離婚したいけどお金がない!必要なお金はいくら?費用の工面と離婚準備

「お金があれば離婚したい」「旦那と別れたいけどお金がない」
経済的な事情から、離婚への一歩を踏み出せずに悩んでいる方は多いです。
しかし、お金がないからといって、つらい結婚生活を我慢し続ける必要はありません。
日本の法律や公的制度には、経済的に余裕がない方でも法的手続きを進め、新しい生活の基盤を整えるための仕組みが用意されています。
この記事では、当面の生活費や弁護士費用に不安を抱えている方に向けて、具体的な資金の確保方法や公的支援の活用について、離婚を進める手順に沿って弁護士が解説します。
目次
「お金があれば離婚したい」現状を打破するには?
ある調査によれば、「離婚したいけどできないと思う」と回答した女性の割合は全体の9.6%にのぼり、離婚したいけどできないと思う理由のうち、65.8%を「経済的な自立ができない」ことが占めるという結果がでています。
今後離婚する可能性はある?(単位:%)

離婚したくてもできない理由は?(単位:%)

2006年7月第一生命NEWS宅配便『結婚生活に関するアンケート調査』P12~13の数値を抜粋、編集しました(2024.6.25現在)。
このように、お金の問題は離婚を踏み出せない大きな要因ですが、だからといって焦って行動するのは危険です。
状況を整理し、計画的に進めれば、経済的な負担やリスクを最小限に抑えることができます。
夫婦の財産把握と当面の資金確保
「お金があれば離婚したい」と悩んでいる段階から一歩進むために必要なのは、漠然とした不安を具体的な数字に変えることです。
まず行うべきは、夫婦の共有財産の調査です。
たとえ妻名義の預金が少なくても、夫名義の預貯金、保険の解約返戻金、株式、不動産などは、離婚時に財産分与として原則2分の1を受け取る権利があります。
しかし、別居や離婚の話が出た後では、相手が財産を隠したり使い込んだりするリスクが高まります。
預貯金通帳、給与明細、不動産の権利証、生命保険証券など、同居している今のうちに証拠を集めておくことがポイントです。
また、並行して別居に向けたへそくりの確保や、実家に一時的な援助が可能か相談するなど、水面下での資金作りを進めましょう。
関連記事
・夫婦の共有財産|離婚時に財産分与の対象になる共有財産とは?
・旦那がお金の管理をしている|離婚の注意点や貯金を調べる方法
婚姻費用を請求して生活費を確保する
「お金がないから」と我慢して同居を続ける必要はありません。
収入の多い夫に対しては、別居中の生活費である婚姻費用を請求する権利があります。
婚姻費用は、離婚後の養育費よりも金額が高くなる傾向にあります。
これを生活費の柱にすることで、別居後の生活が成り立ちます。
関連記事
・離婚と婚姻費用│別居中の生活費・相場は?離婚前提でも請求できる?
