離婚前の別居|メリットとデメリットを解説

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離婚前の別居

もうこの人とは一緒に暮らしていけないかもしれない。そう思ったら、別居も視野に入ってくるでしょう。

離婚を決意した上で別居を始める方もいれば、まずは相手と離れて冷静に考えるために、別居に踏み切る方もいらっしゃいます。別々に暮らしてみた結果、離婚を選ぶ夫婦も、再構築を試みる夫婦もいるでしょう。

離婚前に別居をすると、様々なメリットがあります。一方で、注意しなければ自分が不利になってしまう可能性もあります。

今回は、離婚前の別居のメリット・デメリットと、別居から離婚までの流れ、注意点について解説します。

離婚前に別居するメリット

相手と離れられる

まず、別居の最大のメリットは相手と離れられることです。

暴力やモラハラ、経済的DVなどによって生活が脅かされていた場合は、安心して生活できるようになります。

別居した結果、離婚の意思が固まるかもしれませんし、離婚ではなく再構築を選ぼうと思うかもしれません。いずれにしろ、一度離れることで、互いに冷静になって話し合いに臨むことができるでしょう。

婚姻費用を請求できる

婚姻費用とは、夫婦が婚姻している間の生活費のことをいいます。家賃や食費、光熱費などのほか、学費や医療費、交際費など、家族の生活に必要な費用すべてが含まれます。

自身の方が収入が低い場合、配偶者に対して別居中の婚姻費用の支払いを請求することができます

婚姻費用の相場はそれぞれの収入や子供の数にもよりますが月額4万〜15万円程度です。金額は、夫婦で話し合って決めることができますが、裁判所が公開している標準算定方式(令和元年改訂版)が参考になります。

婚姻費用を受け取れば、別居中の生活の支えや離婚後の生活への備えに役立ちますが、婚姻費用分担請求のメリットはそれだけではありません。

相手が離婚に前向きでない場合でも、別居して婚姻費用を請求することで、支払いを負担に感じて離婚に応じてくれる可能性が高まるというメリットもあるのです。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

自分の収入の方が相手の収入よりも多い場合は、逆にこちらが婚姻費用を支払う必要があるため注意してください。

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本気で離婚したいことが伝わる

今まで自分の意見を軽視してきた配偶者でも、もぬけの殻になった家を見ると、こちらが本気で離婚を望んでいると気づき、ショックを受けるはずです。

そうなれば、離婚や再構築に向けて、真剣に話し合いに応じてくれる可能性が高まります。

法定離婚事由になる

相手が離婚を拒んでいて、話し合いや調停でも話し合いがまとまらない場合、裁判で離婚を争うことになります。

しかし、裁判で離婚が認められるには厳しい条件があります。その条件を法定離婚事由といい、以下の5つの離婚理由のうち、最低1つでも存在しなければ離婚は認められません。

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

 配偶者に不貞な行為があったとき。
 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

民法 第770条

離婚したい理由が価値観の違い性格の不一致などの場合は、この離婚事由には当てはまりません。

ですが、ある程度の期間別居していると、5つ目の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」にあたり、裁判で離婚が認められる可能性が高まります

ケースによりますが、3〜5年程度の別居期間があると、離婚が認められることが多いようです。

したがって、どうしても離婚したいが法定離婚事由が見当たらないという場合は、別居をすることで離婚の理由が作れるのです。

離婚前に別居するデメリット

証拠集めが難しくなる

離婚をする場合、事前の証拠集めがカギになることがあります。たとえば、不倫やDVの慰謝料を請求したい場合や、財産分与の請求をする場合は、証拠が非常に重要です。

裁判で慰謝料を請求する場合は、証拠によって不倫やDVを立証する必要があります。不貞・DVがあったという事実を裏付ける、写真やメッセージなどを確保できると良いでしょう。

また、財産分与の際に証拠が重要なのは、相手の財産を全て把握する必要があるからです。財産分与で財産が減ってしまわないように、隠し口座にお金を入れていたり、黙って不動産を購入している場合があります。そうなると、自分が受け取れる財産が少なくなってしまいます。

そのため、相手の預金通帳や銀行からの郵便物、不動産登記簿などを探して、コピーをとっておくことをおすすめします。

家を出た後では、家の中で証拠を探すのが非常に難しくなる上、相手が証拠を消してしまう可能性もあります。離婚の意思を悟られる前に証拠を押さえておきましょう。

帰れなくなる可能性がある

一度家出をすると、家に入れてもらえなくなる可能性があります。相手が家の鍵を替えてしまうケースもあるようです。

そのため、いつでも帰れるだろうと気軽に家を出ることはおすすめできません。

相手が帰宅を拒んでいるにもかかわらず、無理やりドアをこじ開けて家に入ったとなると、住居侵入罪や器物損壊罪にあたる可能性もあります。

持ち物の準備などをしっかりと済ませた上で、家を出るようにしましょう。

話し合いが難しくなる

家で顔を合わせることがなくなる以上離婚についての話し合いの機会を設けるのが難しくなります。2人で連絡を取り合って、いつどこに集まって話し合いをするかなどを決める必要があります。

