別居中に受けられる支援ともらえるお金|離婚前の生活費確保と行政手続き
「夫との生活に限界を感じて別居したけれど、生活費が足りない」
「まだ離婚届を出していないから、母子手当(児童扶養手当)はもらえないと諦めている」
「児童手当が夫の口座に振り込まれていて、渡してもらえない」
別居直後は、精神的な負担に加え、経済的な不安が大きくのしかかります。
しかし、離婚成立前(別居中)であっても、利用できる公的な支援制度や手当は存在します。
この記事では、別居中の生活基盤を固めるために知っておくべき行政手続きとお金の制度について、実務的な視点で解説します。
目次
別居生活を支える婚姻費用と公的支援
別居中の生活費を確保するためには、まず「誰からもらえるお金なのか」を整理することが重要です。
婚姻費用|夫への請求
法律上、夫婦には互いに生活を支え合う義務(扶助義務)があります。
そのため、別居中であっても、収入の多い配偶者は、収入の少ない配偶者に対して生活費を支払う必要があります。
この生活費を婚姻費用といいます。
婚姻費用は、別居中の生活を支える中心的な資金となるもので、一般に公的支援よりも高額になるケースが多いのが特徴です。
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公的支援|役所への申請
夫からの婚姻費用だけでは生活が苦しい場合や、夫が支払いに応じない場合のセーフティネットとして機能するのが、国や自治体による公的支援です。
多くの人が「離婚しないと手当はもらえない」と誤解していますが、住民票の異動や監護の実態を適切に手続き・証明することで、別居中でも受けられる支援はいくつもあります。
子どもがいる場合の別居中の手当と手続き
子どもを連れて別居している場合、最も優先すべきは子どもに関連する手当の確保です。
児童手当の受取口座変更
児童手当は、生計を維持する程度が高い人、一般的には所得が高い方の親に支給されます。そのため、夫の所得が高い場合は、通常、夫の口座に振り込まれます。
しかし、別居中で子どもと同居し、実際に養育・監護している親がいる場合には、その親が受給者として優先されます。
夫が自発的に「受給事由消滅届」を提出してくれれば手続きはスムーズですが、協力が得られない場合でも、受給者変更の手続きを進めることは可能です。
実務上は、「子どもと同居し、監護している事実」を示す書類を提出することで対応します。
必要な書類
- 児童手当等の受給資格に係る申立書(同居優先)
- 別居監護の事実を証明する書類
離婚協議を申し入れたことが分かる内容証明郵便の写し、調停期日呼出状の写し、調停不成立証明書など
「夫の署名がなければ変更できない」と誤解されがちですが、離婚協議中であることが客観的に確認できれば、自治体の判断で受給者を変更できるケースは増えています。
まずは市区町村の窓口で、別居監護の扱いについて相談してみましょう。
児童扶養手当をもらえる例外ケース
児童扶養手当(母子手当)は原則として離婚成立後のひとり親家庭が対象ですが、離婚前(婚姻中)であっても、一定の要件を満たす場合には受給できる例外が認められています。
離婚前でも受給できる主なケース
- 1年以上遺棄されている場合(連絡が取れず、送金も全くない状態など)
- 裁判所からDV保護命令を受けている場合
- 拘禁(刑務所等に収監)されている場合
特にDV等で避難している場合は対象になる可能性があるため、諦めずに支援センターや市町村窓口で相談しましょう。
就学援助の準要保護認定
就学援助は、小・中学生がいる家庭に対し、給食費や学用品費、修学旅行費などを自治体が補助する制度です。
通常は世帯全員の所得で審査されますが、別居中であっても生計が別であることを証明できれば、同居親の収入のみで審査を受けられる場合があります。
生計が別であることの証明には、電気・水道等の契約が別であることや、家計収支の資料などが用いられます。
医療費助成の住所変更
子どもの医療費助成についても、別居に伴い住所変更などの手続きが必要です。
医療証が夫の住所に送付されないよう、送付先を別居先に変更しておきましょう。
医療費助成には所得制限が設けられている自治体もありますが、その判定は、実際に子どもを監護・養育している親の所得を基準とする運用が多く見られます。
夫の所得ではなく、同居親の所得で判定してもらえるように自治体の窓口で相談することが大切です。
なお、子どもの健康保険証が夫の扶養に入ったままであっても、医療費助成(医療証)の手続きは自治体ごとに行うことができます。
医療機関では、健康保険証と医療証を併せて提示することで、医療費助成を受けることが可能です。
生活が苦しい方へ別居中の公的支援制度
