養育費・婚姻費用算定表の見方と計算方法を解説!
離婚前の別居中は、自分より収入の多い配偶者に対して、自分や子どもの生活費として婚姻費用を請求することができます。
また離婚後は、元配偶者に対して、子どもの生活費や学費などとして養育費を請求することができます。
養育費や婚姻費用の額は、夫婦が合意すれば自由に決めることができますが、裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表(裁判所HP)を使用して金額を算出することもあります。
現在は、2019年に改定された算定表が最新の計算方法となっており、調停や裁判でも広く用いられています。もちろん、夫婦で話し合う際にも非常に参考になります。
今回は、養育費・婚姻費用算定表の見方と計算方法を、具体例も交えて解説します。
▼カンタン操作で目安がわかる
目次
養育費・婚姻費用算定表の見方と計算方法
こちらが、裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表です。
この算定表に用いられている計算方法のことを改定標準算定方式といい、これら3つの項目をもとに計算します。
- 夫婦それぞれの年収
- 自営業者か会社員か
- 子どもの人数(0~3人)と年齢(0~14歳、15歳~)
以下では、この表の使い方を説明します。
1.養育費・婚姻費用算定表を選ぶ
算定表は、子どもの人数や年齢ごとに分かれています。この中から、ご自身に合うものを選んでダウンロードしてください。
リンク先は、裁判所のホームページで公開されている算定表のファイルです。
離婚後の養育費算定表
- (表1)養育費・子1人表(子0~14歳)
- (表2)養育費・子1人表(子15歳以上)
- (表3)養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)
- (表4)養育費・子2人表(第1子15歳以上,第2子0~14歳)
- (表5)養育費・子2人表(第1子及び第2子15歳以上)
- (表6)養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子0~14歳)
- (表7)養育費・子3人表(第1子15歳以上,第2子及び第3子0~14歳)
- (表8)養育費・子3人表(第1子及び第2子15歳以上,第3子0~14歳)
- (表9)養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子15歳以上)
離婚前の婚姻費用算定表
- (表10)婚姻費用・夫婦のみの表
- (表11)婚姻費用・子1人表(子0~14歳)
- (表12)婚姻費用・子1人表(子15歳以上)
- (表13)婚姻費用・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)
- (表14)婚姻費用・子2人表(第1子15歳以上,第2子0~14歳)
- (表15)婚姻費用・子2人表(第1子及び第2子15歳以上)
- (表16)婚姻費用・子3人表(第1子,第2子及び第3子0~14歳)
- (表17)婚姻費用・子3人表(第1子15歳以上,第2子及び第3子0~14歳)
- (表18)婚姻費用・子3人表(第1子及び第2子15歳以上,第3子0~14歳)
- (表19)婚姻費用・子3人表(第1子,第2子及び第3子15歳以上)
2.夫婦それぞれの年収をあてはめる
表の縦軸と横軸から、夫婦それぞれの年収を探します。
縦軸は義務者(養育費や婚姻費用を支払う方)の年収、横軸は権利者(支払いを受ける方)の年収です。
年収は数十万円刻みで書かれていますが、その間の額である場合はどちらか近い方を選びます。たとえば、給与所得者で年収が443万円の場合は、425万円と450万円のうち近い方、つまり450万円を選択してください。
年収の求め方
給与所得者の場合の年収は、手取り収入ではなく、控除されていない金額です。源泉徴収票でいう「支払金額」の部分です。そのほかに確定申告をしていない収入がある場合は、支払金額に加算します。
自営業者の場合は、確定申告書の中の「課税される所得金額」が年収となります。児童扶養手当や児童手当は、年収に含めません。
なお、一方が無職でも、必ずしも収入が0円とされる訳ではありません。本人や子どもの状況などを考慮して、働こうと思えば働ける状況であると判断された場合は、潜在的な収入を計算に用いることがあります。
3.年収の交わるところを見つける
夫婦それぞれの年収が交わるところが、1か月あたりの標準的な養育費・婚姻費用の月額です。
それぞれ1〜2万円の幅が設けられていることが分かります。
調停や裁判では、当事者の具体的な事情を勘案して、この幅の中で額が調整されることが多いようです。
実際に算定表を使ってみよう
例として、以下の条件で婚姻費用を算出してみましょう。養育費を求める場合も使い方は同じです。
- 義務者の年収が640万円
- 権利者の年収が110万円
- 2人とも給与所得者
- 10歳の子どもが1人、17歳の子どもが1人いる
1.婚姻費用算定表を選ぶ
今回の場合、15歳以上の子どもと0~14歳の子どもが1人ずついるため、「(表14)婚姻費用・子2人表」を選びます。
2.夫婦それぞれの年収をあてはめる
2人とも自営業者ではなく給与所得者ですので、「給与」の軸からそれぞれの年収を選びます。
義務者の年収は640万円です。表には625万円と650万円の行がありますが、より近い650万円を選択します。
同じく、権利者の年収は110万円ですので、最も近い100万円を選択します。
3.年収の交わるところを見つける
それぞれの年収から線を延ばし、線が交わるところを探します。
すると、14~16万円のところで交わることが分かりました。
したがって、この夫婦の場合は、14~16万円が婚姻費用の目安となります。
養育費・婚姻費用とは?
