DVを理由に離婚できる?|慰謝料の相場も解説

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DVで離婚

配偶者の暴力、暴言で毎日が辛いとお悩みの方へ。

DVは離婚原因になります。

さらに、慰謝料も請求できます。慰謝料以外にも、養育費財産分与等のお金を請求できます。

この記事を読んで、「自分はDV被害者かもしれない」と少しでも感じた方は、ぜひ勇気を出して専門家に相談してみてください。

まず身の安全を確保した後、離婚手続きを一歩ずつ進めていきましょう。

DVを理由に離婚できる?

そもそもDVとは?

DVとは、ドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)の略です。

DVは、主に①身体的暴力、②精神的暴力(いわゆる「モラハラ」)、③性的暴力に分けられます。以下はDVに該当する行為の例です。

①身体的暴力

  • げんこつで殴る
  • 平手で打つ
  • 足で蹴る
  • 髪の毛をひっぱる
  • 物をなげつける

②精神的暴力(モラハラ)

  • 「誰のおかげで生活できるんだ」等と言う
  • 大声でどなる
  • 生活費を渡さない(※経済的暴力に分類されることもあります)
  • 無視する
  • 殴るそぶりや、物をなげつけるふりをして脅す

③性的暴力

  • 性行為の強要する
  • 避妊に協力しない

上記で挙げたものは、あくまで一例です。

配偶者の行為がDVかもしれないと少しでも感じる方は、「内閣府男女共同参画局 ドメスティック・バイオレンス(DV)とは」の具体例もぜひ参考にしてください。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

DV問題の解決は、ご自分がDVの被害者だと気付くことから始まります。積極的に情報収集を行い、できる限り早く専門家に相談に行きましょう。

DVを理由に離婚する方法

配偶者のDVを理由に離婚するための方法は主に3つあります。

具体的には、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚です。

以下、それぞれの離婚手続きについて解説します。

①協議離婚

離婚原因の有無を問わず、夫婦が合意すれば協議離婚できます。

ただ、DVの場合、加害者である配偶者に「DVを理由に離婚したい」と切り出すのは難しい場合が多いでしょう。

仮に離婚を切り出しても、相手はDVを否定する可能性が高いです。

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岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

少しでも危害を加えられるおそれがある場合は、次に掲げる「調停離婚」や「裁判離婚」を利用しましょう。

②調停離婚

離婚調停は、調停委員2名と裁判官からなる調停委員会が間に入って、離婚に向けた話し合いを進める手続きです。

第三者の関与によって、相手が離婚に応じやすくなるメリットがあります。

ただ、DV事案の場合、離婚調停でもDVを否定するケースが少なくありません

相手がDVを認めたとしても、「離婚には応じるが解決金を支払え」「養育費は支払わない」と主張するケースもあります。

このような事案では、調停離婚の実現は難しくなります。

弁護士に相談して、調停での解決を目指すか、それが難しければ離婚裁判の提起を検討する必要があります。

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③裁判離婚

配偶者のDVは、法定離婚事由である「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に当たります。

DVの主張が認められるには、DVの存在を証明する証拠が非常に重要です。

殴る、蹴るといった身体的暴力の場合は、診断書怪我の写真といった客観的な証拠が残りやすいため、主張が認められやすいです。

しかし、精神的暴力(モラハラ)の場合、明確な証拠がない場合も少なくありせん。

この場合は、別居期間や相手の態度等を総合的に考慮して「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうか判断されます。

実務では、別居が3年程度続くと裁判離婚が認められやすくなる傾向があります。

また、相手が婚姻関係修復に向けた具体的な努力を一切していなければ、裁判離婚を認める方向の事情になります。

モラハラを理由に裁判離婚を求める場合、被害者本人の陳述以外に確たる証拠がないと離婚原因が認められにくいでしょう。

しかし、そこで離婚を諦める必要はありません。

別居を継続しつつ、離婚のタイミングを冷静にうかがうのも選択肢の一つです。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

裁判離婚が認められる見通しや、提訴の時期については、弁護士のアドバイスを受けるのが効果的です。

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DVを理由に離婚するための流れ

ここでは、DVを理由に離婚するための大まかな流れをご説明します。

【DVを理由に離婚するための流れ】

  1. 各種相談機関へ相談する
  2. 別居前に証拠を集める
  3. 別居する
  4. 保護命令を申し立てる
  5. 婚姻費用分担請求調停と離婚調停を申し立てる
  6. 離婚裁判を起こす

