離婚前に別居するメリットと注意点|離婚と別居どちらが得?

- 相手がどうしても離婚に応じてくれない
- DVやモラハラから逃れたい
- もう相手と同じ家で過ごしたくない
離婚を考えている方にとって、別居は離婚をスムーズに進めるための有力な選択肢です。ある程度の期間別居を続けることで、裁判離婚が認められやすくなるなどのメリットが期待できます。
ただし、別居の際にはいくつか気を付けるべきことがあります。
この記事では、別居で離婚を有利に進めたい方に向けて、別居のメリット・デメリット、別居すべきかの判断基準、失敗しないための注意点と必要な準備について詳しく解説します。
目次
離婚前に別居するメリット
(1)別居をすると裁判離婚しやすくなる
どうしても離婚したいが、相手が離婚に応じる見込みが少ないという場合、早期に別居を始めるメリットは大きいです。ある程度の別居期間を設けることで、婚姻関係が破綻していると判断されやすくなり、裁判で離婚できる可能性が高まるためです。
当事者間で離婚の合意ができない場合、最終的には離婚裁判で離婚を認めてもらう必要がありますが、裁判で離婚が認められるには厳しい条件があります。この離婚が認められる条件のことを法定離婚事由といいます。
法定離婚事由は5つあり、最低1つでも存在しなければ離婚は認められません。
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
民法 第770条
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
長期間の別居は、5つ目の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」にあたり、裁判で離婚が認められる可能性が高まります。
「離婚したい理由が価値観の違い・性格の不一致」「相手が話し合いでは離婚に応じてくれない」等の場合、基本的に5つの法定離婚事由には該当しません。そのため、裁判離婚するために、ある程度の別居期間を置くという人も多いです。
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何年別居すれば裁判離婚できる?
ケースによりますが、多くの場合、別居期間が3〜5年程度から裁判離婚はしやすくなるようです。
ただ、夫婦の年齢、同居期間、夫婦や子どもの意向なども踏まえて判断されることなので、必ず5年経過すれば裁判離婚できるとは断言できません。
また、3年未満であっても、相手が不貞行為やDVをしている場合は、別居の年数に関係なく、夫婦関係が破綻したとして裁判離婚できるケースはあります。
別居から離婚が認められた事例と具体的な年数については、『別居何年で離婚できる?離婚成立に必要な別居期間は3年以上?1年未満は?』で紹介しています。
単身赴任は別居に含まれる?
単身赴任や長期出張、学業などが理由で夫婦が別々に暮らしている期間は、裁判離婚が認められる「別居」の期間に含まれない可能性が高いです。
単身赴任の期間が別居期間として認められるためには、離れて暮らしているだけではなく、婚姻共同生活を継続する意欲がないことが必要です。
もっとも、単身赴任中に婚姻共同生活を継続する意欲を失えば、それ以降は本当の別居状態となるでしょう。裁判で単身赴任が別居であると主張する場合は、この点を証明することになります。
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(2)別居すれば調停離婚もしやすくなる
別居すると、調停離婚も進めやすくなる可能性があります。
調停離婚とは、夫婦が話し合いで離婚に合意できなかったときに、家庭裁判所の調停委員会(裁判官1人、調停委員2人)の関与のもと、夫婦で話し合いを進めて離婚する方法です。
調停離婚は、裁判離婚のような法定離婚事由は不要です。
しかし、法定離婚事由にあたる事情があることを主張することで、調停委員を味方につけ、離婚しやすい流れを作れる可能性はあります。
そのため、離婚調停中は、別居する夫婦も多いです。
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(3)婚姻費用を請求して相手に離婚を決意させる
離婚したいが相手が応じない場合、別居して別居中の生活費(婚姻費用)を配偶者に請求し続けることで、相手に離婚を決意してもらえる可能性があります。