法テラスを活用して弁護士費用を工面する
「弁護士に頼むとお金がかかる」とためらう人もいますが、資金面で心配がある場合は、「法テラス(日本司法支援センター)」を利用しましょう。
手持ちのお金がなくても、弁護士費用の立替えを行ってくれます。
また、DVなどの事情がある場合は、自治体の相談窓口やシェルターへの避難も検討してください。
離婚条件(財産分与・養育費)を確実にする
早く離婚したい一心で「お金はいらない」と妥協するのは危険です。
財産分与や慰謝料、養育費など、本来受け取れるお金をしっかり確認し、確保したうえで離婚に進みましょう。
離婚準備で知っておくべき3種類のお金
漠然と離婚するお金がないと思い悩む前に、どのくらいのお金が必要になるのか、具体的に計算してみましょう。
離婚で得られるお金と、離婚にかかる費用の両方がわかれば、離婚に向けてどのように準備していけばよいか具体的に計画できるようになります。
離婚にかかる費用は、主に以下のとおりです。
離婚にかかる費用
- 離婚手続きにかかるお金
(離婚調停・離婚裁判の費用、公正証書の作成費用、弁護士費用など) - 別居にかかるお金
- 離婚後の生活費
- その他の費用
以下では、それぞれの費用についてご説明します。
【1】離婚手続きにかかるお金
離婚する場合、離婚手続きにかかる費用、公正証書作成費用、弁護士費用、その他の費用がかかります。
協議離婚にかかるお金
協議離婚の場合は、相手方配偶者との話し合いによって離婚を決めるものなので、協議離婚そのものにかかるお金は0円です。
協議離婚をするには、最低限、離婚届を準備するだけでよく、離婚届は役所から無料でもらえます。
戸籍の届出用紙はインターネットからダウンロードしたものでも届出可能です。
関連記事
注意点
協議離婚は、調停離婚や裁判離婚とは違い、裁判所への申立て費用はかかりません。
ただし、協議離婚の内容を公正証書にしたためる場合、その作成のためにお金がかかります。
協議離婚の公正証書の作成費用
公正証書とは、公証役場の公証人が作成する書面です。
公正証書に、強制執行認諾文言を盛り込むことで、書面に記載した請求について裁判をおこさなくても、強制執行できるようになります。
このため、協議離婚にともない、離婚条件(慰謝料、財産分与、養育費の支払い等)を合意できたら、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成する夫婦もいます。
ただし、公正証書作成には、公証人手数料がかかります。
公証人手数料の金額は、公正証書で取り決める金銭の支払総額(目的金額)に応じて決まります。
公証人手数料をまとめると以下のとおりです。
| 目的金額 | 公証人手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円を超え100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 1万3,000円 |
| 500万円を超え1000万円以下 | 2万円 |
| 1000万円を超え3000万円以下 | 2万6,000円 |
| 3000万円を超え5000万円以下 | 3万3,000円 |
| 5000万円を超え1億円以下 | 4万9,000円 |
| 1億円を超え3億円以下 | 4万9,000円に超過額5,000万円までごとに 1万5,000円を加算した額 |
| 3億円を超え10億円以下 | 10万9,000円に超過額5,000万円までごとに 1万3,000円を加算した額 |
| 10億円を超える場合 | 29万1,000円に超過額5,000万円までごとに9,000円を加算した額 |
※2025年10月1日改定後の金額です。
具体的にどのくらいのお金がかかるのかについては、事前に、公証人役場に問い合わせるのが確実です。
関連記事
離婚調停・離婚裁判のお金
調停離婚とは、家庭裁判所の調停委員会の司会のもと、夫婦で離婚を合意する手続きです。
調停離婚の場合は、裁判所への申立て費用など、手続きをおこなうためのお金がかかります。
裁判離婚とは、裁判官の離婚判決によって、離婚する手続きです。
裁判離婚の場合も、離婚裁判をおこなう費用など、手続きをおこなうためのお金がかかります。
調停離婚、裁判離婚にかかるお金は、収入印紙代、郵便切手代、戸籍謄本を取得するお金など、以下のとおりです。
自分でおこなえば数千円程度で済みますが、手続きが複雑なため弁護士に依頼するケースが一般的です。
| 離婚手続き | 費用 |
|---|---|
| 協議離婚 | 基本的に費用はかからない。ただし、公正証書を作成する場合は、その作成費用がかかる。 |
| 調停離婚 | ●収入印紙代1,200円 ●戸籍謄本の取得費用450円程度 ●郵便切手代1000円程度 (管轄の家庭裁判所によって異なる) |
| 裁判離婚 | ●収入印紙代 離婚請求のみの場合:1万3,000円 慰謝料請求等も行う場合:2万円程度 (請求額によって異なる) ●郵便切手代6,000円程度 (管轄の家庭裁判所によって異なる) |
上記のほか、書類作成や証拠収集に必要な実費などもかかることが予想されます。
関連記事
離婚の弁護士費用
弁護士に離婚問題の解決を依頼する場合、弁護士費用がかかります。
通常、離婚の仕方としては、協議離婚→調停離婚→裁判離婚の順番で進めていくので、ここでは裁判離婚にかかる弁護士費用の相場(一例)を確認しておきましょう。
離婚裁判を行う場合の弁護士費用の相場は、以下のとおりです。
弁護士費用の相場(一例)
| 項目 | 相場 |
|---|---|
| 相談料 | 0円~1万円 |
| 着手金 | 33~55万円 |
| 成功報酬 | 33~55万円 |
| 諸経費 | 数万円程度 |
| 合計 | 70~120万円 |
弁護士費用は法律で一律に決められているわけではなく、事務所によって異なります。
費用面はもちろん大切ですが、弁護士との相性も非常に重要です。
初回無料相談を行っている事務所も多いため、まずは実際に会ってみて、信頼できる相手かどうかを確認するとよいでしょう。
その際、正式に依頼する場合の費用についてもしっかり説明を受けておくことをおすすめします。
関連記事
・離婚の弁護士費用はいくらかかる?費用を払えない時はどうする?
