自己破産と離婚の最適なタイミングは?|メリット・デメリットを解説

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自己破産を検討している方の中には、「離婚を先にしたほうがよいのか?」と悩んでいる方が多くいます。

また、配偶者が自己破産を検討している場合に自分にどのような影響があるか心配している方も少なくないでしょう。

この記事では、これらの悩みをもっている方に向けて、自己破産と離婚の最適なタイミング、自己破産が配偶者に与える影響、離婚した方がよいケースとしない方がよいケースについて、わかりやすく解説します。

自己破産と離婚は、どちらも人生の大きな決断であり、進め方を間違えると財産や配偶者への影響が大きくなる可能性があります。この記事を参考に、後悔のない選択をしていただけると幸いです。

自己破産する場合、離婚を先にした方がよい?

自分が自己破産をする場合の離婚のタイミングは?

自分が自己破産と離婚を考えている場合は、破産申立てを先にして、免責決定を受けた後に離婚をするのが良いでしょう。

その理由は、仮に離婚を先行させると、破産申し立てによって財産分与で得た財産が清算の対象になってしまうからです。

まずは破産申立てを先行させ、後から離婚による財産分与を受けた方が、手元に残る資産が多くなります。

配偶者が自己破産する場合の離婚のタイミングは?

配偶者が自己破産を検討している場合は、離婚と財産分与を先行させた方があなたの手元に残る資産は多くなります。

ただし、その場合は破産手続きについて、費用と時間の面で負担が大きくなる可能性があります。

破産手続きの負担を軽くしたいのであれば、相手の破産手続きが終わってから離婚する方が良いでしょう。

もっとも、破産後に離婚すると財産分与の対象財産がほとんどない状態になっていると考えられます。

自己破産と離婚のどちらを先行させるにしても、それぞれにメリット・デメリットがあります。

財産分与、養育費、慰謝料について、自己破産と離婚のタイミングによってどのような影響があるかについては、次章で詳しく解説します。

自己破産と離婚を同時に進めるメリット・デメリットは?

破産するのがどちらであるかにかかわらず、自己破産と離婚を同時に進めてしまいたいと考える方も多いと思います。

両方の手続きを同時に進める場合、メリットとしては、手続きを一括処理できるため時間や費用の面でコストを抑えられる可能性がある点が挙げられます。

しかし、デメリットとして、手続きが複雑化してしまうこと、一方の手続きが他方に影響して予期しないトラブルが生じる可能性が高いことが挙げられます。

以上のメリット・デメリットを考えると、離婚と自己破産はどちらか一方を先行させ、状況を整理してから他方の解決に取り組むのがおすすめです。

相手が自己破産する前に離婚するとどうなる?

(1)相手が自己破産する前に離婚する場合の財産分与

メリット

離婚と財産分与を先行させると、相手方の自己破産を先行させる場合に比べ、あなたのもとに多くの財産が残ります。

なぜなら、先に自己破産すると、自由財産である99万円を除いて相手方のもとにはほとんど財産が残らない状態になるからです。

一方、離婚と財産分与を先に行っておけば、夫婦が婚姻中に築いた共有財産を原則として2分の1ずつ分けることができます。

デメリット

離婚と財産分与を先行させる場合、財産隠しと疑われて自己破産手続きが「管財事件」となる可能性が高くなります。

管財事件は、費用と時間の面で負担が大きくなることが一般的です。

用語解説:「管財事件」と「同時廃止事件」

破産手続には、「管財事件」と「同時廃止事件」があります。
管財事件は、裁判所に選任された破産管財人が、債務者の財産を金銭に換えて債権者に配当する手続です。管財事件の予納金は、40万円以上かかるのが一般的です。管財事件が終了するまで半年から1年程度かかります。
一方、同時廃止事件は、債務者の財産が極めて少なく、財産を金銭に換えても破産手続きの費用も支出できないことが確実に認められる場合に、破産管財人を選任せずに破産手続きを終了させる事件です。同時廃止事件の予納金は、12,000円程度です。同時廃止事件の場合は、3カ月程度で終了する場合が多いです。

