養育費・婚姻費用算定表の見方&自動計算ツール(新算定表対応)
養育費・婚姻費用の計算は複雑ですが、相場が簡単にわかる算定表があります。
養育費・婚姻表算定表は複数あり、子の有無・人数・年齢によって該当する表は違います。
養育費や婚姻費用の相場が知りたい場合、該当する算定表の縦軸で費用を支払う側(義務者)の年収を、横軸で費用を受け取る側(権利者)の年収を探し、交差する部分の金額を見ます。
今回は、調停や裁判で実際に使う「養育費・婚姻費用算定表」(裁判所HP・2019年最新版)を用い、相場の出し方を解説します。
養育費・婚姻費用算定表のほか、自動計算ツールもあるので、ぜひご活用ください。
目次
養育費・婚姻費用とは?
養育費算定表の「養育費」とは
養育費とは、子どもの生活や教育などに必要なあらゆる費用のことをいいます。
養育費算定表は、離婚後の子どもの養育費について、夫婦のどちらが、どのくらい負担するのか決めるために使います。
裁判所の養育費算定表は、公立中学校・公立高校の子どもの教育費を考慮したものです。算定表で調べた相場よりも多くの教育費が必要な場合、別途、離婚相手と交渉する必要があるでしょう。
なお、養育費をいつまで負担するのかは、夫婦の最終学歴や教育方針にもよります。
養育費の請求期間の例
- 子どもの高校を卒業する年の3月まで
- 子どもが20歳を迎えるまで
- 子どもが22歳を迎える年の3月まで
子どもと一緒に暮らさない親も、子どもを養育する義務があることには変わりありません。多くの場合、毎月決まった額の養育費を送金するような取り決めをします。
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・離婚後の養育費の相場はいくら?支払われなかったらどうする?
婚姻費用にも算定表がある?
婚姻費用とは、夫婦が婚姻している間の生活費のことをいいます。
婚姻費用にも養育費と同じように算定表があり、相場を知ることができます。
なお、子どもがいる夫婦の場合、婚姻費用には子どもの養育費も含まれます。子どもの養育費については、離婚するまでは婚姻費用として請求します。
別居中 | 離婚後 | |
---|---|---|
配偶者の生活費 | 婚姻費用 | ー |
子どもの生活費 | 養育費 |
通常、婚姻費用は夫婦のうち収入の多い方から、少ない方へ支払います。
ただ、例外もあるので、離婚にくわしい弁護士に相談したり、婚姻費用算定表を使ってご自身で確認したりしてみてください。
婚姻費用の請求が問題になる場面
婚姻費用の請求が問題になる場面は、おもに以下の2つです。
- 別居中の生活費を請求したい
- 同居しているが相手が生活費を入れてくれない
このうち、離婚実務では、とくに1つ目の別居中の生活費の請求という場面が問題になります。
同居中には当然生活費を分担しているはずですが、離婚前の別居中にも配偶者に対して婚姻費用の支払いを請求することができます。
別居中に婚姻費用を請求する場合、多くは、毎月決まった額の婚姻費用を送金するような取り決めをします。
なお、離婚をすれば夫婦が協力する義務はなくなるため、婚姻費用を請求することはできません。
また、くり返しにはなりますが、夫婦にお子様がいる場合、離婚後の養育費は、養育費算定表を参考に相手に請求することになります。
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養育費・婚姻費用算定表の見方と計算方法
こちらが、裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表です。
養育費と婚姻費用に分かれており、算定基準が異なります。
この算定表に用いられている計算方法のことを改定標準算定方式といい、これら3つの項目をもとに計算します。
算定表の3つの基礎
- 夫婦それぞれの年収
- 自営業者か給与所得者か
・自営:個人事業主
・給与所得者:会社員、会社役員 - 子どもの状況
人数・年齢(0~14歳、15歳~)
以下では、この表の使い方を説明します。
1.養育費・婚姻費用算定表を選ぶ
算定表は、子どもの人数や年齢ごとに分かれています。
0歳から14歳までの子どもと、15歳以上の子どもでは、用いる算定表が異なるので注意してください。
ご自身に合うものを選び、左の列にあるリンク(「表〇」)を踏むと、裁判所のホームページで公開されている算定表にたどり着くことができます。
