熟年離婚で慰謝料はもらえる?結婚20年・25年後の慰謝料相場と請求のポイント

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50代以上で結婚生活が20年、25年…と長年にわたって続いてきた夫婦であっても、「もう限界」「このままでは私の人生がもったいない」と感じ、離婚に踏み切ろうとするケースが増えています。いわゆる熟年離婚です。

その際、多くの方が気にされるのが「熟年離婚で慰謝料ってもらえるの?」「熟年離婚の慰謝料の相場は?」「財産分与や年金分割と慰謝料は何が違うの?」といったお金の問題です。

この記事では、熟年離婚における慰謝料の基本や相場感、慰謝料請求時の注意点について、わかりやすく解説していきます。

そもそも離婚の慰謝料とは?

熟年離婚でも慰謝料は必ずもらえるとは限らない

まず大前提として、慰謝料は離婚すれば必ず発生するものではありません。

慰謝料は、精神的苦痛に対する損害賠償であり、相手に不法行為がある場合(=相手が有責配偶者にあたる場合)にのみ請求が認められます。

つまり、性格の不一致など双方に原因があって離婚する場合や、決定的な非がどちらにもない場合には、慰謝料は発生しません。

離婚慰謝料が認められるのはどんなケース?

次のような原因で離婚する場合は、離婚慰謝料が認められやすいです。

  • 不貞行為(肉体関係を伴う不倫・浮気)
  • DV(暴力、経済的DV)
  • モラハラ
  • 悪意の遺棄(生活費を渡さない、一方的な別居など)
  • 性の不一致(セックスレス、異常性癖など)

一方、「性格の不一致」や「長年のすれ違い」といった理由での離婚では、慰謝料が認められにくいといえます。もっとも、認められないのは裁判を起こした場合のことで、当事者同士の合意があるならば慰謝料や解決金を受け取ることは妨げられません。

結婚20年・25年の熟年離婚|慰謝料の相場はどれくらい?

熟年離婚の慰謝料の相場

一般的な離婚で認められる慰謝料の相場は50万~300万円程度といわれていますが、熟年離婚の場合、婚姻年数が長いことなどが影響して慰謝料が高額になる傾向があります。

離婚慰謝料の金額を決定する際、裁判では以下のような事情を考慮して総合的に判断します。

  • 婚姻期間の長さ
  • 有責行為の内容と程度
  • 当事者の年齢、経済力、社会的地位
  • 未成年の子どもの有無や引き取り状況
  • 財産分与の有無や金額
  • 離婚後の生活状況や再婚可能性
  • 精神的苦痛の程度や心身への影響

長期間にわたり夫婦関係が継続していた場合、離婚によって受ける精神的苦痛や生活基盤の喪失は大きいと判断されやすいです。すでに高齢となっており、離婚後に自力で十分な収入を得ることが難しい場合などがその例です。

また、有責行為が継続していた期間も慰謝料の金額を左右する要素となります。婚姻期間が長ければ、その分有責行為も長く続いている場合が多いため、若年層の離婚に比べて慰謝料が高額になるケースがあります。

ただし、高額の慰謝料を得るには、証拠や具体的事情が重要です。単に「結婚年数が長い」というだけで、慰謝料が自動的に上がるわけではありません。

熟年離婚で慰謝料が高額になるケースとは?

以下のようなケースは、離婚や離婚原因となった行為から受ける精神的苦痛が大きいと考えられ、慰謝料も高額になると考えられます。

  • 長期間にわたり不倫が継続していた
  • 不倫が発覚した後も不倫を辞めなかった
  • 不倫相手との間に子どもがいる
  • 長期間にわたりDVやモラハラが継続していた
  • 一方が専業主婦(主夫)であり、経済力の差が大きい
  • 高齢で、離婚後の再婚可能性や就業可能性が低い

熟年離婚で慰謝料請求が認められた事例|500万~1000万円

ここでは、結婚20年以上の熟年離婚で、高額の慰謝料が認められた裁判例を紹介します。

不貞行為が原因の離婚で500万円の慰謝料が認められた事例

夫と妻は約33年間婚姻関係にあったが、妻が夫の不貞行為を問い詰めたところ、夫は暴行・傷害・暴言に及び、妻は別居を余儀なくされた。

不貞行為の悪質さ、DV事案としての側面、約33年間という婚姻期間の長さ、妻が専業主婦であり夫に経済的に依存していたことなどが考慮され、夫から妻へ、500万円の慰謝料の支払いが命じられた。

(仙台地裁平成13年3月22日判決)

財産分与1200万円のほか慰謝料1000万円が認められた事例

夫と妻は約55年間婚姻関係にあったが、夫はA女と長年不貞関係にあり、約17年前から妻と別居してA女と同居していた。

約17年の長きにわたる別居期間、婚姻破綻の原因はもっぱら夫の側にあること、別居後の婚姻費用の分担額が夫の収入に比べて極めて低額だったうえ、途中から支払われなくなっていたことなどを理由に、夫から妻へ、1200万円の財産分与に加えて1000万円の慰謝料の支払いが命じられた。

(東京高裁昭和63年6月7日判決)

離婚慰謝料と財産分与・年金分割の違いは?

