離婚の公正証書を徹底解説!作り方や内容、効力は?
- 離婚の公正証書とは?どんな効力がある?
- 離婚の公正証書の作成方法は?いつ作成する?
- 私は公正証書を作った方がいいの?
夫婦が離婚をする際には、子どものことやお金のことなど、様々な事柄を2人で話し合って決めます。
しかし、口約束で話し合いを終えてしまうと、約束したお金が払われなかったり、後から言った言わないの争いになってしまう可能性があります。
そういったトラブルを防ぐために、公正証書を作成しておくと安心です。
公正証書は、公証役場で公証人に依頼すれば誰でも作ることができ、約束通りに金銭の支払いが行われなかった時には、強制執行(財産の差し押さえ)を行えるようにできるという大きなメリットがあります。
この記事を読めば、公正証書が誰にどう役立つか、どうやって作るのか、何を書けばよいのかが分かります。
目次
離婚の公正証書とは?
離婚の公正証書はどんなもの?
公正証書とは、公証役場にて公証人に依頼して作成してもらう公文書です。
公正証書には、当事者の意思を証明し、争いが蒸し返されるのを防ぐという役割があります。
公正証書は、離婚のほか遺言や商取引の際にも利用されており、特に離婚で作成する公正証書のことを「離婚給付等契約公正証書」と呼びます。
公証人が、取り決めの内容の正当性や当事者の合意があるかを確認した上で作成しますので、公正証書には強い効果があります。
公正証書の最も重要な効果は、強制執行認諾文言という条項を入れておくと、お金の支払いの約束が守られなかった時に、強制執行(差し押さえ)を行えるようになるという点です。
公正証書の効力については、後ほど詳しく説明します。
公証役場・公証人とは?
公正証書を作成するのは、法務省が管轄する公証役場の公証人です。
公証役場は全国に約300か所あり、自宅や職場の近くなど、好きなところに申し込むことができます。
公証役場の具体的な所在地は、日本公証人連合会のHPで確認することができます。
公証人とは、元裁判官、検察官や弁護士など、法律の実務経験を持つ公証役場の職員で、公務員に準ずる立場にあります。
なお公証人は、夫婦の話し合いを取り持ったり、公正証書に書く内容を決めてくれるわけではありません。
夫婦が話し合って決めた内容をもとに公証人が公正証書の案文を作成し、夫婦がそれを確認して完成させるというのがおおまかな流れです。
公正証書と離婚協議書の違いは?
協議離婚の際にはよく離婚協議書が作成されます。
ただし、離婚協議書は、取り決めを強制的に実現させるほどの強い効力は持ちません。
しかし、公正証書の作成の前提として、離婚条件を整理しておきたい場合など、離婚協議書は役立ちます。
関連記事
離婚の公正証書の作り方
離婚の公正証書の作成の流れは?
公正証書を作成する際の流れは以下の通りです。
ただし、利用する公証役場によっては流れが異なる場合があるため、事前に電話で問い合わせることをおすすめします。
- 当事者間で離婚の条件を協議し、案文を作成する
- 公証役場に予約を取り、面談をする
- 予約した日時に夫婦で公証役場へ行く
- 作成した公正証書を夫婦に読み聞かせ、記名押印をする
- 手数料を支払い、完成した公正証書の写しを受け取る
1.当事者間で離婚の条件を協議し、案文を作成する
まずは夫婦で話し合って、公正証書に盛り込む内容を決めておきます。
そして、大体の案文を作成してください。
すでに離婚協議書を作成してある場合は、それを公証役場に持っていけば足りるでしょう。
離婚協議書の案文については「離婚協議書のサンプル・ひな形」のページでご紹介していますので、公正証書の案文作成の際、ご活用ください。
2.公証役場に予約を取り、面談をする
公正証書の作成を開始してもらうには、まず公証人との面談が必要です。多くの公証役場では予約制を取っているため、事前に電話で面談の予約をしておく必要があります。
面談の際に、公証人に公正証書に記載したい内容を伝えます。1で作成した案文やメモ書きを持って行きましょう。
また、必要書類もこの時に提出します。
この時は、夫婦の一方か代理人が出席していれば問題ありませんので、依頼を受けた弁護士などが行くこともあります。
来所ではなくFAXやメールでの打ち合わせが可能な公証役場もあるようですが、どちらにしろ事前に問い合わせをすることをおすすめします。