必要に応じてダウンロードすることもできます。
養育費算定表(離婚後の養育費)
裁判所のホームページで公開されている養育費算定表を整理して掲載しています。この養育費算定表は、令和元年12月23日に公表された改定標準算定表(令和元年版)です。
婚姻費用算定表(離婚前の婚姻費用)
0~14歳 | 15歳以上 | 子の合計 | |
---|---|---|---|
表10 | 0人 | 0人 | 夫婦のみ |
表11 | 1人 | 0人 | 1人 |
表12 | 0人 | 1人 | 1人 |
表13 | 2人 | 0人 | 2人 |
表14 | 1人 | 1人 | 2人 |
表15 | 0人 | 2人 | 2人 |
表16 | 3人 | 0人 | 3人 |
表17 | 2人 | 1人 | 3人 |
表18 | 1人 | 2人 | 3人 |
表19 | 0人 | 3人 | 3人 |
裁判所のホームページで公開されている婚姻費用算定表を整理して掲載しています。この婚姻費用算定表は、令和元年12月23日に公表された改定標準算定表(令和元年版)です。
2.夫婦それぞれの年収をあてはめる
次に、算定表の縦軸と横軸から、夫婦それぞれの年収を探します。
縦軸は義務者(養育費や婚姻費用を支払う方)の年収、横軸は権利者(支払いを受ける方)の年収です。
年収は数十万円刻みで書かれていますが、その間の額である場合はどちらか近い方を選びます。たとえば、給与所得者で年収が443万円の場合は、425万円と450万円のうち近い方、つまり450万円を選択してください。
給与所得者の収入の求め方
給与所得者の場合の収入は、手取り収入ではなく、控除されていない金額です。
直近の源泉徴収票の「支払金額」、直近の課税証明書の「給与収入」などが、養育費・婚姻費用算定の際の給与所得者の収入になります。
なお、養育費・婚姻費用の算定では、支払い義務が発生したときの収入を確定する必要がありますが、通常、源泉徴収票や課税証明書は、前年度のものしか手元にないと思います。
そのため、基本的には、前年度の収入で養育費・婚姻費用の相場を考えることになります。ただし、今年度の収入が大きく変わったような場合は、直近3ヶ月分の給与証明などを参照することもあります。
給与所得者の収入の求め方の例
- 直近の源泉徴収票の「支払金額」
- 直近の課税証明書の「給与収入」
- 直近3ヶ月分の給与証明
自営業者の収入の求め方
自営業者は、個人事業主などを指します。
自営業者の養育費・婚姻費用の相場を考えるときは、確定申告書第一表をお手元にご用意ください。
養育費・婚姻費用算定表にいう自営業者の収入は、確定申告書にある「課税される所得」に、「所得から差し引かれる金額」のうち「社会保険料控除」以外の項目、「青色申告特別控除額」、実際に支払っていない専従者給与などを加算した金額となります。
自営業者の収入の求め方の例
以下の項目等を足し合わせる
- 課税される所得
- 所得から差し引かれる金額のうち「社会保険料控除」以外の項目
- 青色申告特別控除額
- 専従者給与
給与所得と事業所得の両方がある場合
給与所得と事業所得の両方がある場合、どちらかに収入をそろえて算定表をチェックするという方法が考えられます。
小さい数字で考えてみましょう。
たとえば、給与所得が「100万円」、自営業の収入が「22万円」だったとします。
給与所得にそろえる場合、事業所得22万円は、給与所得に換算すると25万円になるので、給与所得100万円に、25万円を加算して、125万円が収入となります。
一方、事業所得にそろえる場合、給与所得100万円は、事業所得に換算すると82万円になるので、自営業の収入22万円に、82万円を加算して、104万円が収入になります。
ただ、この計算方法の欠点としては、給与所得にそろえるか事業所得にそろえるかで、請求額に差が生じる点です。
請求する側としては、ひとまず有利な計算方法で、請求をだしておくという対応が考えられます。
また、より正確な計算方法、有利な進め方などを弁護士に相談してみるという対応も考えらます。
無職でも年収を加味することがある
無職でも、必ずしも収入が0円とされる訳ではありません。本人や子どもの状況などを考慮して、働こうと思えば働ける状況であると判断された場合は、潜在的な収入を計算に用いることがあります。
各種手当はどうなる?
