離婚調停で慰謝料を請求する方法は?もらえるケース・流れ・コツを解説
離婚を考えたとき、多くの人が気になるのが慰謝料の問題です。特に、不倫やDV(家庭内暴力)、モラハラなどのつらい経験がある場合、「相手に責任をとってほしい」という気持ちは自然なことです。
離婚慰謝料は、離婚調停でも請求することができます。当事者同士の話し合いで慰謝料について合意するのが難しければ、離婚調停を申し立てるのは有力な手段です。
この記事では、離婚調停で慰謝料が請求できる条件や流れ、成功のためのポイントについて解説します。
目次
離婚調停で慰謝料は請求できる?
離婚にあたって慰謝料を請求する方法は、大きく分けて協議、離婚調停、離婚裁判の3つです。
離婚調停でも慰謝料の請求ができる
離婚調停で離婚慰謝料を請求することは可能です。離婚調停は、家庭裁判所でお互いが話し合って離婚することや離婚条件を決める場なので、その中で慰謝料に関する話し合いもおこなえます。
離婚調停で話し合えること
- 離婚の可否
- 慰謝料
- 親権
- 面会交流
- 養育費
- 財産分与
- 年金分割
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離婚調停と協議、裁判の違いは?

離婚手続きの種類
夫婦が離婚したいと考えたら、まずは当事者間で話し合い(協議)を行うのが一般的です。協議での合意が難しければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
離婚調停では、男女1名ずつの調停委員が介入し、夫婦の意見を調整して離婚の可否や離婚条件についての合意を目指します。離婚調停の中で、慰謝料を支払うことをはじめとした離婚条件に双方が合意すれば、調停は成立となります。
離婚調停をおこなっても合意が難しいと判断された場合は、調停は不成立となります。その後は再度夫婦で話し合うか、離婚裁判を申し立てて、裁判官に離婚条件を決めてもらうことになります。
離婚調停と離婚裁判の違い
以下の表に、離婚調停と離婚裁判の違いをまとめました。
離婚調停 | 離婚裁判 | |
---|---|---|
目的 | 当事者間の合意形成 | 裁判官による判断 |
柔軟性 | 柔軟な解決ができる | 画一的な判決 |
期間 | 半年~1年程度が多い | 1~2年程度が多い |
当事者の合意 | 必要 | 不要 |
離婚調停は双方の合意がなければ成立しません。そのため、相手方と意見が食い違っていて合意の見込みがない場合には、裁判を起こして裁判官の判断を求める方がよいでしょう。ただし、日本では調停前置主義が取られているため、原則として調停を経てからでないと裁判を起こせない点には注意が必要です。
離婚裁判で慰謝料を請求できる?
離婚裁判の中で慰謝料を請求することは可能ですが、裁判で慰謝料請求を認めさせるのは、協議や調停よりも難しいといえます。
離婚調停では、夫婦の合意があれば慰謝料の金額や支払い方法を柔軟に決めることができます。一方で、裁判の中で慰謝料請求が認められるためには、相手方の有責行為(不貞行為、暴力、悪意の遺棄など)が存在し、その行為と婚姻関係の破綻との間に因果関係があること、さらに精神的損害の発生とその額について主張・立証する必要があります。
裁判所は、証拠や判例に基づき厳格に判断するため、調停よりも慰謝料が認められるハードルは高くなります。
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離婚調停で慰謝料請求できるケースは?
