養育費の強制執行はどうやる?未払いの時の選択肢と手続きの流れ

養育費の未払いは、子どもの生活や教育に深刻な影響を及ぼします。
支払いが滞った場合、相手の財産を差し押さえる「強制執行」が法的手段の一つです。ただし強制執行以外にも、家庭裁判所が相手に支払いを促す「履行勧告・履行命令」といった手続きも利用できます。状況によって有効な手段は異なるため、それぞれの特徴をふまえたうえで対応を検討することが大切です。
本記事では、養育費未払いへの対処法や強制執行の具体的な手続き、未払いを防ぐための対策を解説します。
養育費の支払いが滞っている場合は、お子様の将来を守るためにも、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
目次
養育費の未払いが起こった場合の選択肢は?
養育費を回収するための選択肢
養育費が未払いとなった場合の対処法は、債務名義があるかどうかで変わります。
債務名義とは、金銭などの支払を受ける権利があることを証明する書類のことです。判決書・和解調書・調停調書・審判書・強制執行認諾文言付公正証書などがこれに当たります。
債務名義の有無や取り決めの方法によって、取り得る対処法は以下のように分かれます。

①直接交渉する、調停を申し立てる
養育費の調停や審判を経ておらず、当事者間での合意もない場合は、まず元配偶者にメールなど記録に残る方法で連絡をとってみましょう。
それでも未払いが続く場合は、弁護士に依頼して督促状を送ると反応があることもあります。
弁護士の書面にも応じない場合は、養育費分担請求調停の申し立てに進みましょう。調停が成立すると調停調書が作成され、これが債務名義となるため、その後も未払いが続いた場合に強制執行を申し立てられるようになります。
合意がない場合は、できる限り早く養育費分担請求調停を申し立てるのが現実的な対応といえます。養育費の請求は、初めて請求をした日より前に遡ることが認められないケースがほとんどです。
なお、令和8年(2026年)4月以降は法改正により、新しい選択肢も利用できるようになりました。
父母間で作成した養育費の合意文書があれば、公正証書などの債務名義がなくても子1人あたり月額8万円を上限に差し押さえが可能になります。また、離婚時に養育費の取り決めをしていなかった場合でも、子1人あたり月額2万円の「法定養育費」を請求でき、未払いの際は差し押さえを申し立てられます。
②履行勧告
調停や審判などで養育費の取り決めがある場合は、履行勧告・履行命令と強制執行を選択肢として検討できます。
履行勧告とは、調停などを行った家庭裁判所が、権利者の申出を受けて、義務者に支払いを履行するよう促す手続きです。
費用がかからず、相手に心理的プレッシャーを与えて任意の支払いを期待できる点がメリットです。一方、強制力はないため、無視されてしまうとそれ以上の効果は見込めません。
③履行命令
家庭裁判所は、権利者の申立てに基づいて義務者に養育費の支払いを命じることができます。これを履行命令といいます。
正当な理由なく履行命令に従わない場合は過料が科されます。ただし過料は国庫に納められるもので権利者に支払われるわけではないため、実務上はあまり利用されないとされています。
④強制執行
履行勧告などで未払いが解決しない場合は、強制執行を検討します。
強制執行は原則として、公正証書や裁判所の手続きで債務名義を取得している場合に利用できる手続きです(2026年4月以降は一定の合意文書に基づく差し押さえの例外もあります)。直接強制と間接強制の2種類があります。
直接強制
直接強制は、相手の財産を差し押さえて、その財産から養育費の支払いを受ける方法です。強制執行というと、一般的にこの直接強制をイメージする方が多いでしょう。
差し押さえの対象となる財産は、預貯金・給与・退職金・不動産・動産などです。養育費の未払いのケースでは、預貯金や給与を差し押さえる債権執行が多く利用されます。
間接強制
間接強制は、一定期間内に支払いがない場合に間接強制金を課すと警告することで、任意の支払いを促す制度です(養育費が支払われない場合は1日あたり1,000円〜3,000円程度が課される例があります)。
相手に差し押さえるべき財産がない場合や、自営業者で安定した収入が見込めない場合、給与を差し押さえると相手が退職するおそれがある場合などは、間接強制を選択するメリットが大きくなります。
ただし、相手に支払能力がない場合や、支払いにより相手の生活が著しく苦しくなるときは認められない可能性があります。
養育費の強制執行とは?手続きの流れは?
