夫が出て行って別居。生活費はどうなる?離婚しなければいけない?

もし夫が突然家を出て行ったら、まず心配になるのは「このまま離婚になってしまうのか」「生活費はどうなるのか」という点ではないでしょうか。同時に、家族を置いて勝手に出て行った夫を「絶対に許せない」という怒りも湧いてくるかもしれません。
民法は夫婦の同居義務を定めているため、正当な理由なく一方的に家を出る行為は法的問題となる可能性があります。また、別居中であっても生活費を分担する義務は継続するため、収入の多い夫に対しては生活費(婚姻費用)を請求することができます。
この記事では、夫が出て行った場合の離婚や慰謝料に関する問題、生活費を払わせる方法、夫が出て行った後の対応について具体的に説明します。
夫が出て行った…法的な問題は?
夫婦には同居義務がある
民法752条は、夫婦の同居義務を定めています。
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
民法752条
正当な理由なく一方的に家を出ていく行為は、この義務に反する可能性があります。ただし、下記のような事情がある場合は例外です。
- DV(家庭内暴力)から身を守るため
- 単身赴任や学業など、正当な理由がある別居
また、夫婦は互いに協力・扶助する義務も負っています。正当な理由なくこれらの義務を果たさない場合、悪意の遺棄(民法770条1項2号)にあたる可能性があります。
悪意の遺棄にあたる行為の例
- 配偶者や子どもを放置して勝手に別居する
- 働けるのに働かない
- 収入があるのに生活費を渡さない
法務省「協議離婚に関する実態調査(令和3年)」によると、別居前に相手と話し合いをしなかった人のうち、「突然出て行った/追い出されたから」と回答した人は33.8%にのぼります。夫が突然家を出ていくケースは決して珍しくなく、法的には同居義務に反する行為として問題となる可能性があります。
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一方的に出ていかれたら離婚?
一方的に別居されても、離婚を望まない場合は離婚に応じる義務はありません。離婚は原則として双方の合意が必要であり、合意できなければ調停・訴訟へと進むことになります。
勝手に別居した夫は有責配偶者にあたる可能性があります。裁判所は、有責配偶者からの離婚請求については別居期間や未成熟子の有無などを踏まえて慎重に判断する傾向があるため、夫側からの離婚請求が認められる可能性は低いといえます。
ただし、一方的に別居したという事実だけで有責配偶者とされるわけではありません。家出に至った経緯や別居の原因、双方の責任の有無など、個別の事情も判断要素となります。
また、有責配偶者からの離婚請求であっても、別居期間がある程度長期にわたると、婚姻関係の回復が見込めないとして離婚が認められるケースもあります。
なお、一方的に家を出た夫と離婚したい場合は、相手が拒んでいても悪意の遺棄(民法770条1項2号)を理由に裁判離婚できる可能性があります。
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一方的に別居された場合に慰謝料は請求できる?
一方的に別居した場合、悪意の遺棄を理由に慰謝料が認められるケースがあります。
ただし、単に別居しただけでは直ちに悪意の遺棄と認められることは少なく、別居の態様やその後の対応が著しく妥当性を欠く場合に限り、悪意の遺棄と評価されます。
具体的には、婚姻関係が円満だったのに突然別居し、かつ婚姻費用を支払わない・子どもに会いに来ない・連絡を絶つなど、家庭を顧みない態度が継続している場合、慰謝料請求が認められやすくなる場合があります。
一方的に別居された場合に慰謝料を請求するための要件と、実際の裁判所の判断について『有責配偶者の一方的な別居は悪意の遺棄になる?慰謝料請求の判例 』で詳しく解説しています。
出て行った夫に生活費を請求できる?婚姻費用とは
婚姻費用とは?別居中の生活費
夫婦は、離れて暮らしていても生活費を分担する義務を負っています。この夫婦の生活に必要な費用を婚姻費用(こんいんひよう)といいます。
別居中でも、収入の多い方から少ない方へ毎月生活費を支払う必要があります。夫が家を出ていった場合、夫に対して婚姻費用の支払いを請求できます。相手が応じない場合は、家庭裁判所の調停・審判を経て強制執行をおこなうことも可能です。