管財事件となり、破産管財人がすでに行われた財産分与について否認権を行使すると、財産分与は取り消されて、元配偶者が取得した財産は破産財団に引き渡さなければならなくなります。

もっとも、判例は、債務者から元配偶者になされた財産分与行為については、財産分与の趣旨に反して、不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、取り消しの対象にならないと判断しています(最判昭和59年12月19日)。

実務も上記判例の立場をとっています。

財産隠しと判断されるケース・されないケース

では、どのような基準で「相当」な財産分与と判断されるのでしょうか。

財産分与には、清算的要素・扶養的要素・慰謝料的要素の3つが含まれていると考えられています。

財産分与が相当かどうか判断する場合も、これら3つの要素を考慮することになります。

例えば、清算的要素の観点からは、共有財産を2分の1に分ける財産分与は原則として相当と考えられます。

反対に、2分の1を超える財産分与は、相当といえる特別の事情がない限り、財産隠しとみなされて取り戻しの対象になってしまうおそれが高いでしょう。

離婚と財産分与を先行させる場合のポイント

離婚と財産分与を相手方の自己破産より先に行う場合は、後で財産分与が取り消されないように、相当な財産分与であることを証明する証拠をそろえておくことが重要です。

対象財産の評価の根拠となる資料は必ず残しておきましょう。

財産分与の内容が決まった後、財産分与が実行される前に相手が破産した場合はどうなる?

調停・審判、裁判によって財産分与の内容が確定した後に、財産分与義務者が破産した場合、財産分与権利者は何も受け取ることができないのでしょうか?

この問題について、判例は、財産分与権利者は財産分与の支払いを目的とする債権を取得するにすぎず、その債権の額に相当する金員が取得するものではないと判断しています(最判平成2年9月27日)。

つまり、せっかく財産分与の内容が確定しても、実際に財産分与が行われる前に相手方が破産してしまった場合は、元配偶者は確定した財産分与の内容どおりに財産を受け取ることはできないということです。

元配偶者としては、破産債権者として届け出を行い、配当手続きに参加することで債権回収することになります。(その場合、実際に受け取れる金員はわずかにとどまることがほとんどです。)

対策としては、調停や裁判の段階で、相手方が多額の借金を負っており自己破産するおそれが高い場合は、財産分与について、長期分割できっちり2分の1の回収を図ろうとするよりも、少額でも一括での支払いに合意することが考えられます。

たとえ少額であっても一括で確実に回収した方が、長期分割中に相手方に破産されてしまうよりも、最終的に受け取れる金銭は多くなる可能性が高いでしょう。

(2)相手が自己破産する前に離婚する場合の養育費

離婚後に相手方が自己破産しても、養育費の支払いは受けられます。

破産手続き前にすでに滞納されていた養育費については、債権届出をして、破産者の財産から公平にお金の分配を受けます。

養育費支払義務は、たとえ自己破産しても免除されない非免責債権にあたるため(破産法253条1項4号ハ)、破産手続きで回収できなかった分については、破産手続き終了後に相手方に請求できます。

破産手続開始決定後の養育費についても、相手方に請求できます。

なお、婚姻費用の調停成立後に支払い義務を負っている配偶者が自己破産した場合も、養育費同様、支払い義務は免除されません。

(3)相手が自己破産する前に離婚する場合の慰謝料

離婚後に相手方が破産して免責決定を受けた場合、原則として離婚慰謝料を受け取ることはできなくなります。

ただし、慰謝料請求権が下記に該当する場合は、例外的に支払い義務が免除されないため、慰謝料の支払いを受けられる可能性があります。

自己破産しても慰謝料が受け取れる場合

  • ①破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法253条1項3号)
  • ②破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(同条項4号)

具体例

  • 身体的DVを理由とする慰謝料請求権→①に当たるため、免責されない可能性が高い(=慰謝料の支払いを受けられる可能性が高い)
  • モラハラを理由とする慰謝料請求権→①②のいずれにも該当しないか、証明が困難であるため免責される可能性が高い(=慰謝料の支払いを受けられない可能性が高い)
  • 不貞行為を理由とする慰謝料請求権→①②のいずれにも該当しないため免責される可能性が高い(=慰謝料の支払いを受けられない可能性が高い)

相手が自己破産した後に離婚するとどうなる?

