離婚の引っ越し費用はいくら?相場と夫に請求する方法

離婚や別居に伴って引っ越しをする場合、ある程度まとまった費用が必要です。
しかし、自分の貯金だけでは足りなかったり、夫婦の口座にお金を入れてしまっているために、離婚をためらっている人もいるでしょう。
離婚する時の引っ越し費用は、家賃の5倍程度の賃貸初期費用に加え、家具家電の購入費や引っ越し業者代を含めると、総額で50万円から100万円程度かかるケースも珍しくありません。
この記事では、離婚時の引っ越しに必要な費用のシミュレーションと、夫に引越し費用を請求する方法、お金がない時に使える公的制度について解説します。
目次
離婚の引っ越し費用はいくら?総額シミュレーション
離婚に伴う引っ越しでは、賃貸契約の初期費用、引っ越し業者の費用、家具家電の購入費用の3つが主にかかります。
ただし、引っ越し費用の総額は、家族構成や移動距離、荷物の量、移転先の条件などによって大きく異なります。
本シミュレーションは、不動産市場の一般的な相場や、通常期の引越し料金をもとに算出しました。あくまで目安として参考にしてください。
家族構成別の引っ越し費用総額の目安
家族構成によって必要な部屋の広さや荷物量が変わるため、予算も変動します。
ここでは、3つのパターンに分けて目安額を算出しました。
なお、賃貸初期費用は敷金や礼金を含み、引っ越し業者の費用は通常期の近距離移動を想定しています。
家具家電の購入費は、生活に必要な最低限のものを揃えるものとして試算しました。
単身で家を出て一人暮らしをする場合
自分ひとりで家を出るケースです。
荷物が少なく部屋もコンパクトで済むため、費用は比較的抑えられます。
| 項目 | 金額目安 |
|---|---|
| 家賃目安 | 6万円 |
| 賃貸初期費用 | 30万円 |
| 引っ越し業者費用 | 3万~5万円 |
| 家具家電購入費 | 10万~15万円 |
| 合計 | 約45万~50万円 |
母子家庭で子ども1人と新生活を始める場合
子どもと2人で暮らすケースです。
子ども部屋や収納スペースが必要になるため、家賃と初期費用が上がります。
| 項目 | 金額目安 |
|---|---|
| 家賃目安 | 8万円 |
| 賃貸初期費用 | 40万円 |
| 引っ越し業者費用 | 5万~8万円 |
| 家具家電購入費 | 15万~20万円 |
| 合計 | 約60万~70万円 |
母子家庭で子ども2人と新生活を始める場合
子ども2人と計3人で暮らすケースです。
部屋の広さが必要となり、荷物量も増えるため、業者費用や家具代がかさみます。
| 項目 | 金額目安 |
|---|---|
| 家賃目安 | 10万円 |
| 賃貸初期費用 | 50万円 |
| 引っ越し業者費用 | 7万~10万円 |
| 家具家電購入費 | 20万~30万円 |
| 合計 | 約80万~90万円 |
賃貸契約の初期費用は家賃の5倍程度
賃貸物件を借りる場合、家賃だけでなく以下の費用が必要になります。
- 敷金(家賃の1~2か月分が多い)
- 礼金(家賃の1~2か月分が多い)
- 仲介手数料(0.5か月~1か月分が一般的)
- 前家賃(契約開始日からの家賃1か月分を前払い)
- 保証会社利用料(0.5か月~1か月分程度が多い)
- 火災保険料や鍵交換費など(数千円~2万円程度が一般的)
これらを合計すると、家賃の4~5か月分になることが多いです。
物件によっては、敷金・礼金が0円だったり、仲介手数料が割引されることもあります。
契約時に費用の内訳を確認しましょう。
引っ越し業者の費用と家具家電の購入費
引っ越し業者の費用は、荷物量や移動距離、依頼する時期によって大きく変わりますが、一般的な相場は4万円〜10万円程度です。
通常期(5〜2月)であれば、単身なら3万〜5万円、2人家族なら5万〜8万円程度が目安です。
一方、繁忙期(3〜4月)は料金が高騰しやすく、通常期の1.5倍〜2倍以上になることもあります。
自分で引っ越しする場合は、レンタカーやダンボールなどの費用が必要になります。例えば、軽トラックを24時間レンタルする場合、5,000~9,000円程度が相場となっています。
ダンボールは購入してもよいですが、スーパーやドラッグストアなどで無料で貰ってくることもできます。
人手や時間が確保できるのであれば、自分で引っ越し作業をする方が費用を抑えられるでしょう。
