離婚したら戸籍はどうなる?子どもの氏は変わる?
「結婚するときに苗字を変えた方は、離婚すると元の苗字に戻る」というのは、誰もが知っていることかと思います。
ですが、所定の手続きを踏むことで、離婚前の苗字を名乗り続けることもできるということはご存じでしたか?
では、離婚すると戸籍はどうなるのでしょうか。配偶者の戸籍からは離れることになりますね。
そうなると、自分は元いた戸籍に戻るのでしょうか。それとも、自分だけの戸籍ができるのでしょうか。実は、離婚届を提出する時に、どちらかを選ぶことができるのです。
どちらを選ぶのかは、自分が子どもを引き取ったり、離婚前の苗字を名乗り続けたい時に特に重要です。
間違った方を選ぶと後の手続きが複雑になってしまいます。離婚届を記入する前に離婚後の氏(苗字)と戸籍について知っておきましょう。
目次
離婚したら自分の氏はどうなる?
結婚するときに氏(苗字)を変えた方は、離婚時に何もしなければ元の氏に戻ります。これを復氏といいます。
しかし、離婚によって氏が変わると、このようなデメリットが生じます。
- 名義変更の手続きが大変
- 離婚したことが周囲に知られてしまう
- 子どもの苗字が変わったらかわいそう
- 仕事の人間関係に影響する
- アイデンティティが喪失される
このような問題を避けるために、婚姻中の氏を使い続けることも許されています。
婚姻中の氏を使い続けるには、「通称」と「婚氏続称」の2つの手段があります。
通称とは?
通称とは、戸籍上は旧姓に戻りながらも、婚姻中の氏を名乗り続ける方法です。
会社や学校では、通称の使用が認められるようになりつつあります。しかし、公的な書類上は旧姓に戻りますので、管理が複雑になるなどの問題があります。
婚氏続称とは?
婚氏続称とは、所定の手続きを踏むことで戸籍上の氏を婚姻中のままにする制度のことをいいます。
この手続きをすれば、名義変更の手間もなくなりますし、周囲に知られずに離婚することもできます。
婚氏続称の手続き
婚姻中の氏を使い続けたい場合は、離婚から3か月以内に「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出する必要があります。
この届の提出先は市区町村役場で、離婚届と同時に届け出ることも可能です。
離婚届よりも後に提出する場合は、それまでの間は一度旧姓に戻ることになってしまいますので、同時に提出することをおすすめします。
なお、離婚から3か月以上経って婚氏続称の手続きを行いたい場合は、家庭裁判所の許可が必要です。
婚氏続称の注意点
一度婚氏続称を選ぶと、簡単には旧姓に戻れなくなってしまいます。旧姓に戻りたくなった場合は、家庭裁判所に「氏の変更許可申立」をしなければなりません。
申し立てをしたからといって必ず認められる訳ではなく、「やむを得ない理由」が必要です。旧姓に戻ってから時間が経つほど、氏の変更は認められづらくなります。
離婚したら戸籍はどうなる?
戸籍の選択肢は2つ
離婚届には、婚姻前の氏にもどる者が「もとの戸籍にもどる」か「新しい戸籍をつくる」かを選ぶ欄があります。
「もとの戸籍にもどる」を選ぶと、婚姻前に入っていた戸籍(両親の戸籍など)にそのまま戻ることになります。
「新しい戸籍をつくる」を選ぶと、自分が筆頭者である新しい戸籍を作ることになります。
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「新しい戸籍をつくる」を選ぶのはどんなとき?
