婚姻費用の請求方法|弁護士なしで自分で進める手順と注意点

更新日:
婚姻費用の請求方法

離婚を前提に別居する場合、別居中の生活費をどうするかは非常に重要な問題です。

婚姻中の生活費は「婚姻費用」と言って、収入の少ない配偶者が、収入の多い配偶者に対し請求することができます。

婚姻費用をきちんと受け取れるようにしておけば、離婚やその後の生活に向けて落ち着いて準備することができます。

「婚姻費用を弁護士なしで自分で請求できるの?」「どのような手順を踏めばいいの?」とお悩みの方は少なくないでしょう。

この記事では、そのような不安や疑問をお持ちの方に向けて、婚姻費用を自分で請求する方法を詳しく解説します。弁護士なしで進める際の注意点についてもご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。

婚姻費用の請求方法は?自分でできる?

婚姻費用とは?

夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担するものとすると規定されています(民法760条)。

婚姻から生ずる費用のことを「婚姻費用」と呼びます。

婚姻費用は、婚姻共同生活を営む上で必要な一切の費用を意味します。具体的には、夫婦の衣食住の費用、子どもの監護に要する費用、教育費、医療費、交際費などが含まれます。

婚姻費用は、収入の多い配偶者が、収入の少ない配偶者に対し支払う義務があります。

この義務は「生活保持義務」と呼ばれています。

生活保持義務は、収入の多い配偶者が、自分と同程度の生活を他方の配偶者に保持させなければならない義務です。つまり、婚姻費用支払義務は、収入の多い配偶者が「経済的に余裕があるときだけ支払えばいい」という軽い義務ではないのです。

収入の少ない配偶者は、離婚前提で別居したとしても、婚姻費用を請求する権利をもっています。

したがって、別居する場合は、正当な権利の行使として相手方に婚姻費用を請求することが大切です。

婚姻費用はいつからいつまで請求できる?

婚姻費用は、原則として「請求のときから」「別居の解消または離婚に至るまで」請求できます。

自分で婚姻費用を請求する場合、請求した事実と請求した日付が明確にわかるようにしておくのがポイントです。例えば、電話で請求しても相手に否定されてしまえば、婚姻費用を請求した事実を証明するのは困難です。

そこで、内容証明郵便や特定記録郵便など請求した事実と請求日付がしっかり残る方法で請求するのが望ましいです。

メールでの請求も有効です。メールの場合は、相手方や請求日がはっきりとわかる画面を印刷しておくと証拠として役立ちます。

弁護士なしで自分で婚姻費用を請求する方法は?

弁護士なしで自分で婚姻費用を請求する方法は、以下の3つがあります。

自分で婚姻費用を請求する方法

  1. 夫婦間で話し合う
  2. 内容証明郵便等を送る
  3. 婚姻費用分担請求調停を申し立てる

以下、それぞれの請求方法について詳しく解説します。

(1)夫婦間で話し合う

まずは夫婦間で話し合うのが最も穏当な方法です。

事案によりますが、最初から弁護士が介入してしまうと相手方が感情的になってしまい、婚姻費用の支払を拒否される可能性があるからです。

相手方の性格等を考慮した上で話し合いが可能な状態であれば、夫婦間での合意を目指して冷静に協議を重ねましょう。

合意できた場合、口約束ではなく、合意内容を合意書に記載しておくことを強くおすすめします。

婚姻費用について合意書に明記しておくべき主な内容は以下のとおりです。

婚姻費用の合意書に書くこと

  • 請求期間
  • 金額
  • 支払期日
  • 支払方法
  • 振込手数料の負担者
  • 事情変更があった場合に再協議する旨の条項

婚姻費用の金額は、実務的には、裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表の相場に従って決める扱いが定着しています。