児童扶養手当や児童手当は、親の年収に含めません。子どものための社会保障給付だからです。
年収が上限を超える場合
算定表では、お金を支払う側の年収は給与所得者は2,000万円、自営業者は1,567万円が上限とされています。そのため、算定表を用いて交渉を行う場合、これらが上限となる可能性があります。
算定表の上限を超える婚姻費用や養育費を、高額所得者へ請求したい場合は『高額所得者の婚姻費用・養育費は?算定表を超える場合の考え方』の記事もご覧ください。
3.年収の交わるところを見つける
夫婦それぞれの年収が交わるところが、1か月あたりの標準的な養育費・婚姻費用の月額です。
それぞれ1〜2万円の幅が設けられていることが分かります。
算定表では、月額0円のこともあれば、25万円、30万円という金額になることもあります。
調停や裁判では、当事者の具体的な事情を勘案して、この幅の中で額が調整されることが多いようです。
実際に算定表を使ってみよう
夫640万・妻110万・子供2人の婚姻費用シミュレーション
例として、以下の条件で婚姻費用を算出してみましょう。養育費を求める場合も使い方は同じです。
- 夫(義務者)の年収が640万円
- 妻(権利者)の年収が110万円
- 夫婦2人とも給与所得者
- 10歳の子どもが1人、17歳の子どもが1人いる
1.婚姻費用算定表を選ぶ
今回の場合、15歳以上の子どもと0~14歳の子どもが1人ずついるため、「(表14)婚姻費用・子2人表」を選びます。
2.夫婦それぞれの年収をあてはめる
2人とも自営業者ではなく給与所得者ですので、「給与」の軸からそれぞれの年収を選びます。
義務者の年収は640万円です。表には625万円と650万円の行がありますが、より近い650万円を選択します。
同じく、権利者の年収は110万円ですので、最も近い100万円を選択します。
3.年収の交わるところを見つける
それぞれの年収から線を延ばし、線が交わるところを探します。
すると、14~16万円のところで交わることが分かりました。
したがって、この夫婦の場合は、14~16万円が婚姻費用の目安となります。
夫450万・妻100万・子供1人の養育費
同じ要領で養育費算定表も見ることができます。
たとえば、夫が会社員で収入が450万円、妻がパートで年間100万円収入があり、子どもが1人いる場合、妻から夫に請求できる養育費の相場は、4~6万円です。
夫が自営業の場合は、妻から夫に請求できる養育費の相場が6~8万円となります。
このケースでは、子どもの年齢が14歳未満でも15歳以上でも、養育費の相場は同じです。
算定表がおかしいと感じたら?
養育費・婚姻費用算定表は高すぎる?低すぎる?
