離婚のための別居準備|こっそり進める手順と不利にならない別居の仕方

離婚を前提に別居を考えたとき、「何から始めればいいのか」「勝手に出て行って不利にならないか」と不安になるものです。
特に、相手に悟られずにこっそり別居準備を進めるには、資金の確保や住居探しだけでなく、スマートフォンの履歴や位置情報の管理も重要になります。
この記事では、離婚に向けた別居の具体的な準備や手順、法的な注意点をわかりやすく解説します。
DVやモラハラを受けている場合は別居の際に特に慎重な配慮が必要となるため、その点についてもご説明します。
別居に向けた必須の持ち物と事前準備
別居後の生活を安定させ、その後の離婚交渉を有利に進めるためには、事前の情報収集と荷物の確保が不可欠です。
家を出てからでは手に入らないものも多いため、以下の内容を優先的に確認しましょう。
別居前の準備リスト
- 夫婦の共有財産を把握
- 相手の収入状況を把握
- DVや浮気の証拠収集
- 持ち出す荷物の確認
- 費用のシミュレーション
- 公的支援の情報収集
(1)夫婦の共有財産を把握
離婚時には、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた共有財産を原則として2分の1ずつ分ける財産分与が行われます。
財産分与の対象となる財産は、別居時に存在した財産です。
そのため、別居する際は、夫婦の共有財産をできる限り把握しておく必要があります。
相手方名義の預貯金であっても、婚姻中に夫婦の協力で築かれたものであれば財産分与の対象となるので、通帳やキャッシュカードの銀行名・支店名・口座番号は控えておきましょう。
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(2)相手の収入状況を把握
一般的に、別居中の婚姻費用や養育費の金額は、相手と自分の収入をもとに計算されます。
そのため、婚姻費用と養育費を請求するための準備として、相手の収入状況を把握しておくことも大切です。
具体的には、源泉徴収票、課税証明書、確定申告書、給与明細などを確認しておきます。
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(3)不貞行為の証拠収集
相手の不貞行為が発覚した場合、つい感情的になってその場で不貞を認めさせようとしたり、すぐに別居をしようと考える方もおられるでしょう。
しかし、不貞行為の責任をしっかり取らせたいのであれば、十分な証拠が揃うまで何事もないように振る舞う方が賢明です。
日常生活を続けながら相手の行動をよく観察して証拠を集め、離婚原因や慰謝料請求の場面で有利になるよう準備を整えてから別居を実行しましょう。
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・離婚で浮気を立証するのに有効な証拠とは?集め方と種類を解説
(4)持ち出す荷物の確認
別居に向けて持ち出す荷物を確認し、荷造りをするなど準備を整えておきましょう。
同居中の荷物をすべて別居先に持っていくことは難しいため、以下のリストを参考に本当に必要な物を厳選して着実に準備を進めておくべきです。
別居時の持ち物チェックリスト
再発行が難しいもの、生活基盤の確保に直結する貴重品や公的書類は最優先で確保します。
最優先
- 現金
- 自分名義の通帳、キャッシュカード
- 実印、銀行印
- 身分証明書
(マイナンバーカード、運転免許証、パスポート等) - 年金手帳
次に重要なのは、離婚条件の交渉や親権の確保に必要な証拠と子ども関連の書類です。
重要
- 離婚原因や慰謝料の証明資料
(DVや不貞行為の証拠となる写真・録音・録画データ、診断書等) - 母子手帳、子どもの学校関係書類、児童手当関連書類