以下の3つのケースにあてはまる人は、「新しい戸籍をつくる」を選ぶ必要があります。
婚姻前の戸籍が除籍になっている場合
婚姻中に両親が死亡していたり、元々自分1人の戸籍を持っていたが、婚姻によって戸籍がなくなっていた場合がこれにあたります。戻るべき戸籍がないため、新たに戸籍を作ることになります。
婚姻前の氏に戻し、子どもを同じ戸籍に入れたい場合
離婚時、特に手続きをしなければ、子どもは元の戸籍にとどまります。
子どもを自分の戸籍に移したい場合は、新しく戸籍を作っておく必要があります。
それは、1つの戸籍には親子2代しか入ることができず、子どもから見て祖父母のいる戸籍に新たに入ることはできないからです。
婚姻中の氏を使い続けたい場合
婚氏続称の手続きをして婚姻中の氏を使い続ける場合は、親の氏と自分の氏が違うという状態になります。
しかし、違う氏を持つ人が同じ戸籍に入ることはできません。そのため、婚姻中の氏を使い続けたい場合は、新たに戸籍を作る必要があるのです。
子どもを同じ戸籍に入れるには?
何もしなければ、子どもは元の戸籍のまま
離婚届を提出する際に「妻が親権を行う子」の欄に子どもの名前を記入すれば、親権者自体は母親になります。しかし、子どもの戸籍は氏を変更しない方の親(多くの場合は父親)の戸籍に残り、氏も変更されません。
ですので、子どもの戸籍や氏が親権者と異なる状態になります。
この状態でも、母が親権を行うに際して大きな問題はありません。しかし、子どもと父親が同じ戸籍に入っているのが嫌と感じる方もいるでしょうし、自分と同じ苗字を名乗ってほしいと感じる方もいるかと思います。
離婚後に子どもを自分の戸籍に入れるための手続きは、以下の2ステップです。
- 家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立」を行う。
- 氏の変更が認められたら、役所で「入籍届」の手続きを行う。
子の氏の変更許可申立をする
離婚後、何の手続きもしなければ子どもの氏は変わりません。そして、違う苗字のままで同じ戸籍に入ることはできないので、子どもを自分と同じ戸籍に入れるためには、まず子どもの氏を自分と同じ氏に変更する必要があるのです。
子どもの氏を変更するためには、家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立」を行います。
子の氏の変更許可申立書は、裁判所ホームページでダウンロード可能です。
申立人となるのは、子どもが15歳未満のときは法定代理人(親)、15歳以上の場合は子ども本人です。子ども1人につき800円分の収入印紙と切手代が必要なほか、父母の戸籍謄本と、子どもの戸籍謄本を提出する必要があります。
入籍届を提出する
裁判所から子の氏の変更許可が下りたら、裁判所から交付される子の氏の変更許可審判書の謄本を持って市区町村役場へ行き、「入籍届」を提出します。
この時に、自分と親(子どもから見ると祖父母)が同じ戸籍に入っていると、子どもを同じ戸籍に入れることができません。それは、1つの戸籍に親子3代が入ることができないからです。
したがって、将来的に子どもを自分の戸籍に入れたいと思っている場合は、離婚届の提出時に「新しい戸籍をつくる」にチェックを入れる必要があるのです。
もし新しい戸籍を作り忘れていても、後から「分籍届」の手続きを行うことで、元の戸籍を抜けることができます。
婚氏続称を選んだ場合の子どもの氏
「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出して婚姻中の氏を使い続ける場合や、婚姻前の氏が夫婦で同じだった場合でも、子の氏の変更許可申立の手続きは必須です。
例えば、夫の氏が「田中」で、妻の旧姓も同じく「田中」だった場合、離婚後に婚氏続称の手続きをしなくても、苗字が変わりません。
これならば子の氏の変更許可も必要ないように思えますが、夫の「田中」と妻の「田中」は違う「田中」であるという扱いになっています。ですので、夫の戸籍から妻の戸籍へ子どもを移す場合には、子の氏の変更許可申立が必要なのです。
これと同じで、婚氏続称の手続きをして離婚前の苗字を使い続ける場合も、夫の「田中」と妻の「田中」は別の「田中」であるとみなされます。したがって、子どもの戸籍を移すためには、子の氏の変更許可申立が必要です。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
婚氏続称を選んだ後に旧姓に戻るには高いハードルがありますので、離婚後にどちらの氏を名乗るかは慎重に検討しましょう。