養育費を払わない親はどうなる?払わなくていいのはどんなとき?

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養育費を払わない
  • 養育費を払わないとどうなるの?
  • 養育費を払わない方法はある?
  • 養育費を払わない人へのペナルティは?

養育費が払われていない家庭の割合は、母子家庭で約57%、父子家庭にいたっては約86%にのぼり、深刻な問題となっています。

こういった状況を受け、養育費を確保しやすくするために、強制執行のハードルを下げるなどの法改正が行われています。

また、養育費の差し押さえでは通常の差し押さえよりも広い範囲の財産を差し押さえることができるなど、優遇措置が取られています。

この記事では、養育費を払わないとどうなるのか、養育費が免除されるケースはあるのかについて解説します。

養育費を払わないとどうなる?

養育費を払わないのは犯罪?

養育費の不払いは犯罪として定められているわけではないため、養育費を支払わなかったからといって捕まったり刑事罰を受けたりすることはありません。

しかし、養育費を支払う義務があるにもかかわらず支払わずにいると、様々なペナルティを受ける可能性があります。

代表的なものとしては、給与や財産の差し押さえがあります。

また、相手から財産開示手続を申し立てられ、裁判所からの呼び出しに応じなかったり、財産について嘘をついたりした場合は、刑事罰を科されてしまうおそれもあるので注意が必要です。

養育費を払わないと差し押さえの可能性あり!

養育費を支払わない場合、強制執行という手続きによって、給与や預貯金などの財産を差し押さえられる可能性があります。

養育費の強制執行とは、裁判所の命令によって債務者の財産を差し押さえ、養育費を強制的に回収する手続きです。

養育費の強制執行は、権利者(受け取る側)から裁判所に申し立てをすることで行われます。

養育費を払わないと遅延損害金を請求される場合も

養育費を支払わなかった場合、支払いが遅延した期間に応じて、遅延損害金を請求される可能性があります。

遅延損害金とは、支払が遅延して支払期限が守られなかったときに損害賠償金として支払われるお金のことをいいます。

もし養育費について取り決めをしたときに、とくに遅延損害金について合意していなかった場合には、法定利率に従って遅延損害金が計算されることになります。

法定利率は、現行の法定上3%となっており、養育費の支払いが滞っているという場合は、こちらもあわせて請求できる可能性がありますので、覚えておきましょう。

養育費の時効は5年または10年

養育費の請求権には、消滅時効と呼ばれる期限があります。

消滅時効とは、権利を持つ人が一定期間内にそれを行使しなければ、その権利を失ってしまうという制度です。

養育費を支払う立場から見ると、養育費を支払わずに一定期間が経過すれば、養育費を払わなくてもよくなるということです。

時効期間

養育費の取り決め方法によって、時効の期間が異なります。

  • 話し合いで取り決めた場合: 5年
  • 調停や審判・裁判で取り決めた場合: 10年

ただし、調停や審判・裁判を行っても、10年の時効が適用されるのは過去の分のみです。将来発生する養育費については、話し合いと同じく5年の時効が適用されます。

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時効の起算点

養育費請求権は、一気に時効にかかるわけではありません。毎月の養育費の締め切り日からそれぞれ時効が進行し、古いものから順に時効を迎えます。

夫婦間で取り決めた養育費の時効

養育費の時効は延ばせる!

養育費の時効は、完成猶予や更新によって延ばせる可能性があります。

時効期間中に以下のような行為を行うと、時効の完成が猶予されます。時効の完成猶予とは、特定の行為を行うことで、一定の期間中は時効が完成しなくなるという制度です。

時効の完成猶予事由

  • 裁判上の請求等(裁判や支払督促、調停など)
  • 強制執行の申し立て
  • 仮差押え・仮処分の申し立て
  • 催告
  • 協議を行う旨の合意

また、以下の場合は養育費の時効が更新されます。更新とは、一定の行為を行うことで5年・10年の時効期間が数えなおしになることです。

時効の更新事由

  • 裁判上の請求等で権利が確定した
  • 強制執行が終了した
  • 債務を承認(支払い義務があると認めること)した

なお、消滅時効は義務者が援用しないと適用されません。援用とは、「時効が来たから養育費を払わない」という意思表示をすることです。

したがって、5年・10年が経過したからといって、自動的に養育費を請求できなくなるわけではありません。相手が時効の完成を知らなかったり、相手に支払う意思があるならば、養育費を受け取ることは可能です。

養育費を払わないと言われたら?

