養育費の請求に時効はある?取り決めのありなしや内容で変わる!

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養育費の時効

「養育費に時効はあるのか」
「養育費の時効はいつからなのか」

令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果によると、離婚後の母子家庭の半数以上が父親からの養育費を受け取れていません。

現在養育費を受け取れていない方は、早めの対処をおすすめします。養育費は、5年もしくは10年で時効を迎えるからです。

時効が間近に迫っていても諦める必要はありません。内容証明郵便を送ったり、調停を申し立てたりすることで、養育費の時効を延ばすことができます

この記事では、養育費の取り決めがある場合・ない場合の時効と、時効が迫っている時の対処法について解説します。

①養育費の取り決めがある場合

養育費の請求権には、消滅時効と呼ばれる期限があります。

消滅時効とは、権利を持つ人が一定期間内にそれを行使しなければ、その権利を失ってしまうというルールです。

養育費を支払う立場から見ると、養育費を支払わずに一定期間が経過すれば、養育費を払わなくてもよくなるというものです。

養育費の時効は、あらかじめ養育費の支払いについて取り決めがあったかなかったかで異なります。

以下は、養育費の取り決めが済んでいる場合の時効の期間について、簡単に表にしたものです。

取り決めの内容時効注意点
合意のみ5年証明するものがないと合意の存在が認められないことも
公正証書ありの合意5年とくになし
調停10年とくになし
判決10年とくになし

ここでは、養育費の取り決めが済んでいる場合の時効について解説します。

未払い養育費の時効期間は5年または10年

養育費の取り決め方法によって、時効の期間が異なります。

  • 話し合いで取り決めた場合: 5年
  • 調停や審判・裁判で取り決めた場合: 10年

詳しく条文を見てみます。

第166条(債権等の消滅時効)

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

民法

養育費を受け取る権利は毎月生じるため、「権利を行使することができることを知った時」と「権利を行使することができる時」は同じタイミングです。

この場合、より短い方が採用されるため、養育費の時効は5年間です。

166条の規定には例外があり、判決などで養育費を受け取る権利が確定している場合は時効の期間が10年間になります。

第169条(判決で確定した権利の消滅時効)

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。

2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。

民法

「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するもの」には、裁判の判決だけでなく、裁判上の和解や調停、審判が含まれます。

なお、調停や審判・裁判を行っても、10年の時効が適用されるのは過去の分のみです。将来発生する養育費については、話し合いと同じく5年の時効が適用されます。

養育費の時効はいつから数える?

養育費の時効は、いつからカウントが始まるのでしょうか。離婚した日や最後の支払い日ではありません。

養育費は、毎月の締切日の翌日から時効の進行が開始します。したがって、全ての養育費が一気に時効を迎えるのではなく、古いものから順に時効を迎えます

夫婦間で取り決めた養育費の時効

養育費の時効は延ばせる!

養育費の時効は、完成猶予更新によって延ばせる可能性があります。

時効期間中に以下のような行為を行うと、時効の完成が猶予されます。時効の完成猶予とは、特定の行為を行うことで、一定の期間中は時効が完成しなくなるという制度です。

時効の完成猶予事由猶予期間
裁判上の請求等(裁判や支払督促、調停など)事由が終了するまで
(取り下げた場合はそこから6か月)
強制執行の申し立て強制執行が終了するまで(取り下げた場合はそこから6か月)
仮差押え・仮処分の申し立て事由の終了から6か月
催告催告から6か月
協議を行う旨の合意次のうちいずれか早い時まで
①合意から1年経過時
②合意による協議期間経過時
③協議続行拒絶通知から6か月経過時

たとえば、あと3か月で時効が切れてしまうというタイミングで養育費請求調停を起こすと、調停期間中に3か月が経過してしまっても養育費を請求する権利は失われず、調停が終了するまでの間は時効の完成が猶予されます。

また、以下の場合は養育費の時効が更新されます。更新とは、一定の行為を行うことで5年・10年の時効期間が数えなおしになることです。

時効の更新事由

  • 裁判上の請求等で権利が確定した
  • 強制執行が終了した
  • 義務者が債務を承認(支払い義務があると認めること)した

②養育費の取り決めがない場合

養育費の取り決めをしていない場合の時効

まだ養育費の取り決めをしていない場合は、時効のカウントは始まっていません

養育費は子どもが20歳になる時や経済的に自立する時まで払うのが一般的なため、その時期が来るまではいつでも請求することができます。

養育費を請求時より遡って支払わせるのは難しい

請求を行った時より後に発生する養育費については受け取れる可能性が高いものの、最初の請求時点より前の分まで遡って支払わせるのは難しいといえます。

たとえば、養育費の取り決めをせずに離婚し、離婚から3年経った時にはじめて「養育費を支払ってください」と請求した場合、3年目以降の養育費は認められますが、離婚時から請求時までの養育費の請求は認められない可能性が高いです。

