妊娠中に離婚しても良い?養育費や慰謝料は請求できる?

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妊娠中に離婚

妊娠中は、マタニティブルーといった言葉があるように、女性の心や身体が大きく変化する時期です。一方で、夫は何も変わらない、親になる自覚がないなどといった意見もよく目にします。

そのような状況で、妊娠中に離婚を決意する方も少なくありません。

この記事では、妊娠中の離婚で後悔しないための注意点や、養育費や慰謝料などお金のこと、子どもの親権や戸籍の仕組みについて解説します。

妊娠中に離婚はできる?

妊娠中でも離婚はできる

妊娠中でも妊娠中でなくても、離婚の要件は変わりません。したがって、妊娠中に離婚することは可能です。

妊娠中の離婚の手続き

妊娠中でも、離婚の手続きの流れは変わりません。

まずは夫婦間での話し合いによる協議離婚を目指します。夫婦が離婚に合意することができたら、離婚届を提出すれば離婚が成立します。

話し合いでの合意が難しければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。離婚調停では、家庭裁判所の調停委員会が夫婦それぞれから話を聞き、調停委員会を通して意見を調整します。

調停でも合意ができなかった場合は、離婚裁判を起こして争うことになります。

以上の流れは、妊娠中でなくとも同じです。

ただし、離婚の話し合いが長引いて、離婚の成立前に子どもが生まれた場合は、子どもの親権や戸籍の扱いに違いが出る可能性があります。

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妊娠中に離婚したくなる理由

夫婦が妊娠中に離婚を決意する理由としては、以下のようなものがあげられます。

妻側の理由

  • 夫の不倫・浮気
  • DV・モラハラ
  • 夫に親としての自覚がない
  • 夫の飲み会や遊び
  • 夫が家にいても何もしない

夫側の理由

  • スキンシップの減少・セックスレス
  • 自身の不倫・浮気
  • 妊娠の影響による妻の性格の変化
  • 妻の体調の変化やつわり、お腹が大きくなること
  • 父親になれる自信がない

女性は身体の変化やホルモンバランスの変化などを経て、自然と母親としての意識が醸成されるものですが、父親にはそれがないため、すれ違いの原因となってしまいます。

また、妊娠すると性的なニーズも変化し、性交渉やスキンシップが減少するため、不満に感じた夫が不倫や浮気に走ってしまうこともあります。

妊娠中の離婚の注意点

妊娠中の離婚を後悔してしまわないように、どのようなリスクがあるかを知り、対策を行いましょう。

経済的に苦しくなる

女性が出産の前後に働いて十分な収入を得るのは難しいため、離婚後に経済的に苦しくなってしまうことが予想されます。離婚前からの金銭的な備えが必要です。

また、出産費用についても考えなければなりません。まとまった費用が必要ですが、離婚した後で出産費用を請求しても、元夫に応じる義務はありません。

離婚の手続きが大変

離婚が決まると、役所での手続きや名義変更、引っ越しなど、様々な手続きが必要になります。これらの手続きの中には期限のあるものも多いですし、何か所も出かけなければいけません。体調の不安定な妊娠中に行うのは、かなり大きな負担になるでしょう。

一人で出産することになる

妊娠中に離婚すると、出産時に夫の付き添いを受けることができなくなります。実家が遠方の場合、両親の付き添いも難しく、転院して里帰り出産をするにも、別の病院で分娩予約が取れるとは限りません。

妊娠中に離婚した場合、一人での出産を覚悟する必要があります。

子育ての負担が増える

シングルマザーになった場合、一人で子育ての負担を抱えることになります。特に新生児期は、頻繁に授乳やおむつ替えが必要であったり、赤ちゃんが泣き止まなかったりと、母親は休む暇がありません。

また、ゆくゆくは子育てと仕事の両立も必要になるでしょう。

夫以外で家事や育児をサポートしてくれる人を見つけておくと安心です。

子どもが父親の戸籍に入ってしまう

離婚後に出産すると、親権者は母親になりますが、子どもが父親の戸籍に入る場合が多いため注意が必要です。子どもの戸籍については、後ほど詳しく解説します。

子どもが父親の戸籍にいても、直ちに困りごとが生じるわけではありませんが、自分の子どもが別れた夫の戸籍に入ることに抵抗を感じる方もいるでしょう。

出産後に子どもの苗字を変更して、母親の戸籍に移す手続きが必要になります。

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養育費の取り決めは公正証書で

妊娠中に離婚したとしても、子どもの父親に養育費を請求することができます。出産後の生活を支えるために、離婚時には養育費の取り決めを行いましょう。

養育費の取り決めは、公正証書として残しておくことをおすすめします。公正証書とは、公証役場にて公証人に依頼して作成してもらう公文書で、確実に養育費の支払いを受けるために重要です。

公正証書に強制執行認諾文言を入れておけば、相手からの養育費の支払いが滞ったときに、裁判を経ずに強制執行(差し押さえ)を行って支払いを実現させることが可能になります。

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離婚後の生活のためにどんなお金がもらえる?