ただし、別居の原因がもっぱら権利者側にある場合は、請求が認められないか減額される傾向にあります。その場合でも、権利者が子どもを養育していれば、子どもの養育費に相当する金額の支払いは認められます。
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婚姻費用の3つの請求方法
別居中の相手に婚姻費用を支払ってもらうのに特別な手続きが定められているわけではありませんが、以下の3つの方法を用いることが多いです。
① 話し合いで請求する
夫と話し合いが可能な状態であれば、口頭、電話、メールなどで婚姻費用の話し合いをおこない、支払ってもらうことができます。
ただし、口約束のみでは後日トラブルになることも考えられるため、婚姻費用の合意書を作成しておくことをおすすめします。
アトム法律事務所では、『別居合意書・婚姻費用の合意書テンプレート|解説付』を公開しています。合意書の作成にぜひご活用ください。
②内容証明郵便を送って請求する
内容証明郵便とは、どんな内容の手紙が、いつ、誰から誰に差し出されたかを証明してくれる郵便局のサービスです。
内容証明郵便で婚姻費用の請求をおこなうことで、婚姻費用を請求した事実や請求日の証拠が手に入ります。これは、後に調停や審判を申し立てる時に役立ちます。また、通常とは違う形式の手紙が届くことで、相手に心理的なプレッシャーをかけることができます。
ただし、内容証明郵便それ自体には強制力がありません。相手が支払いに応じないのであれば、次で説明する調停を申し立てることになります。
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③家庭裁判所に調停を申し立てる
夫と話し合いができない・連絡がつかない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てましょう。婚姻費用分担請求調停とは、家庭裁判所の調停委員会を介して婚姻費用について話し合う手続きです。
相手が調停に出席しなかったり話し合いがまとまらなかった場合は、調停は不成立となり自動的に審判に進みます。審判とは、裁判官が一切の事情を考慮して婚姻費用の金額などを決定する手続きです。したがって、調停を申し立てれば最終的には裁判官の判断を得られることになります。
調停が成立もしくは審判が確定すると婚姻費用の強制執行(差し押さえ)が可能になるため、不払いの可能性が高いのであれば、調停を申し立てた方が確実に回収しやすくなります。
婚姻費用の金額はどう決める?
婚姻費用として支払う金額は、夫婦の合意に基づいて自由に決めることができますが、実務では裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表が多く使われています。
これは、夫婦双方の職業や年収、子どもの人数・年齢にもとづいて婚姻費用の目安を算定するツールです。
たとえば、会社員の夫(年収700万円)、パート勤務の妻(年収120万円)という夫婦が別居し、妻が16歳の子ども1人を養育する場合、この算定表によれば月12万~14万円が婚姻費用の目安となります。
手軽に婚姻費用の目安を計算したい方は、アトム法律事務所の婚姻費用計算機もご利用ください。
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勝手に出て行った夫が許せない…どうすべき?
まずは婚姻費用を請求する
夫が家を出ていったとき、まず最初に考えなければならないのは日々の生活費の確保です。感情的になってしまうのも仕方のない状況ですが、冷静に自分の権利を守ることが大切です。
別居が始まったら、できるだけ早く婚姻費用の請求をおこないましょう。
実務上、請求をおこなったタイミングより前の分まで遡って婚姻費用を回収するのは困難です。一日も早く請求することが重要です。
請求方法については、口頭だと請求した日の証拠が残らないため、内容証明郵便の送付または家庭裁判所への調停申し立てがよいでしょう。夫の居場所が分からない・連絡がつかないといった場合は、すぐに調停を申し立てることをおすすめします。
別居前後に夫婦間で婚姻費用の合意書を交わしたにもかかわらず夫が支払いを怠った事案において、裁判所は未払金の支払いを命じています(東京地判令7・3・17)。一度取り決めた婚姻費用が支払われない場合は、合意書をもとに法的手続きを進めることが有効です。
出て行った夫と離婚したい場合はどうする?