婚姻費用を受け取れば、別居中の生活の支えや離婚後の生活への備えに役立つだけでなく、相手が婚姻費用を支払いを負担・不毛に感じ、離婚に応じてくれる場合があります。
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(4)離婚するかどうか冷静に考えられる
一度離れて暮らしてみることで、互いに冷静になって離婚するかどうかを考える時間をもつことができます。
別居した結果、離婚の意思が固まるかもしれませんし、離婚ではなく再構築を選ぼうと思うかもしれません。
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(5)本気で離婚したいことが相手に伝わる
別居に踏み切れば、自分が本気で離婚したいと思っていることが相手に伝わるという効果も期待できます。
今まで自分の意見を軽視してきた配偶者でも、もぬけの殻になった家を見ると、こちらが本気で離婚を望んでいると気づき、ショックを受けるはずです。
そうなれば、離婚や再構築に向けて、真剣に話し合いに応じてくれる可能性が高まります。
離婚前に別居した方が良いケース
(1)相手から離れてストレスを減らしたい場合
相手と同居していることで、多大なストレスを感じている場合、心身の不調が生じる前に、別居を検討したほうがよいかもしれません。
別居の最大のメリットは相手と離れられることです。
相手の言動が暴力(DV)やモラルハラスメント(モラハラ)に該当しない場合でも、価値観が大きくずれた相手と同じ屋根の下で共同生活をするのは、とてもストレスがたまります。
同じ屋根の下で、毎日顔を合わせながら、あるいは顔を合わせないように相手の行動する時間帯を読みならが、離婚まで生活するのは非常に苦痛です。
(2)DVやモラハラを受けている場合
相手のDVやモラハラで心身に危険が及んでいる場合は、なるべく早く別居した方がよいでしょう。
生活費や住居などの問題で、別居するための住まいをご自身で確保できない場合は、DVシェルターの利用なども検討してみてください。
暴力やモラハラ、経済的DVなどによって生活が脅かされていた場合は、別居することで安心して生活できるようになります。
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(3)離婚交渉中の気まずさに耐えられない場合
離婚を争っている最中に、家で気まずい思いをする、相手から嫌がらせを受けるといったことに耐えられない場合、別居が有力な選択肢になります。
同居中に離婚協議を行う場合
夫婦の話し合いによって円満離婚できそうな場合でも、離婚条件の話し合いをしながら、同じ家で生活をともにするのは、気まずい思いをするかもしれません。
また、弁護士が一方の代理人となって離婚協議を行う場合、トラブル防止のため弁護士を通さずに交渉することは控えるように助言するのが一般的です。しかし、同居している以上は直接話さなければならない状況もあるため、コミュニケーションの方法には細心の注意が必要です。
同居中に離婚調停を行う場合
離婚調停は夫婦が顔を合わせずに話し合いを行うことが前提の手続きであり、調停外での交渉は控えるのが通常です。しかし、夫婦が同居したままで調停を行う場合、調停後に同じ家に帰ることになりますので、帰ったあと、調停のことについて何か言われてしまう可能性があります。
同居中に離婚裁判を行う場合
また、裁判離婚を検討している場合も、同じ家に住みながら、裁判をおこすのは、かなり気まずい状況になります。加えて、すべに述べたとおり、法定離婚事由の要件を満たすためにも、早い段階で別居を開始し、別居の実績を作ることが有効です。
別居中の生活費を配偶者に請求できる
婚姻費用とは?請求方法は?
夫婦が結婚している間の生活費のことを婚姻費用といい、夫婦には婚姻費用を分担する義務があります(民法760条)。婚姻費用には、住居費や光熱費、医療費、子どもの養育費など、生活に必要なあらゆる費用が含まれます。
同居中は当然に生活費を分担していますが、別居中でも離婚するまでの間は婚姻費用を分担しなければなりません。
婚姻費用の分担を請求するには、当事者間で話し合いを行うか、家庭裁判所で婚姻費用分担調停を申し立てます。実務上、請求を行った時よりも前に遡って婚姻費用を回収することは難しいため、別居したらなるべく早く婚姻費用の請求を行いましょう。
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婚姻費用の相場は?
