有責配偶者でも離婚できる?有責配偶者と離婚する場合どうする?
- 離婚で問題になる有責配偶者とは?
- 有責配偶者だけれど離婚したい…離婚請求は認められる?
- 有責配偶者の離婚慰謝料はいくら?離婚条件はどうなる?
有責配偶者とは、離婚原因を生じさせた責任がある配偶者のことです。不貞行為(不倫、浮気)などによって夫婦関係を破綻させた配偶者は「有責配偶者」に該当します。
有責配偶者からの離婚請求は、通常の離婚請求に比べ、認められるハードルが非常に高いです。
この記事では、「有責配偶者だけれど離婚請求したい方」と「有責配偶者である相手方から離婚請求されている方」に向けて、それぞれの対処法を解説します。
離婚で問題になる「有責配偶者」とは?
有責配偶者とは?
離婚の際に問題になる「有責配偶者」とは、夫婦関係の破綻の主な原因となる行為(有責行為)をおこなった配偶者のことをいいます。
離婚で問題になる有責行為の典型例としては、不貞行為(不倫、浮気)、悪意の遺棄、DV、モラハラなどです。
有責行為の典型例
- 不貞行為(不倫、浮気)
配偶者以外の第三者と肉体関係をもつ - 悪意の遺棄
生活費を渡さない、理由もなく別居する、頻繁に家出するetc. - 婚姻を継続し難い重大な事由
DV(家庭内暴力)、モラハラetc.
配偶者の不貞行為や悪意の遺棄、DV・モラハラを理由として離婚したい場合、裁判離婚をおこせば離婚が認められる可能性があります。
有責配偶者に慰謝料請求できる期限は?
有責行為から何年経過すれば、有責配偶者ではなくなるといった規定は、民法にはありません。
しかし、数年前の有責行為を理由に離婚したいという主張は、実務上、認めがたいものでしょう。
有責行為から数年経過しているのであれば、夫婦関係が修復されていると考えられるからです。
また、有責配偶者に対する慰謝料請求については、民法に、時効の規定があるので注意が必要です。
有責行為の発覚から3年、あるいは有責行為があった時から20年経過していなければ、通常、慰謝料請求は可能です。
有責配偶者からの離婚請求は認められる?
【原則】有責配偶者からの離婚請求は認められない
有責配偶者が離婚請求をする方法としては、協議離婚、調停離婚、裁判離婚などの方法が考えられます。
協議離婚・調停離婚の場合
協議離婚や調停離婚は、相手方配偶者の合意がなければ成立しません。
自分が有責配偶者であり、離婚したいと考えて、相手方配偶者に話し合いを求めても、相手方配偶者が離婚に合意してくれなければ離婚はできません。
裁判離婚の場合
裁判離婚の場合、民法の法定離婚原因があることを理由に、離婚裁判を提起して、その後は裁判官の判決にしたがうことになります。
ただし、相手方配偶者が離婚を拒否していれば、離婚裁判においても、有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。
なぜなら、自ら離婚原因をつくっておきながら、それを自分に有利になるように利用する不合理な行為は許さないと、裁判所が考えているからです。
とはいえ、有責配偶者からの離婚請求がいかなる場合も認められないとすると不都合も生じるものです。
そこで、例外的に有責配偶者からの離婚請求が認められるケースも存在します。
次の項目から、有責配偶者からの離婚請求が認められる要件、具体的な事情について確認していきましょう。
【例外】有責配偶者からの離婚請求が認められる場合の要件は?
判例(最大判昭和62年9月2日)は、以下の要件を満たす場合は、有責配偶者からの離婚請求を認めると判断しました。
要件
以下①~③要件が満たされた場合、有責配偶者からの離婚請求は例外的に認められる可能性があります。
- 要件①
別居が相当の長期間に及んでいること - 要件②
未成熟子が存在しないこと - 要件③
離婚によって極めて苛酷な状態におかれるなど特段の事情
以下、各要件について解説します。
要件①長期間の別居とは?裁判例は?