3.公正証書の作成が始まる
面談後、公証人は申し込み内容をもとに公正証書の原稿の作成に着手します。
ほとんどの場合、公正証書がその場で完成することはないので、原稿が完成するまで待つことになります。
記載内容によりますが、作成には1〜2週間ほどかかることが多いようです。
公証人は、作成した原稿と必要な手数料の額をFAXやメールなどで送付してきますので、当事者はそれを見て内容に問題がないか確認します。
記載する内容や提出書類に不備があった場合は、再度公証役場に行ったり、電話や郵便で訂正を行います。
4.予約した日時に夫婦で公証役場へ行く
公正証書の原稿が完成したら公証役場から連絡が来るので、夫婦が公証役場へ出向く日時を決めて予約を取ります。そして、予約した日時に2人で公証役場へ出向き、原稿の最終確認を行います。
この時は、本人確認資料と印鑑を持参してください。
2人が揃って公証役場へ行くのが原則ですが、どうしても出席できない・したくない場合は、公証人に相談してみてください。公証人の判断で、代理人による作成が可能になる場合もあります。
5.作成した公正証書を夫婦に読み聞かせ、署名捺印をする
夫婦は公正証書の原稿を再度確認し、問題が見つかれば公証人がその場で訂正します。
公正証書が完成したら、公証人は夫婦に対して内容を読み聞かせます。問題がなければそれぞれが署名捺印をし、公正証書が完成します。
6.手数料を支払い、完成した公正証書の写しを受け取る
最後に手数料を支払って、完成した公正証書の写し(謄本、正本)を受け取ります。
原本は公証役場に保管されます。受け取った写しは、後々必要になることがあるため、なくさないように保管してください。
なお、公正証書の作成を途中で取りやめた場合も、手数料を支払う必要があります。
公証人手数料の支払いには、現金だけでなくクレジットカードが利用できます。ただし、送達など一部の費用については、支払い方法が現金に限られています。
公正証書の作成に必要な書類は?
公正証書の作成に必要な書類は以下のようなものです。
- 本人確認資料
- 婚姻関係を確認するための戸籍謄本
- 分与する財産を特定するための書類
- 年金分割のための情報通知書・年金手帳、年金分割合意書など
- 委任状・代理人の本人確認資料(代理人が作成する場合)
留意点
公正証書に盛り込む内容や公正証書作成のタイミングによって、必要な書類が異なります。
自分たちのケースではどのような書類が必要なのかを、あらかじめ公証役場に確認しておくことをおすすめします。
本人確認資料
公正証書を作成する際は、以下のうちいずれかの組み合わせで本人確認が必要です。
- 印鑑登録証明書(作成日から3か月以内に発行したもの)と実印
- 顔写真のある身分証明書(運転免許証、パスポートなど)と認印
なお、代理人が作成に行く場合は、本人の印鑑登録証明書が必要になります。
婚姻関係を確認するための戸籍謄本
当事者が夫婦であることを証明するために、戸籍謄本が必要になります。
離婚前に公正証書を作成する場合は、2人が戸籍上夫婦であることを示す必要があり、同じ戸籍に入っているため戸籍謄本は1通あれば足ります。
離婚後の場合は、2人が既に離婚をしていることを示す必要があり、夫婦それぞれの戸籍謄本が必要になります。
分与する財産を特定するための書類(財産分与をする場合)
財産分与を公正証書に盛り込む場合は、分与する財産を特定するための書類として、分与する財産やその価値を具体的に示す必要があります。
そのために、例えば以下のような書類が必要です。
- 不動産の登記簿謄本
- 固定資産評価証明書
- 車検証
- 通帳
- 保険証券
- 解約返戻金証明書
年金分割のための情報通知書・年金手帳(年金分割をする場合)
年金分割を公正証書で定める場合には、年金分割のための情報通知書と2人の年金手帳が必要です。
情報通知書の取得には3週間前後かかりますので、早めに準備を始めておきましょう。
委任状・代理人の本人確認資料(代理人が作成する場合)
代理人による公正証書の作成が認められた場合は、本人による委任状が必要になります。委任状には、本人の実印と印鑑登録証明書を添えます。
また、代理人の本人確認資料も必要です。
公正証書はいつ作成する?離婚後でも作れる?
