婚姻費用をもらい続けるには?離婚とどっちが得?具体的な方法と注意点
離婚を考えている女性の中には、「婚姻費用をもらい続けることはできるか」「婚姻費用をもらい続けるのと、離婚するのはどっちが得か」が気になっている方も多いでしょう。
この記事では、そのような疑問にお答えするため、婚姻費用をもらい続けるための具体的な方法や、押さえておきたいポイントを詳しく解説します。
婚姻費用をもらい続けるか離婚して養育費をもらうか悩んでいる方のために、解決のために役立つ考え方もご説明します。
新たな人生を踏み出そうとしている女性に役立つ情報をわかりやすくお伝えしますので、ぜひご覧ください。
目次
婚姻費用とは?いつからいつまでもらえる?
婚姻費用の定義
婚姻費用とは、夫婦とその子どもの生活に必要な生活費を指します。
婚姻費用は、収入の多い配偶者が他方の配偶者に支払う義務があります。この費用は、別居中の生活費や子どもの養育費を含むもので、生活水準を一定に保つことを目的としています。
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婚姻費用の金額
婚姻費用の金額は、夫婦が自由に決めることができます。合意できない場合は、裁判所が公開している算定表をもとに、調停や審判を通じ決めることになります。
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婚姻費用はいつからいつまでもらえる?
①婚姻費用はいつからもらえる?(婚姻費用の始期)
婚姻費用は、請求したときからもらえるのが原則です。
具体的には、婚姻費用分担請求調停の申立時や、調停申立前に内容証明郵便やメールで請求した時です。
②婚姻費用はいつまでもらえる?(婚姻費用の終期)
婚姻費用は、別居の解消または離婚するまでの間もらうことができます。
婚姻費用をもらい続けることはできる?その方法は?
①別居後すぐに婚姻費用を請求する
婚姻費用をもらい続けるための大前提として、別居後できる限り早く支払を請求する必要があります。
上述のとおり、婚姻費用をもらえるようになるのは支払を請求したとき以降だからです。
ポイントは、請求した日付が明確に残る方法をとることです。内容証明郵便の他、メールを印刷したものも証拠になります。
相手が任意の支払に応じる可能性が低い場合は、早めに弁護士に相談して、弁護士を代理人につけた上で、婚姻費用分担請求調停の申立てをするのもおすすめです。
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②婚姻費用の支払について合意する
婚姻費用をもらい続けるには、支払についての明確な合意を作ることが重要です。
ポイントは、相手が婚姻費用を支払わなくなった場合に強制執行ができるよう、債務名義を確保しておくことです。
債務名義(さいむめいぎ)とは
特定の債権(お金を支払う義務など)を法的に証明し、相手に対してその義務を強制的に履行させる際に必要な文書のこと。裁判所や公的機関によって発行される文書であり、強制執行を行うための「法的な根拠」となる。
夫婦間で合意できた場合
夫婦の話し合いで婚姻費用について合意できる場合は、強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておきましょう。
公正証書は、公証役場で作成する法的文書であり、強制執行認諾文言が記載されてると債務名義として認められます。これがあれば、相手が支払いを滞納した際に給与差し押さえなどの強制執行を行うことが可能です。
口約束だけでは、いずれ婚姻費用をもらい続けることができなくなるおそれが高いため注意してください。
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夫婦間で合意できない場合は調停を申し立てる
話し合いが難しい場合は、家庭裁判所の調停手続を利用します。
家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立て、調停員会の仲介で話し合いを行います。調停では、当事者双方の収入を証明する資料として、以下のような収入証明書類を持参します。
- 源泉徴収票
- 確定申告書の控え
- 給与支給明細書 など
調停で双方が納得できれば、「調停調書」が作成されます。この調書は強制執行する際の債務名義になります。