離婚後の生活や子育てを支えるために、妊娠中に離婚した場合に受け取れるお金を紹介します。

妊娠中に離婚しても養育費を受け取れる

妊娠中に離婚しても、元夫が子どもの父親であることは変わらないので、元夫は子どもを扶養する義務を負います。したがって、父親に養育費を請求することができます

厚生労働省の調査によると、養育費の平均金額は母子家庭で月50,485円となっており、しっかりと受け取れば生活の支えになります。

離婚後に父親がすんなりと養育費の支払いに応じるとは限りませんが、そういった場合には家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることができ、家庭裁判所を介して話し合いを進めることができます。

ただし、離婚の日から300日が経過してから出産すると、生まれてきた子どもは非嫡出子(婚外子)とされ、元夫の子どもではないという扱いになります。

その場合、元夫が子どもを認知して、自分の子どもだと認めなければ、養育費を請求することができません。元夫に子どもを認知させるためには、別の手続きが必要になります。

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財産分与を受け取れる

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を離婚時に公平に分配することです。例えば、家やマンション、貯金、自動車などを、原則2分の1ずつ分け合います。

たとえ一方が専業主婦であったとしても、財産を2分の1ずつ分けるというのが調停や裁判での運用です。

ただし、相手の持っている財産を全て把握していないと、本来であれば受け取れたはずの額を受け取れない可能性もあります。互いの財産をリストアップして、確実に財産分与を受け取ることで、離婚後の生活の支えにすることができるでしょう。

慰謝料を受け取れる可能性もある

夫にDV・モラハラや不倫、悪意の遺棄などの行為があった場合は、慰謝料を請求できる可能性があります。

離婚の慰謝料は様々な要素を考慮してそのケースごとに判断されます。おおむね、100万~300万円で支払われることが多いようです。

離婚の理由ごとの慰謝料の相場は以下の通りです。

不貞行為100~300万円
悪意の遺棄50~300万円
DV50~500万円
モラハラ50~300万円
岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

こういった不法行為がなく、単に離婚をしただけでは、慰謝料を請求することは難しいと言えます。

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出産育児一時金を受け取れる

健康保険に加入している人は、出産時に健康保険から出産育児一時金を受け取れます。一時金の金額は子ども1人につき48.8万円もしくは50万円となっており、非常に頼りになる制度です。

会社の健康保険でも国民健康保険でも、なんらかの健康保険に加入していれば誰でも受け取ることができます。離婚によって夫の扶養から外れる方は、忘れずに健康保険の加入手続きを行いましょう。

公的支援を受けられる

母子家庭には、多くの公的支援が用意されています。ここでは、代表的なものを紹介します。

  • 児童手当
  • 児童扶養手当
  • 母子家庭の医療費助成制度
  • 公正証書作成費用の支援
  • 各自治体のひとり親家庭支援制度

これら以外にも、自治体によって支援制度が設けられている場合もありますので、自治体のホームページ等で調べてみてください。

申請が必要なものが多いため、事前に調べておいて、なるべく早く受給を始められるようにしましょう。

離婚後は生活費を請求できない

婚姻中の夫婦は、生活費(婚姻費用)を分担する義務を負っています。

これは別居中でも同じで、離婚するまでの間は、相手(収入の多い方)に生活費の分担を請求することができます。相手が支払いに応じない場合は、調停や裁判を起こして請求することもできます。

しかし、離婚が成立してしまうと、生活費の分担義務はなくなるため、調停や裁判では生活費の請求は認められなくなります

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妊娠中に離婚すると出産費用の請求は難しい

離婚後の出産費用についても、元夫には支払いの義務がありません。もちろん、任意で支払ってもらうことはできるので、離婚する前に夫と話し合うのが良いでしょう。

妊娠中に離婚したら子どもの親権や戸籍はどうなる?

妊娠中に離婚したら子どもの親権者と戸籍はどうなる?