以下では、それぞれの段階で具体的に何をすべきか解説します。

①各種相談機関へDVの相談をする

DV被害を受けている場合、まずは「配偶者暴力相談支援センター」に相談に行きましょう。もちろん、モラハラの相談も可能です。

配偶者暴力相談支援センターでは、相談・カウンセリングだけでなく、緊急時の安全確保や一時保護、自立支援、シェルターについての情報提供等のサポートを受けられます。

また、身体的暴力を受けた場合は、必ず警察に相談に行ってください。加害者に刑事責任をとってほしい場合は、被害届の提出や告訴も検討します。

他にもDV被害者を支援するための相談機関はたくさんあります。

「内閣府男女共同参画局 相談機関一覧」をご覧になり、ぜひ一刻も早く専門家にご相談ください。

②別居前に証拠を集める

配偶者からDVを受けている場合、離婚手続きに先立って別居するケースが一般的です。

別居してしまうと、DVの証拠を集めるのは難しくなります。

できれば別居前に、DVに関する以下の証拠を集めておくようにしましょう。

ただし、くれぐれも無理のない範囲で、身の安全を最優先してください。

【別居前に集めておきたいDVの証拠】

  • DVに関する録音、録画
  • 怪我や壊れた家具等の写真
  • 日記、メモ
  • 診断書(モラハラの場合、PTSD、うつ病、パニック障害、適応障害等とされる可能性があるので、少しでも不調を感じたら精神科や心療内科を受診しましょう)
  • 市役所、警察、配偶者暴力相談支援センター等への相談記録(※相談記録については個人情報の開示請求をして取得します)
  • 刑事事件関係の書類(告訴状の写し等)

上記のDVに関する証拠に加え、DV以外の離婚原因に関する証拠も集めておきましょう。

例えば、不貞行為(不倫、浮気のこと)に関する証拠として、メールやLINEのやりとりは重要です。

また、婚姻費用、養育費、財産分与に関する証拠も別居前に集めておきましょう。

それぞれどのような証拠が必要かについては、関連記事をご覧ください。

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③別居する

DVを理由に離婚する場合、身の安全を確保した上で離婚手続きを進める必要があります。

そのため、DV事案では離婚に先立って別居するのが一般的です。

別居先として、実家、賃貸住宅、シェルター等、どこに居住するのか事前に十分検討しておく必要があります。

「頼る先もお金もない」と不安でいっぱいの方も、どうか諦めずに配偶者暴力相談支援センターに居住先を相談してみてください。

別居後の生活費については、相手に対し婚姻費用の支払を請求しましょう。

婚姻費用とは、簡単に言うと家族が生活するためにかかる費用です。収入の多い配偶者が、収入の少ない配偶者に対し支払う義務があります。

「相手に直接請求するのが怖い」という方は、弁護士の無料相談を利用して婚姻費用について相談してみましょう。

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④保護命令を申し立てる

別居後は、必要に応じ保護命令を申し立てます。

保護命令とは、裁判所がDV被害者からの申立てにより、その生命または身体に危害が加えられることを防止するため、接近禁止や自宅からの退去を命令するものです。

保護命令に違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます(DV防止法29条)。

岡野タケシ弁護士
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弁護士

保護命令が発令された場合、保護命令事件の記録は離婚裁判や、慰謝料請求の場面で重要な証拠になります。

⑤婚姻費用分担請求調停と離婚調停を申し立てる

別居後、相手方に対し、できる限り早く婚姻費用を請求しましょう。婚姻費用の支払が受けられるのは、原則として請求時点からとされているからです。

相手が支払に応じない場合は、家庭裁判所に対し、婚姻費用分担請求調停を申し立てます。

離婚する意思が固まっている場合は、婚姻費用の調停とあわせて、離婚調停も申立てます。

相手がDVを強く否定して調停成立の見込みが低い場合は、調停での解決が困難なため、早々に離婚裁判を提起した方が良い場合もあります。

婚姻費用分担請求調停と離婚調停を同時に申し立てると、2つの調停は同じ期日に開かれることになります。

別居後の生活状況を調停委員会に説明し、「婚姻費用を一日も早く支払ってほしい」と当初から主張しておけば、婚姻費用分担請求調停が早期に成立する可能性が高まります。

婚姻費用分担請求調停が成立すれば、生活費の支払が受けられます。

相手が支払に応じなくても、調停調書に基づき強制執行できます。

⑥離婚裁判を起こす

離婚調停が不成立となれば、離婚裁判の提起を検討します。

裁判離婚が認められると、たとえ相手が離婚に同意していなくても、強制的に離婚できます。

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DVを理由に慰謝料請求できる?

