離婚と婚姻費用│別居中の生活費・相場は?離婚前提でも請求できる?
- 婚姻費用とは?分担請求はどうする?
- 離婚前提の別居中の生活費も請求できる?
- 婚姻費用の相場はいくら?
離婚を視野にいれて別居をする場合、専業主婦(主夫)や収入が少ない方が、別居にかかる当面の生活費でお困りになるケースは多いものです。
その場合、相手に婚姻費用分担請求をしましょう。
法律上、夫婦は互いに、婚姻費用(婚姻中の生活費)を分担し合う義務があります(民法760条)。そのため、法律上、夫婦である限り、たとえ別居をして離婚協議中であっても、相手に婚姻費用(婚姻中の生活費)を支払ってもらう権利があります。
今回は、婚姻費用について、分担請求できる範囲、金額、相場、請求方法などを解説します。
現在、別居中、あるいは離婚ご検討中の方にとって、損をしないために必要な内容なので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
婚姻費用とは?離婚まで請求可能?
婚姻費用とは?別居中の生活費も含む?
婚姻費用に含まれるもの
婚姻費用とは、夫婦が、その資産、収入、社会的地位などに応じた生活をおくるために必要な費用のことです。
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
民法第760条
家賃や固定資産税、食費、水道光熱費など衣食住に関する費用や、医療費などは、夫婦が離婚するまで必要な生活費といえ、当然、婚姻費用になります。
また、出産費用、子どもの生活費、教育費なども、夫婦の子育てに必要な費用になるので、婚姻費用となります。
そのほか、社会的に見てその夫婦に見合った一定程度の交際費も、常識的な範囲内であれば、婚姻費用に含まれると考えられます。
婚姻費用の例
- 衣食住の費用
- 出産費用
- 医療費
- 未成熟子の養育費
- 教育費
- 相当の交際費
etc.
別居中の生活費は?離婚調停中も婚姻費用を分担してもらえる?
婚姻費用は、別居中の生活費も含みます。
夫婦関係の再構築のための冷却期間として別居をする夫婦や、「離婚したいから別居する」「離婚調停中だから別居する」という夫婦もいるでしょう。
いずれのパターンでも、別居中の生活費は婚姻費用になります。
民法の規定上、夫婦は互いの資産や収入などを考慮して、婚姻中の生活費を分担することが義務となっているので(民法760条)、離婚が成立するまでは別居中であっても、配偶者に、生活費の分担請求ができるのです。
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収入が少ないなら婚姻費用分担請求ができる?
婚姻費用分担請求をできるかどうかは、夫婦の収入、子どもの人数と年齢によって決まります。
基本的には、収入が少ないほうから、収入が多いほうに対して、婚姻費用分担請求ができると考えておいてよいでしょう。
たとえ自分一人の収入で生活できる場合でも、自分よりも、配偶者のほうが収入が高いなら、婚姻費用の分担請求は可能です。
また、配偶者より自分のほうが収入が高い場合でも、子どもの人数・年齢によっては、自分よりも収入の低い配偶者に対して、婚姻費用を請求できる可能性があります。
子の有無 | 婚姻費用を負担する人 |
---|---|
無し | 収入が多い配偶者 |
有り | 収入、子の人数・年齢による |
婚姻費用の額については、生活保持義務にもとづき、夫婦が同程度の暮らしができる額を支払うべきとされており、個別具体的なケースによって分担金額は異なります。
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婚姻費用分担の請求時期は?
婚姻費用の対象となる期間
- 婚姻費用の分担を請求した時から
- 離婚が成立するまで(または別居期間の終了まで)
婚姻費用はいつから請求できる?
婚姻費用分担請求は、一般的に、請求した時から認められます。婚姻費用は、支払いを請求した時から、さかのぼって請求できないことがほとんどです。
つまり、請求が遅くなれば、もらえる婚姻費用の金額が結果的に少なくなってしまうということです。ですので、別居前から婚姻費用について考えておき、なるべく早く請求すべきでしょう。
婚姻費用はいつまで請求できる?