別居が相当の長期間に及んでいることとは?
実務では、別居期間が10年を超える事案では、有責配偶者からの離婚請求であっても認められる傾向があります。
もっとも、有責配偶者からの離婚請求において、別居期間が10年を超えているかどうかが絶対的な基準になるわけではありません。
夫婦の年齢や同居期間と比べて別居期間が長期といえるかどうかが、有責配偶者からの離婚請求が認められるかどうかにおいて、重要なポイントです。
例えば、夫婦の年齢が若いほど、まだ夫婦関係を修復できる可能性が高いと考えられるため、長期間の別居期間が求められます。
また、同居期間が短い場合は、別居期間が短くても夫婦関係が破綻していると認められやすいでしょう。
有責性の程度や別居後の事情も考慮され、有責配偶者からの離婚請求でも、裁判離婚が認められるケースもあります。
裁判例の紹介
参考に、別居期間が10年を超えなくても、有責配偶者からの離婚請求が認められた判例をご紹介します。
同居23年、別居8年で離婚請求が認められた事案(最判平成2年11月8日)
【裁判所が考慮した事情】
- 有責配偶者である夫は、別居後も妻子の生活費を負担した。
- 夫は、別居後間もなく不倫相手との関係を解消した。
- 離婚請求について、具体的で相応の誠意がある財産関係の清算を提案している。
- 妻は、別居から約5年後に夫名義の不動産に処分禁止の仮処分(離婚に伴う財産分与等を保全する手続き)を執行した。
- 成年に達した子どもたちが離婚については当事者の意思に任せる意向である。
要件②未成熟子とは?裁判例は?
未成熟子が存在しないこととは?
未成熟子とは、成人年齢に達しているかどうかに関係なく、社会的・経済的に自立していない子どもを意味します。
例えば、成人にしても障害により経済的自立が難しい子どもは未成熟子に当たります。
未成熟子が1人でもいれば、有責配偶者からの離婚請求が絶対に認められないというわけではありません。
これまでの裁判例の傾向から、未成熟子が高校生以上である場合は、今後養育・監護が必要な期間が短いと想定されるため、有責配偶者からの離婚請求でも認容される可能性があります。
ただし、未成熟子がいる場合、これまで相手方配偶者や子どもの生活費を十分支払ってきており、将来的にも支払続ける見込みが高いことが必要です。
裁判例の紹介
参考に、未成熟子がいても有責配偶者の離婚請求が認められた判例をご紹介します。
未成熟子がいても離婚請求が認められた事案(最判平成6年2月8日)
【裁判所が考慮した事情】
- 別居期間は13年11ヶ月余りに及んでいる。
- 4人の子どものうち3人は成人して独立しており、残る1人は高校2年生であって未成熟子に当たるが、まもなく高校を卒業する年齢に達している。
- 有責配偶者である夫は、妻に対し毎月15万円の送金をしてきた。
- 夫の妻に対する離婚に伴う経済的給付もその実現を期待できる(夫は離婚給付として700万円の支払を提案)。
要件③特段の事情とは?裁判例は?
離婚によって極めて苛酷な状態におかれるなど特段の事情とは?
有責配偶者からの離婚請求により、「相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれるなど離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情」がある場合は、離婚は認められません。
ほとんどの裁判例では、相手方配偶者が離婚により経済的に苛酷な状況におかれるかどうかを重視しています。
そのため、有責配偶者がこれまでに十分な金額の生活費を負担してきており、離婚後の財産分与等についても一般的な基準よりも高額な給付を申し出ているなどの事情があれば、「特段の事情」があるとはいえず、離婚請求が認められやすくなるでしょう。
裁判例の紹介
参考に、有責配偶者からの離婚請求が認められなかった裁判例をご紹介します。
この事案では、離婚を認めた場合に妻子の経済状況に影響を及ぼす可能性がある点も考慮されました。
別居13年に及ぶ有責配偶者からの離婚請求が認められなかった事案(東京高判平成9年11月19日)
【裁判所が考慮した事情】
- 婚姻関係を回復することが著しく困難な状態に至った原因は、専ら、夫の不貞行為にある。
- 別居後、夫は妻の再三にわたる同居の要請をかたくなに拒絶した。
- 未成熟子は高校3年生と中学2年生であって、両親の養育・監護を要する期間は、今後なお相当の期間に及ぶ。
- 夫は別居後に生活費を毎月送金してきたものの、十分なものではなかった。
- 夫は、離婚後に新しい家庭を築くことを考えており、そうなれば現在と同程度の経済的負担を負うことが確実であるとはいえない。
離婚したい有責配偶者はどうする?