DVを理由に慰謝料請求できる

配偶者からDVを受けた場合、離婚に際し、慰謝料を請求できます。

DVの場合、慰謝料相場は50〜500万円です。

慰謝料の額は、暴力の程度や精神的苦痛の程度等によって変わります。

DVを理由に慰謝料請求が認められた裁判例

ここでは、DVを理由とする慰謝料が認められた裁判例をご紹介します。

①身体的暴力等を理由に慰謝料が認められた事例(神戸地裁平成6年2月22日)

妻に対する侮蔑の言葉を度々言ったり、殴る蹴るの暴行を度々加え、左眼窩吹き抜け骨折等の傷害を負わせた夫に対し、慰謝料200万円を認めた。

②離婚自体の慰謝料だけでなく、後遺症障害慰謝料も認めれれた事例(大阪高判平成12年3月8日)

妻に暴力をふるってきた夫が、妻を一本背負いで投げ飛ばした上、何度も殴る蹴る等の暴力をふるい、右鎖骨骨折等の障害を負わせ、後遺症が残った事案で、離婚自体慰謝料350万円のほかに、入通院慰謝料100万円後遺症障害慰謝料500万円逸失利益400万円の損害賠償請求が認められた。

③精神的暴力を理由に慰謝料が認められた事例(東京家判平成26年5月27日)

執拗に要求、非難等を辛辣で苛烈な文言を使って電子メールで送信し続けた事案で、100万円の慰謝料が認められた。

精神的暴力(モラハラ)は、身体的暴力に比べ証拠が残りにくいため、慰謝料が認められにくい傾向があります。

しかし、上記のように、精神的暴力(モラハラ)を理由に慰謝料が認められた裁判例は存在します。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

DV被害者の方にとって、慰謝料をもらうのは当然の権利です。DVの種類にかかわらず、慰謝料についてぜひ一度弁護士に相談してみてください。

DVで離婚すると慰謝料以外にもらえるお金はある?

DVを理由に離婚する場合、慰謝料以外にも請求できるお金があります。

ここでは、婚姻費用、養育費、財産分与、年金分割についてご説明します。

婚姻費用

すでにご説明したとおり、別居後は、相手に対し婚姻費用を請求できます。

婚姻費用は夫婦それぞれの年収をもとに、「改定標準算定表」に従って決まります。

アトム法律事務所の「婚姻費用・養育費計算機」であなたがもらえる婚姻費用の目安がすぐにわかります。ぜひシミュレーションしてみてください。

婚姻費用の支払義務は、原則として請求時点から発生します。

そのため、別居した場合は、できる限り早期に婚姻費用を請求しましょう。メールや内容証明郵便等、日付が明確に残る方法で請求するようにすると良いです。

相手との交渉を避けたい場合は、弁護士に依頼して婚姻費用分担請求調停を起こしましょう。

相手が支払に応じず調停不成立となった場合、審判に移行します。

審判では、裁判所が改定標準算定表に従って婚姻費用の金額を決めます。審判が確定すれば、相手の給与等を差し押さえることができます。

養育費

離婚後、あなたがお子さんを養育する場合、相手に養育費を請求できます。

養育費は夫婦それぞれの年収をもとに、「改定標準算定表」に従って決まります。

アトム法律事務所の「婚姻費用・養育費計算機」であなたがもらえる養育費の目安がすぐにわかります。ぜひシミュレーションしてみてください。

DVが問題となっている離婚調停でよくあるのが、相手に経済力があるにもかかわらず、「養育費を0円にするのであれば離婚に応じる」と主張するケースです。

このような相手との話し合いは難航することが予想されますので、調停の当初から弁護士同伴で出席するのがおすすめです。

弁護士がついていれば、「子どもの利益のために適切な額の養育費をきちんと支払うべきである」としっかりと主張できます。

それでも相手が拒否する場合は、離婚裁判の中で解決を図ることになります。

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財産分与

財産分与は、離婚に際し、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた共有財産を分配する制度です。

実務上、分与割合は原則として2分の1とするルールが定着しています。このルールは専業主婦の方にも同様に適用されます。

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年金分割

年金分割は、離婚に際し、婚姻期間中に納付した厚生年金の保険料の納付記録を分割する制度です。

年金分割の際、裁判所に「年金分割のための情報通知書」を提出しなければなりません。この書類は年金事務所で取得します。

注意点

DV事案の場合、年金事務所に対し、配偶者からのDV被害を理由に住所を秘匿していることを伝えましょう。

そうすれば、住所がわかる記載がない書類を交付してもらえます。

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DVを理由に離婚したいとお悩みの方は弁護士へ

配偶者のDVが問題となるケースでは、離婚問題だけでなく、保護命令の申立ても視野に入れながら迅速に動く必要があります。

このような事案では、法律の専門家である弁護士の関与が不可欠です。お一人で悩まず、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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