別居中の夫と離婚したい場合、まずは相手と話し合いをおこない、離婚に合意できなければ家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。離婚調停では、離婚の可否だけでなく、親権や財産分与、慰謝料などについても話し合うことができます。
同時に婚姻費用の請求もおこないましょう。経済的な負担を感じることで相手が離婚に応じてくれる可能性が高くなるからです。
離婚調停が不成立となった場合でも、別居の態様が民法上の悪意の遺棄に該当するのであれば、裁判で離婚できる可能性があります。
また、調停が不成立となってしまい裁判離婚できる明確な理由がない場合でも、別居期間が長期にわたれば、婚姻関係が破綻しているとして裁判所が離婚を認める可能性が高くなります。一般的に、別居期間が3年から5年程度続くと、離婚が認められやすくなる傾向があります。
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出て行った夫と離婚したくない場合の対処法
別居した夫と離婚したくない場合は、まず離婚届不受理申出を市区町村役場に提出しましょう。この手続きをしておくと、夫が勝手に離婚届を提出しても受理されなくなります。
夫から離婚調停を申し立てられても、離婚を拒否することは可能です。ただし、別居期間が長期化すると裁判離婚が認められる可能性が高くなる点は理解しておく必要があります。
現実的には、別居期間が3年から5年程度続くと、裁判離婚が認められるケースが出てきます。いずれは離婚となる可能性も視野に入れて、今後の生活設計を立てておくことが重要です。
夫婦関係の修復を望む場合、家庭裁判所に夫婦関係調整調停(円満調停)を申し立てる方法もあります。申立費用は収入印紙1,200円と、裁判所ごとに定められた郵便切手代です。相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てられます。
調停では別居の原因や夫婦関係の改善方法について第三者(調停委員)を交えて話し合えるほか、別居中の生活費や子どもとの面会交流についても併せて協議できます。離婚するかどうかを迷っている段階から利用できる手続きです。
「許せない」気持ちを法的に解決するために
家族を捨てて出て行った夫を「一生許さない」と思うのは、人として当然の感情です。
ただ、その怒りに任せて感情的な行動をとってしまうと、後々不利になる可能性があります。怒りをそのままぶつけるのではなく、法的に意味のある形で責任を問うことが重要です。
夫の行為が悪意の遺棄にあたるかどうか、慰謝料請求が可能かどうかを判断するには、法的な専門知識が必要です。離婚問題に精通した弁護士に相談することで、夫の行為に対して適切な法的対応をとることができます。感情に流されず法律の力を活用することが、自分の権利を守る最善の手段といえます。
よくある質問(Q&A)
Q. 夫が連絡を絶っている状態でも、婚姻費用は請求できますか?
請求できます。夫と連絡が取れない場合でも、家庭裁判所に婚姻費用分担請求の調停・審判を申し立てることが可能です(民法760条)。夫が調停に出席しなければ調停は不成立となりますが、自動的に審判手続きに移行し、裁判官が婚姻費用の金額を決定します。
Q. 婚姻費用と慰謝料は別物ですか?
別物です。婚姻費用は生活費の分担(民法760条)、慰謝料は精神的苦痛への損害賠償(民法709条・710条)であり、根拠が異なります。一方的な別居や不貞行為がある場合は、婚姻費用とは別に慰謝料請求が認められる場合もあります。
Q. 離婚する予定がなくても婚姻費用は請求できますか?
請求できます。離婚するかどうかにかかわらず、婚姻関係が続く限り婚姻費用を請求できます(民法760条)。ただし、婚姻費用の負担を避けるために、相手方が早期の離婚を求めてくるケースもあります。
まとめ
正当な理由なく一方的に家を出ていく行為は、民法上の離婚原因である「悪意の遺棄」に該当する可能性があります(民法770条1項2号)。別居中であっても婚姻関係が続く以上、生活費(婚姻費用)を請求する権利があるため、まずは婚姻費用の分担請求を検討しましょう。
家族を置いて出て行った夫への「許せない」という感情は当然のことです。ただ、婚姻費用の請求・慰謝料請求・離婚の判断など、この先の対応には複雑な法的判断が伴います。離婚を望む場合もそうでない場合も、早めに離婚問題に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律税務グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