養育費の強制執行の特徴は?
養育費の強制執行(直接強制)には、他の種類の債権にはない特例があります。法律上、権利者(養育費を受け取る側)の保護が手厚く図られており、回収可能性を高めるための仕組みが設けられています。
①将来分の差し押さえも可能
定期的に支払期限が来る養育費(毎月末日を支払期限とするケースなど)については、未払い分だけでなく、まだ支払期限が来ていない将来分についても差し押さえを申し立てられます。ただし、将来分は各支払期限が到来した後に受け取る形になります。
将来分を差し押さえられるのは、給与や家賃収入のように義務者が継続的に受け取る金銭に限られます。預貯金の払い戻しや退職金のように1回で支払いが完了するものは、将来分の差し押さえの対象にはなりません。
このしくみの最大のメリットは、1度差し押さえを申し立てれば、毎月の未払いのたびに手続きをし直す必要がなくなる点です。権利者の負担を大きく軽減できます。
また、給与債権などを1度差し押さえると取り下げるまで効果が続くため、「任意に支払うようになれば取り下げる」と提案することで、義務者の自発的な支払いを促しやすくなります。
(具体例)
毎月5万円の養育費を支払う調停が成立したにもかかわらず4回分未払いとなっている。
子の成人まで残り30か月、将来分の合計が150万円ある場合、未払い分20万円と将来分150万円の差し押さえが可能です。
- 未払い分20万円
まとめて受け取れます。 - 将来分150万円
一括回収はできません。養育費の支払期限が毎月末日、義務者の給料日が毎月25日であれば、1月分の養育費は2月25日に支給される給与から受け取ることになります。
②差し押さえ禁止債権の範囲が縮小されている
強制執行で給与債権を差し押さえる場合、通常は手取り額の4分の1までしか差し押さえできません。義務者の生活を維持するための法律上の制限です。
養育費の場合はこの制限が緩和されており、給与債権の2分の1まで差し押さえることができます。
(具体例)
義務者の給与が月額20万円の場合、養育費の差し押さえであれば10万円まで差し押さえできます(通常の差し押さえでは5万円が上限)。
③債務者が自己破産しても養育費支払義務は当然にはなくならない
破産手続開始決定前に未払いとなっていた養育費については、破産手続に従って配当等で支払いを受けます。それでも不足する分は、破産手続の外で元配偶者に請求できます。
たとえ元配偶者が自己破産してもその支払義務はなくなりません。
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養育費の強制執行を実行する前に考えておきたいこと
養育費の強制執行には特例があり、未払い分の回収が期待できます。一方で、事前に知っておきたいデメリットもあります。
典型的なデメリットとしては、相手との感情的な対立が深まること、強制執行手続きに時間と費用がかかること、相手が勤務先に居づらくなって退職や転職をするおそれがあること、相手に支払能力がない場合は費用倒れになるリスクが高いことなどが挙げられます。
こうしたデメリットも踏まえた上で、それでも強制執行を行うメリットが上回るかどうかを判断することが大切です。判断に迷う場合は、弁護士に相談すれば状況に応じた対応策を一緒に検討できます。
養育費回収の戦略
養育費の不払いに対しては、「履行勧告などで任意の支払いを求め、応答がなければ強制執行へ進む」という流れが一つの典型例です。ただし、これが必ずしもすべてのケースに当てはまるわけではありません。
パターン①
相手が公務員や会社員であれば、すぐに行方をくらますリスクは低いと考えられます。まずは任意の支払いを求めてもある程度の実効性が見込めるでしょう。
パターン②
相手が職を転々とするタイプや、「逃げる」ことをいとわない性格の場合、任意の支払いを求めた時点で仕事を辞めてしまうおそれがあり、強制執行の難易度が高まります。このようなケースでは、相手に動きを察知されないよう注意しながら、当初から強制執行に向けて準備を進める戦略が有効です。
いずれにしても、早い段階で弁護士に相談し、相手の状況や出方を予測した上で対応を進めるのが最善の近道です。
強制執行手続の流れ
養育費の強制執行の大まかな流れは以下のとおりです。
養育費の強制執行の流れ
- 債務名義に執行文を付与する
- 債務名義の送達証明を取得する
- 債務者の住所を管轄する裁判所に強制執行を申し立てる
- 差押命令を取得する
- 金銭を回収する
