離婚の養育費とは?相場や決め方、離婚後の請求方法を解説

養育費とは、子どもの生活費や教育費、医療費など、子どもを育てるために必要な費用を両親が分担して負担するお金です。離婚後も養育費の支払い義務はなくならず、子どもが経済的・社会的に自立するまで続きます。
養育費の相場は、子ども1人の場合、母子家庭で月額約4万円、父子家庭で月額約2万3,000円が平均です(厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」)。
金額は父母双方の年収と子どもの年齢・人数をもとに、裁判所の養育費算定表を参考に算出するのが一般的ですが、子どもの教育費や健康状態など個別の事情も考慮して決められます。
2026年4月1日施行の民法改正により、養育費の取り決めをしないまま離婚した場合でも、子ども1人あたり月2万円の「法定養育費」を請求できるようになりました。ただし、これは正式な養育費を取り決めるまでの暫定的な制度です。
養育費を確実に受け取り、子どもの状況に応じた適切な金額とするためにも、離婚時に書面で取り決めをしておくことが大切です。
この記事では、養育費の相場・計算方法・決め方・払われない場合の対処法・民法改正による変化について解説します。
目次
養育費とは
養育費の定義と法的根拠
養育費とは、子どもの生活や教育、医療など、成長に必要な費用全般を指します。
離婚しても、父母には子どもを扶養する義務があります。子どもと一緒に暮らしている親は日々の生活の中で養育費を負担していますが、離れて暮らす親も養育費を支払うことで、その責任を果たさなければなりません。
養育費は、子どもが最低限生活できる金額ではなく、父母それぞれの収入や生活水準などを踏まえて決めるのが一般的です。これは、親には子どもにも自分と同程度の生活を保障する「生活保持義務」があると考えられているためです。
養育費をいつまで支払う?
養育費をいつまで支払うかについて、法律で一律の年齢は定められていません。支払いの対象となるのは、経済的・社会的に自立していない子どもです。
一般的には20歳までと取り決めるケースが多くみられますが、現在の成年年齢は18歳です。養育費は成年年齢とは別に、子どもが経済的・社会的に自立するまで支払うという考え方に基づくため、18歳になったからといって自動的に支払いが終了するわけではありません。
例えば、大学へ進学した場合や、病気や障害などにより働くことが難しい場合は、20歳を過ぎても養育費の支払いが必要になることがあります。
養育費を取り決める際は、支払いの終期についてもあわせて決めておくことが重要です。「20歳になる〇年〇月〇日まで」のように具体的な日付で定める方法のほか、「大学や専門学校を卒業するまで」と定めるケースもあります。
ただし、浪人や留年などで卒業時期が延びるとトラブルになる可能性もあるため、終期はできるだけ明確に定めておくと安心です。
大学に進学した子どもや障害がある子どもの養育費の終期については、『離婚後の養育費はいつまで?18歳・20歳・22歳の違いと終了条件』でさらに詳しく解説しています。
養育費を支払うのは父親?母親?
養育費は、父母がそれぞれの経済力に応じて分担するものです。通常は、子どもと一緒に暮らしている親(監護親)に対して、離れて暮らす親が養育費を支払います。
離婚時には慰謝料が問題になることもありますが、養育費とは性質が異なります。
慰謝料は、離婚の原因をつくった側が相手の精神的苦痛に対して支払うものです。一方、養育費は子どものためのお金であるため、離婚原因がどちらにあるかにかかわらず、父母双方が負担する義務があります。
面会交流と養育費の関係
面会交流とは、離れて暮らす親と子どもが定期的に会ったり、連絡を取り合ったりして交流することです。
面会交流は親のためではなく、子どもの利益のために行われるものです。そのため、養育費の支払いと面会交流は別の問題として考えられます。
相手が養育費を支払っていないことを理由に面会交流を拒否したり、反対に面会交流に応じてもらえないことを理由に養育費の支払いをやめたりすることは、原則として認められていません。
離婚後の養育費の相場はいくら?