また、離婚に伴う引っ越しでは、冷蔵庫・洗濯機・カーテン・寝具などを一から揃えなければならないケースが多いため、最低限の生活を始めるだけでも10万〜20万円ほどは準備しておく必要があります。
子どもの転園や転校にかかるお金
子どもがいる場合は、引っ越しに伴う追加の費用が発生します。
保育園・幼稚園を転園したり、新たに入園する場合、認可保育園であれば入園費用はかかりません。
認可外保育園の場合は1万〜5万円程度の入園料がかかることが多いようです。
制服のない園がほとんどですが、上履き、お弁当箱、通園バッグ、お昼寝布団などの用意が必要です。これらは5,000~1万円程度で揃えることができます。
幼稚園の場合、園によって5万〜30万円という高額な入園料がかかるほか、制服代、教材費などが必要になります。このように、幼稚園は保育園に比べて費用が高額であることが分かります。
また、小中学校については、公立の学校であれば転校自体に費用はかかりませんが、制服や体操服などを買い揃える必要があります。合わせて8〜10万円程度は見ておいた方がよいでしょう。
子どもを学童保育などに預ける場合の費用は、公設の学童保育であれば月に3,000〜7,000円程度、民間であれば3万〜5万円程度が相場となっています。
夫に引っ越し費用を請求できる?
夫のせいで離婚することになったのだから夫に引っ越し費用を請求したいと考える方は多いですが、それは可能なのでしょうか。
原則として夫に支払う法的な義務はない
離婚・別居の原因が夫にある場合や、夫の収入が自分より多い場合、夫に引っ越し費用を請求したいと思うのは自然です。
夫が同意するのであれば、引っ越し代を支払ってもらうのは問題ありません。離婚に応じる条件として、引っ越し代を負担したり、財産分与や慰謝料を上乗せしてもらうように交渉することも可能です。
ただし、配偶者に別居費用や引っ越し費用を請求できる法律上の権利はなく、夫にも応じる義務はありません。
したがって、財産分与や慰謝料、養育費などのように、法的な手続きによって強制的に支払わせることはできません。
婚姻費用に引っ越し費用は含まれる?
離婚前に別居している場合は、別居中の生活費として婚姻費用を受け取ることができますが、引っ越し費用は婚姻費用に含まれないとされています。
別居中の婚姻費用は、夫婦の扶助義務に基づき、収入の多い方から少ない方へ毎月決まった額を送金する形で支払われます。
相手が支払いに応じない場合は、婚姻費用分担請求調停・審判を申し立て、最終的には強制執行によって支払いを実現させることができます。
引っ越し費用を婚姻費用として請求できれば理想的ですが、それは原則としてできません。
とはいえ、毎月の生活費として受け取る婚姻費用を引っ越し費用に充てることは可能ですし、交渉次第では、引っ越し費用を含めた婚姻費用の支払いに同意してもらえる可能性もあります。
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引っ越し費用を払ってもらいやすいタイミング
引っ越し代を払ってもらえる可能性を少しでも高めたいならば、引っ越しは離婚届を提出する前に行うことをおすすめします。
先に離婚すると、引っ越し用に貯めていた費用も財産分与の対象だと主張され、自分の貯金が減ってしまう可能性があります。
また、交渉次第では引っ越し費用を婚姻費用に含めて払ってもらえる可能性がありますし、引っ越し費用の負担を離婚に応じる条件としている場合には、確実に支払わせる動機になります。
なお、離婚が成立した後で引っ越し費用を払うように頼んでも、応じてもらえないことがほとんどでしょう。
特に、離婚時に清算条項(これ以上の金銭の請求をしない旨の約束)を盛り込んだ離婚協議書や公正証書を作成している場合は、後から引っ越し費用を請求するのはほぼ不可能です。
離婚したいけど引っ越し費用がない時の対処法
離婚・別居したいけれど引っ越しができるほどの資金がないという方でも、以下の方法で引っ越し費用を確保できる可能性があります。
夫に引っ越し費用の負担を頼む
夫が引っ越し費用の負担に同意してくれそうであれば、夫に頼んでしまいましょう。分担の割合も自由に決めることができます。
「引っ越し費用を払ってくれるなら、離婚してもいい」などと、離婚交渉の切り札として使うことも可能です。
財産分与や慰謝料から支払う
離婚時には、財産分与や慰謝料といった形で、夫からお金を受け取れる場合があります。
財産分与や慰謝料の支払いは、離婚前にしても離婚後にしても構いませんので、先に受け取ってそこから引っ越し費用を支払うこともできます。