その他(浮気調査のお金)
離婚する際にかかるお金としては、上記のような費用のほかに、調査会社への依頼費用などもあります。
配偶者の浮気を理由に離婚をする場合、不貞行為の証拠収集等のために調査会社に依頼することも多いものですが、そのお金については、30万円〜100万円程度の調査費用がかかります。
費用を抑えるためには、依頼する前に自分で証拠をある程度集めておくことや、調査日程を必要な日に絞り込むなどの工夫が効果的です。
関連記事
・離婚で浮気を立証するのに有効な証拠とは?集め方と種類を解説
【2】離婚までの別居にかかるお金
引っ越し費用、家賃など
離婚にともない別居をする際、引っ越し業者の作業第や不動産会社に支払うお金など、以下のような費用がかかります。
一般的に賃貸物件の初期費用は家賃の5か月分以上、家具家電を揃えるには20万円程度かかると言われています。
別居にかかる費用
- 引っ越し費用(引っ越し業者の作業代、レンタカー代など)
- 敷金・礼金、仲介手数料
- 日割り家賃・前家賃
- 家電製品、日用品の購入費用
資金が足りず引っ越しが難しい場合、たとえば、実家に戻れば初期費用をほとんどかけずに生活を立て直せます。
公営住宅を利用する方法もあり、家賃が安いうえに、ひとり親世帯を優先して入居させる自治体も少なくありません。
DV被害がある場合には、公的な一時保護所(シェルター)へ避難することもできます。
公的な支援制度や低予算で入居できる住まいは、関連記事『離婚後住む場所がない!お金がなくても住むところを確保する公的支援』で詳しく解説しています。
別居中の生活費(婚姻費用)
「お金がない」と悩む方にとって、最も重要なのが婚姻費用です。
婚姻費用とは、夫婦が結婚生活を続けるうえで必要となる生活費のことです。
夫婦の生活費だけでなく、子どもの生活費や教育費も含まれます。
これらの費用は夫婦が収入に応じて分担する仕組みになっており、離婚前であれば別居中でも相手に婚姻費用を請求できます。
婚姻費用の相場
| 種類 | 相場 |
|---|---|
| 婚姻費用 | 月額4万円~15万円 ※夫から妻へ支払われる場合 |
別居中でも、専業主婦で収入がない場合や、相手より収入が少ない場合、または相手より収入が多くても子どもを自分が育てている場合は、相手に婚姻費用を請求できます。
婚姻費用は夫婦それぞれの年収をもとに、「改定標準算定表」を参考にしながら決めますが、婚姻費用の相場としては、月額6万円~15万円が目安になるでしょう。
婚姻費用の計算方法や詳しい条件については、関連記事『離婚と婚姻費用│別居中の生活費・相場は?離婚前提でも請求できる?』をご覧ください。
婚姻費用の請求でお金はかかる?