婚姻費用の分担請求は、離婚が成立するまで可能です。
なぜならば、離婚が成立すれば婚姻関係は終了するため、婚姻という法律関係から生じる婚姻費用を分担する法的義務はなくなるからです。
また、離婚をせずに、別居を解消した場合は、別居期間の終了時点まで、婚姻費用の分担請求が可能です。
なぜならば、別居が解消すれば通常、同居生活を送るようになります。家庭内別居状態で家計が分離されていない限り、家計が一つになるため、婚姻費用の問題も解消するからです。
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婚姻費用を分担請求できないケース
不倫などをした有責配偶者は請求できない?
自分が夫婦関係を破綻させた「有責配偶者」にあたる場合、婚姻費用の分担請求はできません。
有責配偶者とは?
有責配偶者とは、法定離婚事由(民法770条各号)にあたる行為をし、夫婦関係の破綻・離婚について主な責任がある配偶者のこと。
不貞行為(肉体関係のある不倫)、悪意の遺棄(例:一方的な別居)、DV、モラハラ等をしたことで、離婚することになった場合、有責配偶者となる。
裁判所は、自分で夫婦関係が破綻するような原因を作っておいて、婚姻費用まで請求するというのは身勝手であるため(権利の濫用にあたり)、請求は認められないと判断する傾向があります。
実際の調停では、有責配偶者かどうかが争いになることも多いです。
婚姻費用を請求している相手が有責配偶者であることは、婚姻費用を支払う側が立証しなければなりません。
有責配偶者でも子供の生活費は請求可能!
有責配偶者が子どもを引き取った場合でも、子どもに非はありません。
そのため、有責配偶者であっても、婚姻費用のうち、養育費(子どもの生活費・教育費にあたる部分)は請求できます。
東京高等裁判所決定昭58・12・16家庭裁判月報37-369
別居を強行し、同居生活回復のための真摯な努力をせず、別居をやむを得ないとする事情がない場合、権利の濫用にあたり、婚姻費用(子どもの生活費を除く)の請求は許されないと判断した事例。
福岡高等裁判所宮崎支部決定平17・3・18家庭裁判月報58-3-98
不貞行為におよんだ有責配偶者が、離婚訴訟を提起している場合に、信義則に照らして、婚姻費用分担請求は許されないと判断した事例。
ご自身が不倫をした側、合理的な理由なくして一方的に別居をした側であっても、お子様と一緒に生活しているのであれば、養育費にあたる部分だけは相手に請求可能です。
婚姻費用と養育費の違いは?
子供の養育費は、離婚前の段階であれば、婚姻費用として、自分の生活費と一緒に、相手に請求します。
一方、離婚後は、もはや夫婦ではないので、婚姻費用の請求ができなくなります。これにともない、離婚後の子どもの養育費は、「養育費」単体で請求していくことになります。
離婚前 | 離婚後 | |
---|---|---|
配偶者の生活費 | 婚姻費用として請求 | ✕ |
有責配偶者の生活費 | ✕ | ✕ |
子どもの養育費 | 婚姻費用として請求 | 養育費として請求 |
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婚姻費用の相場はいくら?
婚姻費用の統計にみる相場は15万円?
裁判所が公表する司法統計によれば、令和5年度の婚姻費用は10万円〜15万円以下が、全体の約21.1%で、最も多い割合を占めるものになっています。
最高裁判所事務総局「令和5年 司法統計年報 3 家事編」第26表の数値をもとに、編集しました。
婚姻費用の金額は、夫婦ごとの事情によって変わりますが、統計を見る限り、大勢を占めるという意味合いにおいては、4万円から15万円以下が婚姻費用の相場といえそうです。
婚姻費用シミュレーション
婚姻費用の額は、基本的には、夫婦で話し合って自由な額を設定することが可能です。
通常、「月額いくら」というかたちで、婚姻費用を決めます。
ただし、婚姻費用の金額は自由に決められるとはいえ、ある程度の相場が分かっていると話し合いやすいでしょう。
そこで、婚姻費用の相場が分かるものとして、裁判所が公開している婚姻費用算定表(裁判所HP)があります。
実務では、一般的に「婚姻費用算定表」を利用して相場を算出することが多いものです。婚姻費用算定表は、調停・審判や裁判でも多く用いられています。
この婚姻費用算定表を使うと、たとえば、会社員の夫(年収500万円)、専業主婦の妻(年収0円)という夫婦の場合、子どもの人数・年齢に応じて、婚姻費用の金額には、以下のような違いが生じます。
14歳以下 | 15歳以上 | 金額 | |
---|---|---|---|
① | 1人 | 0人 | 10~12万円 |
② | 2人 | 0人 | 12~14万円 |
③ | 1人 | 1人 | 12~14万円 |
もちろん、この算定表を用いて計算した額が、夫婦の状況に照らして著しく不公平であるといった場合には、当事者間での話し合いや裁判所の判断によって、修正の余地はあります。
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- 裁判所の婚姻費用算定表を読み解くのは、難しい…
- まずは、ざっくり婚姻費用を確認したい!
