離婚後300日問題は民法改正でどうなる?嫡出推定制度の見直し

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離婚後300日問題

離婚後300日問題とは、夫婦が離婚したあと300日以内に生まれた子どもは、戸籍上前の夫の子どもになってしまうという問題のことを言います。

これまでは、離婚後300日以内に生まれた子供は元夫との間の子どもであると推定されることになっていました。しかし、元夫の子どもとして扱われてしまうことを避けるために、母親が出生届を提出しないケースがあり、少なくない数の無戸籍者が存在するという問題が起きています。

こういった背景から、2024年に民法が改正されることになりました。

この記事では、民法改正によって離婚後300日問題がどうなるのかを解説します。

離婚後300日問題とは?

嫡出推定とは?

民法772条の規定により、妻が婚姻中に懐胎した場合、その子どもは妻と元夫との間の子と推定されます。これを嫡出推定(ちゃくしゅつすいてい)と呼びます。

第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

現行法上、婚姻中の懐胎と推定される(嫡出推定が及ぶ)のは、「婚姻の成立の日から200日を経過した後、または婚姻の解消もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子」です。

嫡出推定改正:民法改正前の嫡出推定制度

このため、離婚後300日以内に生まれた子どもは、血縁上の父が元夫でなくても、戸籍上は元夫の子として扱われることになってしまいます。

これが離婚後300日問題です。

無戸籍児の問題

本来、子どもが生まれたら14日以内に自治体に出生届を提出しなければいけません。出生届を提出すると、子どもが戸籍に記載されます。

しかし、子どもの戸籍上の父親が元夫となることを避けるために、出生届を提出しないケースがあります。そうなると、生まれた子どもは戸籍がないまま育ちます。

現在日本にいる無戸籍者のうち、多くを占めているのが嫡出推定を理由に出生届が提出されなかったケースだと言われています。

無戸籍でも、住民登録ができたり、義務教育が受けられる場合があるなど、ある程度の救済措置は用意されています。

しかし、パスポートやマイナンバーカードが発行できず、そのせいで銀行口座が作れない、家が借りられないなど、子どもは大きな不利益を被ることになります。

なぜ嫡出推定の制度があるの?

このように、父親の問題や無戸籍の問題の原因となっている嫡出推定制度ですが、子どもの身分関係を早期に安定させるために必要とされています。

法律上の父親は子どもを扶養する義務を負うため、父親に対して養育費を請求することができます。また、法律上の父親が死亡した際、子どもは相続人となることができます。

このような子どもの利益を守るという観点から、生物学上の父親を正しく戸籍に記載することよりも、早い段階で法律上の父親を確定させることが優先されています。

2024年の民法改正で離婚後300日問題はどうなる?

改正前

第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

改正後

第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。

2 前項の場合において、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

3 第1項の場合において、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。

4 前3項の規定により父が定められた子について、第774条の規定によりその父の嫡出であることが否認された場合における前項の規定の適用については、同項中 「直近の婚姻」とあるのは、「直近の婚姻(第774条の規定により子がその嫡出であることが否認された夫との間の婚姻を除く。)」とする。

現行法改正法
嫡出推定離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定される離婚後300日以内に生まれた子でも母が再婚していれば新しい夫の子と推定される
再婚禁止期間女性は100日間再婚禁止再婚禁止期間の廃止
嫡出否認の訴え嫡出否認の訴えは父からのみ。
期限は1年間
母や子からも嫡出否認の訴えができる。
期限は3年間

離婚後300日問題に関する民法改正はいつから?

離婚後300日問題に関わる改正民法は、令和6年(2024年)4月1日から施行され、施行日以降に生まれた子どもに適用されます。

民法改正の内容①嫡出推定の見直し

令和6年の民法改正では、嫡出推定の制度が見直されます

これまでは、離婚後300日以内に生まれた子どもは前の夫の子どもであると推定されていました。

しかし、民法改正後は、離婚後300日以内に生まれた子であっても、出産の時点で母親が再婚していれば、新しい夫の子どもであると推定されることになります。

一方で、再婚しない場合は、離婚後300日以内に生まれた子に関しては、元夫の子どもとする扱いは変わらないため、再婚をしない母親にとっては改正の影響は少ないと考えられます。

嫡出推定改正

民法改正の内容②再婚禁止期間の廃止

これまでの民法では、女性にのみ離婚後100日間の再婚禁止期間が設けられていましたが、民法改正により女性の再婚禁止期間が廃止されます。再婚禁止期間が設けられていた理由は、離婚後すぐに再婚した人が子どもを産んだ場合に、前の夫と新しい夫と両方の子どもだと推定されるのを防ぐためです。