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調停でも合意できない場合
調停で合意できなかった場合は、自動的に審判手続に移行します。
審判では、裁判官が双方の収入を算定表にあてはめて婚姻費用の金額を決定します。相手が支払いを拒否している場合でも、算定表に従った金額で支払義務が認められるのが一般的です。
審判が出ると、「審判書」が作成され、これも強制執行する際の債務名義になります。
③別居を続ける
婚姻費用は別居解消まで支払われるため、婚姻費用をもらい続けるためには、別居を続けるのが有効です。
協議離婚の合意ができない場合、離婚調停、離婚裁判と進んでいくのが基本的な流れです。
離婚調停の審理期間は3か月から1年程度、離婚裁判の場合は1年以上かかるのが一般的です。
そのため、離婚調停と離婚裁判で離婚が成立するまで別居を続けたとすると、合計2年〜3年程度、婚姻費用をもらい続けることができると考えられます。
同居を再開した場合は婚姻費用をもらい続けることはできなくなります。
④離婚をしない
婚姻費用をもらい続けるために離婚しない選択を考える方もいます。婚姻費用は、離婚が成立するまで支払われるため、特に経済的な理由で離婚を急がない方がメリットが大きい場合もあるでしょう。
しかし、この選択肢がすべての人にとって最適な解決策というわけではありません。精神的負担や長期的なリスクを考慮し、慎重に判断することが必要です。
離婚をしないメリットが大きいケース
婚姻費用のために離婚をしない方がメリットが大きいケースとしては、例えば、子どもが小さく、専業主婦として育児に専念している場合が考えられます。
一般的に婚姻費用は離婚後の養育費よりも高くなるため、離婚後すぐに経済的に自立するのが難しい場合、離婚せずに婚姻費用をもらい続けた方が経済的なメリットは大きいといえるでしょう。
別居期間が長引くと裁判離婚が認められる
「婚姻費用のために離婚しない」という選択を取る場合でも、別居期間が長引けば婚姻関係が破綻したと認定され、いずれは裁判離婚が認められる可能性があります。
離婚が裁判で認められる別居期間の目安は、相手が有責配偶者であるかどうかによって異なります。
有責配偶者とは
不貞行為(浮気、不倫)やDVなどによって、婚姻関係を破綻させた主たる責任がある配偶者を意味します。
- 相手が有責配偶者でない場合:3年程度の別居で離婚が認められることが多い。
- 相手が有責配偶者にあたる場合:10年以上の別居で離婚が成立する可能性が高まる。
そのため、「婚姻費用のために離婚しない」という戦略を取る場合でも、離婚に向けて着々と準備を整えておくことが重要です。
具体的には、別居中から離婚後の生活設計を立て、就職活動を行ったり、公的支援について情報を集め、離婚後の経済的な土台を一歩ずつ築いておくことがとても大切です。
離婚が認められる別居期間は年数だけで決まるものではなく、同居期間や双方の経済状況など諸事情の総合考慮で決まります。詳しくは関連記事もご覧ください。
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⑤相手の支払が遅れたらすぐに対処する
婚姻費用をもらい続けるためには、相手方の支払が遅れた時点ですぐに対処することも重要です。
相手方が、婚姻費用に関する調停や審判に従わず支払を拒否している場合は、家庭裁判所に対し、履行勧告や履行命令を行うよう求めることができます。
履行勧告
履行勧告は、裁判所が、相手方に対し、婚姻費用を支払うよう勧告する手続です。申立費用はかかりませんが、相手方が勧告に従わなくても罰則がありません。
履行命令
履行命令は、裁判所が相手方に対し、婚姻費用を支払うよう命じる手続です。申立費用として500円必要です。相手方が履行命令に正当な理由なく従わないと、10万円以下の過料に処せられるため、履行勧告より実効性が期待できます。
強制執行
最終手段として、強制執行も考えられます。強制執行認諾文言付き公正証書、調停調書、審判書などがあれば、強制執行可能です。
婚姻費用の支払が遅れた場合は、給与の手取り額の2分の1まで差し押さえることができます。
「裁判所での手続きが難しそう」「相手が支払わないがどうしたらよいかわからない」という場合は、婚姻費用の支払が遅れた時点で早めに弁護士に相談してみてください。
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婚姻費用をもらい続けるのと離婚するのはどちらが得?
