離婚したら親権はどうなる?親権を得るための5つのポイントを解説
夫婦が離婚する際に決めなければならないことの中に、未成年の子どもの親権者があります。
現行法上、離婚後は父母のどちらか一人しか親権を持つことができません。したがって、離婚時には必ず親権者を決めることになります。
しかし、親権争いは、離婚に関する話し合いの中でも特に双方の合意が難しい部分です。親権者が決まらずになかなか離婚ができない、子どもが長期間不安定な環境に置かれるなどといった事態は避けたいところです。
この記事では、離婚をお考えの方に向けて、以下の内容について解説します。
- 親権・監護権とは何か
- 親権を獲得するための要件
- 親権者の決め方
- 親権を勝ち取るためのポイント
また、2024年5月の国会で導入が決定した共同親権に関する情報や、今後の見通しについても触れていきます。
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親権とは
親権とはどのようなもの?離婚時になぜ重要?
親権とは、父母が未成年の子どもに対して持っている権利・義務の総称です。
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
民法820条
単に子どもと一緒に暮らす権利を親権というのではありません。子どもの身の回りの世話や財産の管理など、様々な権利および責任が親権を構成しています。
婚姻中は父母が共同で親権を持っていますが、現行法上では離婚後には父母のどちらか一方しか親権を持つことができません。
そのため、離婚するときには必ず未成年の子どもの親権者を決めなければなりません。
2026年までに共同親権が導入されます
離婚後の共同親権を定めた改正民法が、2024年5月に可決されました。これにより、2年後の2026年までに共同親権が導入される見込みです。
この改正民法が施行されると、離婚後に単独親権とするか共同親権とするかを、父母の協議によって選択できるようになります。父母の間で折り合いがつかなければ、裁判所に親権者の判断を委ねることもできます。
共同親権の制度には、離婚後も両親が責任を持って子育てに関われるようになるなどのメリットがある一方で、DVやモラハラから逃れるのが困難になるのではないかといった問題点も指摘されています。
これにより、裁判所の判断基準も変化する可能性が高いため、今後の動向に注視していく必要があるでしょう。
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親権は子どもが何歳になるまで?
親が子どもの親権を持てるのは、子どもが成人(18歳)になるまでです。
2022年4月の成人年齢引き下げに伴い、親の持つ親権も18歳までとなりました。
したがって、子どもが18歳以上の場合は、親が離婚しても親権者を定める必要がありません。また、成人した子どもは、離婚時にどちらの親についていくのか、どちらの戸籍や苗字を選ぶのかを自分で決めることができます。
親権の内容は監護権と財産管理権
親権の内容には、監護権と財産管理権の2つの要素があります。
監護権(身上監護権)
- 居所指定権
子どもの住むところを決める - 職業許可権
子どもが職業に就く際に許可を与える - 身分上の行為の代理権
結婚、離婚、養子縁組、改姓などの際に同意したり、代わりに手続きを行う
以前は、親の権利として「懲戒権」が認められていました。これは、親が必要な範囲内で子どもにしつけを行う権利です。 しかし、これが体罰などの口実に使われていたことから、令和4年12月16日の民法改正によって懲戒権が削除され、体罰や児童虐待の禁止が明文化されました。
財産管理権
- 包括的な財産管理権
子どもの財産を管理する - 法律行為に対する同意権
子どもがお金を使ったり、契約することを認める
親権がないとできないこと
以下は、親権がないとできないことの一例です。
- 子どものパスポートを作成する
- 子ども名義の預貯金口座を作る
- 子どもの財産を管理・処分する
一方、親権がなくても、子どもと会って交流すること(面会交流)は可能です。したがって、親権を手放したからと言って、二度と子供に会えなくなるわけではありません。
なお、親権を持たない親にも子どもを扶養する義務はあるため、子どもを養育する親権者に対して養育費を支払わなければいけません。
親権者と監護権者を別々にできる?