嫡出推定改正:民法改正前

例として、離婚した翌日に再婚した女性が、離婚から280日後に出産した場合について考えてみます。

この場合、離婚から300日が経っていないため、子どもは前の夫との間の子であると推定されます。その上、再婚から200日が経っているため、新しい夫との間の子であるとも推定され、父親が決まりません。

これを防ぐため、離婚後100日間は女性の再婚が禁止されていました。

しかし、民法の改正により、再婚をしていれば離婚後300日が経たずに生まれた子でも新しい夫の子であると推定されることになるため、再婚禁止期間は必要なくなりました。

民法改正の内容③嫡出否認を母・子からも訴えられるように

嫡出否認とは、親子関係を否定するために家庭裁判所で行う手続きです。

これまでは、嫡出否認は父親からしか訴えることができませんでした。つまり、父親の同意や協力が必要な手続きでした。

しかし、令和6年の民法改正により、嫡出否認の訴えを子や母から起こせるようになります

また、訴えを起こすことができる期間が、1年から3年に延長されます。

離婚後300日問題の対処法は?

子どもが戸籍上元夫の子となってしまう場合には、子どもと元夫の親子関係を否定する手続きを取ることができます。

医師の診断書を添えて出生届を提出する

離婚後300日以内に生まれた子どもであっても、離婚よりも後に妊娠したことが医師の診断によって証明されれば、元夫を父親としない出生届を提出することができます。

この手続きは、母親が単独で行うことができ、父親の関与は必要ありません。

懐胎時期を証明するためには、医師に「懐胎時期に関する証明書」を書いてもらい、出生届と併せて提出する必要があります。

嫡出否認の訴え

嫡出否認の訴えは、親子関係を否定するための手続きです。

元夫が生まれた子どもの父親であることを否定したい場合は、家庭裁判所に対して嫡出否認調停を申し立てることができます。調停前置主義が採用されているため、いきなり裁判を起こすことはできず、調停で話し合うところから始まります。

調停において双方が「子どもが夫の子どもではない」と合意ができ、裁判所が調査の上で正当であると認めれば、合意の内容に沿った審判が下されます。

審判が確定すると、裁判の判決と同じ効果が生じます。合意ができなかった場合は、嫡出否認訴訟を提起して争うことになります。

これまで、嫡出否認の訴えを起こせるのは父親のみでした。しかし、令和6年の民法改正により、子や母からも嫡出否認の訴えを起こせるようになります。

親子関係不存在確認の訴え

親子関係不存在確認の訴えは、戸籍上の父親が子どもの実の父親でないことを確認するための手続きです。

子どもが「推定されない嫡出子」または「推定の及ばない嫡出子」にあたる場合、親子関係不存在確認の訴えによって元夫との親子関係を否定することができます。

推定されない嫡出子とは、婚姻成立から200日以内に生まれた子のことを言い、いわゆる「授かり婚」で生まれた子などが当てはまります。

推定の及ばない嫡出子とは、離婚から300日以内に生まれていても、元夫との血縁関係がないことが明らかな子のことを言います。

「血縁関係がないことが明らか」というのは、例えば、懐胎した時期に夫が刑務所に入っていたり、夫婦が事実上の離婚状態にあって、生まれた子どもが夫の子でないことが外観上明らかな状態を言います。

また、DNA鑑定が証拠として用いられることもあります。

親子関係不存在確認の訴えは、嫡出否認の訴えと異なり、申し立ての期限がないほか、子、母、戸籍上の父(元夫)、実父など、訴えの利益がある者なら誰でも申し立てることができます。

調停前置主義が採られているため、まずは親子関係不存在確認調停を起こすことになります。調停は当事者間の合意を目指す手続きのため、元夫の関与が必要です。

認知の訴え(強制認知)

認知の訴え(強制認知)とは、生物学上の父に対して、裁判所の判決によって認知を強制する手続きです。この手続きは、子どもやその法定代理人(母)が申し立てることができます。

強制認知に関しても調停前置主義が採られており、まずは認知調停を申し立てる必要があります。ただし、上記の2つの手続きと違い、申し立ての相手方が血縁上の父親であるため、基本的には元夫の関与を受けずに子どもの父親を変えることができます。強制認知が認められると、子の戸籍上の父親が血縁上の父親に変更され、前夫との親子関係は否定されます

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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