話し合いで婚姻費用を決める場合、夫婦が合意すれば金額は自由に設定できます。
口頭で請求するだけなら費用もかかりません。
ただし、請求する側は増額を求め、請求される側は減額を望むことが多いため、協議だけでは金額がまとまらないことも多々あります。
合意できない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担請求の調停を申し立て、調停手続を通じて金額を決めることになります。
この際には、裁判所の手数料が必要です。
婚姻費用分担調停の申立てには、収入印紙1200円分、および連絡用の郵便切手(各家庭裁判所ごとに額面は異なる)が必要です。
婚姻費用は別居したらすぐに請求を!
婚姻費用の支払い義務は、原則として請求した時点から発生します。
別居を始めたら、内容証明郵便や調停申立てなどで、早めに請求の意思を示すことが重要です。
相手が支払いに同意した場合は、必ず書面を作成しましょう。
不払いに備えるためにも、強制執行認諾文言付きの公正証書を作っておくと安心です。
一方、相手が支払いに応じない場合は、家庭裁判所へ婚姻費用分担請求の調停を申し立てます。
調停に相手が来なければ審判に移行し、裁判所が支払いを命じる審判が出ます。
審判書があれば強制執行も可能です。
婚姻費用は原則としてさかのぼって請求できないため、別居後は速やかに手続きを始めることが大切です。
婚姻費用を自分で請求する方法を詳しく解説した関連記事『婚姻費用の請求方法|弁護士なしで自分で進める手順と注意点』をあわせてご覧ください。
【3】離婚後の生活費と公的支援
離婚後、辛かったこと上位3つについてのあるアンケート結果では、「特にない」と答える割合が一番多かったものの、その割合は約3割にとどまるものでした。
そして、離婚後、辛かった理由のなかで最も多かったのが「家計が苦しくなった」という理由で、全体の21.1%を占める結果となっています。
離婚後、辛かった理由(単位:%)

2024年3月5日 株式会社リライフテクノロジー「離婚に至る過程で大切にすべきポイントとは」より数値を抜粋、編集しました(2024.6.25現在)。
離婚後の生活費としては、住まいにかかる費用のほかにも、食費、水道光熱費、通信費、税金の支払いなどお金がかかることになります。
これは離婚後の1か月の生活費の目安となるものとして、総務省統計局の家計調査報告〔家計収支編〕を参照してみると、単身世帯の消費支出の月平均額は180,007円という結果がでています。
ただし、あくまで参考となる数値です。
お子様と一緒に生活する場合は、もっとお金がかかるでしょうし、それぞれの家庭の事情に応じて、必要になるいお金は変わるものです。
そのため、離婚を考えている方は、離婚後の生活費のシミュレーションが非常に重要です。
たしかに、別居中の生活費については婚姻費用を、離婚時には慰謝料や財産分与を請求できる可能性はあります。
しかし、請求してから、実際にお金を得られるまでの期間は、自分の貯金や収入から支払いをしなければなりません。
離婚に踏み切るまえに、離婚後の生活費の収支をシミュレーションしてみましょう。
お金がないけど離婚を叶える公的支援
離婚後は、国や自治体から様々な手当・助成金を受けられる可能性があります。
「お金がない」と不安になる前に、自分が利用できる制度を確認しましょう。
離婚後の主な公的支援
- 児童扶養手当
- 児童手当
- 医療費助成
- 所得税・住民税の軽減
- 水道料金の減免
- 公営住宅の優先入居
- 母子父子寡婦福祉資金の貸付
- 生活保護
特に、ひとり親家庭等の児童に支給される児童扶養手当が離婚後すぐに受給できる状況かどうかは重要です。
離婚を考えている方は、事前に市役所に相談に行き、支給額や支給時期について確認してみましょう。
また、自治体ごとに母子家庭や父子家庭に対する支援内容が異なりますので、ご自分の場合どのような公的支援の対象になるか、あわせて確認してみると良いでしょう。
関連記事
・離婚したらもらえるお金は?離婚補助金はある?手当や公的支援を解説
・市役所で離婚相談はできる?何課に相談すべき?無料相談や支援制度も紹介
離婚後の生活再建と「生活保護」の申請
病気や事情があって働けず、生活が立ち行かない場合は、生活保護の受給を検討しましょう。
離婚成立前であっても、世帯分離や個別の事情を考慮して受給が認められる可能性があります。
ただし要件は厳格ですので、離婚後に生活保護を受けられるケースや、申請するときの方法、注意点など関連記事『離婚後に生活保護は受給できる?申請できる条件や注意点を解説』をご確認ください。
実際に生活費を一覧表にしてみよう!