養育費の平均金額(子どもの人数別)
厚生労働省が公表した「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、養育費の平均月額は母子家庭で50,485円、父子家庭で26,992円でした。
子どもの人数ごとの平均金額は、以下のとおりです。
養育費の1世帯平均月額
| 子どもの数 | 母子家庭 | 父子家庭 |
|---|---|---|
| 1人 | 40,468円 | 22,857円 |
| 2人 | 57,954円 | 28,777円 |
| 3人 | 87,300円 | 37,161円 |
| 4人 | 70,503円 | – |
| 5人 | 54,191円 | – |
| 不詳 | 39,062円 | 10,000円 |
| 総数 | 50,485円 | 26,992円 |
令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告(厚生労働省)より作成
養育費は、高ければよいというものではありません。支払う側の負担が大きすぎる金額で合意すると、途中で支払いが滞るなどのトラブルにつながる可能性があります。
継続して支払いを受けられる金額を設定することが大切です。
養育費の計算方法と算定表の使い方
養育費には、子どもの衣食住に必要な費用だけでなく、教育費や医療費なども含まれます。実際には、「月額○万円」という形で毎月一定額を支払うケースが一般的です。
養育費を決める際によく利用されるのが、裁判所が公表している養育費算定表であり、調停・審判や裁判でも広く利用されている基準です。
養育費算定表は「改定標準算定方式」に基づいて作成されており、主に次の項目をもとに養育費の目安を算出します。
養育費の計算に用いる情報
- 夫婦それぞれの年収
- 自営業者か給与所得者か
- 子どもの人数(0〜3人)と年齢(0〜14歳・15歳以上)
ただし、養育費算定表の金額が必ず適用されるわけではありません。私立学校への進学や高額な医療費など、個別の事情によっては、夫婦の話し合いや裁判所の判断により金額が修正されることがあります。
一般的には、子どもの人数が多いほど、また子どもの年齢が高いほど養育費は高くなる傾向があります。
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養育費算定表の見方
裁判所の養育費算定表を使って、養育費の目安を計算してみましょう。
1.子どもの人数と年齢に合わせて養育費算定表を選ぶ
養育費算定表は、子どもの人数(1〜3人)と年齢(0〜14歳・15歳以上)の組み合わせごとに9種類あります。まずは、自分の家庭に当てはまる算定表を選びましょう。
2.夫婦それぞれの年収をあてはめる
算定表では、縦軸が義務者(支払う側)、横軸が権利者(受け取る側)の年収です。
また、それぞれ給与所得者と自営業者で使用する目盛りが異なります。父母それぞれの職業と年収に最も近い数値を確認します。
3.年収が交わる欄から養育費の目安を確認する
義務者と権利者それぞれの年収をたどり、線が交わる欄に記載された金額が、1か月あたりの標準的な養育費の目安です。
詳しい計算方法は、『養育費・婚姻費用算定表の見方と計算方法|算定表がおかしいと感じた場合の対処法』をご覧ください。
なお、算定表の対象となる年収の上限は、給与所得者が2,000万円、自営業者が1,567万円です。これを超える場合は、算定表ではなく個別の事情を踏まえて養育費を算定することになります。
そういった場合の養育費の考え方は、『高額所得者の婚姻費用・養育費は?算定表を超える場合の考え方』で解説しています。
教育費(私立学校・大学)がかかる場合の養育費
裁判所の養育費算定表は、公立学校の平均的な教育費を前提に計算されています。
算定表が前提とする教育費は、14歳以下の子どもで年間約13万1,000円(公立中学校平均)、15歳以上の子どもで年間約25万9,000円(公立高校平均)です。
子どもが私立学校に通っている場合は、算定表で前提とされている公立学校の教育費を超える部分について、別途負担を求められる可能性があります。ただし、支払う側が私立学校への進学に同意していたこと、または父母の学歴や収入水準などから私立進学が相当と認められることが条件となります。
大学進学についても、支払う側が進学に同意していた場合や、進学が不合理でないと判断される場合は、養育費の支払期間を延長したり、大学の学費を分担したりするよう認められることがあります。
教育費をめぐる取り決めは個別の事情によって大きく異なるため、離婚時や進学のタイミングで弁護士に相談すると安心です。
養育費の額が調整されるケース
算定表の計算結果には1〜2万円の幅が設けられており、個別の事情に応じてその範囲内で調整されることが一般的です。
