離婚すると貯金はどうなる?貯金の財産分与と貯金隠しの対処法を解説
離婚の際には、婚姻中に築いた財産を分け合う財産分与が行われます。
夫婦の貯金は財産分与の対象ですが、財産を渡したくないと考えた相手方が、貯金を隠してしまうこともあります。これでは正当な額の貯金を受け取ることができません。
財産分与で損をしないためには、知識を身に着けておくことが重要です。
この記事では、離婚時に貯金をどのように分けるか、貯金隠しにどのように対処するかを解説します。
目次
貯金は離婚時の財産分与の対象になる!
財産分与とは?
夫婦が離婚をするときには、二人で築いた財産を公平に分け合う必要があります。これを財産分与といいます。
具体的には以下のようなものが財産分与の対象になる財産です。
- 土地や建物などの不動産
- 自動車
- 家財道具
- 現金・預貯金
- 退職金・年金
- 有価証券
- 保険解約返戻金
- 住宅ローン
婚姻中の貯金は財産分与の対象になる!
夫婦の貯金のうち、共有財産にあたるものは財産分与の対象になります。
共有財産とは、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産のことをいい、名義が夫婦どちらのものであろうと基本的に共有財産であるとみなされます。
したがって、婚姻中に夫婦が協力して築いた貯金は、名義にかかわらず財産分与の対象です。
結婚前の貯金も財産分与の対象?
一方、貯金が特有財産に該当する場合は、財産分与の対象になりません。
特有財産とは、婚姻前から有している財産や、婚姻中に単独で形成した財産をいいます。
したがって、結婚前に作っていた貯金は、財産分与の対象になりません。また、一方が婚姻中に相続した財産や、贈与を受けた財産も、財産分与の対象にはならないと考えられています。
注意が必要なのが、独身時代の口座をそのまま2人の口座として使っていた場合や、婚姻中に2人で協力して得た収入が入金されていた場合です。この場合、独身時代に貯めたお金は特有財産に、婚姻中に貯めたお金は共有財産になります。
これらは口座残高だけを見ても区別が難しいため、厳密に分けたい場合は、結婚後の入出金を調べて共有財産を算出するという複雑な作業が必要です。
子ども名義の貯金は財産分与の対象?
子ども名義の口座に入っている貯金は、財産分与の対象になる場合とならない場合があります。
夫婦の収入を原資として教育資金などの目的で貯金をしていた場合は、実質的には夫婦の財産であると考えられるため、財産分与に含めることができます。
もっとも、夫婦の意思で、子どものための貯金として残しておくことも可能です。
一方、親からのお小遣いや親戚からのお年玉は、子どもに贈与したととらえることができます。また、子どもがアルバイトで得たお金も、子どもの固有財産であるため、財産分与の対象とはなりません。
へそくりは財産分与の対象になる?
へそくりも共有財産にあたれば財産分与の対象になります。
へそくりとは、婚姻中に、配偶者に内緒で貯めたお金のことをいいます。
へそくりの元となるお金は、給与や賞与、事業収入など、婚姻中に夫婦の協力によって得たものであることが多いです。こういったお金は2人の共有財産であるため、財産分与の対象です。
さらに、へそくりが自分ひとりの収入から捻出したものであっても、本来であれば夫婦のために使用されていたはずのお金ですから、同様に財産分与の対象になります。
ただし、へそくりといっても、婚姻前に貯めたものであれば特有財産に該当しますので、財産分与の対象外です。
特有財産の利息や配当金は財産分与の対象?
貯金や株式は、利息や配当金を生み出します。では、婚姻中に発生した利息や配当金は財産分与の対象になるのでしょうか?
この利息や配当金のもとになった貯金や株式がどちらか一方の特有財産であれば、そこから生み出された利息や配当金も特有財産であり、財産分与の対象にはなりません。
ただし、これらが夫婦の生活費と同じ口座に入っていた場合や、口座から引き出されて生活費として使われていた場合は、財産分与の対象になる可能性が高いでしょう。
貯金は財産分与でどう分ける?
貯金の財産分与は2分の1ずつ
財産分与は半分ずつ分けるのが原則です(2分の1ルール)。双方が合意さえすれば割合は自由に変更できますが、調停や裁判ではほとんどの場合2分の1ルールが採用されています。
夫婦の財産は貯金だけではありません。不動産や自動車など、2つに分けることができない財産も多いでしょう。
そういったものを分与する場合は、「家は妻が受け取り、その代わりに夫は貯金を多く受け取る」などとすることで、双方が受け取る財産の価値を均等にすることができます。
財産分与の割合が変わるのはどんな時?
財産分与の基本は2分の1ずつですが、2分の1ずつ分けるのが明らかに公平ではないと思われるケースでは、例外的に財産分与の割合が変わることがあります。
1.財産が一方の特殊な能力や努力によって築かれた
どちらかが医師や弁護士など特別な資格を持っている場合や、芸術家である場合など、その努力や能力によって多大な財産を築いた場合などがこれにあたります。
2.財産が非常に多額である
一方が経営者などであり多額の資産を築いているのに対し、もう一方の貢献度が低い場合がこれにあたります。
3.一方の財産形成への貢献度が低い
双方に収入がある上で、どちらか一方のみが家事や育児を担っていた場合などがこれにあたります。家事育児を負担していた方が貢献度が高いとされ、有利な割合になることがあります。
ただし、このような理由で寄与割合が変更されるのは非常にまれなケースです。基本的には半分ずつになると考えて問題ありません。
専業主婦は財産分与で貯金を受け取れる?