まずは以下の表に数字を書き込んでみてください。
収入見込みから支出見込みを差し引いて差額がある場合、その不足分を補うための対処法を離婚前から十分に考えておきましょう。
【収入見込み】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 給与 | |
| 養育費 | |
| 児童扶養手当 | |
| 児童手当 | |
| 収入合計 |
【支出見込み】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 家賃 | |
| 水道代 | |
| 電気代 | |
| ガス代 | |
| 携帯電話代 | |
| インターネット代 | |
| 生命保険料 | |
| 食費 | |
| 日用品費 | |
| 被服費 | |
| 教育費 | |
| 交際費 | |
| その他 | |
| 支出合計 |
【差額の算出】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収入見込み | |
| 支出見込み | |
| 【収入見込み】-【支出見込み】 |
ポイント
専業主婦の方は、離婚前から計画的に就職活動を進めておくことがとても大切です。
専業主婦の再就職を支援する公的制度も充実しているため、こうした制度を活用して安定した収入の見通しを立ててから離婚を切り出すほうが安心です。
関連記事
・専業主婦の離婚で知っておくべきこと|専業主婦の離婚準備を解説
「お金がないまま離婚」の不安を取り除くには?
離婚相手に請求し得るお金&相場一覧
「離婚したいけどお金がない」とお悩みの方にまず知っていただきたいのが、離婚に関連して得られる可能性のあるお金は、思いのほか多いということです。
離婚相手にお金を請求することで、お金がないまま離婚し、新生活を始めるといった不安を軽減できる可能性があります。
まったく貯金がない状態で離婚をするのは、不安が残ります。
ですが、ある程度の貯蓄がある場合、離婚にともなう財産分与や慰謝料請求などをおこなうことで、当分の生活費をまかなうことができるかもしれません。
離婚に関連して得られる可能性のあるお金と、それぞれの相場を下表にまとめましたのでご覧ください。
【離婚相手に請求しうるお金・相場】
| 種類 | 相場 |
|---|---|
| 財産分与 | 一般的には100万円以下のケースが多い ※婚姻期間が長い場合は1,000万円以上となることも |
| 慰謝料 | 100万円~300万円 |
| 養育費 | 子ども1人あたり月額2~6万円 ※夫から妻へ支払われる場合 |
| 年金分割 | 月3万円程度の増額 |
| 公的支援 | 各種制度による |
| 婚姻費用 | 月額6万円~15万円 ※夫から妻へ支払われる場合 |
出典:令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 「離婚分割 受給権者の分割改定前後の平均年金月額等の推移
令和6年司法統計年報家事編 第25~27表
以下では、それぞれのお金の内容、請求のポイントや注意点について詳しくご説明します。
離婚による財産分与
財産分与とは、離婚する際に、夫婦が結婚中に築いた共有財産を分ける制度です。
実務では、財産分与の割合は夫婦で2分の1ずつが原則で、専業主婦の方にも同じルールが適用されます。
もちろん、夫婦間で話し合って割合を決めた場合は、その合意内容が優先されます。
「離婚したいけれどお金がない」と感じている方は、まずは自分たちの共有財産がどれくらいあるのか把握することが大切です。
以下の表を参考に、共有財産とその金額を整理してみてください。
【プラスの共有財産】
| 項目 | 評価方法等 |
|---|---|
| 現金 | 生活費を差し引いた残額 |
| 預貯金 | 通帳を調べる、金融機関で残高照会を行う |
| 株式 | 上場株式:市場価格を基準にする非上場株式:財産評価基本通達を参考にする |
| その他有価証券 | 取引残高報告書等で評価額を確認する |
| 債権 | 契約書等から他人に貸しているお金がないか調べる |
