不貞行為がなくても慰謝料請求できる?精神的苦痛の慰謝料相場

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不貞行為がなくても

不貞行為とは、配偶者以外との性交渉を指します。そのため、性交渉がなければ不貞行為を理由に慰謝料を請求することはできません。

しかし、DVやモラハラ、不貞類似行為など、婚姻生活の平穏を侵害する不法行為があれば、不貞行為がなくても精神的苦痛に対する慰謝料の請求は可能です(民法第709条)。

不貞行為がない精神的苦痛の慰謝料相場は、行為の内容や悪質さによって数万円~200万円程度まで幅があります。身体的DVや深刻なモラハラでは100万円〜200万円程度、悪意の遺棄や執拗な言動では50万円〜100万円程度とされます。

これに対し、不貞行為がある場合の慰謝料相場は100万円〜500万円と高めです。

本記事では、不貞行為がなくても慰謝料請求が認められるケースや裁判例、相場の目安、請求を認めてもらうためのポイントを解説します。

不貞行為がなくても慰謝料請求できる?

不貞行為とは?

そもそも離婚原因となる不貞行為とは、自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係(いわゆる肉体関係)を持つことをいいます。性交渉の相手方が任意でない場合であっても、加害者側には自由意思があることから、不貞行為として評価されます。

同性の相手との性交渉も不貞行為と判断されるケースがあります(東京地判令和3年2月16日)。

不貞行為は、裁判離婚の理由となる「法定離婚原因」に該当するため、慰謝料が高額になることがあります。

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不貞行為がなくても慰謝料請求できる

慰謝料請求は不貞行為に限らない!

離婚理由になる不貞行為がなくても慰謝料請求が認められることがあります。

慰謝料とは、他人の権利や利益を侵害する不法行為によって受けた精神的苦痛に対する賠償金です。

性交渉を含まない不倫に対する慰謝料についても、不倫によって「平和な結婚生活を送る権利」を侵害されたときに請求することができます。

不倫の慰謝料請求ができる不法行為は、不貞行為だけではありません。

不貞類似行為にあたる場合や不貞類似行為にも至らないものの第三者と関係をもった場合でも、精神的苦痛を与える不法行為であれば慰謝料請求が認められます。

不倫相手への慰謝料請求も認められる

不倫に対する慰謝料請求は、配偶者だけでなく不倫相手にも請求できます。

不倫相手が既婚者であることを知っていてもなお関係をもった場合、配偶者と不倫相手が共同で不倫という不法行為をしたといえるため、慰謝料請求できます。

不貞行為がなく慰謝料請求するケースとは?

遺棄やDVなど他の不法行為で慰謝料請求するケース

不貞行為がなくても、悪意の遺棄やDVなどの他の不法行為があったとして慰謝料請求をすることができます。

離婚慰謝料は、不貞行為だけでなく、離婚の原因となった不法行為がある場合に請求することができます。

悪意の遺棄やDV・モラハラなど、不貞行為以外の不法行為があったとして慰謝料請求する場合も、「不貞行為なしの精神的苦痛に対する慰謝料請求」にあたるケースです。

夫から継続的な言語的暴力と性行為の強要を受け、精神的不調をきたした妻が離婚を求めた事案では、DVと性的DVの双方が婚姻破綻の原因と認められ、慰謝料180万円が認容されました(横浜家判令和3年3月17日)。裁判所は「一般的な夫婦間の性行為の範囲内」という夫の主張を退け、夫の言動を不法行為と判断したのです。

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不貞行為を証明できないケース

たとえ不貞行為があったとしても、その事実を証明できなければ慰謝料請求は認められません。

相手が慰謝料の支払いに応じる場合は別ですが、慰謝料の支払いを拒まれ裁判で請求をする場合、不貞行為の事実を証明する必要があります。

不貞行為はあるものの、証明ができない場合の慰謝料請求は、「不貞行為なしの精神的苦痛に対する慰謝料請求」にあたるケースのひとつです。

不貞類似行為にあたるケース

離婚理由になる不貞行為ではないものの、不貞類似行為にあたるとして慰謝料請求をすることができるケースもあります。

不貞類似行為とは、性交渉に類似する行為です。

たとえば、交際相手とキスをする、ホテルで裸や下着姿で抱き合う行為などは不貞類似行為にあたることがあります。

不貞類似行為は、法定離婚原因の「不貞行為」ではありませんが、他の離婚原因である「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたる可能性があります。

