単身赴任中の旦那と離婚したい!認められるのはどんな時?

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単身赴任中は、離婚に繋がるきっかけが起こりやすい状態です。

単身赴任中に離婚を決意した場合、物理的な距離が離れているため、離婚の話し合いや離婚調停が難しいという問題があります。

どうしても話し合いがまとまらないときは裁判を起こして争いますが、単身赴任を理由とした裁判離婚には高いハードルがあり、離婚が認められるのは簡単ではありません。

この記事では、単身赴任を理由に離婚する方法や、単身赴任の離婚の注意点を解説します。

単身赴任は離婚率が上がる?

単身赴任中に離婚を決意する理由

単身赴任は、夫婦関係に大きな負担をかけます。物理的な距離が離れることで、コミュニケーション不足や孤独感を感じやすくなり、愛情が冷めたり、お互いに不満が溜まったりして、離婚に至るケースも少なくありません。

ここでは、単身赴任の家庭に起こりがちな、離婚のきっかけを紹介します。

単身赴任中の不倫・浮気

単身赴任する側も、家に残る側も、寂しさやストレスから不倫や浮気に走ってしまうことが非常に多いと言われています。

また、実際に不倫や浮気はしていなくとも、単身赴任中は疑心暗鬼になりやすい状況です。相手の浮気を疑って、信頼関係を損なってしまう可能性があります。

ワンオペの大変さを分かってくれない

単身赴任で家に残る側は、一人で家事や子育てに取り組むことになります。

ワンオペ育児や家事の大変さを分かってくれない夫と、仕事の大変さを知ることができない妻との間で、「自分の方が大変だ」「そっちは楽ばかりしている」というすれ違いが起きやすいようです。

単身赴任についてきてくれない

自分が転勤することになったときに妻から帯同を断られたら、仕方ない事情があるにしても、ショックを受ける人は多いでしょう。

このように、単身赴任についてきてくれないという理由で信頼関係にヒビが入り、離婚のきっかけになってしまうことがあります。

単身赴任中の離婚の兆候

夫や自分にこのような行動が現れたら、離婚の兆候かもしれません。

結婚している必要性を感じなくなる

単身赴任中に一人暮らしの自由さに気づき、結婚の意味を感じられなくなったら、離婚の兆候かもしれません。

そのような状態に陥り、単身赴任から戻ってくるタイミングで離婚を実行に移すケースもよくあります。

夫が帰省しなくなる

最初は月に1回帰省していたけれど、だんだんと頻度が減ってきて、連休や年末年始、子どもの誕生日にも家に帰ってこなくなった。帰省しなくなるのは、夫の心が家族から離れている証拠です。

夫が連絡してこなくなる

単身赴任中の夫と連絡がつかなくなったら、すでに夫婦関係は壊れてしまっているといえます。

こういった問題には、不倫・浮気が併発していることがよくあります。しっかりと調査して、不貞慰謝料を請求するのがよいでしょう。

単身赴任を理由に離婚できる?

単身赴任中の離婚の流れ

1.離婚を切り出す準備

相手に離婚を切り出す前に、いくつか準備が必要です。

財産分与や慰謝料請求のための証拠集めや、離婚後の生活に向けた準備は、離婚を切り出す前の段階で行うことをおすすめします。

単身赴任中の夫の行動に不自然な点がある場合、不貞行為を疑った方がいいかもしれません。相手に不貞行為があれば、裁判で離婚が認められる可能性が格段に上がりますし、夫や不倫相手に不貞慰謝料を請求することができます。

確実に離婚を成立させたり、慰謝料を請求するためには、不貞行為の証拠を集める必要があります。実際に自分が単身赴任先に行ったり、弁護士や探偵に調査を依頼して証拠を集めるのもよいでしょう。

2.夫婦間で離婚協議を行う

準備ができたら、相手に離婚を申し入れます

遠方にいるため、夫が帰ってきた時や自分が単身赴任先に行った時に話し合うか、電話やメール、LINEなどを使って話し合うことになります。

離婚するかどうかだけでなく、財産分与や養育費などの離婚条件も漏れなく取り決めましょう。

離婚することや離婚条件に合意ができたら、離婚届に記入し、役所へ提出します

離婚届には双方の自筆の署名が必要なため、2人で一緒に書くか、郵送などで離婚届の受け渡しを行うことになります。ただし、郵送の場合、相手が離婚届を返送してくれない可能性がありますので、可能な限りその場で書いてもらうのがよいでしょう。