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裁判所の婚姻費用算定表で相場を調べるには?
裁判所の婚姻費用算定表は、以下のようなものになります。
こちらの算定表は、夫婦のみの婚姻費用の分担請求に関するものです。
こちらの算定表を見れば分かるとおり、夫婦の年収別に婚姻費用の相場が分かるものですが、その相場金額にはそれぞれ1〜2万円の幅があります。
そのため、算定表を利用する際は、当事者の事情を考慮して、融通をきかせながら、婚姻費用の金額を決定することができます。
ちなみに、上の表以外にも、子どもの年齢、子どもの人数に応じて複数の算定表が存在します。
算定表の読み方については、『養育費・婚姻費用算定表の見方と計算方法を解説!』の記事で分かりやすく解説しているので、ご覧ください。
婚姻費用の算定表の根拠
ここでは、この算定表に用いられている計算方法について、少しだけ補足しておきます。
算定表の計算方法には、改定標準算定方式が採用されており、以下の3項目をもとに、ひと月あたりの婚姻費用を算出するというものです。
改定標準算定方式*¹による計算
- 夫婦それぞれの年収*²
- 自営業者か給与所得者か
- 子どもが何人いて、それぞれ何歳か
(子どもの区分は0~14歳、または15歳~の2区分)
*¹ こちらは2024年5月14日現在の情報です。最新の情報については、ご自身でご確認ください。なお、こちらの標準算定方式は最新の統計をもとに2019年に改定されたものです。
*² 年収については、給与所得者の場合、源泉徴収票に記載された支払金額になります。自営業者の場合、確定申告書の課税される所得金額が、算定表で見るべき年収となります。
一般的に、子どもの数が多く、子どもの年齢が高いほど、婚姻費用は高額になります。
アトムの婚姻費用・養育費計算機も、このような考え方にもとづいて作成し、無料公開しています。
婚姻費用の相場に影響する事情
相場より多くもらえる事情は?
婚姻費用算定表を用いる場合は、夫婦の年収、自営業か給与所得者か、子どもの人数と年齢の3点が基準となりますが、その他の要素を考慮して個別に判断されることもあります。
以下のような場合、婚姻費用に影響を与えることがあります。
プラスの影響を与える場合
- 子どもが私立学校や塾などに通っている
→高額な教育費がかかる場合 - 子どもに重度の障害や病気がある
→高額な治療費がかかる場合 - 婚姻費用を支払う側の収入がアップした
借金等があると相場を下回る?
以下のような事情がある場合、婚姻費用の金額にマイナスの影響をおよぼす可能性があります。
マイナスの影響を与える場合
- 請求する側が明らかに有責配偶者である場合
- 請求する側が働こうと思えば働けるのに、働いていない場合
- 支払う側の年収がダウンした
- 支払う側が夫婦生活のために借金をし、それを返済している場合
婚姻費用算定表の根拠となる「標準改定方式」は、資産額ではなく収入額をもとに計算をしています。
そのため、たとえ支払いの義務を負う方が多額の負債を抱えていたとしても、原則として影響はなく、収入が相手よりも多ければ、基本的には、婚姻費用を支払う必要があります。
ただし、その借金が、個人的な遊興費などのためではなく、夫婦生活を維持するためのもの(例:住宅ローン、教育ローンetc.)であれば、婚姻費用が相場よりも減額される可能性があります。
婚姻費用の金額の変更(増額・減額)は可能?