次のような事情がある場合は、話し合いや裁判所の判断によって養育費が増額・減額される可能性があります。
- 子どもが私立学校や塾などに通っており、高額な教育費がかかる場合
- 子どもに重度の障害や病気があり、高額な治療費がかかる場合
- 親が働ける状況にあるにもかかわらず、合理的な理由なく働いていない場合
- 支払う側に支払能力がない場合(生活保護を受給している場合など)
一方、次のような事情は、原則として養育費の額には反映されません。
- 相手の不倫やDVが原因で離婚した場合
- 再婚していても、再婚相手との間に子どもがおらず、子どもと養子縁組をしていない場合
- 一方が実家から金銭的援助を受けている場合
- 受け取る側が児童手当を受給している場合
養育費の取り決め方と手続き
離婚時に決めるべき事項
養育費は月額で取り決めることが一般的ですが、「毎月いくら支払うか」だけを決めれば十分というわけではありません。将来のトラブルを防ぐため、次のような項目もあわせて取り決めておくことが大切です。
養育費の取り決め事項
- 毎月の養育費の金額
- 支払いを開始する時期と終了する時期
- 支払日や支払い方法
- 病気や進学などで特別な費用が発生した場合の負担方法
取り決めの内容は、離婚協議書や公正証書などの書面に残しておくと、後のトラブル防止につながります。
養育費の取り決めの例
第〇条(養育費)
甲は乙に対し、長男〇〇の養育費として令和△年△月△日から〇〇が満20歳に達する月まで、1人につき金▲万円を支払う義務があることを認め、これを毎月△日限り乙の指定する口座に振り込んで支払う。
2 甲乙は、〇〇の病気や進学等、特別な費用を要する事情が生じた場合は、別途協議して分担額を定める。
父母間での協議
養育費は、まず父母で話し合って決めるのが原則です。夫婦の話し合いによって離婚や養育費などの条件を決める離婚を「協議離婚」といいます。
一般的には、養育費などの離婚条件について合意したうえで離婚しますが、離婚成立後に養育費を取り決めることも可能です。父母双方が合意できれば、金額や支払期間、支払い方法などは、子どもの利益を踏まえて自由に定められます。
法務省では、養育費や親子交流(面会交流)について解説した手引きや、養育費合意書のひな形を公開しています。何を取り決めればよいか迷った場合は、参考にするとよいでしょう。
参考
法務省:「こどもの養育に関する合意書作成の手引きとQ&A」について
協議がまとまらない場合は離婚調停へ
父母だけの話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所の離婚調停(夫婦関係調整調停)を利用できます。
離婚調停とは、裁判官と調停委員が間に入り、離婚や養育費、親権、財産分与、慰謝料などについて話し合いによる解決を目指す手続きです。当事者の一方が家庭裁判所へ申し立てることで利用できます。
調停で合意が成立すると、その内容をまとめた調停調書が作成されます。調停調書には確定判決と同じ効力があるため、養育費が支払われない場合は、家庭裁判所による履行勧告や、強制執行の手続きを利用できる場合があります。
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離婚調停が不成立となった場合は離婚裁判へ
離婚調停で合意に至らなかった場合や、調停が不成立となった場合は、改めて夫婦で協議を続けるか、離婚裁判(離婚訴訟)を提起することになります。
離婚裁判では、双方の主張や証拠を踏まえて裁判官が判決を下します。一方で、判決前に当事者同士が合意し、和解によって解決するケースも少なくありません。
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弁護士への交渉依頼
弁護士に離婚全般や養育費の交渉を依頼することもできます。弁護士は依頼者の代理人として相手方と交渉できるため、当事者同士で直接話し合う負担を軽減できます。
特に、配偶者と顔を合わせたくない場合や、DV被害のおそれがある場合は、相手との連絡や交渉を弁護士に任せることで、自分が直接やり取りをする必要がなくなり、精神的な負担や安全面への不安を軽減しやすくなります。
離婚後に養育費を請求する手続き
離婚後に養育費の取り決めをしていなかった場合でも、当事者同士で話し合ったり、家庭裁判所の調停を利用したりして養育費を請求できます。
離婚後に利用する手続きは「養育費請求調停」と呼ばれ、養育費について話し合うための手続きです。養育費請求調停で合意に至らなかった場合は、自動的に審判手続へ移行します。

審判では、裁判官が双方の主張や証拠などを踏まえて養育費の内容を判断します。