手続きが完了すると、権利者自身が義務者の勤務先など(第三債務者)に対して給与などの支払いを求め、金銭を受け取れるようになります。
各手続きの内容や必要な費用については、『離婚の強制執行で未払い金を回収|養育費・慰謝料等の手続きの流れと費用』で詳しくご説明しています。ぜひご覧ください。
養育費の強制執行を成功させるためのポイント
強制執行を成功させるには、相手の財産をできる限り事前に把握しておくことがポイントです。財産を調査する方法は主に3つあります。
①弁護士会照会
弁護士法23条の2に基づく制度で、弁護士会が官公庁や企業などに必要事項を照会できます。
銀行名や支店名が分かっており、調停調書などの債務名義がある場合、相手の口座の有無や預貯金残高などを把握できる可能性があります。
この制度は弁護士のみが利用できるため、検討している方は弁護士に相談しましょう。
②財産開示手続
財産開示手続とは、債権者の申立てにより、裁判所が債務者を呼び出して財産の内容や勤務先などを陳述させる制度です。
正当な理由なく陳述しなかったり、虚偽の陳述をした場合、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。
相手の勤務先や口座が不明な場合でも、財産開示手続を利用することで情報を得られる可能性があり、強制執行に向けた突破口になることがあります。
③第三者からの情報取得手続
第三者からの情報取得手続とは、裁判所が権利者の申立てにより、金融機関などに対して債務者の預貯金情報(取扱支店名・口座番号・残高など)の提供を命じる制度です。
養育費の場合は、市区町村や日本年金機構に対して勤務先などの情報提供を求めることもできます。
なお、令和8年(2026年)4月以降は、財産調査の申し立てと同時に差し押さえの申し立てもしたものとみなされる「ワンストップ執行手続」が利用できるようになりました。
財産調査から差し押さえまでを1回の申し立てで連続して進められるため、手続きの負担が大幅に軽減されます。
養育費の未払いを防ぐための対策
養育費の合意に関する公正証書を作成する
養育費の未払いを防ぐには、債務名義を取得しておくことが非常に重要です。
当事者間の話し合いで養育費の支払いについて合意した場合は、合意内容を強制執行認諾文言付公正証書にしておくことをおすすめします。
口頭の合意だけでは、後日、支払金額や支払期間について元配偶者との間で争いになる可能性が高くなります。
公正証書を作成する場合は、その過程についても認識の違いが生じないよう注意が必要です。錯誤(勘違い)を理由に合意の取り消しを主張されるケースがあるためです。
こうした主張を防ぐには、養育費の合意が形成されるまでの過程が客観的にわかる形で記録を残しておくのがおすすめです。例えば、メールでやり取りしてデータを保存しておく方法が考えられます。
最も安心なのは、協議の段階から弁護士に関与してもらい、交渉の過程で一つひとつ相手の合意を得ながら公正証書化する方法です。弁護士が関与していれば、公正証書の文案作成やチェックも任せられるため、将来のトラブル防止に効果的です。
法改正で強制執行の負担減
2020年の民事執行法改正により、強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておけば、財産開示手続や第三者からの情報取得手続を利用できるようになりました。これらの手続きを活用すれば、養育費の強制執行が成功する可能性が高まります。公正証書を作成しておくメリットは、従来に比べてますます高まっているといえます。
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定期的な支払状況の確認
養育費の支払いが適切に行われているか、定期的に確認しましょう。支払いが遅れがちな場合は、早めに弁護士に相談して適切な対応を取ることが、未払いを防ぐ鍵になります。
養育費の強制執行は弁護士に相談!
養育費の支払いが遅れた場合は、いち早く対処しないと大きな後悔につながりかねません。早期に対処するほど未払い分の回収が期待できるだけでなく、将来の履行確保にもつながります。
養育費の強制執行をお考えの方は、未払い養育費の回収を取り扱う弁護士へのご相談をおすすめします。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律税務グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