婚姻費用の相場はそれぞれの収入や子供の数にもよりますが月額4万〜15万円程度です。金額は、夫婦で話し合って決めることができますが、裁判所が公開している標準算定方式による養育費・婚姻費用算定表(令和元年改訂版)が参考になります。

この算定表では、夫婦双方の職業(会社員か自営業か)、年収、子どもの人数・年齢に基づいて婚姻費用を算定します。その他、住宅ローンを負担しているなど個別の事情も考慮することがあります。
婚姻費用の相場をパッと知りたい方は、『カンタン操作で目安が分かる 婚姻費用・養育費計算機』(自動計算ツール)をご利用ください。
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別居しても婚姻費用が受け取れないケースは?
婚姻費用が受け取れないケース
- 自分が有責配偶者である場合
- 自分の方が収入が多い場合
有責配偶者から婚姻費用を請求しても、認められないか減額される可能性があります。
有責配偶者とは、不倫や暴力、悪意の遺棄などの不法行為によって、一方的に婚姻関係を破綻させる原因を作った配偶者のことをいいます。
つまり、「自ら不倫をして婚姻関係を破綻させた上に、家出して生活費も請求する」といった信義に反する行為はできないようになっています。もっとも、家を出た方が子どもを養育する場合、養育費に相当する分は請求できると考えられます。
また、婚姻費用は収入が多い方から少ない方へ支払うものであるため、相手よりも自分の方が収入が多ければ自分が支払う側になる点に注意が必要です。
離婚前に別居するデメリット
(1)別居すると証拠集めが難しくなる
離婚の交渉においては事前の証拠集めがカギになりますが、家を出て別居した後では、家の中で証拠を探すのが非常に難しくなります。また、別居後、相手が離婚で不利になる証拠を消してしまう可能性もあります。そのため、離婚の意思を悟られる前に離婚で有利になる証拠を押さえておく必要があります。
例えば、不倫の慰謝料を請求するのであれば、不倫相手との間に肉体関係があったことを示す写真やメッセージといった証拠が必要です。また、婚姻費用や養育費を請求するためには、相手の収入を証明する書類があるとよいでしょう。
どのような証拠が求められるかについては、後ほど詳しく解説します。
(2)別居前の家に入れなくなる可能性がある
一度家出をすると、家に入れてもらえなくなる可能性があります。
相手が家の鍵を替えてしまうケースもあるため、いつでも帰れるだろうと気軽に家を出ることはおすすめできません。
相手が帰宅を拒んでいるにもかかわらず、無理やりドアをこじ開けて家に入ったとなると、住居侵入罪や器物損壊罪にあたる可能性もあります。
別居をする場合は、持ち物の準備などをしっかりと済ませた上で、家を出るようにしましょう。
(3)悪意の遺棄で有責配偶者になってしまうリスクがある
合理的な理由のない一方的な別居は、「悪意の遺棄」に当たります。民法は、夫婦が同居・協力・扶助の義務を負うことを定めており、正当な理由なくこの義務に違反する行為は悪意の遺棄と呼ばれます。
悪意の遺棄や不貞行為、暴力などの行為により一方的に婚姻関係を破綻させた側は、有責配偶者にあたり、離婚の話し合いにおいて非常に不利な立場になります。
そのため、「一方的に別居された」「合理的な理由なく別居された」等と言われないように、予防線をはっておくことが大切です。
有責配偶者になるデメリットは?
