離婚後に養育費を確実に受け取るための公正証書の作成方法

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離婚後、子どもの養育費は生活の基盤を支える非常に重要なお金です。

しかし、養育費の支払いは長期に及ぶため、相手方が途中で支払わなくなってしまうケースも少なくありません

そのような事態を回避するには、強力な法的効力を持つ「公正証書」を作成するのが有効です。

この記事では、公正証書を作成するメリットや、基本的な内容、その作成手続きや費用について詳しく解説します。

養育費を確実に受け取りたいなら公正証書を作ろう!

公正証書とは?

公正証書とは、私人からの依頼により、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書を意味します。

離婚問題で公正証書が関係するのは、一般的に協議離婚をする場合です。

離婚に際して作成される公正証書は、「離婚給付契約公正証書」と呼ばれています。

協議離婚の中でも、養育費、慰謝料、財産分与、年金分割などお金に関する合意をした場合は、公正証書を作成することを強くおすすめします。

強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくと、お金の支払が遅れた場合に、調停や審判など家庭裁判所の手続きを経ず、すぐに強制執行できるようになるからです。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

なお、公正証書を作成しても、強制執行認諾文言がなければ、すぐに強制執行することはできないため注意が必要です。

なぜ養育費に公正証書が必要なのか

養育費の取り決めを口頭や私的な書面だけで行うと、以下のようなリスクがあります。

  • 支払いが滞った際に法的な強制力がない
  • 取り決めの内容が不明確で、後に解釈の相違が生じる可能性がある
  • 支払い義務者の意識が低く、継続的な履行が期待できない

公正証書を作成することで、これらのリスクを大幅に軽減できます。

養育費について公正証書を作成するメリット

養育費について強制執行認諾文言付き公正証書を作成するメリットは、主に3つあります。

メリット

  • ①養育費の不払いの場合にすぐ強制執行できる。
  • ②財産開示手続きや第三者からの情報取得手続きが利用できる。
  • ③相手方に心理的プレッシャーを与えられる。

①養育費の不払いの場合にすぐ強制執行できる

強制執行認諾文言付き公正証書は、強制執行をするために必要な債務名義となります。

この文書を作成しておくと、相手方が養育費を支払わなかった場合に、調停や審判を経ることなく、相手の財産を差し押さえて養育費を回収することができます。

強制執行認諾文言は、例えば次のような文面で公正証書に記載されます。

【強制執行認諾文言の例】

第〇条 甲は、本契約に定める金銭債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。

さらに、養育費に関しては、将来分も含めて強制執行ができる点が特徴です。たとえ一部しか未払いでなくても、今後の支払い分についても強制執行が適用されます。

また、養育費の差し押さえに関しては通常よりも優遇措置があります。通常の債権では給料の4分の1までしか差し押さえできませんが、養育費の場合は、給料の2分の1まで差し押さえることが可能です

これにより、養育費の確保が優先され、子どもの生活を守る仕組みが整っています。

岡野タケシ弁護士
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強制執行認諾文言付き公正証書のほか、調停調書や審判書、判決などによっても強制執行が可能です。

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【補足】面会交流など金銭以外の取り決めは公正証書では強制執行できない

強制執行できるのは、金銭給付に関する合意をした場合に限られます。したがって、面会交流など金銭以外の取り決めについては、公正証書を作ったとしても強制執行することはできません

しかし、合意内容を明確化するという点では大きな意味があります。

公正証書に記載した内容どおりに面会交流が実施されない場合は、非監護親から調停や審判が申し立てられ、その中で公正証書が証拠として提出される可能性が高いでしょう。

②財産開示手続きや第三者からの情報取得手続きが利用できる

①で挙げた「公正証書を作ればすぐ強制執行できる」というメリットは、実は少し前まで実現が難しいものでした。

というのも、せっかく費用をかけて公正証書を作成しても、債務者が逃げてしまうケースが少なくなかったからです。

そうなると給料を差し押さえようとしても、対象の預金口座を見つけることができず、結局強制執行が不成功に終わってしまうケースがよく見られました。

しかし、令和元年に民事執行法が改正されたことで、公正証書の効力は格段に高まりました。

この法改正により、強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておけば、財産開示手続きと第三者からの情報取得手続きが利用できるようになったのです。

各手続きの概要は以下のとおりです。

【財産開示手続き】

養育費の支払を受けられない人(債権者)の申立てにより、裁判所が債務者を呼び出して、債務者に財産の内容や勤務先などを陳述させる手続です。

不出頭や虚偽陳述に対しては、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます(法改正前は30万円以下の過料のみ)。

債務者は刑事罰を避けたいという理由から、財産開示手続きに出頭するケースが多く、特に公務員や大企業に勤務している場合は、制裁による影響が大きいため出頭しやすくなります。