当事者が合意していなくても裁判官が結論を示し、その結果に不服がある場合は、審判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告(不服申立て)をすることができます。
参考
養育費の額は離婚後に変更できる
当事者間の合意があれば、離婚後に養育費の額を変更することは可能です。
まずは話し合いを行い、合意できない場合は家庭裁判所に調停を申し立てます。調停でもまとまらなければ、審判によって養育費の額が決定されます。
事情変更による増額・減額
養育費を決定した後でも、事情が変わった場合は養育費の変更を求めることができます。事情変更の例としては、次のようなケースがあります。
増額したい事情
- 子どもが私立学校へ進学した
- 子どもが重度の障害を負った
減額したい事情
- リストラなどで収入が減少した
- 子どもが大学生になり、アルバイトなどで一定の収入を得るようになった
- 再婚相手との間に子どもが生まれた
養育費は、その時々の状況を踏まえて決めるものです。事情が変わった場合は、まず当事者同士で話し合い、合意できないときは家庭裁判所の調停や審判によって変更を求めることができます。
再協議についての取り決めをしていなかった場合でも、事情の変更があれば見直しを求めることは可能です。
子どもが15歳になったら養育費を増額できる?
一般的に、子どもが成長するにつれて生活費や教育費は増えるため、父母間で合意があれば養育費を増額できます。
子どもが15歳になると養育費算定表の基準も変わるため、事情変更の一つとして増額が認められるケースがあります。
ただし、15歳になったことだけを理由に当然に増額されるわけではありません。取決め時の事情や父母双方の収入、子どもの生活状況などを踏まえて判断されます。
養育費の取り決め後に事情の変更があった場合、法的には民法880条に基づき養育費の変更を求めることができます。増額を希望する場合は、まず相手方と話し合い、合意できない場合は家庭裁判所に養育費増額調停を申し立てることになります。
(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
民法第880条
第八百八十条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
子どもが15歳を迎える時期が近い場合は、最初の取り決めの段階で「15歳までは月○円、15歳以降は月○円」といったように、あらかじめ段階的な金額を定めておくこともあります。
どちらかが再婚したら養育費はどうなる?
養育費を支払う側ともらう側どちらかが再婚したとしても、ただちに養育費が減額・増額されるわけではありません。
養育費を支払う側が再婚した場合
養育費を支払う側の再婚で養育費の額に影響が出るのは、扶養すべき子どもが増えた場合です。
再婚相手の連れ子と養子縁組をしたり、再婚相手との間に子どもが生まれたりすると、扶養義務を負う対象が増えるため、養育費の減額が認められる理由となることがあります。

一方、再婚相手に連れ子がいても、養子縁組をしない限り法律上の扶養義務は生じないため、養育費の額に直接的な影響はありません。
養育費をもらう側が再婚した場合
養育費を受け取る側の再婚で養育費の額に影響が出るのは、再婚相手と子どもが養子縁組をした場合です。
養子縁組をすると、再婚相手にも子どもを扶養する義務が生じるため、個別の事情に応じて実の親が負担する養育費が減額されたり、支払いが不要と判断されたりすることがあります。

なお、再婚しただけでは養育費に影響はなく、養子縁組をしていない場合は原則として養育費の額は変わりません。
養育費が支払われない場合の対処法
養育費について取り決めをしたにもかかわらず支払いが行われなかったり、一度は支払われていたものの途中で途絶えてしまったりした場合は、次のような方法で対応できます。
- 電話・メッセージで催促
- 内容証明郵便による催促
- 履行勧告を申し立てる
- 強制執行を行う
電話・メッセージで催促
相手が支払いを忘れているだけというケースもあるため、まずは本人に直接連絡を取り、支払いを求めてみましょう。
電話やメール、メッセージアプリで連絡できれば、費用や手間をかけずに解決できる可能性があります。
内容証明郵便による催促
内容証明郵便とは、「いつ、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明するサービスです。
内容証明郵便を送っただけで支払いを強制できるわけではありませんが、本気で養育費を請求する意思を相手に伝える効果が期待できます。また、後に裁判などの手続きになった場合には、養育費を請求した事実を示す証拠として役立ちます。
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履行勧告を申し立てる