離婚の公正証書の作成には期限がなく、離婚前でも離婚後でも作れますが、離婚前に作成する方が一般的です。
主な理由は、離婚前の方が相手の協力を得やすいからです。
公正証書を作成しに公証役場に出向くときは、夫婦が揃って行くのが原則ですので、相手の協力が必要です。
しかし、離婚届を出してしまってからでは、相手と連絡が取れなくなってしまう可能性もあります。
また、財産分与や慰謝料、養育費の請求には時効があります。
公正証書を作るのを待っているうちに時効を迎えてしまうと、受け取れたはずのお金を受け取れなくなってしまうかもしれません。
そのため、離婚後に公正証書を作る場合でも、なるべく早く作ることをおすすめします。
関連記事
・離婚慰謝料の時効は3年?更新できる?浮気の慰謝料の時効も解説!
公正証書の原本・正本・謄本とは?
公正証書の作成時には、原本、正本、謄本がそれぞれ作成されます。
原本(げんぽん)は、1部だけ作成され、原則として20年間公証役場に保管されます。
正本(せいほん)とは、原本と同じ効力を持つ写しで、債権者(金銭の支払い等を受ける側)に交付されます。正本は、強制執行の手続きの際に必要です。
謄本(とうほん)とは、債務者(義務を負う側)に交付される写しのことをいいます。正本と違い、謄本には効力がありません。
正本や謄本を紛失してしまっても、原本が残っている限り再発行を受けることができます。また、手数料を支払えば原本を閲覧することができます。
【コラム】公正証書で強制執行する手続き
公正証書による強制執行をおこなうには、執行文の付与と、送達が必要になります。
執行文の付与
強制執行を始めるためには、債務名義(公正証書)にさらに執行文を付与してもらう必要があります。この手続きも、公証役場にて行います。
送達
強制執行を行うために必要な手続きのひとつとして、送達というものがあります。送達とは、事件の関係者に対して、所定の手続きに従って書類を送り届けることです。
強制執行を行う場合は、債務者に債務名義(公正証書)の謄本が届いていることが必要で、謄本の送達を証明するために「送達証明書」の提出が求められます。
公証人に送達の申し立てをすると、公正証書の謄本を債務者へ発送してもらうことができ、送達証明書を受け取ることができます。
ただし、公正証書作成時に債務者本人が出席していれば、その場で送達を済ませることが可能です。これを交付送達といいます。
公正証書の作成時に代理人が出席した場合は交付送達は行えず、後から送達の申し立てをする手間が必要になります。交付送達は、当事者本人が公正証書作成に出席するメリットであるといえるでしょう。
関連記事
・離婚時の取り決めを強制執行で実現する方法|慰謝料・養育費など
離婚の公正証書の作成費用
公正証書の作成費用は5,000円~
公正証書の作成には、公証人手数料が必要です。
公証人手数料は、公正証書に取り決める金銭の支払い額(目的金額)に応じて決められており、目的金額が大きくなるほど手数料も高くなっていきます。
なお、公証人の相談料は無料です。
目的金額に応じた公証人手数料は、以下の表をご確認ください。
目的金額 | 公証人手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 1万1,000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 1万7,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 2万3,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 2万9,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 4万3,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5,000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
日本公証人連合会ホームページより作成
離婚の際には、慰謝料や養育費など、複数の金銭の支払いを1つの公正証書で取り決めることがほとんどです。
しかし、単にその合計が目的金額となるわけではありません。
慰謝料+財産分与と養育費とで別々に手数料を計算し、その合計を支払うことになります。
養育費は、必ずしも月々の支払いの総額ではない点に注意してください。支払いが10年以上に及ぶ場合は、10年分の金額を目的金額として手数料を計算します。
なお、年金分割を定める場合は追加で1万1,000円の手数料がかかります。
ただし、年金分割は、公正証書ではなく「年金分割合意書」という書面を作成して公証人の認証を受けることも可能です。その場合は手数料が5,500円となります。プライバシーや費用面からすると、年金分割合意書を作成するほうが良いかもしれません。
そのほか、送達や証書の枚数によって、若干の手数料がかかります。
費目 | 金額 |
---|---|
執行文の付与 | 1通 1,700円 |
正本または謄本の交付 | 1枚 250円 |
送達 | 1通 1,400円 |
送達証明書 | 1通 250円 |
閲覧 | 1回 200円 |
原本の超過枚数加算 | 縦書き:4枚を超過するごとに250円 横書き:3枚を超過するごとに250円 |
なお、公証人手数料に消費税はかかりません。
公正証書の作成費用はどちらが払う?