財産分与と年金分割とは

熟年離婚を考える場合、慰謝料だけでなく財産分与年金分割をしっかりと受け取ることが非常に重要です。

財産分与とは、夫婦が協力して築いた財産を離婚時に公平に分け合う手続きです。婚姻中に手に入れた財産を、原則として2分の1ずつ受け取ります。夫婦共同の預貯金や不動産、車、株式、退職金など様々な財産が財産分与の対象となります。

年金分割とは、婚姻中に支払った厚生年金保険料を、多い方から少ない方へ分ける手続きです。離婚時に年金分割の手続きをすることで、将来受け取る年金を増やすことができます。

慰謝料は相手方に離婚の責任がある場合にしか請求できませんが、財産分与や年金分割は原則として有責配偶者からでも請求することが可能です。

多くの場合、婚姻期間が長ければ長いほど、財産分与や年金分割で受け取れる金額も大きくなるため、離婚時には漏れなく取り決めを行いましょう。

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熟年離婚で財産分与と年金分割が重要な理由

以下は、婚姻期間が25年以上で調停離婚した夫婦の、財産分与の支払額の統計です。

財産分与の支払額(婚姻期間25年以上)

グラフを見ればわかる通り、約3割が1,000万円以上の財産分与を受け取っています。

また、厚生労働省の統計では、令和4年度、年金分割制度を利用した方は、平均年金月額が32,734円アップしていたことが分かっています(年金分割前の平均年金月額は55,215円、年金分割後の平均年金月額87,949円)。

このように、慰謝料が認められなくても、財産分与や年金分割で経済的な安定を確保できるケースは少なくありません。そのため、熟年離婚の際は、慰謝料だけでなく財産分与や年金分割の交渉に目を向ける必要があります。

多くの財産がある場合の財産分与の交渉は非常に複雑です。熟年離婚の財産分与は、一度弁護士に相談されることをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q.結婚25年で離婚する予定です。夫が浮気していた場合、慰謝料はどれくらいもらえますか?

不貞の証拠があり、婚姻期間が長い場合は200〜300万円程度の慰謝料が認められる可能性もあります。ただし、個別事情により前後しますので、詳しくは弁護士に相談が必要です。

Q.20年以上前の不倫に対しても慰謝料を請求できますか?

通常、不貞行為の慰謝料は、「不貞行為の発覚から3年」もしくは「不貞行為を行ったときから20年」のいずれか早い方が経過したときに消滅時効を迎え、請求できなくなってしまいます。

ただし、夫婦間の権利関係については、離婚から6か月間、時効の完成猶予が認められます。

不貞行為の発覚から3年以降に離婚した場合

したがって、20年以上前の不倫に対しても、離婚が成立してから6か月以内であれば配偶者に不貞行為慰謝料を請求することが可能です。

加えて、離婚自体の精神的苦痛に対する慰謝料は、離婚から3年以内であれば請求可能です。

もっとも、20年以上前の不貞行為を理由に離婚慰謝料を請求するためには、20年以上前の不貞行為が婚姻関係の破綻の原因であることを証明しなければならないため、認められない可能性もあります。

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まとめ|熟年離婚は「慰謝料」だけでなく「生活再建の総合設計」が大切

結婚20年、25年と連れ添ってきた夫婦の離婚は、精神的にも経済的にも大きな決断です。

慰謝料を請求できるかは、相手に法的責任があるかどうか(不貞やDVなどの証拠があるか)によりますが、長年の精神的・経済的負担が慰謝料判断に影響する余地もあります。

とはいえ、50代以降で離婚した方が慰謝料だけで生活していくのは難しいのが現実。熟年離婚では以下のような視点が欠かせません。

  • 財産分与・年金分割など、慰謝料以外の金銭を受け取る
  • 慎重に離婚後の生活設計を立てる
  • 弁護士など専門家によるアドバイスを受ける

熟年離婚後の人生を安心して生きていけるように、冷静に準備を進めましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了