履行勧告とは、家庭裁判所が相手に対して養育費を支払うよう促す手続きです。
強制力はありませんが、裁判所から勧告を受けることで相手が支払いに応じるケースもあります。
強制執行を行う
強制執行とは、相手の財産を差し押さえることで、強制的に養育費を回収する手続きです。実務では、給与を差し押さえるケースが多く見られます。
養育費は子どもの生活を支える重要な権利であるため、一般の債権よりも広い範囲で給与を差し押さえられる特例が設けられています。また、一度差し押さえの手続きを行えば、将来支払われる養育費についても継続的に給与から回収できる場合があります。
一方で、給与の差し押さえには注意点もあります。勤務先に差し押さえの事実が知られるため、相手が退職してしまう可能性があり、その結果、養育費の回収が難しくなることもあります。
強制執行を行うには、原則として調停調書や判決、公正証書などの債務名義が必要です。

2026年4月の法改正により、一定の要件を満たす養育費については、父母間の合意文書に基づいて差し押さえを申し立てられる場合もあります。
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養育費は公正証書で取り決めを
養育費を取り決めても、途中で支払いが止まってしまうケースは珍しくありません。
その背景には、口約束だったため合意内容を証明できないことや、書面を作成していても法的な効力が十分ではなく、未払いが起きた際の回収に時間や手間がかかることが挙げられます。
養育費を将来にわたって確実に受け取るためには、公正証書の作成を検討するとよいでしょう。
文書化が重要な理由
養育費の合意は口頭でも成立します。しかし、支払金額や支払期間などの内容を証明しにくく、未払いが発生した際の権利行使が難しくなるため、書面として残しておくことが大切です。
協議離婚では、当事者同士で離婚協議書を作成できます。離婚協議書は私的な契約書ですが、公正証書は公証役場で公証人が内容や当事者の意思を確認したうえで作成する公文書であり、高い証明力があります。
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公正証書の効力
家庭裁判所で調停・審判・裁判を行うと、調停調書や審判書、判決書などの債務名義が作成されます。これらがあれば、養育費が支払われなかった場合に履行勧告や強制執行を利用できます。
協議離婚の場合でも、強制執行認諾文言付き公正証書を作成すれば債務名義となり、未払いが生じた際には裁判を経ることなく強制執行を申し立てることができます。
強制執行認諾文言とは、養育費を支払う側が「支払いを怠った場合は強制執行を受けても異議はない」とあらかじめ認める条項です。
強制執行認諾文言の例
第〇条(強制執行認諾)
甲は、第〇条の債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。
養育費が支払われなかった時の強制力
| 履行勧告 | 強制執行 | |
|---|---|---|
| 口約束(取り決めなし) | × | △(法定養育費) |
| 離婚協議書(合意書) | × | △(先取特権) |
| 公正証書 (強制執行認諾文言付き) | × | 〇 |
| 調停調書・審判書・判決書 | 〇 | 〇 |
2026年4月施行の民法改正により、養育費債権に「先取特権(優先的に回収できる権利)」が付与されました。これにより、公正証書や調停等の債務名義がなくても、父母間の合意文書があれば子1人あたり月額8万円を上限に差押えが可能になっています。
また、離婚時に取り決めがなかった場合でも「法定養育費」として子1人あたり月額2万円を上限に請求・差押えができる制度も新設されています。
ただし、いずれも上限額の制約があります。取り決めた養育費の全額を確実に回収するには、依然として公正証書や調停調書等の活用が有効です。
公正証書のメリットと作成費用
離婚協議書は当事者同士で無料で作成できますが、公正証書には数千円〜数万円程度の手数料がかかります。2025年10月の制度改正により、養育費に関する公正証書は従来より手数料負担が軽減されています。
原則として夫婦が公証役場に出向く必要がありますが、一定の要件を満たせばウェブ会議を利用して作成できる場合もあります。
公正証書を作成しておけば、養育費が支払われなくなってから調停や裁判を始めるよりも、時間や手間を大幅に抑えられます。また、未払い時には強制執行を受ける可能性があるため、支払いを促す心理的な抑止効果も期待できます。
一部の自治体では、公正証書の作成費用を補助する制度を設けています。費用が気になる場合は、お住まいの自治体の支援制度を確認してみるとよいでしょう。
民法改正で養育費はどう変わった?