離婚届を提出する際は、2人で役所に行く必要はありません。夫婦のどちらか、もしくは代理人が提出することもできます。また、郵送することも可能です。提出する役所は、夫婦の本籍地または所在地です。

ただし、本籍地以外の役所に持っていく場合は、戸籍謄本の提出が必要です。

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3.離婚調停を申し立てる

夫婦間の話し合いで離婚に合意できなかった場合や、話し合いに応じてもらえない場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、調停委員会を介して話し合いを進めることができます。

離婚調停では、夫婦が交互に家庭裁判所の調停委員と面談を行い、調停委員が双方の意見を伝えたり、ときには説得したりして、夫婦の合意を目指します。

調停期日には双方が家庭裁判所に出頭しますが、基本的には夫婦が顔を合わせることはないため、相手と会うのが怖いという方や、顔を合わせるとヒートアップしてしまいそうという方も、安心して利用することができます。

調停内で夫婦が合意に至れば、調停は成立となり、離婚することができます。

離婚調停は夫婦が家庭裁判所に出向いて直接調停委員と面談する手続きです。調停の申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所か、夫婦が合意で定める裁判所でなければいけません。

いずれにしろ、月に1回程度開かれる調停のたびに遠方まで足を運ぶ必要があるため、非常に大きな負担になります。

現在は、一定の要件を満たせば、電話会議テレビ会議を利用して遠隔地の相手と調停を行うことができます。とはいえ、調停を成立させる期日には双方の同席が求められます。それも難しい場合は、「調停に代わる審判」といって、当事者の合意にもとづいて裁判官が審判を行うこともあります。

この問題を解決するために、ウェブ会議等を用いて調停を成立させることが可能となる法改正が、今後数年以内に施行される予定です。

単身赴任中の夫との離婚調停を考えている方にとっては、朗報なのではないでしょうか。

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4.離婚裁判を申し立てる

調停を行っても合意ができなかった場合や、相手が調停に出席しなかった場合は、調停は不成立になります。その後は再度話し合いを行うか、離婚裁判を起こして離婚を争うことになります。

裁判官による判決で離婚が命じられるか、訴訟中に和解認諾をすると、離婚が成立します。

ただし、離婚裁判で離婚が認められるためには、厳しい条件が存在するため、単身赴任だけを理由に裁判離婚をするのは、かなり難しいといえます。

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単身赴任が理由の裁判離婚は難しい

裁判で離婚するには、法定離婚事由といって民法に定められた5つの離婚理由のうちいずれかが存在し、婚姻関係が破綻していると認められなければなりません。

法定離婚事由

  1. 不貞行為
  2. 悪意の遺棄
  3. 3年以上の生死不明
  4. 回復の見込みのない強度の精神病
  5. その他婚姻を継続しがたい重大な事由

単身赴任は、それ自体では法定離婚事由にあたりません。ただし、単身赴任に伴って不貞行為悪意の遺棄が生じるケースもあります。

悪意の遺棄とは例えば、収入がない妻に対して単身赴任中の生活費を送らないなどの行為です。

こういった行為を証拠によって立証することができれば、裁判で離婚が認められる可能性があります。

1~4のような法定離婚事由が見当たらない場合は、5つ目の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」が存在するかが争点になります。例えば、DVやモラハラは多くの場合これにあたり、裁判離婚が認められます。

また、ある程度の長期間別居していると、その他婚姻を継続しがたい重大な事由にあたり、離婚が認められる可能性があります。

裁判離婚が認められるための別居期間に明確な基準はありませんが、おおむね3~5年程度が目安と言われています。

ただし、単身赴任で別居していても、法定離婚事由にあたらない可能性があるため注意が必要です。

「別居」が認められるかについては、次で詳しく説明します。

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単身赴任が「別居」と認められるか?

単身赴任の裁判離婚で最大のポイントとなるのは、単身赴任の期間が別居期間であると認められるかです。

単身赴任も、夫婦が離れて暮らしているのですから、見かけ上は別居しているように思えます。

しかし、仕事の事情での別居は、離婚理由にあたる別居とは異なると考えられています。

単身赴任の期間が別居期間として認められるためには、離れて暮らしているだけではなく、婚姻共同生活を継続する意欲がないことが必要です。

離れて暮らしていたとしても、定期的に家を行き来したり、妻子と連絡を取り合っているような状態は、婚姻共同生活を継続する意欲がないとはいえません。

単身赴任中に婚姻共同生活を継続する意欲を失えば、それ以降は本当の別居状態となるでしょう。

別居を理由として裁判で離婚するためには、婚姻共同生活を継続する意欲がなかった期間を、証拠によって証明する必要があります。

そのためには、明確に離婚の意思を伝えることが有効です。また、裁判で別居期間を証明できるように、離婚の意思を伝えた日にちを記録に残すことも重要です。

このように、単身赴任を理由とする裁判離婚には高いハードルがあり、時間もかかるため、できるだけ協議離婚や調停離婚を目指すのがよいでしょう。

単身赴任を理由に夫に慰謝料請求できる?