算定表を用いるメリットとして、専門家でなくとも迅速に、公平に判断ができるという点があります。一方で、個別の事情が反映されづらいというデメリットもあります。
算定表を用いて養育費や婚姻費用を算出したら、「受け取る額があまりに低すぎる」「支払う額があまりに高すぎる」と感じる方もいるかもしれません。
その場合は、当事者同士で話し合って額を調整するか、調停・審判を起こして家庭裁判所のもとで争うことになります。
また、離婚前の場合は、離婚調停(夫婦関係調整調停)の中で他の離婚条件と一緒に話し合うこともできます。
養育費請求調停・婚姻費用分担請求調停を起こす
当事者間での話し合いが決裂した場合は、家庭裁判所に養育費請求調停や婚姻費用分担請求調停を申し立てることができます。
調停とは、家庭裁判所の調停委員会の介入を受けて、夫婦の合意を目指す手続きです。
調停を行っても合意に至ることができないと分かった場合は、調停は不成立となり、自動的に審判に移行します。
審判では、調停で話し合った内容を踏まえて、裁判官が養育費や婚姻費用の額を決定します。したがって、審判に進めば、夫婦の合意がなくても結論が出されます。
なお、調停を経ずに審判を申し立てることも可能です。ただし、調停を経ずにいきなり審判を申し立てても、裁判所の判断でまずは調停の手続きに付されることもよくあります。
即時抗告を申し立てる
審判を受けたけれどもその結果に不服があるという場合は、結果の通知を受け取ってから2週間以内であれば不服申立て(即時抗告)をすることができます。
手続きとしてはまず、抗告状を提出し、その後に抗告理由書を提出します。そうすると高等裁判所にて審理が始まり、裁判所が最終的な判断を行います。
ただし、養育費や婚姻費用分担請求の審判は、即時抗告をしたからといって必ずしも自分に有利に結論が変わるとは限らず、もっと不利な方向に結論が変更されてしまうリスクがありますので、注意が必要です。
事情が変わったら金額も変わる?
養育費や婚姻費用を受け取っている間に、金額を増額してもらいたい事情が生じることがあります。
例えば、自分や子どもが病気になってしまったり、子どもが私立の学校に進学したために高額の学費が必要になる場合などが考えられます。
一方、自分が養育費や婚姻費用を支払っている間に、自分の収入が減ってしまったなどの事情で、支払う額を減らしたいこともあるでしょう。
そういった場合、当事者間で話し合いを行って合意ができれば、後からでも金額を変更することができます。
合意が難しい場合は、養育費請求調停・婚姻費用分担請求調停を起こして、家庭裁判所で話し合うことになります。
算定表がおかしいと感じた場合
- 高すぎる場合
→減額をこころみる
※リストラされた場合、再婚した場合など - 低すぎる場合
→増額をこころみる
※昇給があった場合、進学や治療の費用がかかる場合など - 金額を争う方法
話し合い、調停、審判
養育費・婚姻費用算定表のまとめ
最後にひとこと
別居中に受け取る婚姻費用や離婚後の養育費は、離婚時の重要な争点のひとつです。
養育費や婚姻費用の額は、夫婦が合意すれば自由に決めることができますが、目安や相場を知らないと話し合いが難しいでしょう。
ご自身で養育費・婚姻費用の相場を確認するには、以下の方法があります。
- 裁判所がHP公開している養育費・婚姻費用算定表を使う
- 法律事務所が公開している養育費・婚姻費用計算機(自動計算ツール)を使う
- 離婚にくわしい弁護士に相談する
離婚にくわしい弁護士に相談すれば、婚姻費用・養育費以外の離婚問題全体についても相談することが可能です。
離婚をスムーズに進めるためには、離婚に関する知識の情報収集が不可欠です。
弁護士に養育費・婚姻費用の交渉を任せることもできる
弁護士に依頼して交渉の間に入ってもらうと、互いに冷静に話し合いをすることができます。
特に、相手と顔を合わせたくない場合や、DV被害の心配があるような場合、弁護士に相手との連絡や話し合いを任せることで、自分は相手と一切連絡を取らなくて良くなるため、安心です。
また、離婚に詳しい弁護士なら、養育費や婚姻費用の相場も理解していますので、適正な金額を求めて交渉をしていくことが可能です。
養育費や婚姻費用の話し合いに不安がある方は、弁護士への相談を検討してみましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了