そこで実務では、財産開示期日終了後に裁判所の待合室で、債権者の代理人弁護士が債務者と直接交渉し、養育費の支払いを求めることがよくあります。

公正証書を作成しておくことで、債権者側の弁護士が債務者と直接やり取りできる機会を確保できるという点も隠れたメリットかもしれません。

【第三者からの情報取得手続き】

裁判所が、金融機関などに対し、債務者の預貯金に関する情報(取扱支店名、預貯金の種別、口座番号、残高)などの提供を命じる制度です。

これらの手続きをうまく利用すれば、強制執行が成功する可能性が飛躍的に高まります。

法改正がされ、公正証書の効力が高まった今こそ、養育費確保のために公正証書を作成しておくメリットがますます高まっているといえます。

③相手方に心理的なプレッシャーを与えられる。

強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておくと、相手方(債務者)に「お金をきちんと支払わなければ強制執行される」というプレッシャーを与えられます。

この効果は、単に離婚協議書を作成しただけでは得られないものです。

養育費に関する公正証書の書き方

一般的に、離婚給付契約公正証書には、以下の事項から当事者に必要なものを選んで記載します。

【離婚給付契約公正証書の一般的な内容】

  • 離婚の合意
  • 親権者(親権者と監護者を分離する場合は、監護者も明記する)
  • 養育費
  • 面会交流
  • 離婚慰謝料
  • 財産分与
  • 住所変更等の通知義務
  • 清算条項
  • 強制執行認諾

養育費の条項に記載すべき事項

養育費の条項には、次の内容を盛り込むようにしましょう。

①金額

養育費の額は夫婦間の話し合いで合意すればその金額となります。実務で定着している裁判所の「算定表」をもとに金額を算出すると良いでしょう。

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アトム法律事務所の「婚姻費用・養育費計算機」を使えば、簡単操作で目安がわかります。

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②支払期間

養育費の終期は子どもが経済的に自立するときです。多くの場合、子どもが満20歳に達する日の属する月とします。

ただし、大学等への進学が見込まれる場合は、大学卒業時を終期とするなどの工夫が必要です。(養育費の公正証書についてよくある質問Q2参照)

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③支払時期

毎月一定額を支払う内容が基本形ですが、ボーナス月に加算するなどの合意も可能です。

④特別な支出についての分担方法

進学費用などの特別な支出が生じた場合に備え、分担額や支払方法などを決めておくと安心です。

養育費に関する公正証書の基本形

ここでは、父母間で取り決めた養育費の内容を公正証書にする場合の基本形をご紹介します。

第〇条

甲は、乙に対し、当事者間の長女丙(令和〇年〇月〇日生)、二女丁(令和〇年〇月〇日生)の養育費として、一人につき月額〇円を、令和〇年〇月から同人らがそれぞれ満20歳に達する日の属する月まで、毎月末日限り、〇銀行〇支店の乙名義の普通預金鋼材(口座番号〇〇〇)に振り込む方法により支払う。この振込手数料は、甲の負担とする。

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この基本形は、離婚届が提出済みの場合の条項です。

【注意点】離婚届未提出の場合には工夫が必要

離婚届をまだ提出していない場合は、条項中に「離婚の成否にかかわらず」「本件離婚届出の受理の前後を問わず」などの文言を入れておくと、強制執行の際スムーズです。

これらの文言がないと、いざ強制執行をしようとする際、「離婚が成立した」ことをわざわざ疎明する必要が出てくるのです。

具体的には、債権者が離婚の事実が記載されている戸籍謄本を公証役場に提出して、その書類を相手に送達しなければなりません。

この手続きは煩雑である上、相手に強制執行を察知され逃げられてしまうリスクが生じます。

これに対し、「離婚の成否にかかわらず」などの文言を入れておくと、債権者が公証役場から執行文をもらうだけで強制執行を開始できます。

【離婚届未提出の場合の条項例】

第〇条

甲は、乙に対し、離婚の成否にかかわらず、当事者間の長女丙(令和〇年〇月〇日生)、二女丁(令和〇年〇月〇日生)の養育費として、一人につき月額〇円を、令和〇年〇月から同人らがそれぞれ満20歳に達する日の属する月まで、毎月末日限り、〇銀行〇支店の乙名義の普通預金鋼材(口座番号〇〇)に振り込む方法により支払う。この振込手数料は、甲の負担とする。

養育費の公正証書作成は十分な確認を!

養育費の公正証書を作成する場合は、一つ一つの文言に細心の注意を払う必要があります。

一見すると問題なさそうに見える文言が原因で強制執行できなかったり、手続きが面倒になるケースは少なくありません。

さらに気をつけたいのが、テンプレートの使用についてです。

ネットで簡単に入手できる公正証書のテンプレートは、たしかに便利です。しかし、あくまで一般的な内容をまとめたものであることに注意する必要があります。

本当の意味で有益な公正証書を作成するには、当事者の要望や必要性を漏れなく反映させる必要があるのです。

子どもが大学進学する予定はあるか、年齢に応じて養育費額を変える必要があるか、子どもが複数いる場合は金額や終期はそれぞれどうするかなど、考えなければならない問題は人によって様々です。

子どもの将来をより良いものにするために、公正証書の作成に際しては、弁護士の事前チェックを受けるのが安心です。

弁護士のサポートを受ければ、個別のニーズがしっかりと反映された公正証書が作成できるでしょう。

養育費の公正証書についてよくある質問

Q1. 養育費の金額は公証人が考えてくれるの?