相手方配偶者の有責性を確認する
有責配偶者からの離婚請求は、そう簡単には認められません。
しかし、そもそもご自分が有責配偶者に当たらなければ、離婚が認められる可能性は高くなります。
有責配偶者に当たらない場合とは、婚姻関係の破綻について、相手方配偶者の方により大きな責任があるときや、相手方配偶者に同程度の責任があるときを意味します。
例えば、不貞行為をしたものの、その原因は夫からの長年のDVやモラハラにあり、その苦しみに耐え難かったというケースでは、不貞をした側にのみ婚姻関係破綻の責任があるとはいえないでしょう。
双方に有責性がある場合(一例)
- 夫から長年、暴力を受けており心身ともに疲れ果て、夫以外の第三者に相談するうちに、不倫関係になってしまった
- 妻からの日常的なモラハラに耐えかねて、家出したまま、数年間別居している
このように、一見すると有責配偶者に見えるケースでも、その実情をよく分析すると、実は有責配偶者には当たらない可能性があります。
ご自分で判断するのが難しいケースが多いと思いますので、ぜひ一度弁護士に相談してみてください。
有責配偶者は協議・調停での離婚を目指す
ご自分が有責配偶者に当たる場合、有責配偶者からの離婚請求が認められる3つの要件を満たすかどうか、まず確認してみてください。
別居期間が短いなどの理由で要件を満たさない場合、離婚裁判で離婚が認められる可能性は低いでしょう。
その場合に重要なのが、協議や調停での離婚を目指すことです。
なぜなら、協議離婚や調停離婚の場合、有責配偶者であるかどうかにかかわらず、夫婦が同意すれば離婚が成立するからです。
協議や調停では、一般的な基準よりも評価できる内容の離婚条件の申し出を検討する必要があります。
具体的には、財産分与や慰謝料の点で、相手の合意を得やすい金額を提示する方法が考えられます。
協議離婚・調停離婚が難しい場合は別居を続ける
夫婦間での話し合いや離婚調停がまとまらず、どうしても離婚できない場合は、別居を継続するのが一つの選択肢です。
すでにご説明したとおり、有責配偶者からの離婚請求が認められる要件として、長期間の別居は非常に重要です。
一つの目安として10年程度別居を続けた後、離婚裁判を提起することが考えられます。
ただし、10年間別居をすれば確実に離婚できるわけではない点に注意してください。
別居中も十分な生活費の支払を続けたり、十分な金額の離婚給付を準備するなどの対応が重要です。
具体的な対処法はご事情によって異なります。
少しでもご不安な方は、弁護士に事前に相談することをおすすめいたします。
有責配偶者が離婚で負う責任は?
有責配偶者が支払う慰謝料請求の相場
有責配偶者は、相手方配偶者から慰謝料請求される可能性が高いです。
慰謝料請求されるケース(一例)
- 不貞行為が相手方配偶者にばれてしまい、離婚することになった
- 不貞行為によって、相手方配偶者が多大なショックを受け、精神病になってしまった
etc.