というのも、離婚から3年経ってはじめて養育費の請求をしたということは、請求時までの3年間、養育費がなくとも子どもを養育することができたとみなされます。過去の3年間について、扶養が必要であったかどうかの判断が難しいということから、過去の養育費を遡って請求することは認められづらいのです。

なるべく早く養育費を請求する

養育費を遡って請求するのは難しいため、養育費の取り決めをしていない方は、なるべく早く養育費の請求を行いましょう。

請求には内容証明郵便などを用い、「いつ請求したか」の証拠を残すことが重要です。

また、すぐに養育費請求調停・審判を申し立てるのもよいでしょう。

話し合いや調停などで養育費の取り決めを行ったあとの時効は、①で説明した通りです。

養育費の時効が迫っている時にすべきこと

すでに取り決めのある養育費の時効が迫っている場合は、以下のいずれかを実施して時効の完成を先延ばしにし、その間に養育費を回収しましょう。

相手方に催告する

催告とは、相手方に養育費を請求する旨を通知する行為です。

裁判上の請求や強制執行の準備をしていては時効がやってきてしまうという場合には、催告を行うことで6か月間は時効の完成が猶予されます。

ただし、催告による完成猶予期間中に再度の催告を行っても、再び完成猶予期間が延びることはありません。

催告には内容証明郵便を用いるのが一般的です。

裁判上の請求などを申し立てる

養育費請求調停や審判を申し立てることで、調停や審判が確定するまでの間、もしくは取り下げてから6か月の間は時効の完成が猶予されます。

いきなり裁判を起こすことも可能ではありますが、先に調停や審判を申し立てるのが一般的です。

調停や審判、判決が確定したら時効が更新され、そこから10年間の時効が再スタートします。

また、簡易裁判所に支払督促を申し立てると同様の効果が得られます。

支払督促とは、申し立てに基づいて裁判所から相手方に対し養育費を請求するという手続きです。

強制執行の申し立て

公正証書で養育費の取り決めをしている方や、裁判上の請求で養育費の権利が確定している方は、強制執行によって強制的に支払いを履行させることができます。

強制執行は申し立てた後すぐに実行されるものではありませんが、申し立ててから完了するまでの間は時効の完成が猶予されます。

なお、強制執行の申立先は、家庭裁判所ではなく地方裁判所である点に注意してください。

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未払い養育費と時効に関するトピック

時効期間を過ぎても請求できる場合がある

養育費の時効は、義務者(支払う側)が援用という行為をしないと適用されません。援用とは、「時効が過ぎたから支払わない」という意思表示をすることです。

したがって、5年・10年が経過したからといって絶対に養育費を受け取れなくなるわけではなく、義務者に支払う意思があったり、義務者自身が時効について知らなかったりすれば、養育費を受け取ることは可能です。

2020年の民法改正で時効を延ばす仕組みが変化した

2020年4月1日の民法改正によって、消滅時効の期間が一部変更されました。ただし、養育費の時効期間は変わりませんでした

なお、事項を延ばす仕組みについては変更点があります。

時効の完成が猶予される理由のひとつに、「協議を行う旨の合意」が追加されました。

これにより、裁判所の手続きなどを行わなくても、当事者間で「これから話し合いをする」と合意することによって時効の完成を先延ばしできるようになりました。

また、改正前の民法では、時効の完成を阻止する手だてとして「中断」と「停止」が定められていました。これが「更新」と「完成猶予」に改められました。ただし、こちらは実際の意味に名前を合わせただけで、内容が変更されたというわけではありません。

取り決め別養育費の時効まとめ

以下は、養育費の時効について、取り決め別に示した簡単な表になります。ご自身の状況に照らし合わせて、お悩みの方は弁護士への相談も検討してみましょう。

取り決め内容時効
合意のみ5年
公正証書ありの合意5年
調停10年
判決10年
今から請求するなし
取り決めていなかったさかのぼっての請求は難しい

未払いの養育費がある方は弁護士に相談!

養育費は、話し合いで取り決めた場合には5年、調停や審判、裁判で取り決めた場合には10年で時効を迎えます。

時効が間近に迫っていても諦める必要はありません。内容証明郵便を送ったり、調停を申し立てたりすることで、養育費の時効を延ばすことができます。

もし今未払いになっている養育費があるという方は、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に相談すれば、未払いの状況から、次にとるべき行動を適切にアドバイスしてくれます。依頼をすることで、スムーズに養育費を請求することも可能です。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了