婚姻費用が決定したあとで双方の事情が変わったなどして、婚姻費用の額を増減したい場合は、婚姻費用の額の変更を求める調停(審判)を裁判所に申し立てることができます。
この調停・審判は、自分からも相手からも申し立てることができます。
婚姻費用の権利者からは増額を申立て、義務者(支払いをする側)は増額を申し立てる構図になります。
婚姻費用の増額の要素
- 婚姻費用を請求する側の経済状況が悪化した
- 大学進学や医療費などのお金が必要になった
- 支払いをする側の収入が増加した
etc.
婚姻費用の減額の要素
- 支払いをする側の経済状況が悪化した
- 支払いをする側が病気等でお金に困るようになった
- 請求する側の経済状況が改善した
etc.
婚姻費用の金額を決める方法は?
1.夫婦で話し合う
婚姻費用は、夫婦で話し合って決定するのが大前提です。夫婦が合意さえすれば、どのような額でも構いません。しかし、合意ができなかった場合は、第三者を挟んで交渉を行うことになります。
2.夫婦の話し合いで決まらなかった場合
婚姻費用が話し合いで決まらなかった場合に取れる手段は、以下の通りです。
- 内容証明郵便を送る
- 弁護士に交渉を依頼する
- 調停を申し立てる
- 審判を受ける
- 即時抗告を申し立てる
⑴内容証明郵便
配偶者が支払いに応じなそうな場合は、内容証明郵便で請求を送るという方法があります。
〇内容証明郵便とは
いつ、誰に、どんな内容の文書を送ったかを記録・証明してくれる、郵便局のサービスです。内容証明郵便を送っただけで支払いを強制できるわけではありませんが、「〇月〇日に請求の意思を伝えた」ということの証拠となります。
婚姻費用を請求できるのは、基本的に、請求する意思を明らかにしたとき以降になります。
そのため、婚姻費用を請求する旨を「いつ」伝えたか、その記録を公的に残しておくことが非常に重要です。
また、交渉に応じてくれない配偶者も、特殊な見た目の法的文書が届くと、大ごとに感じて交渉に応じてくれるようになるかもしれません。
⑵弁護士に交渉を依頼する
弁護士に依頼して、交渉の間に入ってもらうと、互いに冷静に話し合いをすることができます。離婚に詳しい弁護士なら、適正な婚姻費用の相場も理解していますので、婚姻費用の増額を目指して交渉をしていくことが可能です。
また、配偶者が交渉に応じてくれない場合でも、弁護士から連絡が来たとなると驚いて応じることもあります。
もちろん依頼すれば弁護士費用はかかりますが、婚姻費用の交渉だけでなく、配偶者との連絡やその他の交渉も代理で行ってくれます。さらに、調停や審判へ進んだ場合には、調停・審判に同席して交渉をサポートしてくれます。
ですので、配偶者との話し合いに少しでも不安があるなら、弁護士への相談を検討してみてください。
先ほど触れた内容証明郵便についても、弁護士は、ご相談者様のご事情をおうかがいしたうえで、文案を作成できます。
ただし、弁護士の実務的な感覚では、内容証明を出してやりとりするよりも、すぐに調停を申し立ててしまう方が早く確実なことも多いという印象もあるものです。
⑶調停を申し立てる
話し合いが決裂した場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てることができます。
調停は、家庭裁判所に「婚姻費用分担調停請求申立書」などいくつかの書類を提出することで始められます。
調停の申立て手続き
- 申立先
相手方の住所地の家庭裁判所(または合意管轄のある家庭裁判所) - 申立て費用
・入印紙1200円分
・連絡用の郵便切手 - 申立て書類
・申立書・その写し1通
・夫婦の戸籍謄本、源泉徴収票・給料明細・確定申告の写しetc.
※こちらは2024年5月15日現在の情報です。裁判所HP「婚姻費用の分担請求調停」を参考に編集しました。最新の情報については、ご自身でご確認ください。
調停が始まると、夫婦が調停期日に家庭裁判所に出向き、交互に調停委員と面談を行います。月に1回程度の調停期日が繰り返され、調停委員の介入を受けて双方の主張の落としどころを探します。
調停で聞かれること
- 夫婦それぞれの収入、支出
- 子どもの有無・年齢、監護状況
- 婚姻中の生活状況、別居中の状況
- 調停を申立てた理由
- 婚姻費用の希望金額
etc.