不貞類似行為にもあたらないケース

不貞行為や不貞類似行為にもあたらない場合の慰謝料請求も、「不貞行為なしの精神的苦痛に対する慰謝料請求」にあたるケースのひとつです。

たとえば、仕事の打合せで職場の女性と食事に行く、同僚の社員に片思いをしているといったケースは、不貞行為や不貞類似行為にあたりません。

事例別│不貞行為がない精神的苦痛への慰謝料請求

不貞行為がなくても慰謝料請求が認められたケース

不貞類似行為にあたるような行為があったケース

大学教授であった夫は、性的不能であったため、不貞行為があったとは認定できないものの、同大学の大学院生と不貞類似行為にあたるような行為があったケースです(東京地判平成25年5月14日)。

下着姿で抱き合い身体を触っていた行為が不法行為にあたるとして、夫への150万円の慰謝料請求を認めました。

以前の不倫相手と会食をしていたケース

以前の不倫相手と深夜時間帯に面会、会食をしていたケースです(東京地判平成25年4月19日)。

以前不倫していた相手ということもあり、面会行為だけでも再び不貞関係を再開したのではないかとの疑いを抱かせるのに十分であるとして不倫相手への50万円の慰謝料請求を認めました。

会食前に不倫相手が既に不倫関係にあったことを認め、慰謝料を支払う公正証書を作成していた事情もあり、不貞関係を再開したとの疑いが強いと判断されました。

不倫相手とメッセージのやり取りがあったケース

不倫相手が夫に「会いたい」「大好きだよ」など愛情表現を含むメールを繰り返し送っていたケースでは、肉体関係があったとは認められないものの、妻が閲覧できる状況で送られたこれらのメールは、婚姻生活の平穏を損なう行為と判断され、不倫相手への30万円の慰謝料請求が認められました(東京地判平成24年11月28日)。

また、メッセージ履歴に「ギューとチューできて嬉しかったー」「急に会いに行ってごめんね。私も嬉しかったです」というやりとりが残されていたケースでは、肉体関係が証明されなくても慰謝料請求が認容されています(東京地判令和4年7月29日)。裁判所は「少なくともキスという行為の性質上、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為であることは明らか」と判断し、10万円の支払いを認めました。

不貞行為なしの慰謝料請求が認められないケース

手をつないだり腰に手を回すといった肉体的接触があったケース

自分の店に来店する客と店外で会い、手をつないだり腰に手を回すなどの肉体的な接触があったケースです(東京地判平成20年10月2日)。

手をつなぐという行為だけでは、そのことから当然に不貞関係の存在が推認されるものではないとして慰謝料請求を認めませんでした。

ホステスと会食、映画鑑賞をしていたケース

妻子がいることを分かっていながらホステスが夫と会食、映画鑑賞をしていたケースです(東京地判平成21年7月16日)。

同伴出勤やアフターを共にしただけでなく店外でも会っていましたが、婚姻関係を破たんに至らせる蓋然性のある交流、接触であるとは認め難いとして慰謝料請求は認められませんでした。

以前の不倫相手との会食のケースと違い、単なる異性との会食では不貞行為の疑いを抱かせるのに十分な行為とはいえず、請求が認められない傾向にあります。

不貞行為がない場合の精神的苦痛の慰謝料相場は?

不貞行為なしの慰謝料は数万円~200万円が目安

不貞行為がない場合の精神的苦痛に対する慰謝料は、行為の内容に応じて数万円~200万円程度が目安となります。

身体的DVや精神疾患を引き起こすほどのモラハラ、性的DVがあった場合は100万円〜200万円程度、執拗な言動や生活費の不払いが認められた場合は50万円〜100万円程度です。