婚姻費用についてよくある質問が、「婚姻費用をもらい続けるのと、離婚して養育費をもらうのではどちらが得か?」というものです。
この悩みを解決するには、次の4ステップで考えてみるとよいでしょう。
- 婚姻費用をもらい続けた場合の総額を計算
- 今すぐ離婚した場合の養育費の総額を計算
- 離婚後に得られる養育費以外のお金を計算
- 婚姻費用をもらい続ける場合と離婚する場合に得られるお金を比較
ここでは、以下の具体例を前提に各ステップの考え方を解説します。
ケース例
状況:夫の不貞行為が原因で妻が子ども(10歳)と別居中。夫は早期離婚を望んでいるが、妻は婚姻費用をもらい続けるか離婚して養育費を受け取るかで迷っている。
期間:裁判離婚が認められるための別居期間を10年と仮定。
収入:夫(会社員)の年収600万円、妻(パート勤務)の年収100万円。
ステップ1:婚姻費用をもらい続けた場合の総額を計算
婚姻費用の金額は、夫婦の収入と子どもの年齢、人数をもとに裁判所の算定表を用いて計算します。このケースでは月額約11万円程度と算定されます。
婚姻費用の総額
11万円 × 12か月 × 10年 = 1,320万円
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ステップ2:今すぐ離婚した場合の養育費の総額を計算
養育費は通常、婚姻費用よりも低額になります。同じ条件で計算すると、このケースでは月額6.5万円程度です。
養育費は基本的に子どもが20歳になるまで支払われるため、このケースでは10年間の支払いが想定されます。
養育費の総額
6.5万円 × 12か月 × 10年 = 780万円
ステップ3:離婚後に得られる養育費以外のお金を計算
今すぐ離婚することを選んだ場合、相手方から通常よりも多くのお金が支払われる可能性があります。
特に今回のケースのように、相手方が離婚を強く望んでいるケースの場合、早期離婚に応じる対価として、解決金や、相場より増額された財産分与や慰謝料を受け取れる可能性があります。
そこで、相手方が支払を提示しているこれらのお金についても、離婚するかどうか決める際の判断材料として②の金額に加算します。
さらに、離婚後に自分が働くことで得られるお金や、ひとり親家庭を対象とした各種公的支援、実家からの支援なども②に加算します。
なお、公的支援の内容は、家族構成や各自治体によって変わってきます。
離婚を検討している方は、自治体に直接相談して、自分が受け取れるお金の内容や金額について正しい情報を確認してみましょう。
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ステップ4:婚姻費用をもらい続ける場合と離婚する場合に得られるお金を比較
最後に、離婚しないで婚姻費用をもらい続ける場合のお金と、今すぐ離婚することで得られるお金を比較します。
比較する
- 婚姻費用をもらい続ける場合の総額:1,320万円
- 離婚した場合に得られるお金:養育費780万円 + 早期離婚の対価・公的支援などの追加金額
さらに、長期の別居を継続した場合、その間に財産分与の対象財産が売却されてしまったり、費消されてしまい、結果的に財産分与額が少なくなるリスクも考慮する必要があります。
以上の事情を総合考慮した結果、今すぐ離婚することで得られる全体的なメリットの方が大きくなる場合は、別居を続けるよりも離婚を選択した方が良いでしょう。
子どもがいない、または子育てを終えた場合
子どもがいない、または子育てが終了している場合、離婚後に養育費を受け取ることはありません。
そのため、子どもがいる場合よりも「離婚するよりも婚姻費用を受け取り続けた方が経済的に得である」といえる状況になりやすいと考えられます。
しかし、必ずしも婚姻を継続する方が経済的な面で有利とは限りません。財産分与の額が高額になる見込みや、熟年離婚の場合は年金分割がある程度の額になる可能性も考慮する必要があります。
これらの経済的利益を考慮すると、たとえ養育費がゼロであっても、離婚した方が経済的メリットが大きくなるケースもあり得ます。
いずれにせよ「こういったケースは離婚しないのが正解/不正解」というように一概に結論づけることはできません。
個別事情の検討が不可欠であるため、弁護士への相談をおすすめします。
婚姻費用をもらい続けるか離婚するか迷ったらアトムの弁護士にご相談ください
離婚を検討中の方の中には、「婚姻費用をもらい続けるために、離婚を先延ばしにした方が良いのでは?」と考える方も少なくないのではないでしょうか。
この問題は、婚姻費用と養育費の金額を単純に比較しても答えは出ません。
ご自身にとって最善の選択をするためには、婚姻費用と養育費の適切な金額を算定することに加え、今すぐ離婚することで得られる経済的利益(財産分与、慰謝料、解決金など)、離婚後の収入の見込み、資格の有無・内容、就職までにかかる期間の目途など様々な事情を考慮する必要があります。
これらの事情を的確に分析し、離婚するかどうか決断するためには、専門家である弁護士のアドバイスが欠かせません。
さらに、弁護士が相手方と交渉することで、相場より高額な財産分与や慰謝料など有利な離婚条件で合意でき、早期の離婚につながる可能性もあります。
弁護士に依頼する場合、方針によっては弁護士費用にも違いが出る可能性があります。一度相談に行って見積書を作成してもらいましょう。
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離婚について弁護士の法律相談をお受けいただく手順としては、以下のような流れになります。
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離婚を決意されている方も、まだ迷いがある方も、まずはご自身のおかれた状況を把握し、今後の選択肢を広げることが大切です。
まずはお気軽にお電話ください。ご連絡お待ちしております。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
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