支払いの時期については、引っ越しのタイミングを踏まえて相手と相談しましょう。
クレジットカードの活用と分割払い
賃貸契約や引っ越しの初期費用の支払いに、クレジットカードが利用できる不動産会社が増えています。
カード払いにしてあとから分割やリボルビング払い(リボ払い)を利用すれば、手元の現金が少なくても契約や購入が可能となり、将来の収入で分割して返済することができます。
ただし、分割払いやリボ払いには、支払回数や残高に応じて金利手数料がかかる点には注意してください。
引っ越し費用を安く抑える節約テクニック
少しでも費用を抑えるためには、物件選びや引越し業者の手配において工夫が必要です。
まず、住居の選択肢として公営住宅(団地)を検討してみましょう。
礼金や仲介手数料がかからず、家賃も民間の賃貸より格安に設定されています。母子家庭向けの優先枠を設けている自治体も多いです。
民間の賃貸であっても、入居当初の1か月から数か月分の家賃が無料となるフリーレント物件を選べば、初期費用の負担を大きく減らすことができます。
ただし、一定の利用条件や中途解約時に違約金が発生する等の注意点があるので契約内容をよく確認しましょう。
引越し業者を選ぶ際は、3社以上から見積もりを取ることで価格競争が生じ、数万円単位で費用が安くなることがあります。
荷造りの段階で不用品を売却することも有効です。
リサイクルショップやフリマアプリを活用して不要な家具や家電をお金に換えれば、新生活の資金になりますし、荷物が減ることで引越し料金そのものを安く抑える一石二鳥の効果が期待できます。
国や自治体の引っ越し助成金と支援制度
お金がない時に頼りにしたいのが、公的な支援制度です。
母子家庭や寡婦(夫と死別・離婚した女性)が受けられる支援制度が、国や自治体によって用意されています。
母子父子寡婦福祉資金貸付金
母子父子寡婦福祉資金貸付金とは、20歳未満の子どもを扶養している母子家庭や父子家庭、寡婦の経済的自立を支援するために、自治体から資金を貸付する制度です。
一定の条件を満たせば様々な用途で貸付を受けることができ、転宅資金としては最大26万円を借りることができます。
貸付金ですので、6か月の据置期間ののち3年以内に償還する必要があります。据置期間中は、利息のみの返済が可能です。
生活福祉資金貸付制度
生活福祉資金貸付制度とは、所得の少ない世帯や障害者、高齢者のいる世帯が安定した生活を取り戻せるよう、自治体が資金の貸付を行う制度です。
住宅入居費として最大40万円を借りることができます。
貸付金ですので、6か月の据置期間ののち10年以内に償還しなくてはなりません。据置期間中は、利息のみの返済が可能です。
自治体の住宅助成制度
自治体によっては、ひとり親家庭や低所得世帯の引っ越し費用や家賃を補助する制度を用意しています。
まずは、ホームページや役所でお住まいの自治体の制度について調べてみてください。
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引っ越し費用を支払うタイミング
引っ越し費用を用意するにあたり、支払いのタイミングを把握しておくことは重要です。
家を借りるための初期費用は、入居審査に通過してから1〜2週間ほどの期限内に一括で支払うのが一般的です。
支払いは現金、銀行振り込みのほか、クレジットカードが使えることもあります。
引っ越し業者への支払いは、荷物を運び出す作業当日に行うのが一般的です。
クレジットカードを利用したい場合は、必ず見積もり時に申し出るようにしてください。
なお、国や自治体の公的支援は、引っ越した後で支給・貸付を受けるものが多いため、いったんは自分で引っ越し費用を支払う必要があります。
支払いのタイミングだけでなく、いつ引っ越しを実行すれば法的に不利にならないかという判断基準や、手続きの全体像については、関連記事『離婚の引越しはいつが正解?タイミング判断と手続き』をご覧ください。
費用の不安を解消して新生活へ
離婚の引っ越しには50万円以上の費用がかかることもありますが、公的支援や夫との交渉、節約術を組み合わせることで乗り越えることは可能です。
まずはシミュレーションで目標金額を把握し、使える制度がないか確認することから始めてみてください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

弁護士
なお、婚姻費用は婚姻中の生活費ですので、離婚後には一切請求することができません。