2026年4月1日に施行された民法改正では、養育費を確実に受け取れるようにするための制度が大きく見直されました。
民法改正のポイント
- 法定養育費制度の導入(子ども1人あたり月2万円)
- 養育費債権への先取特権の付与(子ども1人あたり月8万円まで)
- 強制執行手続きの負担軽減(1回の申立てで一連の手続きが可能に)
法定養育費制度の導入
法定養育費とは、離婚時に養育費について父母の間で取り決めをしなかった場合に、子どもと暮らす親が相手に請求できる養育費の制度です(民法766条の3)。
法定養育費の金額は子ども1人あたり月2万円で、子どもが2人なら月4万円、3人なら月6万円となります。
この制度は、2026年4月1日以降に離婚した場合に適用されます。2026年3月31日以前に離婚が成立している場合は、法定養育費を請求することはできません。
なお、法定養育費は、父母が養育費の取り決めをするまでの暫定的・補充的な制度です。子どもの年齢や父母の収入などを踏まえ、協議や調停で適切な金額を改めて取り決めることが望ましいでしょう。
養育費の先取特権
改正前は、養育費の未払いがあった場合に差し押さえを行うには、公正証書や調停調書などの「債務名義」が必要でした。
改正後は、養育費の支払いについて父母間で作成した合意書などの文書があれば、その文書に基づいて直接差し押さえを申し立てることができます。これを「先取特権」といい、他の債権よりも優先して弁済を受けられる権利です。
先取特権が認められる養育費は、子ども1人あたり月8万円までです。月8万円を超える部分については、これまでどおり公正証書や調停調書などの債務名義が必要になります。
また、施行前に離婚していた場合でも、施行前に養育費について合意書などで取り決めをしていれば、2026年4月1日以降に発生する未払い養育費については先取特権を利用できます。
強制執行手続きの負担軽減
改正前は、養育費を差し押さえるために、財産開示手続きや給与情報の取得、差し押さえの申立てをそれぞれ別に行う必要がありました。
改正後は、地方裁判所への1回の申立てで、財産開示・情報取得・差し押さえまでの一連の手続きを連続して進められる「ワンストップ執行手続」が導入されました。これにより、養育費を回収するための手間や時間の負担が軽減されています。
養育費についてよくある質問
Q. 取り決めなしで離婚した場合でも養育費は請求できる?
2026年4月1日以降に離婚した場合は、法定養育費制度により、離婚の日にさかのぼって子ども1人あたり月2万円を請求できます。法定養育費はあくまで暫定的な制度のため、並行して話し合いや家庭裁判所の手続きで適切な金額を取り決めることが大切です。
Q. 養育費の取り決めを書面にすれば、未払い時に差し押さえができる?
2026年4月1日施行の民法改正により、私文書(合意書)であっても養育費の先取特権が認められ、子ども1人あたり月8万円の範囲内で差し押さえの申立てが可能になりました。月8万円を超える部分については、従来どおり公正証書や調停調書などの債務名義が必要です。
Q. 子どもが私立学校に進学した場合、養育費とは別に教育費を請求できる?
養育費算定表は一般的な教育費を前提として作成されています。子どもが私立学校へ進学するなど、当初想定していなかった教育費が必要になった場合は、事情の変更として、養育費とは別に教育費の分担や養育費の増額を請求できる可能性があります。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律税務グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
