婚姻費用調停は何回で終わる?期間の目安と手続きの流れを解説

婚姻費用の調停は、別居中の生活費を確保するための重要な手続きです。相手との話し合いがまとまらない場合でも、裁判所を介することで解決の糸口が見つかります。
この記事では、婚姻費用調停の期間や回数、調停委員に聞かれる具体的な質問内容、相手が来ない場合の対処法まで、弁護士監修のもと実務に即して解説します。
調停を有利に進め、適正な婚姻費用を勝ち取るためのポイントを押さえましょう。
目次
婚姻費用の分担請求調停とは
一般的に婚姻費用は、収入の多い方の配偶者から少ない方へ、毎月送金するといった形で支払われます。
ひと月の婚姻費用の金額や支払い方法は、夫婦で話し合って決めることができます。話し合ってもまとまらないときは、家庭裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てることができます。
令和6年の司法統計によると、婚姻費用分担請求調停の申立件数は20,784件で、その約9割が妻からの申立てです。
| 夫 | 妻 | |
|---|---|---|
| 離婚 | 12,334 | 23,386 |
| 円満調整 | 1,100 | 741 |
| 同居・協力扶助 | 66 | 18 |
| 婚姻費用分担 | 1,896 | 18,888 |
出典:裁判所『令和6年司法統計年報(家事編)』
通常の離婚調停と婚姻費用の分担請求調停を同時に申し立てることもよくあります。
調停では、家庭裁判所の調停委員が夫婦の双方から資産や収入について聞いたり、資料を見たりして、夫婦の意見を調整します。双方が合意することができたら、調停は成立となります。
婚姻費用の分担請求調停の詳しい手続きや申立書の書式については、裁判所のサイトで確認できます。
婚姻費用調停が不成立になったら?
調停で話し合いがまとまらなかった場合、調停は不成立となります。婚姻費用分担請求調停では、実務上、調停不成立と同時に審判手続きへ移行するのが一般的です。
審判とは、裁判官が当事者から話を聞き、一切の事情を考慮して判断を下す手続きです。当事者の合意がなくても裁判官が判断を下すため、確実に結論が出ます。
なお、審判はすぐに開かれるわけではなく、調停不成立の日からおおむね2週間~1か月以内に審判期日が指定されることが多いです。
調停と審判の違い
調停と審判はいずれも家庭裁判所で行われる手続きですが、合意を前提とするか裁判官が判断するかという点で、進め方や結論の出し方に大きな違いがあります。
| 調停 | 審判 | |
|---|---|---|
| 誰が判断するか | 調停委員会が仲介 | 裁判官が決定 |
| 結論の出し方 | 双方の合意が必要 | 職権で判断 |
| 話し合いの形式 | 別室で交互に面談 | 非公開で審問 |
| 不服申立て | 不服申立て不可 | 即時抗告が可能 |
調停では、裁判官1名と、民間から選ばれた2名以上の調停委員で構成される「調停委員会」が、双方から個別に話を聞いたうえで解決案を提示・助言し、合意を目指します。一方、審判では裁判官が職権で判断を下すため、当事者が合意できなくても結論が出る点が大きな違いです。
審判の結果(審判書)に納得できない場合は、告知を受けた日の翌日から2週間以内に、高等裁判所へ「即時抗告」を申し立てることができます。
婚姻費用調停にかかる期間と回数の目安
調停にかかる期間と回数は、事案の複雑さや双方の協力姿勢によって異なりますが、統計データから一定の傾向が見えてきます。
統計データから見る審理期間
令和6年の司法統計によると、婚姻費用の分担請求調停を含む婚姻関係事件58,429件において、申立てから終了までの審理期間は以下の通りです。

出典:裁判所『令和6年司法統計年報(家事編)』
調停成立までの期間は、個別の事案や裁判所の運用、当事者の協力状況などによって異なりますが、一般的には3~4か月が目安となります。
ただし、調停不成立により審判に移行した場合は半年以上、場合によっては1年以上かかることもあります。