電話やメール、メッセージなどで話し合いも可能ですが、連絡が途絶えてしまう可能性は捨てきれません。

仕事の都合などで相手と時間を合わせるのが難しい場合や、相手と顔を合わせたくない場合は、弁護士に交渉を任せることでスムーズに話し合いを進めることができます。

別居から離婚までの流れ

別居から離婚までは、夫婦の状況などによって異なりますが、大まかには以下のような流れで進みます。

  1. 家探しや証拠集めなどの別居準備をする
  2. 相手に別居の意思を伝え、家を出る
  3. 離婚の話し合いをする
  4. 話し合いがまとまらなければ調停や裁判を申し立てる
  5. 離婚届を提出し、離婚が成立

1.家探しや証拠集めなどの別居準備をする

別居をするためには、次に住む場所を見つけなければなりません。新しくアパートを借りたり、実家や友人の家に身を寄せるという選択肢もあります。

引っ越す場所が決まったら、荷物をまとめます。二度と戻れない可能性もありますので、そのつもりで荷造りをしましょう。

また、話し合いや裁判で必要になりますので、離婚の意思を悟られる前に、不倫やDVの証拠を集めておきましょう。

2.相手に別居の意思を伝え、家を出る

家を出る際は、別居をすることや離婚を望んでいることを相手に伝えましょう。居場所まで教える必要はありません。また、伝える方法は、置き手紙やメール、メッセージなどでも構いません。

勝手に家を出たとなると、相手があちこち探し回って迷惑を掛けたり、頑なに離婚に応じなくなってしまうかもしれません。

さらに、正当な理由なく勝手に家を出た場合、悪意の遺棄にあたり、自分が有責配偶者になってしまう可能性があります。

3.離婚の話し合いをする

離婚の方法には、調停や裁判などもありますが、まずは話し合いをするのが基本です。

別居開始後に相手と顔を合わせて話し合いをするためには、まず2人でスケジュールを調整して、どこかに集まる必要があります。それは元の家かもしれませんし、どちらかの実家や、喫茶店などで行うこともあります。

話し合って決める事柄は、離婚をするかどうかだけでなく、慰謝料や財産分与、親権、養育費など様々です。話し合いが難しい場合や、何をどのように決めるか分からない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

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4.話し合いがまとまらなければ調停や裁判を申し立てる

当事者同士の話し合いがまとまらなかった場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。調停では、夫婦がそれぞれ調停委員と面談をして、意見の調整を行います。面談は原則1人ずつ行われますので、相手と顔を合わせることはほとんどありません。

調停を行っても決着がつかなければ、離婚裁判(離婚訴訟)を申し立てることができます。

裁判の中で、裁判官から和解を提案されることもあります。双方が和解に応じれば、そこで離婚が成立します。また、相手の主張をすべて受け入れる認諾によっても、離婚が成立します。和解や認諾に至らなければ、判決によって離婚の可否が決定されます。

5.離婚届を提出し、離婚が成立

話し合いが終わったら、役所に離婚届を提出します。調停や裁判で離婚が決定した場合も、10日以内に離婚届を提出し、戸籍に反映してもらわなくてはなりません。

その後、財産分与や年金分割の手続きが必要な場合もありますが、ひとまず離婚は成立となります。

別居する時の注意点

黙って出ていかない

DVやモラハラなどの正当な理由がないのに無断で家出した場合、悪意の遺棄をしたとして、自分が有責配偶者になってしまう可能性があります。

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

民法第752条

この条文のとおり、夫婦は同居・協力・扶助の義務を負うことになります。そして、正当な理由がないのに一方的に別居することは、同居義務違反にあたる可能性があるのです。

自分が有責配偶者になってしまった時のデメリットは、以下の3つです。

  • 離婚が認められづらくなる
  • 慰謝料を請求されてしまう
  • 婚姻費用を受け取れなくなる

1.離婚が認められづらくなる

基本的に、有責配偶者からの離婚請求は認められません

別居期間を作ることで「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」として裁判離婚を目指すことも可能ではありますが、有責配偶者からの離婚請求の場合は、8~10年程度の別居期間がなければ認められないことが多いため、かなり長い時間が必要です。

2.慰謝料を請求されてしまう

悪意の遺棄は、慰謝料請求の理由になり得ます。悪意の遺棄に対する慰謝料の相場は50〜300万円程度です。

3.婚姻費用を受け取れなくなる

自分が有責配偶者である場合、自分が婚姻関係を壊した上、さらに婚姻費用まで請求するというのは、信義則違反になってしまいます。この場合、責任の程度によって、婚姻費用の請求が全く認められないか、あるいは減額されてしまいます

別居中の恋愛は要注意

別居中であっても、離婚の成立前に他の人と肉体関係を持ってしまうと、不貞行為によって婚姻関係を破綻させたとして、こちらが有責配偶者になってしまう可能性があります。

既に別居開始から時間が経っており、既に婚姻関係が破綻していた時期の不倫であれば、それによって婚姻関係を破綻させたとは考えづらいでしょう。しかし、別居を始めて間もない頃や、家族としての交流がある時期に不倫をしてしまうと、自分が有責配偶者となってしまいます。

早く新しいパートナーを見つけたいと思うかもしれませんが、離婚を有利に進めるためにも、踏みとどまるべきケースもあるのです。

離婚届を出す前に話し合う

とにかく早く離婚したいと思っていても、離婚の条件については離婚前によく話し合っておきましょう。

離婚の際には、慰謝料や財産分与、年金分割など、決めなければならないことがたくさんあります。それらをきちんと話し合って書面に残しておかなければ、受け取れたはずのお金も受け取れないまま終わってしまうかもしれません。

相手と直接話したくない場合や、相手が話し合いに応じてくれない場合は、弁護士への相談も検討してみてください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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