離婚と子どもの法律知識|子どもがいる離婚のチェックリスト
子どもがいる家庭では、夫婦のみの家庭と比べて、離婚する際に子どもに関する様々なことを決めておかなければいけません。
子どもがいる夫婦の離婚では、親権以外にも養育費、面会交流などの離婚条件について話し合っておいた方がいいでしょう。
また、離婚後に子どものためにやっておかなければならない手続き、ひとり親家庭になることで受けられる経済的支援を知ることも重要です。
今回は、子どもがいる離婚について、親権や養育費などの離婚と子どもに関する法律知識、子どものために知っておきたい手続きや支援などを解説していきます。
目次
離婚したい!子どものために考えておくべきこと
子どもがいる離婚の準備
離婚は、夫婦の問題であると同時に、子どもの将来にも大きく影響する重要な決断です。しかし、事前にしっかりと話し合いと準備を行うことで、子どもの生活や将来をより安定したものにすることができます。
子どもがいる離婚では、特に以下のような重要事項についてしっかり話し合い、準備を進めることが求められます。
- 親権・養育費の話し合い
離婚の際は、どちらが子どもの親権を持つかを決めなければなりません。また養育費の支払い方法や金額についても、事前に具体的に取り決めておくことが大切です。曖昧なままにしておくと、離婚後にトラブルに発展する可能性もあります。 - 面会交流のルール決め
親権を持たない親との面会交流についても、あらかじめ頻度やルールを話し合っておくと良いでしょう。これにより、離婚後も子どもが両親と交流を持てるようにし、心理的な負担を軽減できます。 - 離婚後の生活環境の準備
子どもの生活が安定するよう、離婚後の居住環境や学校、生活費についての計画を立てましょう。行政の支援制度や児童手当、ひとり親家庭の支援などの公的サービスも、事前に調べておくと安心です。
子どもがいる離婚には、法的な知識や手続きが不可欠です。弁護士に相談することで、親権や養育費、面会交流などについて適切なアドバイスを受けることができます。離婚後のトラブルを防ぐためにも、弁護士を活用しておくと安心です。
子どものために離婚を避けるべきか?
「両親が揃っている方が子どもにとって幸せではないか」、そう感じて離婚に踏み切れない方は少なくありません。
離婚は子どもの生活や心に影響を与える可能性があり、慎重に考えるべき問題です。
しかし、親が無理をして結婚生活を続けることでストレスが蓄積し、家庭内に緊張感が生じる場合、それが必ずしも子どもにとって良い環境であるとは限りません。家庭が安心できる場であることが、子どもの健やかな成長にとっては何よりも重要です。
子どもの幸福を第一に考えたとき、離婚も選択肢の一つであり、その決断が子どもを守る手段となることもあるのです。
たとえ今すぐに離婚を決断するわけでなくとも、将来の選択肢として、離婚について事前に情報を集めて備えておくと、いざというときに冷静な判断がしやすくなります。
子どもを手放して離婚するという選択肢
離婚条件によっては、子どもと別れて生活することも選択肢の一つです。自分が親権を持たない場合でも、面会交流や生活支援について取り決めることで、離れていても子どもと関わりを持ち続けることが可能です。
また、養育費や子どもの生活支援などについて事前に調べておき、子どもの将来に必要なサポートをしっかり確保しておくことは、将来の自分や子どもをきっと助けてくれるでしょう。
離婚が子どもに与える影響と対策
離婚を「自分のせい」と思い込んでしまうリスク
離婚によって、子どもが「両親が別れたのは自分のせい」と感じてしまうことがあります。
対策
子どものせいで離婚したわけではないことを伝えるためにも、離婚理由や経緯について、年齢や理解力に応じてできる限り説明することが大切です。
その際、相手への非難や悪口は控えましょう。子どもにとって両親はかけがえのない存在であり、「親が変わらぬ愛情を持っている」と感じてもらうことが重要です。
事実は事実として伝え、その上で自分が離婚したいと思った気持ちを伝えれば、子どもも離婚を受け入れやすくなります。
片親と離れることで感じる孤独感や寂しさ
両親が揃っている生活が当たり前だった子どもにとって、片親と別々に暮らすことは大きな環境変化であり、寂しさや喪失感をもたらすことがあります。精神面や感情が不安定になることも少なくありません。
対策
面会交流で離れて暮らす父親と会う機会を設けたり、父親は離婚してもその子の家族であることを真摯に伝えるなど心理的なサポートは不可欠です。
両親のいる家庭との比較による劣等感
子どもは友人の家庭と自分の家庭を比較し、片親家庭であることに劣等感を抱くことがあります。特に学校行事や友人宅の話題で「自分だけが違う」と感じる場面で、孤独感を覚えることがあります。
特に小中学校では、入学式や卒業式などの式典、授業参観や運動会などの学校行事など、親が参加する機会は多いです。
