熟年別居は得?熟年離婚との違いと家がない場合や年金への影響

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50代・60代になり、「もう一緒に暮らせない」と感じながらも、すぐに離婚に踏み切れず、まず別居を考える方は少なくありません。「別居すると年金はどうなる?」「家がないときはどうすればいい?」「離婚と別居、どちらが得なの?」と不安に感じている方も多いでしょう。

別居は離婚より始めやすい一方で、別居中は年金分割を請求できず、気持ちの区切りがつきにくいといった側面もあります。さらに、年金・退職金・住居といった熟年世代特有の問題も関わるため、どちらが有利かは収入や資産状況によって大きく異なります

この記事では、熟年世代にとって重要な年金・退職金・住居のポイントに絞り、別居と離婚の違いをわかりやすく整理します。「まずは別居で様子を見たい」と考えている方の判断材料になるよう、具体的に解説します。

熟年別居とは?熟年離婚との違い

熟年別居の定義と実態

「熟年別居」とは、一般的に50代・60代以降の夫婦が離婚はせずに別々の住居で生活を送ることを指します。

法律上に明確な定義があるわけではありませんが、子どもが独立したあとに夫婦関係の問題が表面化し、離婚の前段階として、あるいは離婚を選ばない代替手段として別居を選ぶケースが増えています。

厚生労働省の人口動態統計によると、2023年に離婚した夫婦のうち婚姻期間が20年以上の「熟年離婚」は約2割を占めています。その一方で、離婚には踏み切れないものの同居は難しいと感じ、別居を続ける熟年夫婦も一定数いると考えられます。

別居の理由としては、性格の不一致・DV・モラハラ・定年退職後の関係悪化などが多く見られます。

熟年別居と熟年離婚、何が違う?

別居は婚姻関係を維持したまま距離をおく選択肢です。離婚とは異なり、法的な手続きは基本的に不要で、今日から実行できます。

ただし、経済的なルールや権利関係は続いているため、きちんと理解しておく必要があります。

比較項目熟年別居熟年離婚
婚姻関係継続(戸籍上は夫婦のまま)解消
年金分割別居中は請求できない離婚後に請求可能
相手の財産への権利相続権は残る相続権は消滅
生活費(婚姻費用)請求できる請求できない
税制上の扱い配偶者控除は状況により適用可配偶者控除は使えない
精神的な区切りつきにくいはっきりつく

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熟年離婚と別居はどちらが得?3つの比較ポイント

熟年離婚と別居を比較する際、若い世代とは異なる固有の論点があります。特に重要なのは「年金」「退職金」「生活費」の3点です。

年金の観点から比べる

熟年世代にとって、老後の収入の柱となる年金は最重要の比較ポイントです。

離婚後は婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を夫婦で分割する「年金分割」制度を利用できます。特に専業主婦・パート勤務だった配偶者にとって、離婚後の年金額を増やせる大きなメリットです。

離婚せず別居の場合、年金分割は離婚が成立してはじめて請求できる制度です。別居中・離婚しない状態では、どれだけ長く別居していても年金分割を請求することはできません。

つまり、年金の観点だけで見れば、専業主婦や収入の少ない側にとっては離婚のほうが有利になる可能性があります。別居を長期化させると、その分だけ年金分割請求のタイミングが遅れることになります。

なお、年金分割には請求期限があり、原則として離婚等の翌日から起算して2年以内に請求する必要があります。ただし、民法改正により令和8年4月1日以降に離婚した場合は請求期限が5年以内となります。

離婚を決断したら、速やかに手続きを進めることが重要です。

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退職金の観点から比べる

50代・60代の別居では、相手の退職金が大きな財産分与の対象になることがあります。

離婚する場合、婚姻期間中に形成された退職金は財産分与の対象になります。すでに受け取っている退職金はもちろん、近い将来受け取る予定の退職金についても、受給できる可能性が高い場合には財産分与の対象になりうるとした裁判例があります(東京地判平11・9・3)。

別居中に退職金を直接請求することはできませんが、離婚時には財産分与として分ける対象になる可能性があります。ただし、別居が長引くと相手が退職金を使い込むリスクもゼロではありません。

生活費の観点から比べる

熟年世代では、子どもがすでに独立していることが多く、養育費の問題は基本的にありません。そのため、別居・離婚後の生活費の問題は、純粋に自分自身の収入・支出の問題になります。

別居中は相手に婚姻費用を請求できるため、完全に収入が途絶えるリスクは比較的低いといえます。

離婚が成立すると婚姻費用は請求できませんが、財産分与・年金分割・慰謝料などで一定の資産を確保できる可能性があります。

どちらが経済的に有利かは、それぞれの収入・資産状況によって大きく異なります。

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離婚せず別居を続けると年金はどうなる?