たとえば不貞行為について、不法行為にもとづく慰謝料をされた場合、その慰謝料相場は100万円〜300万円程度になります。
有責性の程度や相手方の精神的苦痛の程度、婚姻期間の長さなどによって、相場より高くなる可能性もあります。
この慰謝料相場は、裁判になった場合に認められる可能性が高い金額です。
協議離婚や調停離婚を早期に実現したい場合、相場よりも高い金額を提示すると相手の合意を得られる可能性もあるでしょう。
有責配偶者からの婚姻費用請求への影響
ご自分が不貞行為をして子どもを連れて家を出た場合であっても、夫に婚姻費用を請求することはできます。
ただし、有責配偶者が自分の生活費分まで分担を求めるのは、信義則に反するため認められません。
したがって、子どもの分の婚姻費用は支払いを受けられますが、有責配偶者本人の生活費分は請求できません。
関連記事
有責配偶者からの養育費請求への影響
養育費については、婚姻費用とは異なり、監護者が有責配偶者であっても、非監護親が原則として支払う義務があります。
したがって、ご自分の不貞行為が原因で離婚した場合であっても、離婚後に子どもを監護養育している場合、相手方に対し養育費を請求できます。
関連記事
・離婚後の養育費の相場はいくら?|支払われなかったらどうする?
不貞行為の親権への影響
親権者を決める際に重視されるのは、これまでの監護実績や、今後の監護環境などです。
不貞行為などの有責行為は、親権者の判断に直接的には影響しません。
ただし、不貞の相手方の家に入り浸って育児をおろそかにしているなどの事情があれば、親権の判断において不利に働きます。
関連記事
有責配偶者である夫から「離婚したい」と言われたら?
離婚に応じるかどうか冷静に判断する
有責配偶者である相手方から離婚請求された場合、冷静に判断していただきたいのが、相手の離婚請求が裁判で認められる可能性はどれほどあるかという点です。
この判断は前記の3要件を満たすかどうかの分析が必要となるため、弁護士に相談してみるのが良いでしょう。
相手の離婚請求が認められる見通しをふまえた上で、離婚に応じるかどうか、様々なメリット・デメリットを比較して決める必要があります。
有責配偶者からの離婚に応じる場合
離婚に応じる場合、相手にとって離婚が認められにくい時期(別居期間が短い、未成熟子が複数いるなど)であれば、一般的な基準よりも有利な内容の離婚条件で交渉してみるのも一つの方法です。
具体的には、慰謝料、財産分与、養育費について、相場より高い金額を求めることが考えられます。
相手にとって、裁判離婚が認められる可能性が低いと分かっているので、このような離婚条件でも同意する可能性が高いといえます。
離婚方法については、「あなたに最適な離婚の仕方は?|スムーズな離婚を実現するために」の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。
有責配偶者からの離婚に応じない場合
離婚に応じないと決めた場合は、協議や離婚調停で一貫して拒否します。
離婚裁判になった場合は、前記の3要件を満たさないことを基礎づける具体的な事実を主張し、証拠を提出する必要があります。
ただ、相手が家を出て行ってしまった場合は、別居期間が長期化するにつれ裁判離婚が認められる可能性が高くなってきます。
その場合、離婚が認められる場合に備えて就職先を探すなど、離婚後の生活に向けた準備をしておくことも現実的に必要です。
有責配偶者からの離婚に応じるべきか否かの判断は、とても難しい問題です。
お一人で悩まず、ぜひ弁護士にご相談ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、有責配偶者として離婚請求をする場合、有責配偶者から離婚したいと言われた場合などで問題になる離婚の条件や対応についてまとめました。
ご自身が有責配偶者にあたる場合でも、有責配偶者から離婚したいといわれた場合でも、離婚請求の方法や、慰謝料、財産分与など離婚にまつわる問題は多岐にわたります。
離婚をあつかう弁護士に相談することで、様々な問題をスムーズに解決していくことが期待できます。
有責配偶者の離婚でお悩みの方は、信頼できる弁護士を見つけて、相談してみてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
いわゆる有責配偶者からの離婚請求とは、上記のような有責行為をおこなった本人から、相手方配偶者に対して離婚を求めるというものです。