(1)相手が自己破産した後に離婚する場合の財産分与

メリット

相手が自己破産した後に離婚して財産分与を受ければ、財産隠しを疑われて管財事件になるリスクは低くなります。

自己破産手続きは、同時廃止事件として処理される可能性が高く、時間と費用の面で負担が軽くなります。

相手の自己破産を先行させると債権者からの督促に悩まされることはなくなるため、じっくりと離婚問題について話し合えるメリットがあります。

デメリット

相手方の自己破産においては、夫婦共有財産である相手方名義の預貯金等も清算対象になります。

離婚時には、相手方の財産は自由財産である99万円を除いてほとんど残っていない状況になります。

そのため、あなたが財産分与によって得られる財産はほとんどないことがデメリットになります。

(2)相手が自己破産した後に離婚する場合の養育費

相手が自己破産した後であっても、養育費の支払いは請求できます。

通常どおり、算定表にお互いの収入や子どもの人数をあてはめて、適正な養育費を算出することになります。

(3)相手が自己破産した後に離婚する場合の慰謝料

破産開始決定前の相手方の行為を理由とする慰謝料請求権は、免責される可能性が高いため、慰謝料の支払いを受けるのは難しくなります。

ただし、破産開始決定後に相手方のDVや不貞行為があった場合、これらを理由とする慰謝料請求は可能です。

自己破産が配偶者に与える影響は?

配偶者の信用情報には影響しない

自己破産した場合、破産者の信用情報に影響が生じ、数年間は新たな借入れができなくなります。

しかし、破産者の配偶者やその他の家族の信用情報には影響はありません。

住宅ローンに関する影響

夫婦で住宅ローンを組んでいる場合は、一方の自己破産によって他方が大きな影響を受ける可能性があります。

例えば、夫が自己破産した場合、妻が住宅ローンの連帯債務者や連帯保証人となっていたり、ペアローンを組んでいる場合は、妻が残債務の一括請求を受けることになってしまいます。

何も対策をとっていない場合、妻も一緒に自己破産する必要が生じるおそれが高くなります。

対策としては、別の連帯債務者等を立てる、単独名義の住宅ロ-ンに借り換えるといった方法が考えられます。親族の援助を得て住宅ローンを完済する方法がとられるケースも多いです。

住宅ローンが残っている場合、離婚や自己破産によって大きな影響が及びます。

早めに対策をとれば、影響を最小限に抑えることが可能です。

住宅ローンが残っている場合は、ぜひお早めに弁護士に相談に行くことをおすすめします。

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離婚した方がよいケースとしない方がよいケースは?

離婚した方がよいケース

離婚や離婚条件について合意できており、早期に離婚できる場合は、財産分与によって適切に財産を分けた方が経済的にメリットがあるでしょう。

ただし、離婚と財産分与を自己破産に先行させる場合は、後で財産分与が取り消されないよう適正な額の分与になるようきちんと根拠を残しておくことが大切です。

離婚しない方がよいケース

未成年の子どもがいる場合は、離婚や自己破産に慎重になった方がよいでしょう。

離婚や自己破産は、子どもの生育環境を大きく変えるだけでなく、心身ともに大きなストレスを与えることになります。

まずは自己破産を完了させて生活を立て直してから離婚を考えた方が、子どもの環境を安定させやすいでしょう。

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自己破産と離婚についてのお悩みは弁護士に相談

自己破産と離婚の最適なタイミングは、自己破産するのは誰か、財産分与対象財産はどれくらいあるか等の具体的事情によって変わってきます。

離婚も自己破産も、法律的な観点から検討しなければならない問題が多く含まれています。

これらの問題をすべて当事者のみで解決するのは困難ですし、無理に解決しようとすると大きなトラブルを招くことになりかねません。

あなたにとって最適なタイミングを決めるには、専門家である弁護士に相談するのが最もおすすめの方法です。

弁護士に相談すれば、任意整理や個人再生など自己破産以外の債務整理方法についてもアドバイスを受けることが可能です。

自己破産と離婚についてのお悩みは、アトム法律事務所にいつでもお気軽にお問い合わせください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了