「離婚せず別居を続けた場合、年金はどうなるの?」という疑問を持つ方は多いです。ここを正確に理解することが、別居か離婚かを判断するうえでとても重要です。

年金受給額は変わらない

別居しているかどうかは、自分自身の年金受給額には直接影響しません。年金は個人の保険料納付記録に基づいて計算されるため、別居・同居にかかわらず、これまで積み上げてきた年金はそのまま受け取れます。

第3号被保険者の資格はどうなる?

専業主婦・専業主夫など、配偶者の厚生年金に扶養されている第3号被保険者の方は注意が必要です。

別居しても離婚していなければ、原則として第3号被保険者の資格は継続します。

ただし、第3号被保険者として認められるには、「生計維持関係があること」が要件とされています。別居している場合に生計維持関係が認められるためには、原則として、経済的援助が行われていることや、定期的な連絡や訪問があることなどの実態が必要です。

また、別居後に年間収入が130万円以上(60歳以上または障害者の場合は180万円以上)になると、第3号被保険者の資格を失い、自分で国民年金保険料を納める必要があります。

別居に際して収入や生活状況が変わる場合は、年金事務所や市区町村の窓口に確認することをおすすめします。

年金分割は「離婚してから」しか請求できない

年金分割は、離婚が成立した後にはじめて請求できる制度です。

「10年別居しているから年金分割を受けられるはず」というのは誤解で、別居期間の長さは年金分割の可否には関係ありません。

年金分割を希望するなら、離婚を正式に成立させることが前提となります。

状況年金分割の請求
別居中(離婚未成立)❌ 請求できない
離婚成立後5年以内✅ 請求できる(原則)
離婚成立後5年超❌ 原則請求できない

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熟年別居で生活費(婚姻費用)を請求するには?

別居中であっても、婚姻関係が続いている限り、収入の少ない側は収入の多い側に対して婚姻費用を請求することができます。

婚姻費用とは、夫婦が生活するために必要な費用のことで、住居費・食費・医療費などが含まれます。

婚姻費用の相場

婚姻費用の金額は、夫婦の話し合いによって自由に決めることができます。取り決める際は、一般的に「月額いくら」という形で定めます。

実務では、裁判所が公表している「婚姻費用算定表」が広く使われており、調停や審判、裁判でも判断の基準として活用されています。

たとえば、夫が年収500万円の会社員で、妻が専業主婦(年収0円)の場合、婚姻費用の目安は子どもの人数や年齢に応じて8万~12万円程度です。

なお、婚姻費用の目安は、アトム法律事務所の「婚姻費用・養育費計算機」を使えば、簡単に知ることができますので、ぜひご利用ください。

婚姻費用を請求する手順

婚姻費用は、一般的に「請求した月」から支払いが認められます。そのため、別居を始めたらできるだけ早く請求することが大切です。

請求の基本的な流れは次のとおりです。

  1. まず話し合い
    相手に直接、婚姻費用の支払いを求めます。
  2. 家庭裁判所に調停申立て
    話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立てます。
  3. 審判
    調停でも合意できない場合は、裁判官が金額を決定します。

婚姻費用を請求する手順は関連記事『婚姻費用の請求方法|弁護士なしで自分で進める手順と注意点』で詳しく解説しています。

熟年別居したいのに家がない場合の選択肢

別居を決意したものの、「家がない」「どこに住めばいい?」と悩む方は少なくありません。特に、これまで専業主婦・主夫として収入がなかった方や、家賃の審査に不安がある方にとっては大きなハードルです。

ここでは、具体的な住居確保の選択肢を整理します。

①賃貸物件を借りる

最も一般的なのは、賃貸物件を借りる方法です。ただし、熟年世代で収入がなく、保証人もいない場合は、入居審査が厳しくなることがあります。

そのような場合は、家賃保証会社を利用したり、保証人が不要なUR賃貸住宅を検討する方法もあります。

家賃の目安は地域によって異なりますが、地方では1Kや1DKで月5万〜8万円程度が一般的で、都市部ではこれより高くなる傾向があります。また、敷金や礼金、引っ越し費用などの初期費用として、50万〜100万円ほど見込んでおくと安心です。