親権を持つ人を親権者、監護権を持つ人を監護権者といいます。親権者と監護者を別々に定めることも認められています。
この場合は、財産管理権を親権者が、身上監護権を監護権者が持つことになります。
親権者は、預貯金や不動産などの財産の管理を行うほか、子どもの財産に関する法律行為、すなわち財産の売買などを同意・代理することができます。
一方、監護権者は、子どもと一緒に住み、衣食住の世話、教育、医療などを行うことができるほか、職業に就くのを許可することもできます。
双方が親権を譲らないために離婚ができない時に、親権と監護権を分け合うことで話し合いを落ち着けるケースもあります。ただし、共同親権が導入されると、親権者と監護権者を分けるメリットは少なくなるでしょう。
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親権者の割合
離婚後の親権者の割合は?
令和5年度司法統計年報によると、離婚調停や審判で親権者を定めたケースのうち、約91.6%が母親を、約7.8%が父親を親権者としています。
※令和5年度 司法統計年報 家事編 第23表より作成
このことから分かるように、親権争いは母親が圧倒的に有利です。
親権争いで母親が有利な理由
母親が有利とされる主な理由は、母性優先の原則と、継続性の原則であると考えられます。
裁判所は、子どもが幼いほど、母親と暮らした方が良いと判断することが多く、これを母性優先の原則といいます。
また、子どもが生まれた時から母親が主となって世話をしていることが多いため、継続性の原則にてらして、そのまま母親が親権者として認められることが多いと考えられます。
親権争いで父親が不利な理由
父親が親権を取りづらいのには、このような理由があると考えられます。
- 仕事で子育ての時間が取りづらい
- 母親が主に世話をしていたケースが多い
- 子どもが母親になついている場合が多い
父親が親権を勝ち取るためには、こういった点をクリアする必要があるでしょう。
父親が親権争いに勝てるケースは?
母親が親権者になる場合が多いとはいえ、父親が親権者となれる可能性もゼロではありません。以下のようなケースでは父親が有利になります。
父親が有利なケース
- 父親が継続的・安定的に監護を行ってきた場合
- 母親が子どもを虐待していたり、母親の監護能力に問題がある場合
- 子どもが父親と暮らすことを望んでいる場合
- 父親と暮らした方が、現状の生活環境を維持できる場合
- 子どもがある程度大きい場合(母性優先の原則の影響が薄くなる)
この記事では、親権を勝ち取るためのポイントについても解説しています。親権を得たいと考えている方は是非チェックしてください。
親権者を決める5つの原則と判断基準
裁判所が親権の判断をするときに最も重視するのは子の利益です。
親権の判断基準が法律で定められているわけではありませんが、裁判では以下のような要素が見られています。
親権の判断に用いられる5つの原則
- 継続性の原則
- 母性優先の原則
- 子の意思の尊重
- きょうだい不分離の原則
- 面会交流に対する寛容性の原則
1.継続性の原則
今まで子どもの世話をしていた方の親に、継続的に監護をさせることを、裁判所は非常に重視しています。
特段の事情がない場合は、それまで子どもの世話を主として行っていた親が、そのまま親権者に指定されることが多いようです。
2.母性優先の原則
母性優先の原則とは、特に幼い子ども(0〜5歳程度)は、母性的な関わりをしてきた方の親に親権を認めるべきだという考え方です。
重要なのは、母親が必ずしも有利なのではなく、母性的な関わりを持ってきた方の親が有利であるという点です。とはいえ、母親の方が母性的な関わりを持っていることが多いため、結果として母親が親権者になることが多いでしょう。
3.子の意思の尊重
ある程度の年齢になると、子どもがどちらの親と暮らしたがっているかも尊重されるようになります。