相手から「養育費は払わない」と言われてしまっても、絶対に請求できないわけではありません。

養育費を払わないと宣言された場合の対処法は、離婚の前後や取り決めをした後で異なります。

離婚前に「払わない」と言われた場合

離婚前であれば、離婚調停(夫婦関係調整調停)を申し立てて養育費やその他の離婚条件について話し合うことができます。

話し合っても夫婦が合意できなかった場合、離婚調停は不成立になってしまいます。その場合は、再度話し合うか、離婚裁判を起こすことができます。

協議や調停では双方の合意が必要なのに対し、裁判で養育費の支払いが命じられれば、相手方の同意がなくても養育費が決まります。

調停や裁判で養育費の支払いについて決めると、養育費の強制執行が可能な状態になります。

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離婚後に「払わない」と言われた場合

離婚後に養育費を払わないと言われたら、直接話し合うか、養育費請求調停を申し立てるのがよいでしょう。

養育費請求調停は、離婚後に養育費について話し合うための調停です。

離婚前の離婚調停とは異なり、養育費請求調停が不成立になると、自動的に審判に移行します。審判では、裁判官が双方から話を聞いた上で養育費の判断を下します。

審判の結果が不服であれば、即時抗告を行って高等裁判所で審理を受けることができます。

したがって、養育費請求調停を起こせば、確実に養育費について決まることになります。

養育費の取り決め後に言われた場合

養育費の支払いについて取り決めを行った後で「払わない」と言われてしまい、養育費が未払いになっている場合は、相手方に直接催促をするか、強制執行の手続きを行いましょう。

以下の場合は、ただちに強制執行を申し立てることができます。

  • 強制執行認諾文言付き公正証書を作成している
  • 調停や審判・裁判で養育費の支払いが確定している

強制執行を行うには、債務名義が必要です。

債務名義とは、金銭等の支払いを請求できる権利を公的に証明する文書のことをいいます。公正証書や調停調書、審判書、判決などがこれにあたります。

まだ債務名義を持っていない場合、まずは家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てる必要があります。

たとえ口頭や強制執行認諾文言付き公正証書以外の文書で取り決めを行っていても、それは債務名義にはなりません。

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養育費を払わせるための手続き

取り決め通りに養育費が支払われなくても、泣き寝入りする必要はありません。養育費を回収するための手段が存在します。

養育費請求権は古いものから順に時効にかかるため、行動を起こすなら早いに越したことはありません。

本人に直接催促する

養育費が未払いになってしまったら、まずは本人に対して電話やメールなどで催促するのが一般的です。

いきなり法的手段を用いることも可能ですが、相手への負担が大きく、反発を買いやすい方法です。

まずは自主的な支払いを促し、それでも支払いに応じないようであれば次の段階に進むのがよいでしょう。

内容証明郵便を送る

養育費請求の手段のひとつとして、内容証明郵便があります。

内容証明郵便とは、どんな内容の手紙が、いつ、誰から誰に差し出されたかを証明してくれる郵便局のサービスです。

内容証明郵便に強制力はありませんが、相手にプレッシャーを与えて支払いを促す効果が期待できます。

また、内容証明郵便は、後に調停や裁判を行う場合にも、催促を行ったことやその日付の証拠として利用できます。

履行勧告を行う

履行勧告とは、調停や審判で決められたとおりに養育費を支払わない人に対して、家庭裁判所から支払いを促す制度です。

ただし、当事者間で取り決めを行っただけでは履行勧告はできず、調停や審判で取り決めをしている必要があります。

また、履行勧告で支払いを強制することはできないため、強制的に支払いを実現させたい場合は強制執行の手続きを行うのがよいでしょう。

強制執行を行う

すでに債務名義を持っている場合は、地方裁判所に強制執行を申し立てて相手の給与や財産を差し押さえることが可能です。

まだ債務名義がない場合は、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てましょう。

強制執行には、間接強制と直接強制の2種類があります。

間接強制

間接強制とは、間接強制とは、相手が調停や裁判で決められた義務を履行しない場合に、間接強制金を課すことでプレッシャーを与えて支払いを促す方法です。

金銭の支払いについては間接強制の手続きは使えないのが原則ですが、養育費や婚姻費用の請求であれば間接強制の方法をとることも認められています。

直接強制

強制執行とは、裁判所の命令によって、債務者の給与や財産を差し押さえることで、強制的に取り決めを実現させる手続きです。

一般的に強制執行といえば、こちらの直接強制を指しています。

養育費の強制執行で差し押さえることができる財産には、以下のようなものがあります。

  • 給与(手取額の2分の1まで)
  • 預貯金
  • 生命保険(解約返戻金に相当する額)
  • 有価証券
  • 不動産
  • 自動車
  • 貴金属
  • 現金(66万円を超える部分)