実施期日回数は2~3回が多い
家庭裁判所で行われる調停では、複数回の調停期日が設けられ、話し合いが行われます。
婚姻関係事件において実施期日回数は2~3回が最も多く、半数以上が3回以下で終えています。

出典:裁判所『令和6年司法統計年報(家事編)』
一方で、審判に移行すると長期化し、終結まで6~10回を要するケースが約3割を占めます。
早く終わるケースと長引くケースの要因
婚姻費用分担調停では、双方が源泉徴収票や確定申告書などの収入資料を早めに提出し、算定表による金額に大きな争いがなければ、調停は比較的スムーズに進みます。
調停が早く終わるケース
- 調停手続の早い段階で収入資料を提出
- 婚姻費用算定表の金額に合意
- 別居の原因について大きな争いがない
- 子どもの養育状況が明確
これらの条件が揃っていれば、2~3回の期日で調停が成立することもあります。
一方で、相手が自営業者で収入の把握に時間がかかる場合や、別居の原因について争いがある場合には、調停が長期化しやすくなります。
調停が長引くケース
- 相手に収入隠しの疑いがある
- 別居原因について主張が大きく対立
- 子どもの私立学費など特別な支出で争いがある
- 相手が調停に欠席する
相手が調停に非協力的な場合は調停が不成立となり審判に移行するため、解決までに半年以上を要することもあります。
婚姻費用調停で聞かれることと準備
調停では、申立人と相手方が交互に調停室に呼ばれ、調停委員と個別に面談します。当事者の事情聴取や争点の整理のため、交互に複数回呼ばれることが多いです。
第1回期日では主に事実関係の確認が行われ、第2回以降になると、婚姻費用算定表をもとに、具体的な金額についての話し合いが進められます。
調停で聞かれる内容は、大きく5つのポイントに分けられます。
- 双方の収入や仕事の状況
- 別居に至った経緯と夫婦関係
- 子どもの養育状況と教育費
- 家賃や住宅ローンと生活費の内訳
- 希望する婚姻費用の金額と根拠
あらかじめそれぞれについて整理し、回答を準備しておくことで、調停をスムーズに進めることができます。
双方の収入や仕事の状況
婚姻費用調停では、夫婦双方の収入はどれくらいか、仕事は何をしているかについて必ず聞かれます。
婚姻費用は収入の多いほうから少ないほうへ支払われるものであるため、婚姻費用の金額を決めるうえでも収入や仕事は重要なものになります。
たとえば、以下のような質問に備えておきましょう。
- 夫婦それぞれの収入はいくらか
- 自営業をしているのか、給与所得者なのか
- 資産についてはどんなものがあるのか など
別居に至った経緯と夫婦関係
婚姻費用調停では、「なぜ別居に至ったのか」「なぜ婚姻費用調停を申し立てることになったのか」といったいきさつを聞かれることもあります。
ここでの回答は、調停委員が「夫婦関係を破綻させたのはどちらか」「調停を進めることで話し合いで合意ができそうかどうか」を判断するうえで、重要なものになります。
たとえば、以下のような質問に備えておきましょう。
- いつから夫婦関係は破綻しているのか
- 夫婦間で話し合いは行われたのか
- 話し合いをした場合は、どういった点で話がまとまらなかったのか
- 話し合いができなかった場合は、なぜ話し合いができなかったのか など
また、夫婦がどういった関係かを把握するため、夫婦がどのように出会い結婚に至ったのかの経緯も確認されることがあります。ただし、ほかの項目よりは重要度が低いため、あまり踏み込んで確認されることは少ないといえます。
子どもの養育状況と教育費
婚姻費用調停では、子どもの有無や養育状況について必ず聞かれます。
離婚が成立するまでは、子どもの教育費も婚姻費用に該当するため、子どもにかかるお金はいくらほどであるかを計算したうえで調停に臨むことをおすすめします。
たとえば、以下のような質問に備えておきましょう。
- 子どもは何歳か
- 子どもの習い事や塾の費用はいくらか
- 子どもが通う学校は公立か私立か など
家賃や住宅ローンと生活費の内訳