片親家庭は決してめずらしいことではありませんが、両親がいる友人が周りにいることで、自分の家庭だけ「変」「特殊」と感じてしまうかもしれません。
対策
「片親家庭だから劣っているわけではない」ことを伝え、十分に愛されていると感じられるように接しましょう。親として子どもに多くの愛情を注ぎ、できるだけ多くの支えを与えることが、子どもの自己肯定感を高める助けとなります。
学習環境や生活環境の低下のリスク
離婚をすることで子どもへの教育費や生活費、交際費にかける余裕がなくなり、学習環境や生活環境に支障をきたす場合があります。
対策
離婚後に十分な養育費が得られないケースは少なくありません。子どもの将来を守るためにも、離婚前にあらかじめ養育費についてしっかり取り決めておく必要があります。
万が一の養育費未払いに備え、取り決めた内容は強制執行認諾文言付きの公正証書にしておくことも重要です。
親権者:離婚したら子どもはだれが育てるのか
親権は離婚時に必ず決定する必要がある
親権とは、未成年の子どもを保護し、育てるための「権利と義務」を指します。
離婚をする際、未成年の子どもがいる場合には、どちらが親権を持つかを決めることが法律で義務付けられています。
(離婚又は認知の場合の親権者)
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
第八百十九条
離婚は、夫婦が離婚に同意し、離婚届を提出することで成立します(協議離婚)。
協議離婚では、慰謝料や財産分与、養育費などは決めていなくても法的には離婚することができますが、親権者は指定しなければ離婚届が受理されません。
親権について争いがある場合には、最終的には裁判によって親権者を決定します。
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共同親権の導入:改正法による選択肢の拡大
現行の法律では、夫婦が離婚した場合はどちらか一方が親権を持つ「単独親権」となりますが、2024年5月の民法改正により、今後は「共同親権」も選択できるようになります。改正法は2026年までに施行される予定となっています。
共同親権の主なポイント
- 子どもの重要な決定(学校の選択や転居など)は両親の同意が必要です。
- 日常の行為(食事や習い事の選択など)や緊急時の対応(入学手続きや手術の決定など)は、どちらかの親が単独で行える場合があります。
- 共同親権にするかどうかは基本的に話し合いで決めますが、合意できない場合は家庭裁判所が判断します。
- DVや子どもへの虐待が懸念される場合には、安全のために「単独親権」となる場合もあります。
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養育費:離婚後の子どもの生活と将来のための費用
養育費の内容は合意すれば自由
養育費は、両親が離婚した場合に、子どもが成長するために必要な金銭で、衣食住にかかる費用や教育費、医療費などを含みます。
離婚をしても、親は子どもを扶養する義務を負っているため、子どもが親と同程度の生活ができるよう費用を負担しなければいけません。
養育費の支払い方法、金額、支払いが終わる時期については、両親の合意に基づいて自由に決めることができます。例えば、月々の金額、支払期間をどうするか、大学までをカバーするかなども話し合いで設定できます。
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養育費は公正証書にして確実な取り決めを
協議で養育費を決める際には、公正証書を作成することをおすすめします。強制執行認諾文言付きの公正証書があれば、養育費が支払われなくなった場合に、強制執行(差し押さえ)を行って、強制的に養育費の支払いを実現させることができます。
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養育費で揉めたら調停
養育費やその他の離婚条件で意見が合わない場合には家庭裁判所での調停を利用することができます。調停は、第三者である調停委員が仲介し、公平な立場で双方の意見を整理しながら、話し合いを進めて合意に向けてサポートする制度です。
養育費を含む離婚条件全体について話し合いたい場合には、家庭裁判所に「離婚調停」を申し立てることで、養育費や慰謝料、財産分与などの条件を含めた話し合いができます。
また、養育費のみを決めたい場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることも可能です。
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面会交流:離婚した親が子どもと会い、連絡を取る機会
離婚した親が子どもに会ったり連絡する面会交流
面会交流とは、離婚や別居で子どもと離れて暮らす親が、定期的に子どもと会ったり、電話や手紙、メールなどで連絡を取ることです。