自分が有責配偶者になってしまった時のデメリットは、以下の3つです。
- 離婚が認められづらくなる
- 慰謝料を請求されてしまう
- 婚姻費用を受け取れなくなる
1.離婚が認められづらくなる
基本的に、有責配偶者からの離婚請求は認められません。
別居期間を作ることで「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」として裁判離婚を目指すことも可能ではありますが、有責配偶者からの離婚請求の場合は、8~10年程度の別居期間がなければ認められないことが多いため、かなり長い時間が必要です。
2.慰謝料を請求されてしまう
悪意の遺棄は、慰謝料請求の理由になり得ます。悪意の遺棄に対する慰謝料の相場は50〜300万円程度です。
3.婚姻費用を受け取れなくなる
自分が有責配偶者である場合、自分が婚姻関係を壊した上、さらに婚姻費用まで請求するというのは、信義則違反になってしまいます。この場合、責任の程度によって、婚姻費用の請求が全く認められないか、あるいは減額されてしまいます。
(4)離婚の話し合いが難しくなる
家で顔を合わせることがなくなる以上、離婚についての話し合いの機会を設けるのが難しくなります。2人で連絡を取り合って、いつどこに集まって話し合いをするかなどを決める必要があります。
電話やメール、メッセージなどで話し合いも可能ですが、連絡が途絶えてしまう可能性は捨てきれません。
もし離婚の話し合いが進まなくなってしまった場合は、弁護士に依頼して相手方と連絡を取ってもらったり、離婚調停を申し立てるという選択肢が考えられます。
なお、離婚の仕方、スムーズな進め方については『離婚の仕方は6種類?スムーズな離婚のやり方は?弁護士解説』の記事で解説しているので、ご興味のある方はあわせてご覧ください。
(5)別居すると経済的にきびしくなる
別居は、同居していた時よりも、経済的にきびしくなることが多いです。
離婚までは相手に婚姻費用を請求できますが、それだけでは賄えないこともあるかもしれません。
離婚までにかかる費用、離婚後の生活費について、よくシミュレーションをして、どのように生活費を得ていくか計画を立てましょう。
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離婚と別居どちらが得?
相手と関係を改善するつもりはないにも関わらず、離婚せず別居し続ける方もいます。
離婚せずに別居を続けることのメリットとデメリット、どちらが得かを比べてみましょう。
離婚ではなく別居を選ぶメリット
①離婚しなければ税制上のメリットがある
扶養されている側は、離婚しなければ、社会保険料の負担額は少ないままになります。
一方、扶養をしている側は、離婚しなければ、配偶者控除、扶養控除により税金をおさえられます。
②別居中も婚姻費用を受け取れる
別居していても、離婚するまでは配偶者を扶養する義務はありますので、婚姻費用を受け取ることができます。
離婚すれば財産分与を受け取れますが、離婚後は婚姻費用を請求することができません。
そのため、離婚せずに婚姻費用をもらい続けた方が、財産分与の額よりも多くのお金を配偶者から受け取れることがあります。離婚しない方が得なケースについては、後ほど具体例を交えて説明します。
③別居した方が離婚しやすい
離婚調停や離婚裁判をおこす手間がかかるだけで、実際、離婚が見込めないケースもあります。そのような場合には、裁判所に離婚を訴えるより、別居を始めた方がゆくゆくは離婚が成立しやすくなるというメリットがあります。
④関係修復のチャンスがある
別居して冷静になることで、かえって関係が良好になるケースもあります。
離婚せずに別居を続けていれば、関係修復のチャンスを残せます。
離婚ではなく別居を選ぶデメリット
①別居していても相手との関係が続く
一緒に暮らしていなくても、戸籍上は夫婦であるということのストレスからは逃れられないでしょう。
また、相手から扶養を受けることができるとはいえ、逆に相手が扶養の必要な状態になったときには、こちらが助ける義務があります。
②別居中はひとり親向けの支援を受けられない
離婚してシングルマザー・シングルファザーになった人は、国や自治体から支援を受けることができます。
その代表例が児童扶養手当です。
両親が離婚していない場合、1人で子どもを育てていても、児童扶養手当は受け取れないのが原則です。
また、児童手当など、離婚していなくても受けられる支援についても、世帯の所得制限があるため、両親の収入が合算されると支給されなくなってしまいます。
別居して婚姻費用をもらい続けるよりも、離婚して養育費やひとり親向けの支援を受け取った方が得なケースがあります。
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③財産分与を受けられる財産が減る
別居中に、相手が財産分与の対象になる財産を隠したり、使い込んだりする可能性があります。
そのため、すぐに離婚しておけばもらえたはずの財産が、別居を続ける間に、目減りしてしまうというデメリットがあります。
④別居中は再婚ができない・恋愛できない
もちろん、離婚しなければ再婚はできません。
また、別居中に新しいパートナーと肉体関係を持つと、不貞慰謝料を請求されてしまう可能性があります。
離婚を前提とする別居では、婚姻関係が破綻していると判断され、慰謝料請求を認めない例もありますが、どのような判断がくだされるかは個別具体的なケースによります。
離婚成立までは、配偶者以外との肉体関係をもたないという判断が無難です。
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離婚より別居の方が得なケースとは?