| 不動産 | 不動産業者に無料査定してもらう |
| 自動車 | 中古車販売業者に査定してもらう |
| 企業年金 | 会社に問い合わせる |
| 積立型保険 | 保険会社に解約返戻金を問い合わせる |
| 退職金 | 勤務先で退職金見込計算書を発行してもらう |
| 美術品 | 専門業者に査定してもらう |
| 会員権 | 取引相場や、専門業者に評価してもらう |
| 家財道具等の動産 | 評価額を出さず、現物で分けるケースが多い |
【マイナスの共有財産】
| 項目 | 評価方法等 |
|---|---|
| 住宅ローン | 金融機関で残高証明書を発行してもらう |
| その他借金(カードローン等) | 金融機関で残高証明書を発行してもらう |
財産分与の対象になるのは、プラスの財産 − マイナスの財産で算出される夫婦の純資産です。
財産分与の請求のポイント
財産分与に関する証拠は、相手に離婚を切り出す前に集めておくことが重要です。
離婚の話をした後では、相手が財産を隠したり使い込んだりするおそれがあるためです。
相手の財産が把握できない場合は、弁護士会照会制度を利用する方法があります。
これは、弁護士を通じて金融機関などに照会し、預貯金口座の有無や取引履歴などを開示してもらえる制度です。利用するには、弁護士への正式な依頼が必要です。
また、専業主婦の方や熟年離婚の場合には、扶養的財産分与が認められる可能性があります。
離婚によって一方が経済的に困窮すると見込まれる場合、生活が安定するまでの一定期間、収入の多い側から生活費の援助を受けられる制度です。
扶養的財産分与については詳しくは『扶養的財産分与とは?|離婚後の生活を守るための基礎知識』をご覧ください。
離婚による慰謝料
お金がないまま離婚しても、慰謝料を請求できる場合には当面の生活費の助けとなる可能性があります。
ただし、慰謝料は離婚すれば誰でももらえるものではありません。
慰謝料を請求できるのは、相手方配偶者が、不貞(浮気、不倫)、DV、悪意の遺棄、性行為の拒否などをした場合です。
性格の不一致や、双方に離婚の原因がある場合は慰謝料請求はできません。
離婚にともない慰謝料を請求できる場合、原因ごとの慰謝料相場は以下のとおりです。
【慰謝料の原因ごとの相場】
| 原因 | 相場 |
|---|---|
| 不貞(浮気、不倫) | 100~500万円 ※不貞相手に対する慰謝料請求の場合、100万円〜200万円が相場 |
| DV | 50~500万円 |
| 悪意の遺棄 | 50~300万円 |
| 性行為の拒否 | 100~300万円 |
たとえば不貞の場合に請求できる慰謝料金額としては、約100万円以上のケースが多いでしょう。
離婚慰謝料の請求のポイント
上記の表はあくまで相場に過ぎません。
慰謝料の金額は、具体的な事情によって変わります。
慰謝料額はいくらになるか知りたい場合、弁護士に直接相談するのがおすすめです。
弁護士に相談すれば、最新の裁判例から実務の動向まで踏まえた、より現実的な慰謝料額を知ることができます。
離婚時の慰謝料金額についてもっと詳しく知りたい方は、『離婚の慰謝料がもらえるのはどんな時?相場はいくら?』の記事もご覧ください。
離婚後の養育費を請求する
養育費は、離婚後、子どもを監護する親が、監護していない親に対し請求できるお金です。
離婚後、お子さんを養育したいと希望している方は、養育費について必ず合意しておくべきです。
養育費は夫婦それぞれの年収をもとに、「改定標準算定表」に従って決まります。
アトム法律事務所の「婚姻費用・養育費計算機」であなたがもらえる養育費の目安がすぐにわかります。
ぜひシミュレーションしてみてください。
養育費の請求のポイント
将来、相手が養育費を支払わなくなったときに備えた対策を必ずとりましょう。
協議離婚の場合、強制執行認諾文言付き公正証書を作成するのがおすすめです。公正証書の内容に不安があれば、事前に弁護士に相談してみてください。
裁判所の手続を利用して養育費を決めた場合は、調停調書や審判書が強制執行する場合の債務名義になります。
