離婚時に住宅ローンと養育費を相殺して妻が家に住み続ける方法

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在宅ローンと養育費

離婚後、妻が子どもと家に住み続ける場合、夫が養育費の代わりに住宅ローンを支払うと合意すれば、事実上相殺して名義を変えずに住み続けられます。民法上、所有者と居住者が異なること自体は問題ありませんが、多くの住宅ローン契約では契約者本人の居住が条件となっているため、事前に金融機関へ相談することが重要です。

ただし、養育費は子どもの権利であり、法的な意味での相殺はできません。実際には「養育費の支払い方法を変更する」という形で対応し、公正証書で明確に合意しておくことが必要です。

この方法には、妻のローン負担がなくなるメリットがある一方、夫の滞納による競売リスク、養育費減額時の負担増加、契約違反による一括返済請求などのデメリットもあります。本記事では、その仕組みと注意点を実務の視点から解説します。

住宅ローンと養育費の相殺で家に住み続けられる

相殺は妻が家に住み続けられる方法のひとつ

住宅ローンと養育費の相殺は、離婚後も妻が家に住み続ける手段のひとつです。

ただし、厳密な意味での相殺ができるわけではなく、あくまで養育費の支払い方法を合意する形で事実上相殺をするような形になります。

養育費の合意をすれば事実上相殺できる

夫婦間で「夫が養育費の代わりに住宅ローンを支払う」と合意すれば、養育費を住宅ローンの支払いに充てる形となり、事実上相殺と同じ状態にすることができます。法律上は住宅ローンと養育費は別個のものとして扱われますが、実務上は当事者間でこのような取り決めをするケースが存在します。

養育費の支払い方法は、父母の話し合いによって決めることができます。

ただし、養育費は子の権利であり、親が自由に放棄できるものではありません(民法881条)。離婚時に養育費について合意した後でも、事情の変更が生じた場合は、家庭裁判所がその定めを変更することができます。

そのため、住宅ローンの支払いを養育費の代わりとする場合は、合意内容を公正証書などの書面で明確に残しておくことが極めて重要です。

離婚で養育費と住宅ローンを相殺するメリット

住宅ローンと養育費を相殺して夫が住宅ローンを返済し続ければ、妻に名義変更をすることも住宅ローンを自ら負担することなく、妻は家に住み続けられます

名義人でない妻が離婚後も家に住むために、実務上は住宅ローンの名義変更を求められることがあります。

通常の融資よりも低金利で組む住宅ローンは、名義人が自宅として住み続けることを条件としているため、家に住み続ける妻を名義人に変更する必要があります。

しかし、住宅ローンは名義人が住宅ローンの返済能力を審査したうえで組まれるため、審査を受けていない名義人の変更は原則として認められません。

名義人の変更ができない場合、名義はそのままに、住宅ローンと養育費を事実上相殺し、名義人である夫にローンを返済してもらうことで妻が家に住み続けることができます。

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相殺を実施する前に金融機関への相談が必須

住宅ローンと養育費の相殺を検討する場合は、事前に住宅ローンを組んでいる金融機関へ相談しましょう。

民法上は、家の所有者と実際に住む人が異なっても問題はありません。しかし、多くの住宅ローン契約では「債務者本人の居住」を条件としているため、名義人である夫が家を出ると契約違反とみなされる可能性があります。

金融機関によっては、妻が家賃相当額を支払う形にするなど、状況に応じた対応方法を案内してもらえることもあります。あらかじめ金融機関の承諾を得ておくことで、後のトラブルを防ぎやすくなります。