婚姻費用をもらい続けることができる場合、財産分与を受け取って離婚するよりも金銭的には得な可能性があります。
別居の方が得なケース
以下の例で、離婚と別居どちらが得か考えてみます。
現時点で離婚した場合の財産分与:500万円
離婚しなかった場合の婚姻費用:月13万円
この場合、別居を始めてから3年3か月経った時点で、受け取る婚姻費用の合計が500万円を超えます。そのため、3年3か月以上別居を続ければ、離婚よりも金銭的に得ということになります。

反対に、夫婦の共有財産は多いけど相手の年収は少ないといった場合は、婚姻費用は年収に基づいて計算されるのが一般的なため、離婚した方が多くの財産を受け取れる可能性が高いでしょう。
なお、相手側が婚姻費用を負担したくないために離婚を請求してくる可能性がある点には注意が必要です。
『婚姻費用をもらい続けるには?離婚とどっちが得?具体的な方法と注意点』では、その他のケースについても具体的に解説しています。
家庭内別居と別居どちらがいい?
家庭内別居とは、夫婦が同じ家に住み続けながら、別々の生活を営む状態のことです。
家の中でコミュニケーションを取らないだけでなく、家計を完全に分けたり、家事を別々にするという場合もあります。
家庭内別居のメリット
家庭内別居のメリットは、家賃や光熱費が一家庭分で済むため、経済的負担が軽いという点や、子どもが両親と暮らせるという点です。
世間体や経済的事情から離婚や別居に踏み切れない場合、家庭内別居をするメリットがあります。
また、離婚や別居に労力をかけず、互いに干渉しない生活を送りたい夫婦も、家庭内別居をすることがあるでしょう。
家庭内別居のデメリット
一方、デメリットとしては、同じ家で過ごすことのストレスや、家事の負担や生活費をめぐってトラブルが起きる可能性があるという点が挙げられます。
また、ケースにもよりますが、家庭内別居では裁判離婚できる理由として、認定されにくい傾向もあります。
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離婚前に別居する場合の注意点
(1)無断で家を出ない
DVやモラハラなどの正当な理由がないのに無断で家出した場合、悪意の遺棄をしたとして、自分が有責配偶者になってしまう可能性があります。
このように、勝手に家を出ると離婚の話し合いで不利になってしまうほか、相手が捜索願を出したり知り合いに連絡して探し回ったりして、周りに迷惑がかかってしまうおそれがあります。
したがって、別居時には、メールや置き手紙などで構いませんので相手に別居の意思を伝えておくことが重要です。
なお、DVやモラハラは、別居の正当な理由になります。DV・モラハラが原因で別居をしたい場合は、被害者を援助する公的機関への相談、警察への相談などの記録を残しておくとよいでしょう。
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(2)子どもを置いて家出しない
子どもを置いて家出をすると、親権争いにおいて不利になる可能性があります。
裁判所が親権について判断するときは、現在子どもの世話をしている人が引き続き世話をするということを重視します。これを継続性の原則といいます。
したがって、子どもの親権を得たい方は、子どもと一緒に別居するようにしましょう。
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(3)無理に子どもを連れ去らない
子どもを置いてくと親権争いにおいて不利になることがある一方で、違法に子どもを連れ去るのもよくありません。子どもの連れ去りが違法であるとされた場合、家庭裁判所の審判で子どもを引き渡すように命じられたり、親権争いにおいて不利になることが考えられます。