具体的には、15歳以上であれば子どもの意思は必ず確認されます。また、10歳程度でも、子どもの意思を確認することがあるようです。
4.きょうだい不分離の原則
きょうだいは精神的にも情緒的にも強いつながりを持っているため、むやみにきょうだいを分離させるべきではないとされています。
5.面会交流に対する寛容性の原則
両親と交流して愛情を受けることは、子どもの健全な成長のために必要不可欠です。積極的に相手との面会交流を認める姿勢は、親権者を判断するにあたってプラスに評価されます。この原則は「フレンドリーペアレントルール」とも呼ばれています。
「きょうだい不分離の原則」と「面会交流に対する寛容性の原則」はどちらかといえば補充的な考慮要素です。
親権争いで重視される要素
5つの原則のほかにも、裁判所は以下のような要素を見て判断します。
- これまでの監護実績
- 子どもに対する愛情
- 心身の健康状態
- 子どもと一緒に過ごせる時間
- 居住・教育環境
- 監護補助者の有無
- 経済状況
A.これまでの監護実績
これまで、どちらがどのくらい監護に携わっていたかは重要です。
例えば、どちらが食事を作って食べさせていたか、一緒に入浴していたか、保育園・幼稚園の送り迎えをしていたかなど、様々な実績が確認されます。
子どもと多く関わっているほど、今後も監護を任せられると判断されやすくなります。
B.子どもに対する愛情
子どもに対してどのくらい愛情を注いでいたかは重要ですが、愛情は目に見えるものではないため、実際には今までどのくらい子どもと一緒に過ごしていたかで判断されることも多いようです。
もちろん、ネグレクトや虐待があれば、マイナスの要素になります。
C.心身の健康状態
身体的・精神的に、子どもの監護ができる健康状態であるかが見られます。
D.子どもと一緒に過ごせる時間
子どもの年齢が低い場合は特に、子どもと過ごす時間を多くとれるかが重視されます。
E.居住・教育環境
子どもを住まわせる予定である住居や、その周りの環境、近くの学校などが、子どもの養育に適切かどうかも考慮されます。
F.監護補助者の有無
子どもの世話を手伝ってくれる人がいるかどうかも見られます。実家の両親(子どもから見ると祖父母)や友人が手伝ってくれたり、保育園に入園できる見込みがあるならば有利に働くでしょう。
G.経済状況
安定して子どもを養える経済状況にあるかという点は考慮されます。
とはいえ、相手からの養育費や公的扶助の受給も期待できることから、それ以外の判断要素に比べると、経済状況のウェイトは少ないといえます。
不倫などの離婚理由は親権争いにあまり関係ない
「離婚の原因がどちらにあるか」と「親権者をどちらにするか」は別問題です。親権は、あくまで子どもの利益の観点から決めるべきものだからです。
したがって、妻の不倫が原因で離婚に至った場合でも、妻が親権者となることは十分にあり得ます。
ただし、不倫のせいで子どもの世話がおろそかになっていたなどの場合であれば、親権の判断にネガティブな影響を与えるでしょう。
離婚時に親権を得るためにすべきこと
親権を得るためにすべき3つのこと
調停や裁判で親権を得るためには、以下のような行動が有効です。
- 相手との面会交流を積極的に認める
- 自分が親権者としてふさわしいという証拠を用意する
- 相手が親権者としてふさわしくないという証拠を用意する
1.相手との面会交流を積極的に認める
父母との面会交流は、子どもが健やかに育つために非常に重要です。面会交流を積極的に認める姿勢によって、自分が子どもの利益を最優先にしていると示すことができ、調停や裁判において有利に働きます。
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2.自分が親権者としてふさわしいという証拠を用意する
裁判所は、今まで子どもの世話をしてきた人に引き続き監護をさせることを重視しています。ですので、自分が今まで子どもの監護をしており、今後もそれができる見込みがあるということを、調査官・調停委員・裁判官にアピールしましょう。