養育費代わりに住宅ローンを支払わせるデメリット

住宅ローンが払ってもらえなければ競売される

夫が住宅ローンを滞納した場合、ローンの担保である家が競売され、妻が家を失うおそれがあります。

金融機関にとっては、たとえ夫婦間で相殺をしていようと実際に夫が住宅ローンを支払ってくれない限り、ローン返済を滞納していることになります。

ローンを返済しなければ、担保としている家や土地が競売され、妻子が生活の拠点である住居を失うおそれがあります。

ローンの契約違反になり一括返済が求められる

住宅ローンの名義人が実際には家に住んでいないことがわかった場合、契約違反と判断され、ローンの一括返済を求められる可能性があります。

住宅ローンは、名義人が自宅として住み続けることを条件に、通常の融資よりも低金利で組まれています。

本来、名義人として家に住んでいる夫が既に家を出ていることが金融機関に判明すれば、契約違反があったとしてローンの一括返済が求められるおそれがあります。

契約違反にならないために、名義はそのままで妻が夫に家賃を支払う形で住宅ローンの返済に協力するとして金融機関からあらかじめ承諾を得て相殺をする方法もあります。

名義人によって勝手に家を売却されるおそれ

家の登記名義が夫のままの場合、実務上は夫が単独で売却手続きを進めることが可能であり、妻が知らないうちに家を売却されてしまうおそれがあります。

財産分与で実質的に妻の所有といえる場合でも、登記が夫のままだと、買主は登記を信じて夫から購入することができます。この場合、妻が権利を主張するには法的手続きが必要となり、解決までに時間と費用がかかる可能性があります。

もちろん、妻に所有権が移っていると認められれば、夫に対して登記の移転を求めたり、無断売却について損害賠償を請求したりすることは可能です。しかし、実際に紛争になると対応に大きな負担が生じます。

また、住宅ローンが残っている場合は、ローンの名義人と不動産の名義人を一致させることが契約条件となっていることが多く、家の名義だけを妻に変更することが難しいケースもあります。そのため、夫名義のままにせざるを得ず、このようなリスクが残る点には注意が必要です。

養育費と住宅ローンがぴったり相殺できるとは限らない

住宅ローンの返済額と、合意や調停で算定表に基づいて決めた養育費の額が同じとは限らないため、相殺しきれないことがあります。

住宅ローンが定めた養育費を上回る場合、足りない住宅ローンは妻が負担しなければなりません。

また、定めた養育費が住宅ローンを上回る場合には、足りない養育費は夫から送金されることになります。

養育費を住宅ローンと同額に設定した場合、養育費の支払い方法の合意をすれば元夫婦間で金銭のやり取りをする必要はありません。

しかし、金額が異なる場合、事実上の相殺をしてもお互いに金銭のやり取りが必要になるため、思わぬ出費が生じることが離婚後のトラブルにつながるおそれもあります。

離婚しても住宅ローンを支払うことになる養育費の減額

養育費が減額され、夫から支払うはずだった養育費が住宅ローン額を下回る場合、相殺分を超える住宅ローンを妻が負担する必要があります。

養育費を決定した後でも、事情が変わった場合は養育費の金額の変更を請求できます。

離婚後に養育費が減額される事情は、以下のような事情です。

  • リストラや病気などで養育費を支払う人の収入が減った
  • 養育費を支払う人と再婚相手との間に子どもが生まれた
  • 子どもがアルバイトを始めた
  • 養育費を受け取る側が再婚をして、再婚相手と子どもの養子縁組をした
  • 養育費を受け取る側の収入が大幅に増加した

減額された養育費が住宅ローン額を下回る場合、相殺できる額を超えてしまうため、相殺分を超える住宅ローンは、家に住む妻が負担する必要があります。

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離婚で家のローンと養育費の相殺ができるケース

名義人である夫が家を出て、妻と子どもが住むケース

妻が住宅ローンの名義人である夫と離婚し、子どもといっしょに家に住む場合、住宅ローンと養育費を相殺し、夫に住宅ローンを返済してもらうことができます。

相殺ができれば、夫から養育費が振り込まれなくなる代わりに、妻は実質的に住宅ローンを負担することなく家に住むことができます。

対して、夫は養育費を支払わなくていい代わりに、妻子が家に住めるよう住宅ローンを支払うことになります。

住宅ローンと養育費の相殺ができないケース

名義人である夫だけが家に住むケース

住宅ローンの名義人である夫が家に残る場合、住宅ローンと養育費の相殺ができません。

妻が子どもを連れて家を出た場合、夫は養育費を支払う債務を負ううえに、名義人として住宅ローンを支払う債務を負います。

この場合、夫一人が両方の債務を負っているだけで、二人がお互いに債務を負っているわけではないので相殺はできません。

名義人である夫が子どもと家に住むケース

名義人である夫が子どもといっしょに家に残る場合も、相殺はできません。

離婚後、妻が夫に養育費を支払う債務を負うことはありますが、住宅ローンは名義人である夫が支払うものであり、妻が代わりに住宅ローンを支払うことができません。

そのため、夫は、妻に住宅ローンを支払ってもらえるようローン相当額を支払う債務は負わず、二人がお互いに債務を負っているとはいえないため、相殺はできません。

住宅ローンと養育費の相殺のトラブルを防ぐには

養育費の支払いについて公正証書を作成する

住宅ローンの返済を養育費の代わりとする場合は、トラブルを防ぐために強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくことが有効です。