子どもの有無に関わらず、手元の資金が枯渇している場合に利用できる制度です。
緊急小口資金・総合支援資金
市役所などの窓口ではなく、社会福祉協議会が窓口となる公的な貸付制度です。
給付(もらえるお金)ではなく貸付(借りるお金)ですが、無利子・保証人不要で借りられる場合があります。
緊急小口資金は、急な出費などにより一時的に生活が立ち行かなくなった場合に、原則10万円以内(特例で20万円以内)を借りられる制度で、比較的審査が早い点が特徴です。
一方、総合支援資金は、生活を立て直すまでの一定期間の生活費として、月額最大20万円程度を最長3か月分借りられる仕組みです。
別居に伴う引越し費用や求職活動で一時的に資金が不足している場合には、消費者金融などを利用する前に、まずこれらの制度について相談してみることをおすすめします。
生活保護(別居中の単独受給)
別居中であっても生活保護を検討できる場合があります。
生活保護は世帯単位で適用されるのが原則のため、戸籍上の夫がいると受給できないと思われがちです。
しかし、実際に夫から経済的援助を受けておらず、自身の収入や資産だけで最低生活費を下回る場合には、単独世帯として生活保護が認められる可能性があります。
形式的な婚姻関係だけで判断されるわけではないため、状況に応じて福祉事務所に相談することが重要です。
別居中に公的支援を使うための住民票と世帯
公的支援を円滑に受けるためには、行政上の手続きを正しく行うことが欠かせません。
特に重要なのが、住民票の異動と世帯の扱いです。
住民票の異動
生活の拠点が変わった場合には、法律上、14日以内に転居届を提出し、住民票を移す必要があります。
公的支援の多くは住民票がどこにあるかを基準に判断されるため、別居先に住民票を移すことで、児童手当の受給者変更がスムーズになるほか、子どもの転校手続きや就学援助の申請が可能になります。
また、自分宛ての郵便物が確実に届くという実務上のメリットもあります。
ただし、DV等の被害があり、住民票を移すことで加害者に居場所が知られるおそれがある場合は、DV等支援措置(住民基本台帳の閲覧制限)を自治体に申し出ましょう。
相手方からの住民票の閲覧を制限したまま、住民票を移すことができます。
世帯分離
実家に戻って親と同居しているケースでは、世帯分離の手続きが重要になることがあります。
親と同一世帯のまま住民票を置くと、各種手当や減免制度の審査において、親の収入も含めた世帯収入で判断されるため、児童扶養手当や保育料の減免が受けられなくなる場合があります。
実際には生計が別であれば、同じ住所に住んでいても世帯分離の手続きを行い、親世帯とは別の世帯として扱ってもらうことが可能です。
公的支援を確実に活用するためには、住民票や世帯の扱いについて早めに役所の窓口で相談し、自身の状況に合った手続きを取ることが大切です。
別居中の支援に関するよくある質問
Q. 夫の扶養に入ったままでも別居中の公的支援は受けられる?
基本的には受けられます。健康保険や税法上の扶養に入ったままでも、児童手当の受給者変更や就学援助の申請は可能です。
ただし、所得制限のある手当については、住民票を分けるなどして生計が別であることを明確にする必要があります。
Q. 児童手当を夫が渡してくれない場合はどうすればいい?
自治体で受給者変更の手続きを行ってください。
児童手当法では、子どもと同居・監護している親への支給が優先されます。
夫の同意がなくても、別居の実態を示す書類や別居監護申立書等を自治体の窓口に提出することで受給者変更の手続きを進めることが可能です。
Q. 離婚届未提出でも母子手当(児童扶養手当)はもらえる?
原則は対象外ですが、一定の要件を満たす場合には受給できる例外が認められています。
DV保護命令が出ている場合や、1年以上にわたり連絡も送金もない場合などは、離婚前でも児童扶養手当の支給対象になる可能性があります。
自己判断せず、福祉課の窓口で詳細を相談してください。
別居中の不安を行政支援で解消しよう
別居中は将来への不安が大きくなりがちですが、まずは目の前の生活を安定させることが何より重要です。
そのためには、住民票の異動など必要な行政手続きを整え、児童手当の受取人を自分に変更するといった対応を早めに進めましょう。
また、緊急小口資金などの公的なセーフティネットについても、事前に把握しておくことが安心につながります。
これらの手続きは、弁護士に依頼しなくても、多くの場合はご自身で役所に行けば対応できます。
公的支援を活用して当面の生活を支えながら、生活費の中心となる夫への婚姻費用の請求についても、並行して進めていくことが大切です。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