これまで子どもの監護をしてきたことの証拠としては、子どもの監護に関する陳述書に加え、母子手帳、幼稚園や保育園の連絡帳、通知表などが有効です。
また、今後も監護ができると認めてもらうためには、スケジュール的な余裕があることや養育環境が十分に豊かであることもアピールすべきです。
例えば、自分が仕事で家にいない間も、実家の父母(子どもから見ると祖父母)が子どもの世話を手伝ってくれるなどの見通しが証明できれば、有利に働く可能性が高いです。家庭裁判所の調査官が祖父母へのインタビューを行うこともありますので、準備をしておきましょう。
また、子どもと過ごす時間を増やすために、仕事を調整して早く帰ったり、在宅勤務に切り替えることができないか職場と相談し、できるのであればアピールしていきましょう。
さらに、子どもを住まわせる家が、子どもと暮らすには狭い物件であったり、周りに公園や学校がなく子育てに向かない立地である場合でも、引っ越しを検討していることをアピールするのが良いでしょう。
3.相手が親権者としてふさわしくないという証拠を用意する
相手が子どもを虐待している、不倫相手の家に入り浸って家事・育児をおろそかにしている、病気で子どもの世話ができない状態であるといった事情を証明できれば、相手が親権者としてふさわしくないと判断してもらえる可能性が高まります。
証拠としては、以下のようなものが有効です。
- 子どもが虐待によって負った怪我の写真や診断書
- 虐待の様子を映した写真や動画、音声
- 虐待を公的機関へ相談した際の記録
- 家事を怠ったために荒れてしまった部屋の写真
- 配偶者の病気の診断書
配偶者に対する対抗心など、子どもの利益とは無関係な動機から親権を主張するケースも少なくありません。
そのようなケースでは、当初から弁護士をつけて、相手に子どもの監護が本当に可能かどうか冷静に問い正していくことが重要です。
親権を得るためにすべきでない4つのこと
以下のような行為は、子どもの利益に反する行為であり、調停・裁判でも不利に働くため避けるべきです。
- 子どもの連れ去り
- 子どもを置いて家出する
- 子どもに相手の悪口を吹き込む
- 面会交流を拒む
1.子どもの連れ去り
相手が監護している子どもを黙って連れ去ったり、面会交流のあとに子どもを返さずに連れ去ることは、子どもの利益を害するだけでなく、未成年者誘拐という犯罪行為になってしまう可能性があります。そういった行為があると、親としての適格がないと判断されかねません。
相手のもとにいる子どもを取り返したいと思ったら、自力で実現するのではなく、法的な手段を用いて正当に取り返すことを目指しましょう。
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2.子どもを置いて家出する
もうこれ以上相手と暮らしたくないと思っても、子どもを置いて家出・別居をするのは得策ではありません。相当な理由がない限り、子どもを置いての家出は、育児放棄とみなされて親権争いで不利に働く可能性があるからです。
3.子どもに相手の悪口を吹き込む
ある程度の年齢になると、調停や裁判で子どもの意見も重視されるようになります。しかし、そこで自分に有利な発言をさせるために、子どもに相手の悪口を吹き込むのは良くありません。
自分にとっては憎い相手でも、子どもにとっては大好きな親でしょうから、悪口を聞かせれば子どもの心に傷を作ってしまいます。それだけでなく、裁判所の調査官や調停委員、裁判官の心証も非常に悪くなってしまいます。
4.面会交流を拒む
離婚前の別居中でも面会交流は可能ですし、積極的に認めるべきです。
モラハラや暴力など、子どもに危害が及ぶような事情がないのにも関わらず面会交流を拒み続けている場合、子どもの利益よりも自分の心情を優先する行為として、調停や裁判において不利に働く可能性があります。
養育費の不払いをちらつかせて親権を要求するのは許される?