別居後の生活を維持するための日用品も忘れずに持ち出しましょう。
必要
- 当面の着替え
- 常備薬
- 眼鏡やコンタクトレンズ
- 化粧品
- 充電器
(5)費用のシミュレーション
別居する際は、支出面と収入面のシミュレーションを行い、不足分を補う具体的な方法を早めに考えておく必要があります。
支出面としては、別居にかかる費用(引っ越し代、家具家電購入費など)、別居中や離婚後の生活費、離婚手続きにかかる費用などが考えられます。
収入面は、離婚時に配偶者から受け取れるお金(財産分与、離婚慰謝料、婚姻費用、養育費、年金分割)、自分が働くことで得られるお金、公的支援が考えられます。

弁護士
熟年離婚では再就職が難しいことも多く、年金分割をしても生活費が不足する場合があります。
こうした点を考えると、離婚しない方が経済的に合理的となるケースもあります。
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・離婚にかかる費用の相場は?平均いくらあれば足りるかシミュレーション
(6)公的支援の情報収集
離婚後は、児童扶養手当、就学援助、ひとり親家庭の医療費助成など、様々な公的支援制度を受けられます。
市町村役場や福祉事務所へ相談に行き、早めに情報収集しておくと安心です。
また、専業主婦の方はハローワーク(公共職業安定所)で、求職活動のサポートを受けたり、職業訓練の相談をしたりするなど、就職活動の準備も並行して行いましょう。
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・専業主婦の離婚後の生活|お金の不安を解消する公的支援と将来設計
こっそり別居準備を進める具体的な手順
相手に妨害されず、水面下で確実に準備を進めるためには、スケジュール管理と情報の遮断が重要です。
時系列でやるべきことを3つのステップで解説します。
【今すぐ】スマホやPCの設定見直し
相手に悟られずに準備を進めたい場合、盲点になりやすいのがスマートフォンの設定です。
計画が露見しないように、スマホやPCの状況を確認しましょう。
Googleマップのタイムライン機能や、家族間の位置情報共有アプリの設定を確認し、位置情報をオフにします。
また、撮影した写真やカレンダーの予定も同期されないように設定を見直しましょう。
ただし、共有サービスの利用状況によっては、急に設定をオフにするとかえって怪しまれる可能性があります。
その場合は設定を変えず、スマホの取り扱いに注意を払うようにします。
家族でPCやタブレットを共有している場合は、検索履歴を見られないよう、こまめに削除するか、履歴が残らないシークレットモードを利用するなどの対策をとります。
【3ヶ月前から1ヶ月前】資金計画と物件探し
相手に管理されている口座ではなく、自分名義の口座を用意し、生活費を確保します。
財産分与の観点から、資金移動は生活費や必要資金の範囲にとどめ、過度な引き出しや不当な使途とならないよう注意することが重要です。
住居については、実務上、実家に協力を求めて一時的に生活するケースが多く見られます。
実家で生活しながら資金を貯めて、賃貸住宅等へ転居する事例も一般的です。
新居を探す場合はインターネットを活用し、内見は外出を怪しまれないよう相手が確実に不在の時間帯を選びます。
不動産会社には事情を話し、自宅への郵送物は送らないよう徹底してもらいましょう。
【1週間前から前日】荷物の搬出計画
一度に大量の荷物を運び出すことを避け、優先度の高いものから少しずつ移動します。
引越し業者を利用する場合、担当者とのやりとりはすべて自身のスマホで行い、自宅の固定電話は使わないでください。
搬出の時間帯は、家族が不在の時間帯を指定しましょう。
DVやモラハラを受けている場合の別居は?