婚姻費用調停では、家賃やローン、生活費はいくらほどかといった、結婚後のお金の負担状況について聞かれます。
たとえば、以下のような質問に備えておきましょう。
- 家賃やローンの額はいくらか
- 生活費はいくらか
- 特別な支出が必要な病気に罹患しているか など
希望する婚姻費用の金額と根拠
婚姻費用調停では、希望する婚姻費用の金額について聞かれます。
たとえば、以下のような質問に備えておきましょう。
- 希望する婚姻費用の金額はいくらか
- 受け取り方法や振込口座に希望はあるか
- 毎月何日に支払ってもらうのか希望はあるか など
婚姻費用の分担請求調停の流れ
婚姻費用の分担請求調停は、以下のような流れで進んでいきます。
婚姻費用の分担請求調停の流れ
- 申立書を作成して家庭裁判所に提出する
- 裁判所から呼出状が届く
- 調停期日が開かれ、話し合いが行われる
- 調停成立または審判へ移行
- 審判期日が開かれる
- 審判に不服があれば即時抗告
1.申立書を作成して家庭裁判所に提出する
婚姻費用の分担請求調停を申し立てるには、必要書類を揃えて管轄の家庭裁判所に提出します。書式は裁判所ごとに異なるため、管轄の裁判所が指定するものを使用してください。
申立書などの書式は、裁判所の窓口で受け取るか、裁判所のホームページからダウンロードできます。
申立て先は、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所ですが、当事者双方の合意があれば別の裁判所を選ぶことも可能です。
調停の併合
同じ夫婦の問題について双方から調停を申し立てたり、婚姻費用調停と並行して離婚調停(夫婦関係調整調停)を申し立てたりすると、調停が併合され、同じ期日にまとめて話し合いが行われるようになります。
併合された調停で婚姻費用について先に合意できた場合は、婚姻費用調停のみを先に成立させ、離婚条件については引き続き話し合いを続けることが多いようです。
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2.裁判所から呼出状が届く
担当する裁判官・調停委員と1回目の調停期日が決まったら、裁判所に出向くことを求める呼出状が双方に普通郵便で届きます。
3.調停期日が開かれ、話し合いが行われる
調停期日には、双方が家庭裁判所に出向いて調停委員と話します。
1人ずつ調停室に呼び出され、30分程度の事情聴取が2往復ほど行われるのが一般的です。調停委員が一方の話を聞いたうえで、もう一方に質問するというやり取りを繰り返しながら、意見の調整を進めていきます。
調停回数はあらかじめ決まっておらず、双方の主張が出尽くすまで続けられます。調停の中で、追加の資料提出を求められることもあります。
4.調停成立または審判へ移行
双方が合意に至れば調停が成立し、調停調書が作成されます。調停委員会が合意の余地がないと判断した場合は調停不成立となり、自動的に審判へ移行します。
審判に移行する旨は、夫婦が同席した場で伝えられるのが一般的です。相手が調停期日に出席しなかった場合も、同様に審判へ移行します。
審判はその日のうちに開かれるわけではなく、調停不成立の日からおおむね2週間〜1か月以内に審判期日が指定されることが多いです。
5.審判期日が開かれる
審判期日には、双方が家庭裁判所に出向き、裁判官による審問を受けます。夫婦が同席する形で進みますが、互いに話し合う必要はなく、裁判官からの質問に答えることになります。
審問期日は、双方の主張が出尽くして裁判官が審判できると判断するまで続きますが、多くの場合は1〜2回程度で終わります。審判結果が言い渡される日に当事者が裁判所に出向くことはほとんどなく、後日送られてくる審判書で結果を確認します。
6.審判に不服があれば即時抗告
審判結果に納得できない場合は、審判書を受け取った日の翌日から2週間以内であれば、どちらの当事者からでも即時抗告(不服申し立て)を行えます。
即時抗告は抗告状の提出によって申し立て、舞台は高等裁判所に移り、改めて審理が行われます。2週間以内に即時抗告がなければ、審判が確定します。
即時抗告の注意点