公正証書の作成費用をどちらが払うかという決まりはありません。
どちらが負担するかは、事前に夫婦で話し合っておくのがよいでしょう。
公正証書の作成費用を計算してみよう
以下のケースで、実際に公正証書の作成費用を計算してみましょう。
目的金額
財産分与:1,000万円
慰謝料:50万円
養育費:子ども1人、月8万円を12年間
①財産分与と慰謝料についての公証人手数料
財産分与と慰謝料の合計額は、1,050万円です。
1,000万円+50万円=1,050万円
手数料一覧表の「1000万円を超え3000万円以下」を見ると、公証人手数料は23,000円であることが分かります。
②養育費についての公証人手数料
養育費は、月々の支払いの合計額が目的金額となりますが、支払いが10年以上にわたる場合は10年分を限度とします。
したがって、合計は以下の式の通り960万円となります。
月8万円×12か月×10年=960万円
手数料一覧表を見ると、目的額が960万円のとき、公証人手数料は17,000円です。
③送達・正本・謄本の料金
強制執行を行うためには、送達の手続きが必要です。今回は、公正証書の作成と同時に交付送達を行います。
交付送達とその証明書には以下の通り手数料がかかります。
送達:1,400円
送達証明書:250円
また、正本と謄本の交付には、1枚当たり250円がかかります。今回は、公正証書の枚数が3枚になったため、証書代は以下の通りです。
正本:250円×3枚=750円
謄本:250円×3枚=750円
なお、原本が3枚に収まったので、枚数による加算はありません。
したがって、その他の手数料は、以下の式の通り3,150円となります。
1,400円+250円+750円+750円=3,150円
以上より、このケースで必要な費用は、①、②、③の合計で43,150円です。
加えて、強制執行を申し立てる前に、公証役場で執行文を付与してもらう必要があります。これには、1,700円の手数料が必要です。
離婚の公正証書に書く内容
公正証書には、離婚の際に話し合って決める様々なことを記載することができます。
離婚の公正証書(離婚給付等契約)に記載できる項目は、主に以下のようなものです。
離婚全般に関すること
- 離婚の意思表示(離婚の合意)
- 離婚届の提出日・提出者
- 守秘義務
- 住所や勤務先が変わった際の通知義務
- 裁判管轄
- 清算条項
守秘義務とは、夫婦間しか知り得ないことを第三者に口外しない義務です。
裁判管轄とは、離婚後に調停や裁判を起こすことになったら、どの裁判所を使うかをあらかじめ決めておく条項です。
清算条項は、当事者間にこれ以上の債権債務がないことを確認する条項です。これがないと、後から別の請求をされる余地が残ってしまいます。
お金や財産に関すること
- 離婚慰謝料
- 財産分与
- 婚姻費用
- 年金分割(別途「年金分割合意書」にすることも可能)
- 期限の利益喪失
- 分割払いの金利
- 遅延損害金
慰謝料については、金額、支払方法、支払期限などを明記します。
財産分与についても、それらの項目が必要になりますが、そもそも財産分与の対象について明記する必要がある場合もあります。
また、不動産の所有権移転登記を離婚後に行うという条項を含めることもあります。
期限の利益喪失とは、分割払いの支払い期限が守られなかったときに、残りの金額を一括で請求することができるという条項です。
期限の利益喪失条項は、財産分与や慰謝料を分割払いにする際によく盛り込まれます。これがあれば、延滞があったときに、残りの金額を一気に強制執行することができるからです。
遅延損害金は、金銭の支払いが期限を過ぎてしまったときに、定めた利率にもとづいて請求額を加算することを約束する条項です。
関連記事
・離婚時の財産分与とは?対象・期限・分け方は?離婚前は可能?
子どもに関すること
- 子どもの親権者・監護者
- 子どもの養育費
- 子どもとの面会交流
養育費については、支払う時期(何歳から何歳まで)、毎月の支払金額、支払日、支払方法などを明記するのが、強制執行を行うためのポイントです。
面会交流については、子どもと会う頻度を明記したりします。
関連記事
・離婚後の養育費の相場はいくら?支払われなかったらどうする?