②実家・兄弟姉妹の家に一時避難する

すぐに住居が確保できない場合や、まず費用を抑えたい場合の現実的な選択肢です。感情的な負担はありますが、次の住まいを探す時間を確保できます。

③公営住宅(市営・県営住宅)に申し込む

公営住宅は低所得者向けの選択肢です。国土交通省の制度に基づき、家賃は収入や条件に合わせて計算され周辺相場より安くなります。

ただし、収入が基準を超えると家賃の引上げや退去を求められます。物件により高倍率ですが、空き室がある場合もあります。

自治体によってはDV被害者の優先入居(専用枠や倍率優遇など)を認めているため、窓口への相談を推奨します。

④シェアハウス・高齢者向け住宅

近年は50代・60代向けのシェアハウスや、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)も選択肢に入ります。初期費用を抑えられる点がメリットです。

⑤婚姻費用で家賃を賄う

前述の婚姻費用に住居費が含まれるため、別居後の家賃を婚姻費用でカバーできる場合があります。ただし、相手が婚姻費用を任意に支払わない場合は、調停・審判の手続きが必要です。

熟年別居のメリット・デメリット

ここまでの内容を踏まえ、熟年別居のメリットとデメリットを整理します。

熟年別居のメリット

  • 婚姻費用を請求できる
    収入の少ない側が生活費を確保しやすい。
  • 相続権が残る
    離婚していないため、相手が死亡した場合に相続人になれる。
  • すぐに実行できる
    法的手続きは不要で、今日から別居を始められる。
  • 離婚の前に冷静に考える時間ができる
    「やっぱり離婚したい」「やり直したい」どちらの判断にも移行しやすい。
  • 子どもへの影響を最小化しやすい
    特に大学進学・就職などのタイミングで戸籍上の変化を避けられる。

熟年別居のデメリット

  • 年金分割ができない
    離婚しない限り年金分割を請求できず、老後の収入設計に制約が生じる。
  • 精神的な区切りがつきにくい
    婚姻関係が続くため、気持ちの整理がしにくい。
  • 相手の財産が動くリスク
    別居中に相手が退職金・預貯金を使い込む可能性がゼロではない。
  • 第三者との交際・再婚ができない
    新しいパートナーと交際すると、不貞行為として慰謝料を請求される可能性がある。
  • 住民票・税金など手続きが複雑になる

熟年別居から離婚に進むタイミングと注意点

「別居してみたが、やはり離婚に進みたい」と判断する方も多くいます。別居から離婚に移行する際の流れと注意点を確認しておきましょう。

別居期間が長いと離婚しやすくなる

日本の法律では、夫婦の一方が離婚を拒んでいる場合、裁判で離婚を認めてもらうには「婚姻関係がすでに破綻している」ことを示す必要があります。一般に、別居期間が長いほど婚姻関係の破綻が認められやすくなる傾向があります。

つまり、別居の継続は、将来的に離婚を争う際の証拠にもなりえます。

ただし、破綻の判断は別居期間だけで決まるわけではありません。有責性の有無や婚姻期間、子どもの有無など、さまざまな事情が総合的に考慮されます。

実務では一定期間の別居が一つの目安とされることもありますが、法律で具体的な年数が定められているわけではありません。

離婚に向けた手続きの流れ

  1. 協議離婚
    まず夫婦間の話し合いで合意できるか試みる
  2. 離婚調停
    話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てる
  3. 離婚訴訟
    調停でも解決しない場合、裁判で離婚を求める

熟年世代の場合、財産分与・年金分割・慰謝料など争点が複雑になることが多いため、弁護士に相談することを強くおすすめします。

離婚前に確認・準備しておくべきこと

  • 財産の把握
    相手名義の預貯金・不動産・株式・退職金の見込み額をできる限り把握しておく
  • 年金分割のシミュレーション
    年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を取得できる
  • 住居の見通し
    離婚後の住居が決まっているか確認する
  • 弁護士への相談
    財産分与・慰謝料の交渉は専門家のサポートが不可欠

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まとめ|熟年別居は「考える時間」を与えてくれる選択肢

熟年別居は、離婚という大きな決断の前に「距離をおいて冷静に考える」ための選択肢です。婚姻費用を請求できる・相続権が残るなどのメリットがある一方、年金分割ができない・精神的な区切りがつきにくいといったデメリットも伴います。

特に年金・退職金・住居といった熟年世代特有の問題は、個別の事情によって損得が大きく変わります。「別居か離婚かで迷っている」「まず別居からはじめたい」という方は、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、自分の状況に合った判断材料を整理することをおすすめします。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了