲み取りながら精神的な支えとなる役割も担います。
とりわけ、婚姻費用の請求は日々の生活に直結する重要な問題であるため、専門家である弁護士が関与する意義は大きいといえます。
有責配偶者の婚姻費用に関するよくある質問
Q. 不倫をしたら婚姻費用は一切もらえない?
不倫をした有責配偶者であっても、子どもを養育している場合は子どもの養育費相当分の婚姻費用を請求できます。有責配偶者自身の生活費部分は、信義則違反または権利濫用として認められない傾向にあります。
Q. お互いに有責な場合、婚姻費用はどうなる?
双方に同程度の有責性がある場合は、信義則違反には当たらないと判断され、通常どおりの婚姻費用分担が認められる傾向にあります。どちらの責任がより重いかは、個別の事情を踏まえて判断されます。
Q. 有責配偶者への支払いを拒否できる?
支払う側が有責配偶者であっても、有責性を理由に婚姻費用の支払いを拒否することは認められません(民法第760条)。調停・審判で定められた金額を支払わない場合は、給与や預金への強制執行が可能です。
Q. 婚姻費用の調停はいつ申し立てるべき?
婚姻費用は原則として調停申立時点以降の分が支払対象となります。話し合いがまとまらない場合は、速やかに家庭裁判所へ婚姻費用分担請求調停を申し立てることが重要です。
有責配偶者の婚姻費用請求は専門家に相談を
別居中の生活費について、有責配偶者であることだけを理由に、必要以上に悲観する必要はありません。特に子どもがいる場合には、養育費に相当する部分は、親の有責性にかかわらず支払われるべきものと考えられています。
また、支払う側が有責配偶者である場合には、相手が「払わない」と主張したとしても、法律上の支払い義務は消えません。適切な手続きを通じて、必要な生活費を確保することができます。
まずは弁護士に相談して、ご自身の状況で認められる婚姻費用の見通しを確認することをおすすめします。
法律は、困難な状況にある方を支援するための仕組みです。適切な手続きを踏めば、必要な生活費を確保できる可能性があります。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