強制執行認諾文言
強制執行認諾文言(きょうせいしっこうにんだくもんごん)とは、期限内に支払わなければ強制執行を受けてもいいという旨を約束する言葉です。
これがなければ、せっかく公正証書を作成したにも関わらず、強制執行を行う権利が得られませんので、忘れずに記載しましょう。
強制執行認諾文言の例
第●条(強制執行認諾)
甲は、第〇条の債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。
離婚の公正証書の法的効果とは?強制執行ができる?
公正証書は強い法的効果を持っています。
公正証書の法的効果
- 裁判の有力な証拠になる
- 強制執行認諾文言があれば、裁判をおこして判決をもらわなくても、強制執行できる
公正証書は裁判の強力な証拠になる
公証人が当事者の嘱託により作成した公正証書は、「本人がこの内容で合意した」ということを公的に証明してくれます。
そのため、公正証書は、民事裁判を行う際に有効な証拠になります。
もし将来的に裁判が起こされ、相手方が「そんな約束はしていない」と主張してきたとしても、公正証書があれば、約束の内容が保証されるのです。
公正証書で強制執行ができる
夫婦間で取り決めた金銭の支払いが履行されなかった場合、公正証書があれば、裁判所の判決をもらわなくても強制執行ができます。
ただし、公正証書に強制執行認諾文言を入れた場合に限ります。
ここでいう強制執行とは、裁判所の手続きによって、相手の給与や財産を差し押さえることです。
強制執行を申し立てるには、債務名義が必要とされます。債務名義とは、金銭などの支払いを受ける権利があることを証明する書類です。
強制執行認諾文言の付いた公正証書は、債務名義にあたります。そのため、ただちに強制執行を申し立てることができるのです。
債務名義がない場合は、まず調停や裁判を行わなければ強制執行ができず、手間と時間がかかってしまいます。
公正証書には法的効果以外のメリットもある
相手への心理的プレッシャーになる
公正証書に強い法的効果があるのは、ご説明した通りです。
公正証書を作成することで、相手には「支払わなければ財産を差し押さえられるかもしれない」「裁判で不利になるかもしれない」というプレッシャーが生まれます。
このように、強制執行の前の段階でも、相手の自発的な履行を促す効果が期待できます。
紛失のおそれがない
公正証書は、紛失するおそれがありません。
公正証書の原本は公証役場で保管されます。そのため、当事者が正本・謄本を紛失してしまったり、災害で失われた場合でも、再発行を受けることができます。
公正証書に書けないこと・できないこと
法令に違反する内容は公正証書に書けない
公序良俗に反する条項(民法90条)や、法令に違反する条項を公正証書に盛り込もうとしても、公証人は認めてくれません。
たとえば、以下のような条項は夫婦の合意があったとしても公正証書に書くことができません。
公正証書に書けない条項の例
- 養育費の支払い・受け取りを拒否する
- 面会交流を拒否する
- 将来的な親権者の変更を予定する
- 将来的な親権者の変更を拒否する
- 再婚を禁止する
- 利息制限法の上限を超える金利を定める
金銭の支払い以外は強制執行ができない
公正証書によって強制執行ができるのは、一定の額の金銭の支払いのみと決まっています。
「一定の額の金銭」とは、支払う金額や期限などが明確に定まっているものをいいます。
また、金銭の支払い以外の取り決めは、公正証書で強制執行を行うことができません。
公正証書で強制執行ができない条項の例
- 面会交流を月1回行う(金銭の支払いではない)
- 学費の支払いについては別途協議する(支払う金額や支払い時期が明確でない)
- 不動産の名義を変更する(金銭の支払いではない)
「子どもとの面会交流を約束したのに会わせてくれない」などといった、金銭の支払い以外の問題については、裁判所の履行勧告などによって実現を目指すことになります。
強制執行ができないとはいえ、公正証書で定めておけば相手方へのプレッシャーになりますし、将来的に訴訟を行うことになった場合には、取り決めの証拠として有利に働く可能性が高いです。
履行勧告とは?