婚姻費用分担審判では、一般的な民事訴訟とは異なり、「不利益変更禁止の原則」が適用されないとされている点に注意が必要です。
不利益変更禁止の原則とは、「不服申し立てをした側に不利益な方向に判断を変更してはならない」というルールです。これが適用されない婚姻費用分担審判では、即時抗告を行った結果、審判よりも婚姻費用が減額されてしまう可能性もあります。
婚姻費用調停の必要書類と費用
婚姻費用調停を申し立てるには、必要書類を漏れなく揃えることが重要です。書類不足で裁判所とのやり取りが増えると、初回の調停期日まで時間がかかってしまいます。
スムーズに手続きを進めるため、以下の書類と費用をチェックリストとして活用してください。
婚姻費用調停の必要書類
- 婚姻費用の分担請求調停の申立書(及びその写し1通)
- 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 事情説明書
- 進行に関する照会回答書
- 連絡先等の届出書(送達場所等届出書)
- 申立人の収入関係の資料(源泉徴収票・給与明細・確定申告書等の写し)
- 郵便切手(予納郵券)
※陳述書については、裁判所から提出を求められた場合に追加で必要になることがあります。
これらの書式は、管轄の家庭裁判所の窓口で受け取るか、裁判所のホームページからダウンロードできます。


婚姻費用調停にかかる費用
婚姻費用分担調停の申立てにかかる費用は、3,000円程度が目安です。
内訳としては、家庭裁判所に納める収入印紙代が申立て1件につき1,200円、郵便切手代は裁判所ごとに異なり、東京家庭裁判所では1,240円となっています。これに加え、戸籍謄本の取得費用として1通につき450円が必要です。
申立て前に、管轄の家庭裁判所に必要書類や費用の詳細を確認しておくとよいでしょう。
婚姻費用調停を弁護士に依頼する場合は、別途弁護士費用がかかります。ただし、調停や審判によって婚姻費用の支払いが認められれば、申立てにかかった費用を上回る金額を受け取れるケースも少なくありません。
婚姻費用調停を行うメリット
債務名義が得られる
婚姻費用調停を申し立てる最大のメリットは、債務名義が得られることです。債務名義とは、強制執行を行うために必要な公的な文書のことです。
強制執行とは、婚姻費用の支払いが滞ったときに、財産や給与を差し押さえて強制的に支払いを実現させる手続きです。強制執行を行うには婚姻費用を支払う義務が公的に確定している必要があり、債務名義はその証明になります。
調停が成立した際に作成される調停調書や、審判が確定した際に作成される審判書が、債務名義になります。
夫婦間の話し合いだけで合意した場合、原則として強制執行はできません。債務名義を得るためには、公証役場で強制執行認諾文言付きの公正証書を作成するか、調停を申し立てる必要があります。なお、2026年4月施行の法改正により、合意内容に子の監護費用が含まれる場合は、月額8万円×子の人数を上限として、私的な合意書面のみでも差押え(担保権実行)が可能になりました。ただし、取り決めた婚姻費用の全額を差し押さえるには、依然として調停調書や公正証書が必要です。
強制執行を視野に入れるならば、別居後すぐに婚姻費用調停を申し立てるとよいでしょう。
顔を合わせずに話し合いができる
調停では、夫婦が交互に調停室へ呼び出されて調停委員と面談を行うため、双方が顔を合わせて話し合うことは基本的にありません。DVやモラハラなどによって心身に危険が及ぶこともなく、冷静に話し合いを進められます。
調停委員は、裁判官の指揮のもとで双方の事情を聞き取り、必要に応じて資料の提出を求めながら、法的な観点も踏まえて妥協点を探る役割を担います。通常は男女1名ずつ2名体制で、弁護士・医師・大学教授・元公務員など、幅広い専門知識や社会経験を持つ人が務めるとされています。
ただし、審判に移行した場合は双方が同席したうえで裁判官の審問を受けることになります。同席するとはいえ、当事者同士で話し合う必要はありません。
調停の申立てで話し合いが進展する