慰謝料とは、相手の不法行為によって受けた精神的苦痛を償うために支払われるお金です。

不法行為とは、故意や過失によって他人に損害を生じさせる行為のことをいい、DVやモラハラ、不貞行為などはこれにあたります。

しかし、夫が会社から命じられて単身赴任に応じたという行為が不法行為にあたる可能性は低く、「単身赴任になったせいで精神的苦痛を被った」というだけでは、夫に慰謝料を請求するのは難しいといえます。

単身赴任の離婚で会社の責任を問える?

会社が単身赴任を命じたせいで離婚することになったのだから、会社に損害賠償を請求したいと感じる方もいるかもしれません。

しかし、単身赴任による離婚を理由に会社に慰謝料を請求するのは難しいといえます。

慰謝料を請求するには、単身赴任を命じるという会社の行為と損害との間に因果関係が存在する必要があります。ここでいう因果関係とは、「単身赴任が間接的なきっかけとなって離婚した」といった程度では足りず、社会通念上相当といえる程度でなければいけません。

単身赴任中の夫との離婚の注意点

単身赴任手当がもらえなくなる

離婚すると、夫は単身赴任手当を受けられなくなり、それが離婚後の養育費に影響する可能性があります。

養育費の額は、夫婦双方の年収に基づいて算定されます。

養育費の算定には、源泉徴収票上の収入がよく用いられます。しかし、源泉徴収票上の年収には単身赴任手当が含まれているため、離婚後の支払い能力に対して高い金額の養育費を設定してしまうおそれがあります。

そうなると、離婚後に養育費の支払いが途絶えてしまったり、養育費の額をめぐって争いが起きる可能性が高まります。養育費の額を決定する時は、単身赴任手当がなくなることも考慮に入れるとよいでしょう。

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離婚条件はしっかり話し合う

単身赴任中の離婚は、話し合いの機会を設けるのが難しいという問題があります。

確実に離婚するために、離婚を切り出した日にそのまま離婚届を書かせたいと考える方も多いでしょう。

しかし、離婚時には様々な離婚条件を取り決める必要があります。例えば以下のようなものです。

  • 親権
  • 養育費
  • 面会交流
  • 財産分与
  • 年金分割
  • 慰謝料

こういった事項を決めないまま離婚してしまうと、本来受け取れたはずのお金が受け取れなかったり、離婚後にお金や子どものことをめぐってトラブルになってしまうおそれがあります。

後で困りごとが起きたら、その都度話し合えばいいというわけではありません。離婚した後で連絡を取り合うのは気まずいと思う方もいるでしょうし、そもそも離婚後に連絡が取れなくなるケースもあります。

また、慰謝料や財産分与、年金分割には、請求できる期限があります。

したがって、離婚条件は、離婚届を提出する前に話し合う必要があります。なんとか話し合いの場を設けて、互いが納得できるまで話し合いましょう。

なお、離婚条件が決まったら、離婚協議書を作成することをおすすめします。

離婚協議書とは、話し合って決めた離婚条件を記した書面です。後から言った言わないのトラブルに発展するのを防ぐために、取り決めの証拠を書面で残しておくのは非常に有効です。

あらかじめ内容や文面をすり合わせておき、離婚届を書くのと同じタイミングで署名・捺印してもらえばスムーズに作成できるでしょう。

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財産分与の基準時は単身赴任したとき?

単身赴任をしている場合、どの時点での財産を財産分与の対象とするかが問題になることがあります。

通常の別居の場合、別居を始めた時点で夫婦の協力関係はなくなったと考えられるため、別居開始時の財産を財産分与の基準にし、別居開始以降の収入や支出は考慮しません。

しかし、単身赴任の場合は異なります。仕事の都合上離れて暮らしているだけで、夫婦は協力関係にあります。したがって、財産分与の基準時は、単身赴任を開始した時ではなく、夫婦の協力関係が終了して本当の別居状態に至った時であると考えられます。

場合によっては、夫婦間のやりとりなどの証拠を用いて、真の基準時を主張・立証することが必要になる可能性もあります。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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