自営業者か給与所得者か、権利者と義務者のそれぞれの年収、子どもの数を算定表にあてはめると、適正な養育費・婚姻費用がわかる仕組みになっています。

アトム法律事務所の婚姻費用・養育費計算機を使えば、簡単な操作で婚姻費用の相場を知ることができますのでご利用ください。

合意書は2通作成して必ず双方が署名捺印し、割り印をした上で各自が保管しておきしょう。

アトム法律事務所では、『別居合意書・婚姻費用の合意書テンプレート|解説付』を公開しています。合意書の作成にぜひご活用ください。

(2)内容証明郵便等を送る

相手方が話し合いに応じない場合は、内容証明郵便等を利用して婚姻費用請求の通知を送りましょう。

内容証明郵便は、婚姻費用を請求した事実と請求日を証明する証拠になります。

また、相手方にこちらの本気度が伝わるため、メールなどの簡易な方法より相手が任意の支払に応じる可能性が高くなるでしょう。

内容証明郵便には、主に以下の内容を記載します。

婚姻費用請求の内容証明郵便に書くこと

  • 婚姻費用の請求金額とその根拠
  • 支払期限
  • 振込先口座
  • 期限までに支払わない場合、ただちに法的措置を講じる旨

内容証明郵便の詳しい送り方については、ぜひ関連記事をご覧ください。

関連記事

離婚問題で内容証明郵便はどう活躍する?文例や送り方を紹介

(3)婚姻費用分担請求調停を申し立てる

相手が話し合いに応じず、内容証明郵便等も無視する場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停の申し立てを行いましょう。

具体的には、必要書類を準備した上、原則として相手方の住所地の家庭裁判所に調停を申し立てます。

費用として、収入印紙1200円と連絡用の郵便切手が必要です。

婚姻費用調停の必要書類

  • 婚姻費用の分担請求調停の申立書(裁判所のホームページからダウンロードできます)及びその写し1通
  • 事情説明書
  • 連絡先等の届出書
  • 進行に関する照会回答書
  • 夫婦の戸籍謄本(3カ月以内に発行されたもの)
  • 申立人の収入関係の資料(源泉徴収票、給与明細、確定申告書等の写し)

調停不成立の場合は、裁判官が判断する審判手続が自動的に開始されます。

審判では、裁判官がそれまでに提出された収入資料など一切の事情を考慮して、算定表に従って婚姻費用の金額を定めます。

相手方が婚姻費用の支払を強く拒み続けてたとしても、確定審判が出れば強制執行が可能になります。

関連記事

婚姻費用の調停で聞かれることは?うまく進めるコツや流れを解説

婚姻費用の請求時にしっておくべき注意点

(1)適正額を請求する

婚姻費用の請求額は、前述したとおり算定表から導かれる相場を参考にするのが適切です。

相場をはるかに超える高額な婚姻費用を請求することも可能です。しかし、相手方も算定表の存在は当然知っているはずですから、あまりに高額な請求は対立を激化させ、離婚問題全体の解決が困難になるおそれがあります。

子どもの教育費や医療費等を理由にどうしても増額が必要な場合は、具体的な証拠を示しつつ相手と交渉するのが大切です。

相場を超える婚姻費用の請求は当事者では難しいケースが多いため、弁護士に早めに相談するのがおすすめです。

(2)有責配偶者の生活費に当たる婚姻費用請求は認められない

妻が不貞行為をして子どもを連れて家出した場合、妻は有責配偶者に当たります。

有責配偶者は、自分の生活費分の婚姻費用を請求するのは信義則に反するため認められません。

もっとも、子どもの分の婚姻費用の請求は認められます。

(3)弁護士なしでの婚姻費用請求はリスクがある

弁護士なしで自分で婚姻費用を請求することは可能です。

しかし、書類や証拠の不備によって手続きが遅れたり、本来請求できる金額よりも少ない金額しか認められないおそれがあります。

また、相手が収入を低く申告してきた場合、弁護士なしだと相手の嘘を見抜けない可能性があります。

仮に嘘に気付けたとしても、反論するための証拠をうまく集められないおそれもあります。

弁護士なしで婚姻費用を請求する場合は、これらのリスクがあることも十分念頭に置いておく必要があります。

婚姻費用は遡って請求できる?

婚姻費用は原則として遡って請求できない

婚姻費用を請求できるのは、原則として「請求のときから」です。

「請求のとき」とは、調停や審判を申し立てたときを指すのが一般的です。

それ以前に、相手方に対し、内容証明郵便等で請求していた場合は、そのときから請求できます。

請求のときより前の時点の婚姻費用は、原則として請求できません。そのため、婚姻費用を請求したい場合は、できる限り早めに内容証明等を送ったり、調停を申し立てるのがポイントです。

内容証明郵便以外のものが婚姻費用の請求として認められたケース

内容証明郵便以外で始期として認められた例として、SNSで婚姻費用を請求する旨のメッセージを送信し、相手方がこれに返信した場合に、メッセージが送信されたときを始期と判断したケースがあります(さいたま家審令和元年7月5日)。

未払い分の婚姻費用は財産分与で清算される

では、過去の未払い婚姻費用は一切支払われないのでしょうか?

