「親権はいらないから離婚したい」は通用する?親権の放棄はできる?

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「親権はいらないから相手と離婚したい」
「子どもと一緒に暮らすのが難しく、相手に親権を譲って離婚したい」

親権問題では、「自分が子どもと暮らしたい」と、子どもを奪い合うケースが多いです。

しかし、場合によっては子どもをどちらも引きとろうとせず、親権の押し付け合いになることもあります。親権を相手に譲って離婚したいと考える方もいるでしょう。

親権を相手に譲っての離婚は、認められるケースもあります。ただし、子どもの心のケアが重要になってきます。

今回は、「親権はいらないから相手と離婚したい」と考えるケースや、実際に離婚ができるか、親権の放棄について解説します。

「親権はいらないから離婚したい」は認められる?

親権とは、父母が未成年の子どもに対して持っている権利・義務の総称です。

権利という面だけでなく、義務という面もあることを覚えておきましょう。親権は、監護権と財産管理権の2つの要素があります。

離婚届には、どちらが親権を持つかを記入する必要があるため、親権者を決めずに離婚することはできません。

親権者を決める原則と判断基準

親権者を決める原則として、以下の5つの原則があります。

親権の判断に用いられる5つの原則

  • 継続性の原則
  • 母性優先の原則
  • 子の意思の尊重
  • きょうだい不分離の原則
  • 面会交流に対する寛容性の原則

また、5つの原則のほかにも、裁判所は以下のような要素を見て判断します。

親権争いで重視される要素

  • これまでの監護実績
  • 子どもに対する愛情
  • 心身の健康状態
  • 子どもと一緒に過ごせる時間
  • 居住・教育環境
  • 監護補助者の有無
  • 経済状況

なお、「離婚の原因がどちらにあるか」と「親権者をどちらにするか」は別問題です。親権は、あくまで子どもの利益の観点から決めるべきものだからです。

よりくわしく親権について知りたいという方は、『離婚したら親権はどうなる?親権を得るための5つのポイントを解説』をご覧ください。

離婚のとき子どもを引き取りたくない事情

一般的な離婚における親権問題では、夫婦双方が子どもの親権の獲得を巡って争うことが多いです。

一方、子どもを押し付けあう形で親権問題が発生することもあるようです。離婚のときに子どもを引き取りたくない事情については、以下のようなものが考えられます。

離婚のときに子どもを引き取りたくない事情

  • 離婚後、経済的に不安があり子どもを育てるのに自信がない
  • 病気のため子どもを育てる余裕がない
  • 仕事が忙しい・出世の邪魔になる
  • 嫌いな配偶者の血を引いているというだけでも嫌になる
  • 再婚の邪魔になる
  • どうしても子どものことが好きになれない など

相手が親権を欲している場合は認められやすい

相手が親権を求めているときは、こちら側が「親権はいらないから離婚したい」と申し出れば、すぐに離婚できる可能性が高いです。

夫を親権者として記入した離婚届を役所に提出することで、自分が親権を持たない状態で離婚することができます。

お互いに親権を拒否している場合は時間がかかる

相手も親権を拒否しており、夫婦のどちらもが子どもを引き取るのを拒んでいるという場合は、親権者を決めずに離婚することはできないため、離婚をするのに時間がかかるでしょう。

どうしても話し合いでどちらが親権者になるか決まらない場合は、調停を経て離婚裁判で親権者を決める必要があります。

もし、調停でも話がまとまらず、親権者が決定しなかった場合は、離婚裁判によって家庭裁判所が親権者を決めることになります。

どちらも親権を拒否している場合でも、夫婦どちらも親権を求めているときの判断基準と同じように、子どもにとってどちらが親権者になるのがふさわしいか、「これまでの監護実績はどうか」「子どもに対する愛情はどうか」といった事情から親権者が決定されます。

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親権は辞任や変更の手続きが可能

勝手な親権の放棄は原則できない

原則として、親権の放棄(親権者が親権を手放すこと)は認められていません。

親権は、単に子どもを管理する権利ではなく、子どもの健全な発達を促すための義務でもありますので、子どもの利益を最優先に考える必要があります。

とくに、子どもが15歳以上のときは、子どもの監護者・親権者の指定について裁判をする場合、裁判所はその子どもの意見や考えを聴かなければならないことになっています(人事訴訟法32条4項)。