離婚調停で慰謝料を請求できるケース
離婚慰謝料の請求は、配偶者の特定の有責行為によって婚姻関係が破綻し、精神的苦痛を被った場合に認められます。
離婚調停では、当事者双方の合意さえあれば自由に慰謝料を決定することができますが、合意が成立しない場合や根拠のない慰謝料請求については、調停委員や裁判所がその妥当性を検討し、認めないことがあります。
一般的に慰謝料請求が認められることのあるケースは、以下の通りです。
離婚慰謝料を請求できるケースの例
- 不貞行為:配偶者以外の者との肉体関係
- DV:身体的暴力、経済的DV
- モラハラ:精神的虐待、言葉による暴力など
- 悪意の遺棄:正当な理由なく夫婦の同居・協力・扶助義務を履行しない行為(例:同居拒否、生活費の不払いなど)
- その他:重度のギャンブル依存症や薬物依存症、セックスレスなど家庭生活を破綻させる行為
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離婚調停で慰謝料を請求できないケース
以下は、慰謝料請求が認められないケースです。
有責行為の証拠や精神的損害の根拠がない場合、慰謝料請求は認められないか、あるいは低額となることが一般的です。
もっとも、このような場合でも相手方が慰謝料請求に同意すれば慰謝料を受け取ることは可能です。ただし、相手方が同意せず裁判に進んだ場合は、慰謝料が認められない可能性が高いでしょう。
離婚慰謝料を請求できないケースの例
- 有責行為がない場合
- 有責行為と婚姻関係の破綻との因果関係がない場合
- 婚姻関係が既に破綻していた場合
- 夫婦双方に離婚原因がある場合
- 証拠が不十分な場合
離婚慰謝料とは、相手の有責行為によって婚姻関係が破綻し、離婚せざるを得なくなったことの精神的苦痛に対して支払われるものです。
相手に有責行為がなかった場合は、慰謝料請求ができません。例えば、性格の不一致や健康上の理由、親族との不和が原因で離婚する場合は、慰謝料請求が認められない可能性が高いです。
たとえ相手が不貞行為をしたことがあったとしても、それが何十年も前のことであり現在の婚姻関係の破綻との因果関係が認められない場合は、慰謝料請求は否定されるでしょう。婚姻関係が破綻した後で行われた不倫についても、破綻の原因になったとはいえないため慰謝料請求は認められません。
また、夫婦双方が不倫をしていた場合など、離婚の直接的な原因がお互いにある場合も、慰謝料請求は認められません。
離婚裁判では、有責行為があったことを証拠によって立証する必要があります。調停では証拠がなくても相手の同意があれば慰謝料を受け取ることができますが、証拠があった方が有利に話し合いが進むでしょう。必要な証拠については後ほど詳しく解説します。
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離婚調停の流れ|慰謝料請求の手続きと準備
以下が離婚調停のおおまかな流れです。
離婚調停の流れ
- 家庭裁判所に申立書を提出
- 裁判所から呼出状が届く
- 第1回の調停期日が開かれる
- 調停を何度か繰り返す
- 調停終了
離婚調停の申し立ては、夫婦のどちらか一方が家庭裁判所に申立書などいくつかの必要書類を提出することでおこなえます。
申し立てが受理されると、夫婦の双方に第1回期日を知らせる呼出状が届きます。
調停期日には、夫婦が家庭裁判所に出向き、男女各1名の調停委員と交互に面談します。1回の期日につき、30分程度の面談が2往復ほどおこなわれます。その後は夫婦が合意に至るまで、月に1回程度のペースで調停期日を繰り返します。
離婚調停において夫婦が顔を合わせるのは、第1回期日の冒頭の説明および調停の成立時のみとなるのが一般的なため、相手方にモラハラやDVがあっても安全に話し合うことができます。また、第三者である調停委員の視点からアドバイスを得られる点も、離婚調停の大きなメリットです。
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離婚調停で慰謝料を請求するのに必要な証拠は?