親権争いの場面で、相手が「親権をこちらに渡さないなら養育費は払わない」などと言ってくることがあるかもしれませんが、その主張に応じる必要はありません。
養育費は父母それぞれが負担する義務を負っており、子どもは受け取る権利を持っていますので、親権の代償として消滅するような性質のものではありません。したがって、調停や裁判ではそういった主張は認められないのです。
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親権者の決め方
離婚時に親権者を決める手続きは、大きく分けて「協議」「離婚調停」「離婚裁判」の3つです。また、離婚後に親権者の変更を希望する際は、別の手続きが必要です。
親権者の決め方①父母の協議によって決める
親権者だけでなく離婚に伴うあらゆる取り決めは、夫婦で話し合って決めるのが基本です。
当事者間の話し合いで離婚を決めることを、協議離婚といいます。
協議離婚の場合は、親権者を決めるための特別な手続きや書類は必要なく、離婚届の提出だけで手続きが完了します。
離婚届の「未成年の子の氏名」の欄に、親権を持つことになる子どもの名前を記入します。
子どもが複数人いる場合、夫と妻がそれぞれ別の子どもの親権を持つことも制度上は可能です。しかし、きょうだいと離れ離れになってしまう子どもたちの心情には配慮が必要でしょう。
親権者の決め方②離婚調停で決める
当事者間の話し合いで決着がつかなかった場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。
離婚調停とは、調停委員会が夫婦それぞれと面談を行い、双方の意見を調整する手続きです。調停員会は家庭裁判所の裁判官及び2名以上の調停委員によって構成されます。
離婚調停では親権だけでなく、慰謝料や財産分与、養育費や面会交流など、様々な条件について話し合うことができます。双方が離婚の条件に合意すれば調停は成立となり、その時点で離婚が成立して親権は一方に移ります。
調停での解決が困難だろうと調停委員会が判断した時は、調停は不成立となって終了します。
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親権者の決め方③調停に代わる審判が行われることもある
離婚調停が不成立になりそうな場合、家庭裁判所が調停委員の意見を聴いた上で、職権で調停に代わる審判を行うことがあります。
調停に代わる審判によって、審判離婚が命じられる場合、親権者も併せて決められます。
もっとも、調停に代わる審判は、当事者が審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てると、審判の効力が失われます。
そのため、親権の帰属について争いがある事案で調停に代わる審判が行われることは通常ありません。このような場合、離婚訴訟の中で解決を図ることが一般的です。
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親権者の決め方④離婚裁判(訴訟)で決める
調停が成立しなかった場合は、もう一度協議をすることもできますし、離婚裁判(離婚訴訟)を起こして争うこともできます。
訴訟では、裁判官が夫婦から話を聞いたり証拠を調べたりする中で、「2人の離婚を認めるのか」「どちらを親権者にするのか」などを判断します。
なお、すべての訴訟が判決という形で終わるわけではありません。訴訟中に裁判官から和解を勧められることがよくあります。双方が同意をすれば、和解が成立して訴訟が終了します。
和解ができなかった場合は、裁判官によって判決が下されて、訴訟は終了となります。判決は強い効力を持ち、2週間以内に控訴・上告をしなければ結果が確定し、覆せなくなります。
また、和解も、判決が確定したときと同じ効果を持ちます。
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家庭裁判所調査官の調査が行われる
調停や裁判で親権を争うことになると、多くの場合、家庭裁判所調査官が子どもたちの様子や家庭環境などの調査を行います。
調査官は、心理学や社会学のプロであり、調停や裁判ではこの調査の結果が非常に重視されています。
調査の主な手段としては、子どもや親との面談、家庭訪問、学校や保育園・幼稚園の訪問などがあります。調査官は、これらを通して子どもの身なりや健康状態、監護状況、成績や生活態度、表情などをチェックし、調査報告書を作成します。
子どもが現在の監護者のもとで健全に育っていると証明されれば、現在子どもを監護している親にとって有利に働きます。
離婚後に親権者・監護権者を変更する方法
離婚時に決めた親権者をあとから変えるには、親権者変更調停・審判を申し立てる必要があります。離婚後は父母の合意だけで親権を変更することはできません。
親権者変更調停の手続きは離婚調停とほとんど変わりありませんが、異なる点が2つあります。
1つ目は、調停を経ずに審判を申し立てることができる点です。
離婚事件は、審判を申し立てることができず、離婚調停を行った上で調停委員会が必要と判断した場合にのみ審判が行われます。しかし、離婚後の親権者変更については、調停を行っていなくても直接審判を申し立てることができます。
2つ目は、親権者変更調停が不成立になった際に、自動的に審判に移行する点です。
調停は夫婦の合意がなければ成立しませんが、審判では裁判所の判断で親権者が決まるため、ほぼ確実に結論が出るのが特徴です。
親権者は、子どもの利益に直結するため簡単に変更はできず、やむを得ない事情がない限りは認められづらいようです。
一方、監護権者は、父母の合意があれば変更することができます。当事者間の話し合いで合意ができなかった場合は、子の監護者の指定調停・審判を申し立てて争うことになります。
離婚後に共同親権に切り替えることは可能?