公正証書は、公証役場で公証人が内容を確認して作成する公的な文書で、裁判でも有力な証拠として認められます。強制執行認諾文言を付けておけば、裁判を経ずに強制執行の手続きへ進むことが可能になります。

公正証書には、次の内容を明確に記載しておくことが重要です。

  • 養育費の支払い方法が住宅ローンの返済による代物弁済であること
  • 住宅ローンの毎月の返済額と、そのうち養育費として扱う金額
  • ローン完済後や子どもの成人後の養育費の取り扱い
  • ローン滞納時の対応(妻が代わりに支払えるか、通常の養育費請求へ切り替えるかなど)
  • 家を売却する際の事前協議の取り決め

特に重要なのは、滞納が起きた場合の対応です。この取り決めがないと、妻は住まいを失うだけでなく、養育費も受け取れなくなるおそれがあります。

公正証書を作成する際は、内容に不備がないよう弁護士に確認を依頼することをおすすめします。

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家を売却する

住宅ローンと養育費の相殺のケースも含めて離婚後の住宅ローンに関わるトラブルを避けるために家を売却する方法もあります。

家の売却により、今まで住んでいた家には住めなくなりますが、売買代金で残りの住宅ローンを完済すれば一方が住宅ローンを滞納するといったトラブルを防げます。

また、売却代金を財産分与することで新たに住居を借りるなど生活の拠点を得るための資金を確保できます。

ただし、住宅ローンを売買代金で完済できるのは不動産の評価額がローン残高を上回る場合(アンダーローン)だけです。

ローン残高が不動産の評価額を上回る場合(オーバーローン)、家を売却したお金をローンの返済に充てた上で残ったローンを預貯金などで返済をすることになります。

預貯金を充てても完済できない場合は、家を売却せず名義人がそのままローンを払い続けるのが一般的です。

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弁護士に相談する

住宅ローンと養育費を相殺する方法を使えば、銀行の厳しい審査を経ずに住宅ローンも負担せず、家に住み続けることができます。

しかし、住宅ローンの滞納や養育費の減額など、将来的に起こり得る事情により思わぬトラブルに巻き込まれるおそれもあります。

また、名義人を変更しなかったためローン契約違反となる、勝手に家を売却されるおそれがあるといったデメリットも考慮しなければいけません。

住宅ローンと養育費を相殺してもよいか、お悩みであればぜひ弁護士にご相談ください。

法律の専門家である弁護士であれば、住宅ローンと養育費の相殺で予期せぬトラブルに巻き込まれないよう適切なアドバイスをすることができます。

住宅ローンと養育費の相殺に関するよくある質問

Q. 住宅ローンと養育費の相殺は夫婦の合意だけで可能?

夫婦間の合意だけでは不十分です。住宅ローンを組んでいる金融機関への事前相談と承諾が必要となります。多くの住宅ローン契約では債務者本人の居住が条件となっているため、名義人が家を出ると契約違反になる可能性があります。

金融機関によっては、賃貸借契約などの形式を整えることで認められる場合もあるため、離婚前に必ず相談してください。

Q. 相殺の合意後に夫がローンを払わなくなったらどうなる?

住宅ローンの滞納が続くと、金融機関は担保である家を競売にかけることがあります。その場合、妻と子どもは住まいを失うリスクがあります。

こうした事態に備えるには、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成し、ローンの滞納時には通常の養育費請求に切り替えられる条項を入れておくことが重要です。滞納の兆候が見られた場合は、早めに弁護士へ相談し、適切な法的対応を検討してください。

Q. 夫が住宅ローンを滞納したらすぐにわかる?

通常、妻に自動的な通知は届きません。住宅ローンの返済は夫と金融機関の間の契約であり、妻には連絡が来ない仕組みになっているためです。滞納を早期に把握するためには、毎月の返済状況がわかる資料(引き落とし明細など)を夫が提出する義務を、公正証書に条項として定めておくと安心です。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了