親権者の辞任

原則として親権を勝手に放棄することはできません。ただし、やむを得ない事由があるときには、家庭裁判所に親権辞任の許可審判を申し立てて許可を得て、役所に親権辞任届などを提出すれば、親権者を辞任することができます(民法837条1項)。

親権者の辞任が認められるような事由

親権者の辞任が認められるやむを得ない事由として、以下のようなものが挙げられます。

親権者の辞任が認められ得る事由

  • 親権者が重度の病気や障害が残るような大けがをした
  • 親権者に経済的に余裕がない
  • 親権者が罪を犯して服役する
  • 長期での海外への移住
  • 子連れでの再婚が難しい など

親権辞任は子どもにとって精神的なケアが必要になるため、家庭裁判所は子どもの意見も聞きつつ辞任を判断することになります。

辞任した場合は、親権はもう一方の親に移る

家庭裁判所の判断で親権辞任が認められれば、親権はもう一方の親に移ることになります。

しかし、場合によっては、もう一方の親も親権辞任したり、DVやモラハラの危険性があって子どもに悪影響を与えるおそれがあったりと、親権を移すのにふさわしくないこともあります。

そういった場合は、親権者の代わりとして、家庭裁判所が未成年後見人を選任します。

未成年後見人には、子どもの祖父母(親権者の父母)などの親族が選ばれることが多いです。場合によっては、弁護士などの第三者が選ばれることもあります。

親権を回復することもできる

一度親権を辞任した後でも、やむを得ない事由が解消されていれば、親権を回復することができます。

親権を回復する場合には、家庭裁判所に申し立てをおこない、許可をもらったあと親権回復届を役所に提出することになります。

親権者の変更

離婚時に決めた親権者をあとから変えるには、親権者変更調停・審判を申し立てる必要があります。父母の合意だけであとから親権を変更することはできません(民法819条6項)。

親権者変更調停の手続きには、「調停を経ずにいきなり審判を申し立てることができる」「調停が不成立になった際に、自動的に審判に移行する」という特徴があります。

親権者の変更が認められるような事由

親権者の変更が認められるようなやむを得ない事由として、以下のようなものが挙げられます。

親権者の変更が認められ得る事由

  • 親権者が育児を放棄している
  • 親権者が子どもを虐待している
  • 親権者が死亡した、または死亡するおそれがある
  • 親権者がうつ病などで育児できる状態にない など

現在の親権者だけでなく、親権の変更先である人についてもくわしく検討されます。

子どもの事情も考慮される

親権が変更されることになれば、子どもの環境は大きく変わることになります。

子どもが小さいうちは、子どもに母性的なかかわりをしていたほうに親権が認められやすいこともあり、母親から父親側に親権を変更するのはかなり難しいです。

ただし、「子ども本人が母親から逃げたいと思っている」といった状況があり、親権を変更することが将来的な子どもの福祉にいい影響を与えるのであれば、親権の変更が認められる可能性もゼロではありません。

監護権者は父母の合意があれば変更できる

離婚するときに決めた親権者をあとから変えるときは、父母の合意があっても調停や審判を申し立てる必要があります。

しかし、監護権者を変更したいという場合は、父母の合意があれば調停や裁判をすることなく変更することができます。

親権に関するほかの手続き

第三者が親権者の親権を喪失させることも

親権者以外の第三者が家庭裁判所に申し立て、それが認められれば、親権者の親権を喪失させることができます(民法834条)。

たとえば、配偶者から押し付けられる形で親権を得た、という方もいるでしょう。

そういった形で親権を得た方で、子どもの世話を適切にする方ももちろんいらっしゃると思います。ただし、育児放棄をしたり、自分の父母(子どもにとっては祖父母)に子どもを預けて帰ってこなかったりといった事態に発展することもあるでしょう。

「親権者が子どもに対してネグレクトや虐待をしている」という事情を知った元配偶者や児童相談所の所長などの第三者が申し立てることで、親権者の親権を喪失させられる可能性があります。