「子どもを連れて別居すること」と「子どもを連れ去ること」は似ていますが、以下の場合は違法になる可能性があります。
- 保育園・幼稚園や学校から子どもを連れ出した
- 子どもを待ち伏せて連れ去った
- 激しい親権争いの途中で子どもを連れ去った
違法な連れ去りとならないためには、子どもを連れて別居することに関して、相手の同意を得ることが重要です。
一方で、相手方が子どもを虐待していたり、子どもの前でDVを行っていた場合には、子どもを連れて別居しても違法になる可能性は低いといえます。
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(4)別居中に異性と交際しない
別居中であっても、離婚の成立前に他の人と肉体関係を持ってしまうと、不貞行為によって婚姻関係を破綻させたとして、こちらが有責配偶者になってしまう可能性があります。
既に別居開始から時間が経っており、既に婚姻関係が破綻していた時期の不倫であれば、それによって婚姻関係を破綻させたとは考えづらいでしょう。しかし、別居を始めて間もない頃や、家族としての交流がある時期に不倫をしてしまうと、自分が有責配偶者となってしまいます。
早く新しいパートナーを見つけたいと思うかもしれませんが、離婚を有利に進めるためにも、踏みとどまるべきケースもあるのです。
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(5)証拠を確保してから家を出る
別居を開始した後では、離婚交渉や金銭の請求に必要な証拠を集めるのが困難になってしまいます。そのため、別居を悟られる前に証拠を確保しておきましょう。
具体的には、以下のような証拠があると役立ちます。
不貞行為の立証に必要な証拠
相手の不貞行為(不倫・浮気)を理由として離婚を求めたり、慰謝料を請求するためには、不倫相手との間に性交渉があったことを証明しなければなりません。
不貞行為の証拠
- 性交渉の様子を撮影した写真や動画
- 肉体関係を匂わせるSNSやLINEのやり取り
- ホテルや不倫相手の家に2人で出入りしている写真
- ラブホテルの領収証やポイントカード
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・離婚で浮気を立証するのに有効な証拠とは?集め方と種類を解説
婚姻費用・養育費の請求に必要な証拠
別居中の婚姻費用や離婚後の養育費の金額は、夫婦双方の年収をもとに計算するのが通常です。その際に相手が年収を実際よりも低く申告すると、本来受け取れるはずの金額よりも少ない金額が算出されてしまいます。
対策として、別居する前に相手の実際の収入を証明する証拠を確保しておきましょう。
相手の収入を示す証拠
- 源泉徴収票
- 課税証明書
- 確定申告書の控え
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財産分与の請求に必要な証拠
財産分与の際に証拠が重要なのは、相手の財産を全て把握する必要があるからです。財産分与で財産が減ってしまわないように、隠し口座にお金を入れていたり、黙って不動産を購入している場合があります。そうなると、自分が受け取れる財産が少なくなってしまいます。
財産分与に必要な証拠
- 預貯金通帳の写し
- 不動産登記事項証明書
- 固定資産税評価証明書
- 銀行や証券会社からの手紙
- 保険証券
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・夫婦の共有財産|離婚時に財産分与の対象になる共有財産とは?