面会交流は、離れて暮らす親のためだけでなく子どものための制度でもあります。面会交流の取り決めをする際は、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」とされています。
面会交流の決め方
面会交流の頻度や方法、内容は、まず両親の話し合い(協議)で決めます。しかし、意見が合わない場合には「離婚調停」やで調停委員の仲介を得て話し合いが行われます。
具体的には、面会交流を認めるか、月にどのくらい行うか、宿泊を認めるか、監護親が同席するか、子どもにお小遣いやプレゼントを渡してもよいかといった条件を決めます。
離婚した親と子どもの面会交流は原則拒めない
面会交流は、原則として拒否できません。
面会交流は、子どものための制度であり、子どもの利益を最も優先して考慮したうえで決められるものです。そのため、単に「会わせたくない」といった感情的な理由での拒否は認められません。
しかし、子どもが明確に拒否している、相手が子どもを虐待したり連れ去るおそれがあるなどの場合には、拒否できるケースもあります。
離婚後のトラブルを未然に防ぐためにも、何より子どもの健全な成長のためにも、面会交流の可否や内容についてあらかじめ決めておいた方がいいでしょう。
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離婚後の子どもに関する手続きも忘れずに
離婚後の子どもの氏の変更・入籍届
離婚によって親権者の苗字が旧姓に戻った場合でも、子どもの苗字は自動的に変わりません。
子どもを新しい戸籍に移し、親権者と同じ苗字にするには、家庭裁判所に子どもの苗字の変更許可を申し立て、許可が下りたら入籍届を提出する必要があります。
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児童手当の受け取り先の変更
離婚後は、子どもと同居する親が児童手当の受給者となります。離婚によって児童手当の受給者を変更する必要がある場合は、速やかに手続きを行いましょう。
受給者の変更徹続きは、離婚日から15日以内に市町村役場で「受給事由消滅届」と「認定請求書」を提出して行います。遅れると手当の受給が一時停止されたり、返還が必要になる場合もあるので早めに手続きを済ませましょう。
健康保険・年金などの手続
元配偶者の扶養内で生活していた場合、離婚後は健康保険や年金の変更手続きが必要です。
- 扶養から外れる場合
専業主婦や扶養内で働いていた方は、離婚後5日以内に元配偶者の勤務先に「国民年金第3号被保険者関係届」と「健康保険被扶養者(異動)届」を提出します。 - 新しい保険に加入する場合
離婚後も就職しない場合や自営業・フリーランスとして活動する場合は、14日以内に市町村役場で国民健康保険と国民年金への加入手続きを行います。また、勤務先で社会保険に加入する場合は、手続きを勤務先で行い、子どもを扶養家族に含めることが可能です。
ひとり親家庭が受けられる支援
離婚後の生活を安定させるために、ひとり親家庭が受けられるさまざまな支援制度を利用しましょう。各制度には条件や申請期限があるため、早めに調べて準備することが重要です。
- 児童扶養手当:ひとり親家庭の子どもに支給される手当。
- 就学援助制度:学用品、給食費、修学旅行費用などの援助が受けられる制度。
- 医療費助成:ひとり親家庭の医療費を支援する制度。
- 母子父子寡婦福祉資金貸付金制度:開業、就学、転居などの際に自治体から貸付が受けられる制度。
- 寡婦控除:一定額を所得から控除し、納税額が減少する制度。
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子どもがいて離婚する際は弁護士に相談
子どもがいる夫婦が離婚する際、親権者を決めるだけで離婚自体は成立させることができますが、それだけでは不十分です。
養育費や面会交流といった離婚後の生活にかかわる条件についても、あらかじめ話し合い、取り決めをしておかないと、後々トラブルが生じる可能性があります。
また、離婚後には行うべき公的な手続きや行政サービスの申請が数多くあり、期限が定められていることもあります。そのため、手続きをスムーズに進められるよう、離婚前からしっかりと準備をしておくことが大切です。
自分だけでなく、子どもの将来にもかかわる大事な問題でもありますので、子どもがいる離婚はぜひ弁護士にご相談ください。
法律の専門家である弁護士に相談すれば、親権や養育費の交渉をはじめ、進めておくべき手続きについて具体的なアドバイスが受けられます。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
養育費の金額については、家庭裁判所が作成した「養育費算定表」が参考にされることが一般的です。
アトム法律事務所の婚姻費用・養育費計算機を使えば、簡単に養育費の目安を知ることができます。