ただし、児童虐待などの事情がなければ、親権の喪失は親権者の変更よりも認められにくいです。

仮に喪失が認められれば、親権者の親権はなくなり、子どもの親権者はいなくなります。そのときは、子どもの親族などが未成年後見人となることもあります。

親権の停止という制度もある

親権者の親権喪失が難しいときは、親権を停止させることもできます(民法834条の2)。

親権が停止されれば、最長2年間は、子どもと一緒に住んだり、身の回りの世話などをしたりすることができなくなります。

ただし、親権が停止されても、法的な親子関係や血縁関係が消滅してしまうというわけではありません。また、離婚して単独親権者となった親の親権を停止したとしても、その親と婚姻関係にあった元配偶者(子どもにとってはもう1人の親)に親権が移るということもありません。

あくまで子どもを劣悪な環境から解放するための手続きであることを押さえておきましょう。

親権を相手に譲って離婚するときの注意点

離婚に踏み切る前にカウンセリングや第三者を頼ってみる

離婚に踏み切る前に、カウンセリングや外部の相談窓口を利用してみたり、友人や親類など第三者に相談してみたりすることをおすすめします。

たとえば、育児ノイローゼになっており、その結果「離婚したい」と考えているという場合は、無意識のうちにリスクの高い判断をとっているおそれがあります。

勢いで親権を相手に渡して離婚してしまう前に、落ち着いて誰かに相談したり、カウンセリングを受けたりするのも一つの手といえるでしょう。

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子どもが心に傷を負うおそれも

親権を相手に譲る形で離婚に踏み切った場合、子どもが「自分は捨てられた」と心に傷を負ってしまうおそれがあります。

自分の親が「親権を放棄する」と言っているわけですから、心に大きな悲しみを負うおそれも否定できません。親として面会してもらえるかどうかもわからなくなります。

離婚に踏み切る前に、子どもへの精神的な影響を今一度よく考えてみることが大切です。

養育費を払う必要がある

もし親権を相手に譲る形で離婚した場合は、養育費を支払う必要があります。

通常は、子どもを引き取らなかったほうの親から引き取ったほうの親(親権者)に対して支払う形で分担をします。そのため、自分が養育費を支払うことになるということを覚えておきましょう。

専業主婦の場合でも、収入が少しでもあれば養育費を支払うことになります。統計上のパート収入程度を収入とみなして負担させることもあるため、専業主婦であっても養育費を支払う可能性があるということに注意が必要です。

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親権は取り戻せるがハードルが高い

先ほども言ったように、親権者変更調停や裁判を申し立てることで、相手に親権を譲って離婚したとしても、結果として親権を変更することは制度上可能です。

ただし、変更が認められるには、「子どもが親権者から虐待を受けている」といった相当な事由が必要になります。

一度相手に親権を譲ってしまうと、親権を取り戻すのはかなりハードルが高くなってしまうことを理解したうえで、離婚に臨むことをおすすめします。

子どもがきょうだいのときは?

「子どもが2人いて、長男のほうは引き取りたいけれども、次男の親権は配偶者に譲りたい」と考えている方もいるかもしれません。子どもが複数人いる場合、夫と妻がそれぞれ別の子どもの親権を持つことも制度上は可能です。

しかし、きょうだいと離れ離れになってしまう子どもたちの心情には配慮が必要でしょう。また、親権を考えるときには「きょうだい不分離の原則」というものがあり、むやみにきょうだいを分離させるべきではないとされています。

子どもの精神的な負担を考えても、きょうだいが離れ離れになってしまうのはあまりおすすめできません。

妊娠中の離婚では親権は基本母親

なかには、「妊娠中だけど離婚して、親権も夫に譲りたい」と考えている方もいるかもしれません。妊娠中に離婚した場合、原則として産まれてくる子どもの親権は母親となります。

離婚後300日以内に産まれた場合は、協議や調停で双方が合意すれば父親を親権者とすることも制度上は可能です。とはいっても、新生児にとって母親は重要な存在であるため、一般的には、親権者は母親がふさわしいという判断になるでしょう。

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親権問題で困ったら弁護士に相談!

相手に親権を譲っての離婚は、相手が親権を求めているときであればスムーズに進む可能性があります。ただし、相手も親権を拒否している場合は時間がかかりますし、子どもにも精神的に悪影響を与えかねません。

親権問題で困っているという場合は、弁護士に相談してみることをおすすめします。

弁護士に相談すれば、法的な観点から親権問題についてアドバイスをもらえます。また、感情的になりやすいもめごとの交渉を代理してもらえるほか、煩雑な手続きも任せることができます。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了