養育費とは
養育費とは、子どもの生活や教育などに必要なあらゆる費用のことをいいます。
具体的には、未成熟の子どものいる夫婦が、離婚後に負担する子どもの生活費や学費を指します。
子どもと一緒に暮らさない親も、子どもを養育する義務があることには変わりありません。多くの場合、毎月決まった額の養育費を送金するような取り決めをします。
関連記事
・離婚後の養育費の相場はいくら?支払われなかったらどうする?
婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦が婚姻している間の生活費のことをいいます。
同居中には当然生活費を分担しているはずですが、離婚前の別居中にも配偶者に対して婚姻費用の支払いを請求することができます。
多くの場合、毎月決まった額の婚姻費用を送金するような取り決めをします。
離婚をすれば夫婦が協力する義務はなくなるため、婚姻費用を請求することはできません。子どもがいる場合、離婚後は養育費として子どもの分の生活費だけを請求することになります。
通常、婚姻費用は収入の多い方から少ない方へ支払います。未成熟の子どもがいる場合は、養育費も併せて婚姻費用として請求します。
別居中 | 離婚後 | |
---|---|---|
妻(夫)の生活費 | 婚姻費用 | ー |
子どもの生活費 | 養育費 |
関連記事
算定表がおかしいと感じたら?
養育費・婚姻費用算定表の結果がおかしい!
算定表を用いるメリットとして、専門家でなくとも迅速に、公平に判断ができるという点があります。一方で、個別の事情が反映されづらいというデメリットもあります。
算定表を用いて養育費や婚姻費用を算出したら、「受け取る額があまりに低すぎる」「支払う額があまりに高すぎる」と感じる方もいるかもしれません。
その場合は、当事者同士で話し合って額を調整するか、調停・審判を起こして家庭裁判所のもとで争うことになります。
また、離婚前の場合は、離婚調停(夫婦関係調整調停)の中で他の離婚条件と一緒に話し合うこともできます。
養育費請求調停・婚姻費用分担請求調停を起こす
当事者間での話し合いが決裂した場合は、家庭裁判所に養育費請求調停や婚姻費用分担請求調停を申し立てることができます。
調停とは、家庭裁判所の調停委員会の介入を受けて、夫婦の合意を目指す手続きです。
調停を行っても合意に至ることができないと分かった場合は、調停は不成立となり、自動的に審判に移行します。
審判では、調停で話し合った内容を踏まえて、裁判官が養育費や婚姻費用の額を決定します。したがって、審判に進めば、夫婦の合意がなくても結論が出されます。
即時抗告を申し立てる
審判を受けたけれどもその結果に不服があるという場合は、結果の通知を受け取ってから2週間以内であれば不服申立て(即時抗告)をすることができます。
手続きとしてはまず、抗告状を提出し、その後に抗告理由書を提出します。そうすると高等裁判所にて審理が始まり、裁判所が最終的な判断を行います。
ただし、養育費や婚姻費用分担請求の審判は、即時抗告をしたからといって必ずしも自分に有利に結論が変わるとは限らず、もっと不利な方向に結論が変更されてしまうリスクがありますので、注意が必要です。
事情が変わったら金額も変わる?
養育費や婚姻費用を受け取っている間に、金額を増額してもらいたい事情が生じることがあります。
例えば、自分や子どもが病気になってしまったり、子どもが私立の学校に進学したために高額の学費が必要になる場合などが考えられます。
一方、自分が養育費や婚姻費用を支払っている間に、自分の収入が減ってしまったなどの事情で、支払う額を減らしたいこともあるでしょう。
そういった場合、当事者間で話し合いを行って合意ができれば、後からでも金額を変更することができます。
合意が難しい場合は、養育費請求調停・婚姻費用分担請求調停を起こして、家庭裁判所で話し合うことになります。
弁護士に交渉を任せることもできる
弁護士に依頼して交渉の間に入ってもらうと、互いに冷静に話し合いをすることができます。
特に、相手と顔を合わせたくない場合や、DV被害の心配があるような場合、弁護士に相手との連絡や話し合いを任せることで、自分は相手と一切連絡を取らなくて良くなるため、安心です。
また、離婚に詳しい弁護士なら、養育費や婚姻費用の相場も理解していますので、適正な金額を求めて交渉をしていくことが可能です。
養育費や婚姻費用の話し合いに不安がある方は、弁護士への相談を検討してみましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
調停を経ずに審判を申し立てることも可能です。ただし、調停を経ずにいきなり審判を申し立てても、裁判所の判断でまずは調停の手続きに付されることもよくあります。