身体的な暴力や精神的な支配を受けている場合は、通常の別居準備よりも身の安全を最優先に行動する必要があります。
まずは、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は離婚の手続きだけでなく、裁判所への保護命令申立てや証拠収集、今後の生活設計についても専門的な助言や支援を行うことができます。
また、早急に避難が必要な場合は、女性自立支援施設や母子生活支援施設等の利用を検討しましょう。
これらの施設は、市区町村の福祉関連窓口(福祉事務所や女性相談支援センターなど)に相談することで、具体的な利用手続きや支援内容の説明を受けることができます。
身体に危害が及ぶおそれがあるときは、一人で抱え込まず、専門家や公的機関を頼って直ちに行動を起こしてください。
法的に不利にならない別居の注意点
感情的に家を出てしまうと、後々「勝手に出て行った」と非難され、離婚条件で不利になることがあります。
法的なリスクを理解し、正しい手順を踏みましょう。
別居のための正当な理由を説明する
DVなど早急な避難が必要な場合を除き、別居について相手方と合意するのが理想的です。
正当な理由なく別居すると、夫婦の同居義務(民法752条)に反する悪意の遺棄(民法770条1項2号)として、相手から慰謝料請求をされるおそれがあるからです。
夫婦関係がかなり悪化しており、合意が難しければ、置き手紙やメールなどで別居の理由を説明しましょう。
置き手紙の場合は後に証拠として利用できるようコピーをとっておきます。
別居を切り出すメール・LINE・置き手紙の例文は関連記事『別居したいときの切り出し方・伝え方|メールや置き手紙の例文を紹介』をご覧ください。
相手方名義の預貯金の持ち出しは原則しない
別居の際、当面の生活費として相手方名義の預貯金を持ち出すケースは少なくありません。
しかし、相手方の預貯金の持ち出しはトラブルにつながるおそれが高いため、原則として控えるべきです。
やむを得ず相手方の預貯金を引き出して別居後の生活費に使った場合、それが夫婦共有財産に当たるのであれば財産分与の中で清算されることになります。
ただし、財産分与の原則である2分の1を超えて使った分については損害賠償請求されて、あなたがお金を支払わなければならなくなる可能性がある点に注意してください。
警察に捜索願不受理届を提出する
行き先を告げずに別居した場合、相手が警察に捜索願を出す可能性があります。
これを防ぐため、管轄の警察署に捜索願不受理届を提出しておきましょう。
自分が自らの意思で家を出ており、事件や事故ではないことを警察に伝えておけば、相手から捜索願が出されても警察が新しい住所を相手に教えることはありません。
相手の押しかけや執拗な連絡への対策は?
家を出て行ったことで動揺した相手方が、別居先を突き止め、妻子を連れ戻しに押しかけてくるケースも少なくありません。
このようなおそれがある場合は、できる限り早く弁護士に相談に行き、受任通知を送るようにしましょう。
受任通知には、今後本人との直接連絡は控えること、連絡は代理人弁護士にするよう記載するのが通常です。この通知を受け取れば、相手方が無理に別居先に押しかけてくるおそれはある程度低くなります。
それでも相手からの直接連絡がおさまらない場合は、協議離婚での解決は諦めて、早々に調停離婚を申し立てた方が現実的です。裁判所が関与すれば、相手への抑止力にもなります。
別居後すぐにすべきこと
別居を開始したら、生活基盤を整えるためにすぐに行うべき手続きがあります。
できる限り早期に婚姻費用を請求
別居中の生活費は、収入が多い方の配偶者に対し婚姻費用として請求できます。
婚姻費用支払義務の始期は、請求時が原則とされています。
つまり、婚姻費用の支払請求が遅くなるほど、受け取ることのできる婚姻費用が少なくなってしまうのです。
相手が支払を拒む場合は、弁護士に相談してできる限り早期に婚姻費用分担請求調停を申し立てましょう。
住民票の異動と郵便物の転送
別居先に今後も住み続ける予定の場合は、住民票を異動し、郵便局で転送手続きを行います。
郵便局に転送届を提出すれば、届出日から1年間は旧住所宛ての郵便物を新住所へ転送してもらえます。
注意点として、DV被害を受けている場合は住民票の閲覧制限(支援措置)の申出を必ず行ってください。
役所の窓口で事情を説明し、適切な支援措置を受けることで、加害者に新住所を知られることなく住民票を異動し、安全を確保できます。
別居に関するお悩みはお早めに弁護士へ!
「離婚のために別居した方が良いか」
「別居後に相手と離婚の交渉をするのが負担」
「自分に合った離婚の進め方が知りたい」
このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
離婚は法律的に難しい問題を多くはらんでいるケースも多く、お一人での解決は相当な負担です。
弁護士は、法律の専門家として法的な問題に対する解決案を示しつつ、ご相談者様のお気持ちに寄り添います。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

弁護士
こっそり別居を進めたい場合は、荷物を「少しずつ」持ち出すのがポイントです。
一気に荷物がなくなると、別居の計画が相手に勘づかれてしまうからです。