履行勧告とは、調停・審判などで決まった内容について、家庭裁判所が履行状況を調査し、義務者に対して任意の履行を促す手続きです。
履行勧告を行うには、裁判所の調停や審判で取り決めをしている必要があります。したがって、公正証書を作成しただけでは、履行勧告を行うことができません。
公正証書は双方の同意がないと作成できない
公正証書は、双方の同意がなければ作成できません。同意していない内容について、公正証書に記載することもできません。
夫婦が話し合って合意した上で、原則的には2人で公証役場に出向く必要があります。
また、公正証書の内容を後から変更したくなった際も、夫婦の同意が必要になります。
離婚の公正証書を作った方がいいのはどんなとき?
公正証書を作るのは協議離婚するとき
公正証書を作成した方がいいのは、協議離婚をするときです。
協議離婚の中でも特に以下のようなケースでは、公正証書を作成することをおすすめします。
公正証書を作った方がいいケース
- 養育費を受け取る場合
- 慰謝料や財産分与を分割払いで受け取る場合
- 年金の合意分割を行う場合
養育費や慰謝料、財産分与の分割払いなど、将来にわたって金銭を受け取る契約の場合、途中で支払いが途絶えるリスクが高いため、確実に受け取るために公正証書を作成しておくと安心です。
また、年金の合意分割を行う場合は、年金事務所で手続きを行う際に年金分割の割合を明らかにする書類を持っていく必要があり、公正証書が役立ちます。
年金分割の手続きや必要書類については、『離婚時の年金分割手続きとは?必要書類は?共働き・拒否した場合も解説』で詳しく説明しています。
養育費を請求するなら公正証書を作る!
協議離婚をする場合、養育費の支払いを公正証書にしておくことを強くおすすめします。
養育費は離婚後も毎月支払っていくものですが、途中で支払いが途絶えてしまうケースが非常に多く、確実に支払いを受けるために公正証書化することが重視されています。
養育費は、強制執行のメリットが特に大きく、一度給与の差し押さえをすれば、将来の養育費についても毎月の給料から天引きすることができます。
さらに、他の債権であれば給与の4分の1までしか差し押さえられないところを、養育費ならば2分の1まで差し押さえることができます。
養育費の公正証書の作成に補助金を出している自治体もあるため、ぜひお住まいの自治体の制度を調べてみてください。
なお、養育費を公正証書で定める際は、以下の事項について具体的に書くことを忘れないでください。
養育費の条項に含める事項
- 支払う人と受け取る人
- 養育費として支払うこと
- いつからいつまで支払うか
- 毎月の支払い金額
- 毎月の支払い期限
- 支払い方法
公正証書で強制執行を行うためには、債権の内容が明確に定まっていることが求められます。そのため、あいまいな書き方をしてしまうと強制執行ができない可能性があります。
養育費の条項の例
第●条(養育費)
甲は乙に対し、丙丁の養育費として令和○年○月○日から丙丁が満20歳に達する月まで、1人につき1か月あたり金○万円を支払う義務があることを認め、これを毎月○日限り乙の指定する口座に振り込んで支払う。振込手数料は甲が負担するものとする。
※この場合、丙と丁は子どもを指しています。
公正証書を作らなくていいのはどんなとき?
調停や裁判など、裁判所の手続きで取り決めを行うと、公正証書と同じく債務名義になる書類が作成されます。これによって強制執行を行うことが可能です。
したがって、調停離婚や裁判離婚をする場合は、公正証書を作成する必要がありません。
調停調書と公正証書、どっちがいい?