婚姻費用の支払いを拒否していた相手でも、調停を申し立てることで態度が変わることがあります。
令和6年の司法統計によると、婚姻費用の分担請求調停のうち取り下げは4,058件で、全体の約18.7%を占めています。
取り下げとは申立人の意思により調停を終了させることですが、その背景には、調停を申し立てたことで相手が話し合いに応じるようになり、調停外で直接合意に至ったケースが多いとされています。
裁判所から呼出状が届くと、相手は「このままでは審判で婚姻費用の支払いを命じられる」という危機感を持ちます。この心理的なプレッシャーが、話し合いを進展させる効果につながるのです。
ただし、事前に何も伝えずに申し立てると、相手は裁判所からの呼出状で初めて知ることになり、反感を買う可能性があります。できれば「話し合いがまとまらなければ調停を申し立てる」と事前に伝えておくとよいでしょう。
婚姻費用調停を有利に進める4つの戦略
婚姻費用調停を有利に進めるには、適正な金額を確保するための戦略が必要です。
相手の所得隠しを見抜く方法
婚姻費用の月額は夫婦双方の収入をもとに算出されるため、収入が多いほど支払うべき婚姻費用も大きくなります。この仕組みを悪用して、支払額を少なくしようと収入を実態より低く申告してくるケースがあります。よくある手口としては、以下のようなものが挙げられます。
- 自営業者が経費を水増しする
- 病気と偽って会社を休職する
- 会社役員がわざと自分の役員報酬を減額する
特に注意が必要なのは相手が自営業者の場合です。
収入資料として確定申告書が用いられることが多いですが、売上を隠したり架空の経費を計上したりすることで、所得を少なく見せかけることができてしまいます。また、減価償却費の扱いや収入の変動をどう考慮するかなど、ケースごとにさまざまな論点が生じます。
正当に婚姻費用を受け取るためには、別居前の家計や生活水準をもとに本来の収入を推定するなどの方法で裁判所に主張していくことが重要です。
婚姻費用は遡って請求できない点に注意
婚姻費用は、初めて請求した日より前に遡って請求することはできないことが多いです。たとえば、別居開始から1年後に婚姻費用を請求した場合、それ以前の1年分は調停・審判では認められず、請求時以降の分しか受け取れません。
別居を始めたら、すみやかに婚姻費用の請求を行いましょう。
請求は調停や審判の申し立てに限らず、相手に請求する意思を伝えれば足ります。ただし、いつ請求したかの証拠を残しておくことも重要で、内容証明郵便を利用する方法が確実です。
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有責配偶者でも子どもの養育費は請求可能
調停では、有責配偶者(婚姻生活の破綻の原因を作った側)からの婚姻費用分担請求は原則として認められません。別居の原因が自身の不貞行為やDV・モラハラである場合、相手から婚姻費用を受け取るのは難しいといえます。
ただし、有責配偶者が子どもを引き取っている場合は、子どもに非はないため、婚姻費用のうち養育費に相当する分については、有責性にかかわらず請求が認められます。個別の事情によって判断が異なるため、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼して交渉力を高める
婚姻費用調停は弁護士に依頼しなくても行える手続きですが、相手が収入を低く申告してくる可能性を考えると、調査や交渉を任せた方が安心です。
弁護士は弁護士会照会という制度を利用して、弁護士会を通じて企業や金融機関などに情報の開示を求めることができます。相手が収入の開示に協力しない場合でも、勤務先などへ給与情報を照会できる可能性があります。
また、2026年4月施行の法改正により、家庭裁判所が当事者に収入情報の開示を命じる制度や、裁判所を通じて勤務先・年金機構などの第三者から直接情報を取得する手続きも整備されており、収入調査の手段はより充実しています。
審判の中では書面による主張・立証が重視されます。説得力のある書面を作成し、自身の負担を抑えるためにも、弁護士への依頼を検討してみてください。