ここで婚姻費用の分担について夫婦が合意することができれば、調停は成立し、法的な強制力を持つ調停調書が作成されます。
法的な強制力を持つというのは、支払いが履行されない場合に裁判所から履行勧告や強制執行を行うことができるという意味です。
合意に至ることができないと分かった場合は、調停は不成立となり、自動的に審判に移行します。
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⑷審判を受ける
調停が不成立となった場合や、調停ではなく審判の申し立てをした場合には、審判の手続きに入ります。
審判とは、裁判官が証拠や証言をもとに判断を下す方法です。
調停と異なるのは、審判は、当事者が同意しなくても結果が確定する点です。そのため、話し合いが長引くのを防ぐことができるというメリットがあります。
ただし、調停を経ずにいきなり審判を申し立てても、裁判所の判断でまずは調停の手続きに付されることもよくあります。
⑸即時抗告を申し立てる
審判結果に不服がある場合は、2週間以内に不服申立て(即時抗告)をすることができます。
手続きとしてはまず、抗告状を提出し、その後に抗告理由書を提出します。受理されれば、高等裁判所にて審理が始まります。
即時抗告の申立て
- 申立先
審判をした家庭裁判所 - 申立て費用
・収入印紙1800円分
・連絡用の郵便切手 - 申立て書類
抗告状、抗告理由書、証拠書類など - 申立て期限
即時抗告権者が審判の告知を受けた日の翌日から起算して2週間以内
※こちらは2024年5月15日現在の情報です。裁判所HP「即時抗告」「審判手続一般」を参考に編集しました。最新の情報については、必ずご自身でご確認ください。
ただし、婚姻費用請求の審判は、即時抗告をしたからといって必ずしも自分に有利に結論が変わるとは限らず、もっと不利な方向に結論が変更されてしまうリスクがありますので、注意が必要です。
婚姻費用が支払われない場合どうする?
1.調停・審判で婚姻費用を決め、未払いの場合
調停・審判で婚姻費用を決定した場合は、調停調書・審判書が作成されています。これらの文書は法的な強制力を持ち、相手が婚姻費用の取り決めを守らなかった場合は、裁判所に申し出をすれば履行勧告や強制執行を行うことができます。
⑴履行勧告
履行勧告とは、裁判所から相手に対して婚姻費用を支払うように説得したり、勧告したりする手続きです。履行勧告自体に強制力はありませんが、相手に対して、婚姻費用を支払わなければ…という心理的圧迫感を与えることはできるでしょう。
⑵強制執行(間接強制・直接強制)
強制執行とは、相手の財産を差し押さえることで、取り決めた内容の実現をはかる手続きです。強制執行にはさらに間接強制と直接強制の2つの方法があり、婚姻費用を請求する場合はどちらを選ぶこともできます。
間接強制とは、裁判所から相手に対して「支払いをしなければ、婚姻費用とは別に間接強制金を課す」と通知をする手続きです。実際に間接強制金が課されるケースは少ないようですが、履行勧告よりもやや強い効果を持っています。
直接強制とは、相手の財産を差し押さえることで、強制的に婚姻費用を取り立てる手続きです。
強制執行と聞くと、こちらの直接強制を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
直接強制による強制執行において、差し押さえることができる財産には、預貯金や給与のほか、動産・不動産も含まれます。ただし、差し押さえをするには相手の財産をこちらが把握している必要があります。
なお、婚姻費用や養育費の場合は、一部が未払いになっていると将来の分まで差し押さえることが可能という、非常に強い効果があります。
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2.話し合いで婚姻費用を決め、未払いの場合
話し合いで婚姻費用を決めた場合に、婚姻費用が支払われないときは、調停や審判をおこすか、作成しておいた公正証書を使うか、いずれかの選択肢が考えらえます。
⑴調停・審判をおこす
夫婦間の話し合いで婚姻費用を決めた場合は、調停調書や判決に相当する文書がないので、そのままでは強制執行ができません。
この場合、強制執行をするには調停や審判を申し立てて調停調書や審判書を得る必要があり、多大な手間と時間がかかってしまいます。
⑵公正証書による強制執行
そこで、話し合いで婚姻費用を決めた際に、公正証書を作成しておくという手段があります。
公正証書とは、公証人の立会いのもとで作成する公的な文書です。これを作成することで、私的な取り決めにも法的な効力を持たせることができます。
この公正証書に強制執行認諾文言を入れておけば、裁判を経ずに強制執行ができるようになります。
強制執行認諾文言の例
第●条(強制執行認諾)
甲は、第〇条の債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。
ただし、公正証書の作成には数千円〜数万円の手数料がかかりますので、婚姻費用が少額であったり、別居期間が短いことが予想される場合には、メリットとデメリットをよく検討する必要があるでしょう。
3.婚姻費用の合意書とは?