公正証書は、協議離婚の際に任意で作成する証書です。
調停調書は、離婚調停が成立した際に家庭裁判所が作成する書類です。
手続きとしては全くの別物ですが、公正証書と調停調書は共通した効果を持っています。それは、金銭の差し押さえがしやすくなるという点です。
公正証書と離婚調停の特徴を比べてみましょう。
公正証書 | 離婚調停 | |
---|---|---|
期間 | 数週間程度 | 1か月 ~1年程度 |
費用 | 数万円 ~十数万円 | 3,000円程度 |
夫婦同席 | 必要あり | ほぼ必要なし |
強制力 | 差し押さえのみ | ・差し押さえ ・間接強制 ・履行勧告 ・履行命令 |
期間でいうと、公正証書の方が迅速に作れることが分かります。
費用に関しては、公正証書よりも離婚調停の方が安価です。時間がかかってもいいから費用を抑えたいという方は、合意ができていてもあえて離婚調停を申し立てることもあります。
また、相手と顔を合わせずに手続きを行いたい方にとっては、夫婦が同席する必要がほとんどない離婚調停の方が向いています。
効力については、離婚調停の方が多様です。
公正証書で強制執行ができるのは一定の額の金銭の支払いのみです。
一方、離婚調停で定めたことに関しては、金銭の支払いの強制執行のほかにも、間接強制や履行勧告・履行命令が可能な場合があります。
間接強制や履行勧告・履行命令は、いずれも裁判所から当事者に対して取り決めの履行を促したり命令したりする手続きです。
間接強制や履行勧告は、面会交流などの実効性を確保するためにも役立ちます。
面会交流を確実に行いたい方は、離婚調停を行うか、離婚後に面会交流調停を申し立てるのがよいでしょう。
関連記事
離婚の公正証書は専門家に相談しよう
有効な公正証書を作成するには専門知識も必要です。
手続きに不安がある場合は、弁護士や行政書士・司法書士などの専門家への依頼も検討してみてはいかがでしょうか。
弁護士に依頼するとできること
弁護士に依頼すると、公正証書の作成に関する手続きなどを全て任せることができます。そして、弁護士に依頼する最大のメリットは、相手との交渉を取り持ってくれる点です。相手との連絡を全て任せてしまうことも可能です。
行政書士や司法書士は、公正証書作成の手続きを行うことはできますが、交渉を仲裁したり、取り決めの内容にアドバイスをすることが法律上できません。
行政書士に依頼するとできること
行政書士は、法律文書作成や手続きの専門家です。公証役場との連絡や手続き、必要な書類の準備を行えます。また、夫婦間の合意をもとに、公正証書の案文を作成することもできます。
ただし、相手との交渉の仲裁やアドバイスをすることはできません。その分、弁護士と比べて費用は安価になっています。
司法書士に依頼するとできること
司法書士も、公証役場との連絡や手続き、必要な書類の準備をすることができます。夫婦間の合意をもとに、公正証書の案文を作成することもできます。
また、司法書士は登記の専門家ですので、不動産に関する取り決めをする場合は、登記の手続きも任せることができます。ただし、行政書士と同じく、交渉を取り持ったり、取り決めの内容に関与することはできません。
司法書士に依頼する場合も、弁護士と比べて費用を抑えることができるのがメリットです。
弁護士・行政書士・司法書士、どれを選んだらいい?
取り決めの内容がすでに決まっている場合は、行政書士や司法書士に依頼して、費用を抑えつつ公正証書作成にかかる手間を省くのが良いでしょう。
相手との交渉が難航していたり、どんな取り決めをすればいいか分からない場合は、弁護士に依頼して総合的なサポートを受けることをおすすめします。
関連記事
まとめ
離婚届が受理されれば協議離婚はできますが、離婚にまつわる数々の不安をなくすには公正証書を作成しておくと安心です。
公正証書を作成しておけば、離婚にまつわる金銭の支払いがとどこおった時に、強制執行がしやすくなるメリットがあります。
養育費、財産分与、慰謝料などの支払いが問題になる夫婦間では、万が一に備えて離婚給付等契約(公正証書)を、離婚する前に作成しておくことが大切です。
また、年金の合意分割をおこなう場合には、離婚給付等契約の公正証書か、別途合意書を作成して公証人の認証を受ければ、2人そろって窓口に行く必要がなくなるので便利です。
なお、離婚時に公正証書を作成する前提として、夫婦の話し合いや資料の準備などが必要となります。
離婚の公正証書の4つのポイント
- 離婚の公正証書を作成するタイミングは、離婚届を出す前
- 夫婦で話し合い、合意できなければ公正証書離婚できない
- 資料をそろえて、公証役場で作成
- 離婚の話し合いや手続きで困ったら、専門家に相談してみる
何から始めればよいのか分からない方、離婚の手続きについて専門家のサポートが欲しい方もおられるでしょう。
そのような方は、離婚をあつかう弁護士の無料相談をご活用ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
公証人は、公正証書に記載したい内容が違法ではないか、無効になってしまわないかの審査は行いますが、当事者同士の交渉や調整を行ってくれるわけではありません。