離婚調停では、「なぜ慰謝料を請求する必要があるのか」を相手方と調停委員に分かってもらうことが重要です。そのためには、主張を裏付ける証拠があると役立ちます。
有力な証拠があるということは、裁判を起こせば勝てる状態であるということです。そのため、調停の段階で相手が納得してくれる可能性が高まるほか、調停委員が相手の説得に協力してくれる場合もあります。
不貞行為の証拠
法律上、不貞行為とは、配偶者以外の者と自由意志にもとづいて肉体関係を結ぶことをいいます。
そのため、単にデートや食事をしていた、腕を組んだりキスをしていたというだけでは慰謝料は認められづらく、肉体関係(性交渉)をもっていた証拠が必要です。
不貞行為の証拠
- 不貞行為の様子を撮影した写真や動画
- 肉体関係を匂わせるSNSの投稿やLINEのやりとり
- 相手の家やラブホテルに2人で出入りする様子の写真 など
離婚調停では、肉体関係を証明する決定的な証拠がなくても、相手が認めれば慰謝料の支払いを受けることができます。そのため、これらのような直接的な証拠以外にも、不倫相手から贈られたプレゼントやカーナビの履歴、ラブホテルの領収書などがあれば集めておくとよいでしょう。
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DV・モラハラの証拠
身体的DVやモラハラ(精神的DV)慰謝料を請求する場合は、相手の不法行為と自分が受けた損害を証明することが重要です。
身体的DVであれば、以下のようなものが有効な証拠になります。
身体的DVの証拠
- 暴力の様子の録音、録画
- 相手の行為を記録した日記、メモ
- 暴力で負った怪我の写真や診断書
- 市役所、警察、配偶者暴力相談支援センター等への相談記録 など
モラハラ(精神的DV)の立証は、不貞行為や身体的暴力に比べると簡単ではありません。明確な証拠を得にくい場合も多いため、日々の記録や第三者の証言などを集めておくと役立つでしょう。
モラハラの証拠
- 相手の言動の録音、録画
- 相手の行為を記録した日記、メモ
- 精神科・心療内科などの診断書
- 市役所、警察、配偶者暴力相談支援センター等への相談記録 など
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悪意の遺棄の証拠
悪意の遺棄とは、正当な理由なく配偶者に対する同居・協力・扶助義務を放棄することを指します。
具体的には、理由もなく他方の配偶者や子どもを放置して別居した場合や、収入があるのに生活費を渡さない場合、働くことができるにも関わらず働かない場合などが該当します。
悪意の遺棄の証拠
- 住民票の写し(配偶者が別居して住民票を移動させていた場合)
- 生活費の支払が止まったことが確認できる預金通帳
- メールやLINEのやり取り
- 配偶者の行動を記録した日記やメモ書き など
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離婚調停で慰謝料請求を有利に進めるには?
離婚調停では、あなたの主張を聞く相手は裁判官ではなく調停委員です。
彼らは、中立的な立場から当事者同士の話し合いの橋渡しをします。中立とはいえ、よい印象を与えることができれば、味方についてもらえる可能性も高まります。
事実を冷静かつ簡潔に話す
調停では感情的な発言は控え、事実とその影響(精神疾患の発症など)を筋道立てて説明しましょう。
自分の要求を通したいあまり相手の悪口に終始してしまうと、せっかくの調停期日が無駄になってしまいますし、調停委員にも良い印象を与えません。
証拠を整理して提示する
自身の主張と、それを裏付ける証拠を整理しておきます。調停室にはメモを持ち込むことができますので、必要であればメモを参照しながら話すのもよいでしょう。
メモには、結婚した経緯、離婚を決意するに至った経緯、求める離婚条件などを書いておくと、調停委員に主張を伝えやすくなります。
調停委員の意見もしっかり聞く姿勢を見せる
調停委員は、相手方の意見を聞いたうえでこちらに質問や提案をしてくるでしょう。調停委員の話にも耳を傾けることで、話し合いがスムーズになります。
現実的な金額の慰謝料を提示する
相手方に請求する慰謝料の金額は、現実的な額にしましょう。
非現実的な額の慰謝料を要求することは、相手の態度を硬化させ交渉の妨げになります。頑なに要求を曲げない場合は、調停委員の印象も悪くなっていくでしょう。
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まとめ|離婚調停を弁護士に依頼するメリットは?
離婚調停は、協議では解決できない離婚条件を第三者である調停委員を交えて話し合う制度で、調停の中で慰謝料請求をすることも可能です。
配偶者の不貞行為、DV、モラハラ、悪意の遺棄などが認められれば慰謝料を受け取ることができ、裁判に比べて柔軟な解決が期待できます。成功のポイントは、相手の有責行為を証明する証拠を用意することと、調停委員を味方につけることです。
弁護士への依頼により、面倒な書類作成から調停での発言内容まで、総合的なサポートを受けることができます。法的な専門知識に基づいて離婚条件の妥当性を判断してもらえるほか、相手方との直接交渉を避けられるため、冷静に手続きを進められます。特に、DVやモラハラが原因の離婚では、安全面からも弁護士の介入が重要です。
離婚調停における慰謝料請求でお悩みの方は、一人で抱え込まず、お近くの弁護士に相談して専門的なサポートを受けることをおすすめします。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了