養育費は毎月払うものですし、毎月の額がそれほど大きくないことから、給与を差し押さえることが考えられます。

将来の養育費についても差し押さえが可能で、相手方の勤務先から直接受け取ることができます。

「民事執行法」改正で養育費の差し押さえが容易に!

2020年に民事執行法が改正され、財産の差し押さえがしやすくなりました。

強制執行を行うには、債権者(受け取る側)が相手の財産を特定して裁判所に提出しなければいけないことになっています。

従来の制度では、これが強制執行を非常に難しくしていました。一度給与を差し押さえても、相手が転職してしまえば意味がありません。

しかし、この改正によって裁判所から第三者に財産情報の開示を求めることができるようになるなど、財産を特定するハードルが下がりました。

たとえば、相手の所有する不動産の情報であれば登記所に、勤務先の情報なら市区町村や年金機構などに照会することができます。

その他にも、相手が財産開示手続に応じなかったり、虚偽の発言を行った場合の罰則が強化されています。

養育費を払わなくていいのはどんな時?

養育費を払わなくていい場合には、以下のようなケースが考えられます。場合によっては、養育費を払わなくてよいか、もしくは減額が認められる可能性があるということをおさえておきましょう。

養育費を払わなくてよいケース

  • 支払い能力がない
  • 監護親の収入のほうが高い
  • 財産分与や面会交流で譲歩し、養育費を払わない約束をした
  • 子どもが再婚相手と養子縁組をした
  • 子どもが配偶者の連れ子で、離婚で養子縁組を解消した
  • 子どもが成人したり就職したりして、経済的に自立した
  • 自分に新しく子どもができた

なお、以下のような場合は、養育費の免除や減額が認められにくいといえます。

  • 子どもと会わせてもらえないため、養育費を支払わない
  • 自己都合退職などで支払う側の収入が減ったが、その減少が予測できた
  • 借金があるため、養育費を支払いたくない など

ここでは養育費を払わなくてよいか、もしくは減額が認められる可能性があるケースについて解説します。

支払い能力がない

病気で働けなくなったり、リストラによって失業したなどの事情で養育費の支払い能力がなければ、養育費の免除が認められる可能性があります。

ただし、働ける能力があるのに働こうとしない場合は、潜在的な稼働能力に基づいて養育費の支払いが命じられることもあります。

また、生活保護を受けているという場合も、養育費の支払いが免除されるケースの一つです。

「生活保護を受けたから養育費の支払いが完全になくなる」ということではなく、就職などで生活保護を必要としなくなった場合は、養育費の支払いを再開する必要があります。

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監護親の収入のほうが高い

監護親(子どもと一緒に暮らす親)の収入の方が高い場合は、支払い義務を免れるか、減額が認められる可能性があります。

たとえば、離婚した後に監護親が転職したり昇給したりすることで収入が大幅に増加した場合、養育費の支払いがなくなるといったことはありえるでしょう。

財産分与や面会交流で譲歩し、養育費を払わない約束をした

あらかじめ父母間で養育費を払わない旨の合意をしている場合は、監護親からの養育費請求に応じる必要はないでしょう。

たとえば、夫婦間で養育費について「夫が養育費の代わりに住宅ローンを支払う」と合意をする方法を使えば事実上相殺することができます。

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また、「面会交流をしない代わりに、養育費も受け取らない」という条件で離婚が成立することもあるでしょう。

とはいえ、面会交流は、あくまで子どもの権利です。離婚の駆け引きの材料にするものではないという点に留意してください。

以上のように、財産分与や面会交流などほかの条件で譲歩することを理由に、養育費を払わない約束をしたというのであれば、監護親からの養育費請求には応じる必要はないといえます。