話し合いで婚姻費用について取り決めた場合、婚姻費用の合意書を作成しておくとよいでしょう。
後日、婚姻費用の合意内容で争うことになった場合に、合意内容の証拠とすることができます。
また、婚姻費用の合意書は、公正証書作成のたたき台とすることもできる点でも、作っておいて損はありません。
婚姻費用の合意書の具体的な内容については、『別居合意書・婚姻費用の合意書テンプレート│解説付』の記事を参考にしてみてください。
婚姻費用の金額、支払い方法、支払い時期などの例文が分かります。
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婚姻費用を請求するメリット
別居中の生活の支えになる
婚姻費用の最も大きな意義は、別居中の生活の支えです。自分が専業主婦(主夫)やパート・アルバイトである場合、すぐに自分や子どもの生活を支えられるくらいの収入を得るのは難しいかもしれません。
離婚を見据えて別居する場合も、夫婦関係の修復のために別居する場合も、当面の生活費をまかなうために、婚姻費用はとても重要です。
離婚後の生活の備えになる
離婚後は、1人で自分や子どもの生活を支えていくことになります。
離婚に伴い引っ越しをする場合は、まとまったお金が必要になります。さらに、子どもを保育園・幼稚園に預けて働きに出る場合、その費用を捻出する必要もあります。
離婚前に婚姻費用を受け取りながら資金を蓄えておくことで、安心して人生の再スタートを切ることができるでしょう。
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相手が離婚に応じる可能性が高くなる
配偶者が離婚に前向きでない場合でも、別居をして婚姻費用を請求することで、負担を感じて離婚に応じてくれる可能性が高まります。
このように、確実に離婚をするための手段のひとつとして、婚姻費用が役立つこともあります。
ただし、相手に何も言わず、正当な理由もなく勝手に家を出た場合、同居義務違反に当たるためこちらが有責配偶者になってしまい、婚姻費用を請求できないどころか、慰謝料を請求される原因となる可能性もあります。DV等の理由がない限り、別居をする前に相手に別居をしたい旨やその理由を伝えるようにしましょう。
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婚姻費用の他に離婚で請求可能なお金は?
離婚をする際には、婚姻費用の他にも以下のような費目でお金を請求することができます。
- 離婚慰謝料
離婚による精神的苦痛を償うために支払われる賠償金 - 財産分与
婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を分け合うために支払われるお金 - 養育費
離婚後の子どもの養育のために支払われるお金
これらの3つは、離婚とほぼ同時、または離婚後に支払いを受けるという点で、婚姻費用と共通します。
養育費は、子どもの生活費を請求する性質を有するため、計算方法や請求方法は、婚姻費用と似ています。
このほか、年金分割など知っておくと得する制度もあります。
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まとめ
婚姻費用・離婚のお悩みは弁護士まで
婚姻費用は、婚姻している夫婦の生活費のことです。
衣食住、医療費、出産費用、子どもの生活費などが婚姻費用になります。
夫婦には、互いの生活水準が同等になるように、経済的におぎない合う義務があります。
籍を入れている間は、婚姻費用の分担請求が可能です。たとえ、別居して離婚協議中であっても、離婚が成立するまでは、相手に婚姻費用を支払ってもらえる権利があります。
ただし、婚姻費用は請求した時点からしか払ってもらうことができないので、婚姻費用を受け取りたい場合、早期に動き出す必要があります。
しかし、何から準備をして、どうやって請求すればよいのか分からないケースも多いでしょう。
そのような場合、まずは弁護士の無料相談をお受けいただくのはいかがでしょうか。
離婚をあつかう弁護士は、婚姻費用の請求のほかにも、離婚にともない、相手方と調整すべき問題(慰謝料、養育費、財産分与、年金分割など)の相談にものってくれます。
婚姻費用の相場や請求方法を確認しながら、離婚問題の総合的な解決を目指しましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了