性格の不一致に近い軽微な事情にとどまる場合は、慰謝料が認められないか、数万円程度にとどまる傾向があります。

一方で、不貞行為の慰謝料は100万円〜500万円となりますので、不貞行為があったといえる場合と比べて慰謝料金額は低い傾向にあります。

不貞行為があるかどうかという事情は、相手に与える精神的苦痛、慰謝料額にも大きく影響を与える事情といえます。

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慰謝料額を決めるうえで考慮される事情

慰謝料額は、不貞行為の有無だけでなく、精神的苦痛の程度や有責行為の内容、回数、婚姻の期間、子どもの有無といった様々な事情を考慮して決定されます。

慰謝料を請求する側の事情として、以下の事情が考慮されます。

  • 精神的苦痛の程度
  • 離婚後の経済状態

慰謝料を支払う側の事情として、以下のような事情が考慮されます。

たとえ不貞行為自体がなくとも、不貞行為があった疑いを抱かせるような行為内容であれば慰謝料請求を認めてもらいやすくなります。

  • 行為の内容、態様、回数、期間
  • 反省や謝罪の有無
  • 支払い能力

その他の事情として、以下のような事情が考慮されます。

たとえば、夫婦に未成年の子どもがいる、婚姻期間が長いといった事情は、慰謝料金額が高額になる事情といえます。

  • 婚姻の期間
  • 別居の期間
  • 夫婦の間の子どもの有無、子どもの年齢

不貞行為がなくても慰謝料請求を認めてもらうには

不貞行為以外の事情を主張する

不貞行為の事実を主張できなくても、他の事情を主張して慰謝料請求を認めてもらうことができます。

離婚慰謝料は、不貞行為だけでなく、DVやモラハラ、悪意の遺棄など他の不法行為によって精神的苦痛が生じた場合にも請求することができます。

不貞行為の事実が証明できない、不貞行為がないとしても、他の事情も主張して慰謝料請求できないか検討してみましょう。

証拠を集める

不貞行為がなくても精神的苦痛を受けたことを証明できる証拠を集めましょう。

具体的には、以下のような証拠を集めれば慰謝料請求を認めてもらいやすくなります。

  • 直接に示すものでなくても性的な関係にあることを示す写真や動画、音声
  • 2人がホテルやデート先に出入りしている写真
  • ホテルやデート先の領収書、レシート
  • クレジットカードの利用明細
  • 関係をもった相手とのメールやLINEのやりとりの履歴

肉体関係を直接的に示す写真や動画がない場合、2人で一緒にいるところや一緒にどこかへ行ったという証拠を集めておきましょう。

たとえば、職場の同僚と関係をもったことを証明したい場合は、職場ではないプライベートな場所や時間の外出、2人きりで会っているといった証拠は有効な証拠といえます。

また、このような証拠は離婚を切り出してから集めようにも証拠が捨てられたり証拠の収集自体が難しいケースも少なくありません。

必ず離婚や慰謝料を請求する前に証拠を集めておきましょう。

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弁護士に相談する

不貞行為なしで慰謝料を請求するのは事情によっては可能ですが、精神的苦痛を与える不法行為の存在の証明自体が難しいケースは少なくありません。

また、慰謝料請求できたとしても、慰謝料金額は不貞行為が認められたケースと比べて低い傾向にあります。

不貞行為の確証が得られなくても適切な額での慰謝料請求をしたい場合は、弁護士にご相談ください。

慰謝料額の増額を認めてもらうにはどのような主張や証拠集めをするべきか、法律の専門家である弁護士であれば適切なアドバイスをすることができます。

また、裁判での請求段階でなくても、弁護士であれば解決金という形で慰謝料を支払ってもらうよう相手方と交渉することも可能です。

精神的苦痛の慰謝料請求についてよくある質問

Q. 不貞行為がなくても慰謝料請求できる?

DVやモラハラ、悪意の遺棄、不貞類似行為など、婚姻生活を侵害する不法行為があれば慰謝料請求は可能です(民法第709条)。ただし、性格の不一致だけでは原則として請求は認められません。

Q. 精神的苦痛に対する離婚慰謝料の相場は?

不貞行為がない場合の精神的苦痛に対する慰謝料は、行為の内容や被害の程度によって数万円〜200万円程度が目安です。身体的DVがあった場合は100万円〜200万円、モラハラや悪意の遺棄があった場合は50万円〜100万円程度とされています。

Q. キスや抱擁だけでも慰謝料請求できる?

キス・抱擁などの不貞類似行為であっても、婚姻共同生活の平穏を破壊する不法行為と評価されれば慰謝料請求が認められる可能性があります(民法第709条)。肉体関係の有無だけで請求の可否が決まるわけではありません。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了