この問題について、判例は、「財産分与の額及び方法を定めるに当たっては、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができる」と判断しています(最判昭和53年11月14日)。

つまり、未払いの婚姻費用がある場合、財産分与の中で清算されるのです。

もっとも、未払い婚姻費用の全額が財産分与として認められる訳ではありません。

裁判所は、「一切の事情」(民法768条3項)を考慮して財産分与について判断するとされており、未払い婚姻費用についてもそれらの事情の一つとして考慮されます。

その他に、夫婦関係が破綻に至った経緯、婚姻費用が未払となった経緯、未払婚姻費用の額、財産分与や慰謝料の額、双方の財産状況等を総合的に考慮して、未払婚姻費用が財産分与に加算されます。

婚姻費用の請求を弁護士に依頼するメリット

婚姻費用の請求は自分で行うこともできます。

ただ、自分で請求すると相手が無視をしたり、収入を低く申告するなどのリスクも考えられます。

一方、弁護士に婚姻費用の請求を任せると、以下のメリットが期待できます。

別居中または離婚協議中で、配偶者に婚姻費用を請求したいと考えている方は、ぜひ以下のメリットも検討した上で請求方法を選択してみてください。自分での請求が難しいと感じた場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

婚姻費用を早期に取得できる可能性が高まる

妻からの婚姻費用請求を無視してきた相手方でも、弁護士がつくだけで心理的プレッシャーを感じるケースはとても多いです。

そのため、弁護士が内容証明郵便を送ったり、妻の代理人として婚姻費用分担請求調停を申し立てると、本人が請求する場合よりも早期に相手方が婚姻費用の支払に応じる可能性があります。

さらに、離婚調停と婚姻費用分担請求調停を同時に申し立てている場合、弁護士は婚姻費用の判断を離婚に先んじて行うよう、調停委員や裁判官に求めます。

婚姻費用がまったく支払われず早急な支払が必要な場合は、調停や審判と同時に仮払い仮処分を申し立て、通常よりも早く婚姻費用が支払われるよう対策をとります。

相手方の収入がわからない場合に調査できる

婚姻費用を請求する場面では、相手方の収入がわからないという問題がよく起こります。

というのも、相手方がそもそも収入資料の提出を拒否したり、収入が低くなるように装った証拠書類を提出してくるケースが少なくないからです。

このような場合、自分ではどのように対応してよいか分からず、適正な婚姻費用を請求するのを諦めてしまう方もいらっしゃるでしょう。

しかし、弁護士がいれば、弁護士会照会や調査嘱託などの手続きを活用して、相手方の勤務先等に対し収入資料を提出するよう求めることができます。

弁護士がこれらの制度を使う予定であることを説明すると、勤務先に離婚トラブルを知られることを避けたい相手方が、任意に収入資料の提出に応じるケースもあります。

相手が婚姻費用を支払わないときに逃げ得を許さない

相手方が婚姻費用を約束どおり支払わない場合、弁護士がついていれば法的手続きを駆使して相手の逃げ得を阻止します。

具体的には、婚姻費用の調停調書や確定審判などの債務名義があれば、財産開示手続や第三者からの情報取得手続を活用して、相手の財産状況を調査します。

調べた情報をもとに、強制執行手続きを行い、相手の給料等を差し押さえて、そこから未払いの婚姻費用を回収します。

婚姻費用の請求は弁護士へ相談!

婚姻費用を請求する際のポイントをまとめると以下のとおりです。

  • 婚姻費用は弁護士なしでも請求できるが、慎重な準備が必要
  • まずは話し合い、その後は内容証明や調停を検討
  • 遡っての請求は原則として認められず、未払い分は財産分与で考慮
  • 自分での請求が難しいと感じたら弁護士に相談も視野に入れる

婚姻費用の請求は、早ければ早いほど手元に入ってくるお金が増える可能性が上がります。別居中や離婚協議中で婚姻費用の請求をお考えの方は、ぜひお気軽にアトム法律事務所にご相談ください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了