ただし、子どもにも養育費(扶養料)を請求する権利があります。両親の間で養育費を支払わない取り決めをしていても、子どもからの養育費の請求は拒めません。

また、子どもの進学や病気などのような事情の変更で必要な養育費が増えた場合は、後から養育費を請求できる可能性があります。

子どもが再婚相手と養子縁組をした

監護親が再婚し、子どもが再婚相手と養子縁組をした場合は、養育費の免除または減額が認められる可能性があります。

再婚相手と養子縁組をすると、再婚相手にも子どもを扶養する義務が発生するためです。

子どもが配偶者の連れ子で、離婚で養子縁組を解消した

子どもが配偶者の連れ子であり、養子縁組をしていたものの、離婚を機に養子縁組を解消した場合は、養育費の免除または減額が認められる可能性があります。

養子縁組を解消すれば、子どもを扶養する義務は消滅することになるからです。ただし、離婚後も養子縁組を解消せず、そのままにしている場合は、養育費の支払い義務が発生する点に留意してください。

子どもが成人したり就職したりして、経済的に自立した

子どもが成人したり就職したりして経済的に自立した場合は、養育費を支払う必要はないといえます。

養育費の支払いの対象となるのは未成熟子であるとされています。未成熟子とは、経済的に自立することを期待することができない子どものことを指します。

実務上、養育費は20歳が目安とされており、子どもが経済的に自立した場合は、養育費を支払う必要はありません。

ただし、仮に成人していたとしても、離婚するときに「大学卒業まで支払う」「22歳までは支払う」などと取り決めていた場合は、この限りではありません。

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自分に新しく子どもができた

養育費を支払う人が再婚し、再婚相手との間に子どもが生まれたり、再婚相手の連れ子と養子縁組をしたりした場合は、自分の子どもを養う必要がありますので、養育費の免除または減額が認められる可能性があります。

養育費の未払いについてのよくある質問

Q.養育費を払うことは義務ですか?

養育費とは、子どもの生活や教育などに必要な一切の費用のことをいい、一般的には離婚後に支払うものを指します。

親が子どもに養育費を払うのは、法律上の義務です。

以下の条文のとおり、親子だけでなく一定範囲の親族は、互いを扶養する義務を負っています。

第877条(扶養義務者)

直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

民法

扶養義務は、生活扶助義務と生活保持義務とに分かれています。

生活扶助義務とは、最低限の生活を保障する義務です。それに対し、生活保持義務は、自分と同じ水準の生活を保障する義務です。

このうち、親が子に負うのは生活保持義務とされており、親は子どもに自分と同レベルの生活を送らせなければなりません。

この義務は、たとえ離婚して子どもの親権者・監護者でなくなっても消えず、子どもが経済的に自立するまで続きます。

「子どもと会わせてもらえないから払わない」「離婚したんだから自分には関係ない」といった考えは誤りであることが分かります。

Q.養育費を払ってもらえない割合はどれくらいですか?

実際に、「離婚で養育費が支払われていない」という家庭はどのくらい存在しているのでしょうか。以下は、ひとり親世帯について、養育費の受給状況を簡単にまとめた表になります。

養育費の受給状況母子世帯(割合)父子世帯(割合)
現在も受けている303,252(28.1%)9,191(8.7%)
受けたことがある153,444(14.2%)5,008(4.8%)
受けたことがない613,567(56.9%)90,277(85.9%)
不詳8,950(0.8%)659(0.6%)

出典:令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果

現在も養育費が支払われているという家庭は、母子世帯でおよそ28%、父子世帯でおよそ8.7%となっています。

また、養育費が支払われていないという家庭は、母子世帯では全体のおよそ57%、父子世帯ではおよそ86%にのぼっています。

つまり、子どもを引き取らなかった母親のおよそ86%、父親のおよそ57%は、養育費を一度も支払っていないことがわかります。

Q.養育費を払わない元夫と面会交流を拒否することはできますか?

面会交流と養育費は、法律上では別個の問題として扱われます。元夫が養育費を支払わないからといって、子どもと元夫を会わせないようにすることはできません。

なお、面会交流は、あくまで子どもの権利であり、離婚の駆け引きの材料にするものではないという点に留意してください。

まとめ

養育費の支払いは親の義務であるとされています。

取り決めをしたにも関わらず養育費が支払われない場合は、強制執行によって支払いを実現させることが可能です。

ただし、病気などの事情で支払い能力がなかったり、養育費を払わない合意をしているなどの場合は、養育費の支払い義務が免除される可能性もあります。

養育費の支払いについて悩んでいるという方は、弁護士に相談することをお勧めします。無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、ぜひ活用してみてください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了