妊娠中に離婚すると、子どもの親権者や戸籍はどのようになるのでしょうか?親権・苗字や戸籍の扱いは、子どもが生まれるタイミングによって変わります。

子どもの戸籍・苗字子どもの親権者戸籍上の父親
離婚後、300日以内に出産元夫母親元夫
離婚後、300日以降に出産母親母親
離婚成立前に出産両親両親元夫
離婚後、出産前に再婚(※)(※)(※)

離婚後300日以内に出産した場合

離婚後300日以内に生まれた子どもは、前の夫との間の子どもであると推定されます(嫡出推定)。

その場合、子どもは前の夫の戸籍に入り、前の夫の苗字を名乗ります。子どもを母親の戸籍に入れるためには、子どもの苗字を変える手続きと、戸籍を移す手続きが必要になります。

ただし、結婚の時に苗字を変えたのが夫側であり、離婚時に夫が旧姓に戻る場合は、子どもの戸籍と苗字は母親のものになります。

離婚後300日以降に出産した場合

あまりないケースですが、離婚後300日以降に生まれた子どもは、法律上は前の夫の子どもとはされません。したがって、母親の戸籍に入り、母親の苗字を名乗ります。また、母親が親権者になります。

離婚前に出産した場合

離婚の話し合いが長引き、離婚の成立前に子どもが生まれた場合、子どもは夫婦の戸籍に入ることになり、両親が共同で親権を持ちます

離婚後にどちらが親権を持つかについては、離婚時に話し合い、離婚届に記入します。

出産前に再婚した場合

※2024年4月1日の民法改正で、嫡出推定の制度が変わります。

これまでは、離婚後300日以内に生まれた子どもは前の夫の子ども、再婚から200日以降に生まれた子どもは新しい夫の子どもであると推定されていました。これだと、女性が離婚した日から100日以内に再婚した場合、前の夫と新しい夫と両方の子どもと推定されるケースが出てきてしまうため、女性は100日間再婚することが禁じられていました。

しかし、改正後は、離婚後300日以内に生まれており、生物学的には前の夫の子どもだったとしても、出産の時点で再婚していれば、新しい夫の子どもであると推定されることになります。それに伴って、女性の再婚禁止期間も廃止されます。

嫡出推定改正

妊娠中に離婚したら、面会交流はできる?

面会交流とは、離婚や別居により子と離れて暮らす親(非監護親)が、子と定期的・継続的に会って話をしたり遊んだり電話や手紙・メールなどで交流することです。

離婚後に相手と関わりたくない、子どもを相手に会わせたくないと思う方は多いですが、妊娠中に離婚しても、元夫と子どもの面会交流の権利は失われません

したがって、元夫から面会交流を求められたら、子の利益に反する事情がない限り、原則的に拒否できません

とはいえ、元夫にモラハラやDVがあった場合や、子どもが明確に拒否している場合、連れ去りの恐れがあるような場合は、拒否できる可能性があります。

面会交流を行う場合、「月1回、第3日曜日の午後1時から午後4時まで」などといった取り決めをしておくことが多く、夫婦間の話し合いで決めるのが難しければ、調停や裁判で争います。

妊娠中の離婚で後悔しないために

離婚するなら妊娠中?出産後?

妊娠中の離婚と出産後の離婚、それぞれにメリット・デメリットがあります。

離婚前に出産すれば、夫に生活費や出産費用、ベビー用品の費用などを負担してもらえるでしょう。離婚前に別居していても、相手に婚姻費用を請求することができます。このように、離婚前の出産には金銭的なメリットがあると言えます。

一方で、夫と過ごし続けるストレスを軽視することはできません。DVやモラハラなどを受ければ、母子の心身に悪影響が及ぶ可能性もあります。夫と少しでも早く離れたいなら、妊娠中でも離婚した方が良いかもしれません。

また、離婚前に子どもが生まれると、子どもの親権は両親が持つことになり、離婚時に親権争いが生じる可能性があります。離婚後の出産であれば、親権者は自動的に母親になります。離婚後でも親権者変更調停や審判・裁判によって親権者を変更することはできますが、多くの場合母親が親権者とされるため、親権を取られてしまうリスクが低くなります。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

メリットとデメリットを比較し、妊娠中でも離婚すべきなのか、慎重に判断しましょう。

妊娠中の離婚で後悔しないために必要な準備

離婚後に後悔しないために、以下のようなことについて、離婚前に準備しておきましょう。

  • 出産費用や生活費を用意する
  • 離婚後の住居を確保する
  • 働き口や子どもの預け先を確保する
  • 出産の環境を整える
  • 家事や育児をサポートしてくれる人を見つける
  • 適切な離婚条件を取り決める

妊娠中の離婚は弁護士に相談!

妊娠中の離婚は、話し合いや手続きに通常以上の負担がかかります。弁護士であれば、依頼者の代わりに相手方との話し合いができるため、負担の軽減に繋がります。

また、依頼者にとって最良の条件での離婚となるよう、専門知識をもとに交渉していくことができます。

離婚の話し合いを長引かせないためにも、妊娠中の離婚をお考えの方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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