離婚後の養育費についてより詳しく知りたい方は『離婚後の養育費の相場はいくら?支払われなかったらどうする?』の記事もご覧ください。
離婚時の年金分割
年金分割は、離婚に際し、婚姻期間中に納付した厚生年金の保険料の納付記録を分割する制度です。
夫が会社員、妻が専業主婦の場合、夫は国民年金と厚生年金を受給できる一方、妻は国民年金しか受給できません。
この格差を解消するために創設されたのが、離婚時の年金分割制度です。
令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況によると、離婚時に年金分割を受けたことで、平均年金月額は5万円7,979円から9万1,081円に増えています。
すなわち、年金分割を受けた場合と、年金分割を受けなかった場合、その差は3万円以上になります。
特に熟年離婚をする場合、年金分割は離婚後の生活に大きく影響します。忘れずに、年金分割手続きを行うようにしましょう。
なお、年金分割は、原則として離婚をした日の翌日から2年経過すると請求できなくなります。
離婚時の年金分割の手続き、お金については『離婚時の年金分割手続きとは?必要書類は?共働き・拒否した場合も解説』の記事もご覧ください。
「お金があれば」を叶える自立準備
専業主婦の方が熟年離婚をする場合などは特に、外での仕事についてブランクが長いので、就職をするハードルが高いと感じてしまうものです。
しかし、手に職をつけたり、最初は非正規雇用から始めたりして、徐々に仕事に慣れ、収入を得ることが大切です。
自分にできる仕事が分からない場合には、いままでの専業主婦の経験を生かせる仕事を見つけてみるという方法も考えられます。
関連記事
・専業主婦の離婚後の生活|お金の不安を解消する公的支援と将来設計
離婚とお金に関するよくある質問
Q. 夫が生活費を渡してくれません。どうすればいい?
家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立てましょう。
別居中であっても、相手には生活費を分担する義務があります。
調停を申し立てることで、相手に支払いを促す強力な効果があります。
Q. 財産分与の時効は?
財産分与の請求期限は、離婚成立から2年です。
離婚時の財産分与のお金についてもっと詳しく知りたい方は、『離婚の財産分与とは?割合はどうなる?夫婦の財産の分け方を解説』の記事もご覧ください。
Q. 離婚慰謝料の時効は?
慰謝料の請求期限は、離婚成立から3年です。
離婚時の慰謝料金額についてもっと詳しく知りたい方は、『離婚の慰謝料がもらえるのはどんな時?相場はいくら?』の記事もご覧ください。
まとめ
お金がないけど離婚したいなら計画的に準備を!
お金がないけど離婚したい場合、離婚までの別居中の生活費、離婚後の生活費の心配を解消するために、計画的に準備を進める必要があります。
ご自身が経済的に自立する、公的支援を活用すると同時に、離婚相手への請求も漏れなくおこなう必要があります。
お金の話し合いは、離婚成立前に合意に至るのが望ましいです。
その理由は、離婚が成立してしまうと、相手方が話し合いに応じなかったり、もらえる金額が少なくなってしまう可能性があるからです。
離婚に関するお金の話し合いでもめてしまうと、精神的ストレスから「お金はいらないからとにかく離婚してほしい」「先に離婚を成立させて、後からお金の話し合いをしたい」と言ってしまう方が少なくありません。
しかし、これはおすすめできません。
お金がないなら無料相談!離婚のお悩みは弁護士まで
「離婚したいけどお金がない」とお悩みの方は、弁護士の無料相談を利用するのがおすすめです。
無料相談であれば、余計なお金をつかわずに、お得に今後必要な法的知識を得ることができます。
弁護士費用倒れのおそれがなければ、実際に弁護士に離婚事件を依頼を検討してみましょう。法テラスなどを利用すれば、初期費用を抑えて依頼することも可能です。
お金の問題で離婚を諦める前に、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