(6)別居を切り出すときの注意点
配偶者に別居を切り出す際は、落ち着いて話せる時間帯を選び、感情的にならないようにしましょう。対面で話すのが難しければ、メールやLINE、置き手紙で伝えてもよいでしょう。
置き手紙には、離婚を前提に別居したいこと、別居を決意した理由、今後の連絡手段などを書くのが一般的です。
別居時に合意書を作成するメリット
別居の時点で、離婚が確定していない場合は、夫婦関係調整のためにどのくらい別居するかの目途を、別居合意書で合意しておくこともできます。
こうすることで、夫婦関係を再構築するにも、二人が別々に新たなスタートを切るにしても、無用に別居期間が長引くことを避けられます。
- 離婚は未定・冷却期間を置く場合
「夫婦関係の調整のため〇年〇月〇日まで別居する」などと記載 - 離婚前提の場合
「離婚条件の調整のために相当期間別居する」などと記載
別居合意書に書いておいた方がよい内容については『別居合意書・婚姻費用の合意書テンプレート│解説付』で解説していますので、あわせてご覧ください。
離婚前提で別居する場合の準備
別居前の準備リスト
別居前にしっかりと準備を整えることは、別居後の生活を安定させるためにも、離婚をスムーズに成立させるためにも非常に重要です。
具体的には、以下の項目については最低限チェックしておきましょう。
別居前の準備
- 共有財産を確認する
- 相手の収入の証拠を確保する
- DVや不貞行為の証拠を確保する
- 住居を確保する
- 荷造りをする
- 別居後の生活設計を立てる
- 相手に別居を切り出す
詳しい準備方法については『別居の準備と手続|離婚を考えたら知っておくべき別居の注意点』をご覧ください。
離婚が決まってから離婚するまではどう生活する?
同居中に離婚について合意ができたとしても、実際に離婚届を出すのはまだ先になるというケースはよくあります。
離婚するのが決まっているのに一緒に生活し続けるのは、ストレスのかかることですし、どのように過ごせばいいか迷ってしまう方も多いでしょう。
ここでは、離婚が成立するまでの過ごし方を4パターンご紹介します。
- 離婚前に別居する
- 離婚成立までは家庭内別居する
- 離婚成立までは夫婦として生活する
- 離婚成立まで同居人として生活する
離婚前に別居する
離婚が決まっている相手と同じ家にいるのは気まずいという方や、新しい家が確保できる方は、すぐに別居を始めてよいでしょう。
ただし、別居後は相手との話し合いや荷物の整理などが難しくなるため、離婚の準備がしっかりと整ってから家を出るようにしましょう。
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離婚成立までは家庭内別居する
相手と関わり合いたくないがすぐに別居するのは難しいという場合、離婚が成立して家を出るまでの間は家庭内別居という形で、家計や生活スペースを分けて過ごすという方法があります。
離婚成立までは夫婦として生活する
相手への情がまだ残っている場合などは、離婚までの間は夫婦として生活し続けることもあります。
特に子どもがいる夫婦の場合は、父母が家の中で隔絶した状態になると子どもに負担がかかってしまうおそれがありますので、別れるまでの間は夫婦・父母として穏やかに過ごすのが望ましいといえます。
離婚成立まで同居人として生活する
相手への情は残っていないが、まったくコミュニケーションを取らないのは生活上不便であるという方や、完全に家庭内別居をするのは大変という方は、離婚成立までの間を単なる同居人として過ごしてもよいでしょう。
夫婦であろうとするプレッシャーがなくなると、かえって関係が良くなることもあるようです。
別居する前に弁護士に相談!
- 現在、別居中で離婚を進めたい
- 離婚するために別居すべきか悩んでいる
- 弁護士に離婚の進め方を相談したい
このようなお悩みをお持ちの方は、一度弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士は、別居のメリット・デメリットや離婚手続きの見通しについて、法律の専門家の観点からアドバイスが可能です。一人で悩まず、離婚に詳しい弁護士にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了