共同親権の導入後は、裁判所に親権者変更を申し立てれば離婚後でも共同親権に切り替えることができます。
導入の時点で既に離婚していた場合も、裁判所に申し立てをして単独親権から共同親権に切り替えることができるようになります。
離婚後の親権に関するよくある質問
Q1.離婚時に親権を放棄できますか?
「親権はいらないからとにかく離婚したい」「世話ができないから子どもを引き取りたくない」と考える方もいらっしゃいますが、離婚時に親権を放棄できるかはケースによります。
相手方が親権者になることに同意しているのであれば、相手方を親権者としてスムーズに離婚することができるでしょう。
しかし、離婚時に父母の双方が親権を放棄することはできません。
相手方も親権を欲しておらず、親権の押し付け合いとなってしまった場合は、離婚調停や離婚裁判でどちらを親権者にするかを争うことになります。
なお、離婚後に親権を行使できないやむを得ない事情(重い病気や服役など)が生じた場合は、家庭裁判所に親権辞任の申し立てができます。裁判所に親権辞任が認められた場合は、親権はもう一方の親に移ることになります。
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Q2.専業主婦でも親権を取れますか?
専業主婦(主夫)の方やパート・アルバイトの方の中には、収入が少ないことが親権争いに悪い影響を与えないか心配される方も多いです。
しかし、収入が少ないことで、直接的に親権争いで不利になる可能性は低いといえます。
離婚後に子どもを養えるだけの収入が期待できなくとも、養育費やその他の公的扶助を受けられるためです。
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Q3.子どもの戸籍や名字は親権者と同じになりますか?
多くの場合、離婚によって妻(母親)が元の名字に戻ります。しかし、母親を親権者とした場合でも、子どもの名字は自動的には変わりません。
子どもの名字を変更する場合には、離婚成立後に家庭裁判所に子の氏の変更許可申立を行う必要があります。子どもが15歳未満の場合は親権者が、15歳以上の場合は子ども本人が申立人となります。
また、戸籍についても、離婚後に何の手続きもしなければ子どもは元の戸籍に残ります。
子どもを母親の戸籍に移したい場合は、まず子の氏の変更許可申立を行って母親の名字に変更したあと、役所に入籍届を提出して子どもを母親の戸籍に入れるという2段階の手続きを踏む必要があります。
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弁護士に相談して離婚時の親権争いを有利に進めよう
離婚時には、必ず未成年の子どもの親権者を決めなければいけません。
原則としては父母の協議で親権者を決めますが、話し合いがつかない場合は家庭裁判所に離婚調停を申し立てて仲裁してもらうことができます。
親権争いは、離婚の交渉がこじれてしまう原因のひとつです。
親権のことで配偶者とぶつかってしまったら、早めに弁護士に相談してサポートを受けることをおすすめします。
弁護士に依頼するとできること
- 法律の専門家として、有利な主張・立証を行うことができる
- 調停・審判・裁判の各手続きを熟知しているので、適切なアドバイスやサポートを受けることができる
- 感情的になりやすい紛争において、冷静に判断・行動することができる
- 煩雑な手続きを任せることで、自分の負担を軽減できる
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
子どもと一緒に暮らす、という点では「監護権」が重要になってきます。