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婚姻費用調停のよくあるトラブルと対処法
婚姻費用の分担請求調停では、相手の非協力や予期せぬトラブルが発生することがあります。ここでは、実務でよくあるトラブルとその対処法を解説します。
相手が調停に来ない場合は審判へ移行
婚姻費用調停に相手が出席しなかった場合、調停は不成立となり審判へ移行します。相手が欠席したからといって申し立てが拒否されることはなく、裁判官が提出された資料や一切の事情をもとに判断を下します。
審判においても相手が出席しなかった場合、相手は反論の機会を失うことになります。申立人が提出した資料や主張をもとに判断される可能性が高くなるため、結果的に有利な状況になるといえます。
勝手に別居しても婚姻費用は請求できるか
正当な理由なく一方的に別居した場合、民法に定める夫婦の同居義務に違反し、「悪意の遺棄」とみなされてこちらが有責配偶者になってしまう可能性があります。有責配偶者になると、婚姻費用分担請求が認められなくなるおそれがあります。
こうした事態を避けるためにも、別居を開始する際は相手の同意を得てから家を出るようにしましょう。
ただし、DVやモラハラ、単身赴任、子どもの学業などは別居の正当な理由にあたり、同居義務違反とはみなされません。
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急ぎの場合は保全処分の申立てを検討
婚姻費用調停や審判の成立を待っていると、生活が立ち行かなくなってしまう方もいるでしょう。そういった場合は、保全処分の申し立てを検討してみてください。
保全処分には、大きく2つの方法があります。
1つは「審判前の保全処分(仮払い)」で、調停・審判の確定を待たずに、算定表などをもとに算出した金額を相手に仮払いさせることができます。生活費の確保が急務の場合に特に有効な手段です。
もう1つは「仮差押え」で、将来の強制執行に備えて相手の預金口座や給与債権を仮に差し押さえることができます。また、裁判所からの保全命令は相手にとって心理的なプレッシャーとなり、自発的な支払いを促す効果も期待できます。
ただし、保全処分の申し立てには、婚姻費用の調停・審判がすでに申し立てられていることに加え、緊急性などの保全の必要性を裁判所に証明しなければなりません。相手に与える不利益も大きいため、認められるための要件はかなり厳しいといえます。
婚姻費用の分担請求調停に関するFAQ
Q.婚姻費用の調停は何回で決まる?
婚姻費用調停にかかる回数は、事案の内容や当事者双方の協力度合いによって大きく異なります。収入資料が早期に提出され、婚姻費用算定表をもとにした金額に双方が納得できれば、2〜3回の期日で終了するケースもあります。
一方、相手が収入を隠している疑いがある場合や、調停が不成立となって審判に移行した場合には、手続きが長期化して期日回数が増える傾向があります。
Q.婚姻費用離婚調停とは?
婚姻費用の分担請求調停と離婚調停(夫婦関係調整調停)を同時に申し立てることは可能です。実務上、両者は同じ期日に一体として進行することが多く、これを「婚姻費用離婚調停」と呼ぶことがあります。
婚姻費用についての合意が先にまとまった場合は、婚姻費用調停のみを先に成立させ、離婚条件については引き続き話し合いを続けることも可能です。
Q.婚姻費用の調停に相手が来ないときは?
相手が調停期日に出席しなかった場合、調停は不成立となり、自動的に審判へ移行します。審判では裁判官が職権で婚姻費用の金額を決定するため、必ず結論が出ます。
相手が審判期日にも出席しなければ反論の機会を失うことになり、申立人側に有利な判断が下される可能性が高くなります。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律税務グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