A1. いいえ。養育費の金額は、あくまで当事者で決める必要があります。

裁判所が公開している算定表をもとに話し合うのが基本です。

うまくいかない場合は、早めに弁護士に相談してみましょう。弁護士が相手と交渉することで、スムーズに合意に至りやすくなります。

Q2. 大学進学が予定される場合はどのような条項にすれば良い?

A2. 大学進学が予定される場合、支払終期を大学卒業時としておきます。例えば、以下のような条項を定めます。

【大学進学が予定される場合の条項例】

第〇条

甲は、乙に対し、丙の養育費として、月額〇円を、令和〇年〇月から同人が満22歳に達した後最初に到来する3月まで(※子どもが3月生まれの場合、「満22歳に達する日の属する月まで」。)、毎月末日限り、〇銀行〇支店の乙名義の普通預金口座(口座番号〇〇)に振り込む方法により支払う。この振込手数料は甲の負担とする。

【注意点】

終期を「大学に進学した場合は、その卒業の月まで」と定めるのは問題があります。

このように定めると、強制執行をする際、大学に入学したことを疎明する必要があり手続きが煩雑になります。

終期は、できる限り具体的な数字で定めておくのがトラブル防止につながります。

Q3. 事情変更が生じた場合はどうすれば良いの? 

A3. 当事者の経済状況等によって事情が変わった場合、養育費の金額を変更するには、まずは話し合いから始めます。

当事者同士の話し合いが難しい場合は、弁護士に代理で交渉してもらうと良いでしょう。

それでも合意に至らない場合は、調停や審判を申し立てる必要があります。

事情変更が生じた際に、誠実に協議して解決を図ることを約束する条項(誠実協議条項)を公正証書の中にあらかじめ入れておくと良いでしょう。

例文は以下のとおりです。

【誠実協議条項の例文】

第〇条 甲及び乙は、将来、甲又は乙の再婚、当事者の経済状況、物価の高騰、その他の事情の変更があったときは、丙の養育費の変更について、誠実に協議し、円満に解決するものとする。

このような条項を入れておけば、相手方に話し合いを提案した際、「そのような話し合いをするとは聞いていない」と門前払いされてしまうことを抑止できます。

協議の結果、養育費の額を減額・増額した場合はあらためて公正証書を作成しておくのが安心です。

公正証書作成の流れと費用

公正証書作成のタイミングは?

公正証書を作成するタイミングは、離婚前でも離婚後でも構いません。しかし、一般的には離婚前に公正証書を作成するケースが多いです。

なぜなら、離婚後に作成しようとしてもそもそも相手が話し合いに応じない可能性があるからです。

離婚条件について双方が納得し、その合意内容を公正証書化してから離婚した方が、将来のトラブル防止につながります。

公正証書作成の流れ

公正証書作成の大まかな流れは下図のとおりです。

公正証書の作成手順

ポイントは、公正証書の原案作成です。アトム法律事務所の『離婚協議書のサンプル・ひな形』を使えば、原案作成が進めやすくなりますので、ぜひご活用ください。

ただ、テンプレートには含まれていない個別事情の文書化が必要な場合も少なくありません。

少しでも不安がある場合は、弁護士の無料相談を利用してみてください。

公正証書作成の詳しい流れ・費用については、関連記事をぜひ参考にしてください。

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離婚の公正証書を徹底解説!作り方や内容、効力は?

公正証書の作成費用

公正証書の作成には、公証人手数料が必要です。

公証人手数料は、以下の表に従って決まります。

表中の「目的金額」とは、公正証書で取り決める金銭の支払額を意味します。

目的金額公証人手数料
100万円以下5,000円
100万円を超え200万円以下7,000円
200万円を超え500万円以下1万1,000円
500万円を超え1000万円以下1万7,000円
1,000万円を超え3,000万円以下2万3,000円
3,000万円を超え5,000万円以下2万9,000円
5,000万円を超え1億円以下4万3,000円
1億円を超え3億円以下4万3,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下9万5,000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額
10億円を超える場合24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額

日本公証人連合会ホームページより作成

慰謝料、財産分与、養育費の支払を公正証書にする場合は、慰謝料+財産分与と養育費(10年分の金額のみ)の手数料をそれぞれ算定し、その合計額が手数料の額となります。

そのほか、送達や証書の枚数によって、若干の手数料がかかります。

費目金額
執行文の付与1通 1,700円
正本または謄本の交付1枚 250円
送達1通 1,400円
送達証明書1通 250円
閲覧1回 200円
原本の超過枚数加算縦書き:4枚を超過するごとに250円
横書き:3枚を超過するごとに250円

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了