専業主婦(主夫)であっても、財産分与を受け取ることができます。
たとえ働いて給与を得ていたのがどちらか一方だけだったとしても、もう一方も家事や育児によってその収入に貢献していた以上、2人で築いた財産であるといえるからです。
共働き夫婦の貯金は財産分与の対象?
共働き夫婦が築いた貯金であっても、財産分与の対象であるのは変わりません。
2人の収入に差があっても、基本的に財産分与の割合は2分の1ずつです。
ただし、一方の特殊な能力や努力によって多大な財産を築いた場合や、同等の収入を得ているにもかかわらず家事・育児を一方が全て担っていたような場合では、寄与割合が修正されることはあり得るでしょう。
よくある貯金の隠し方と貯金隠しの対処法
貯金を隠される可能性がある
公平に財産分与をするには、2人の財産を漏れなくリストアップすることが必要です。しかし、財産分与で貯金を渡したくない配偶者が、貯金を隠してしまうことがあります。
貯金隠しの手口はさまざまで、隠れて作ったへそくりを見つけ出すのは簡単ではありません。
以下では、よくある貯金隠しの方法を解説しますので、手口を知って対策を行いましょう。
よくある貯金の隠し方は?
隠し口座に貯金を移す
本人名義の隠し口座にお金を移すという手口は、最もシンプルな財産隠しの方法です。
離婚前に一気にお金を移したのなら残高を見れば気づけますが、長い期間をかけて少しずつ入金している場合、気づくのが難しくなってしまいます。
しかし、口座の存在に気づき、通帳やキャッシュカードを入手できれば、財産分与の対象にできる可能性が高いです。
現金で保有する
現金や貴金属などといった形でへそくりを保有する方法は、証拠が残りにくいためよく用いられます。
タンス貯金という言葉があるように、自宅の中に現金が隠されていることもあれば、貸金庫に預けられていることもあります。
タンス貯金ならば、家の中を探すことで見つけられます。貸金庫であれば、金庫のカギやカードが手元にあるはずです。
別の形の財産に換える
別の形の財産に換えるという手口は、財産の性質を変えることで財産分与の対象から外そうとする方法です。例えば、現金を貴金属や有価証券、不動産、車などの財産に換えたりします。
別の形の財産になっていても、財産分与の対象には含まれます。
隠し財産の証拠を集めよう
調停や裁判では、相手が貯金を隠していることを、請求する側が証明する必要があります。
また、調停や裁判の前の話し合いの段階でも、証拠をもって相手を問い詰めれば絶大な効果があるはずです。
証拠としては、以下のようなものが有効です。
- 隠し口座の通帳やキャッシュカード
- 銀行や証券会社からの郵便物
- 貸金庫のカギやカード
- 不動産登記簿
- 自動車保険の契約書や明細書
相手が貯金を隠しているらしいことは分かったが、証拠が掴めないという場合でも、諦めるには早いかもしれません。
貯金の隠し場所、例えば銀行や証券会社の支店名などが分かれば、以下の2つの手段を用いて調査ができる可能性があります。
弁護士会照会
弁護士会照会とは、弁護士が依頼を受けた事件について、弁護士会を通して金融機関や証券会社、不動産会社などの団体に必要事項を照会する制度です。弁護士会照会は、協議中、調停中、裁判中いつでも利用することができます。
弁護士会照会を受けた団体には、原則として答える義務があり、相手方の口座の残高や振込先などを開示してもらえる可能性があります。
調査嘱託
調査嘱託とは、裁判所を通じて金融機関等に情報を開示させる方法で、主に離婚裁判の中で利用される手続きです。裁判所に調査嘱託の申し立てを行い、認められる必要があります。
弁護士会照会で開示を拒否されたケースでも、裁判所の調査には応じてもらえることもあるようです。
貯金を使い込まれたら財産分与はどうなる?
別居を始めた後に、配偶者が貯金を使い込んだり別の口座に移してしまっても、その分財産分与の額が減ってしまう訳ではありません。
財産分与の対象となるのは「夫婦が協力して築いた財産」ですが、別居をしてしまうと協力関係は崩れてしまいます。したがって、財産分与の基準時は別居時となるのが原則です。
このように、別居後に配偶者に貯金を引き出された場合には、別居時の残高を基準として財産分与を請求することができます。
一方、離婚を察知した配偶者が、別居前に貯金を引き出してしまった場合はどうなるのでしょうか。この場合も、別居時の残高が財産分与額の基準であることは変わりません。
しかし、貯金が引き出された直後であれば、そのままの形で相手の口座に貯金が残っているか、別の財産に形を変えて残っている可能性が高いため、それらを共有財産として財産分与に含められる可能性があります。
仮差押えで貯金の使い込みを防ぐ!
財産分与の基準時は別居時であるとはいえ、貯金の大部分を使い込まれてしまったら、基準時での財産分与額すべてを支払うのは難しくなってしまうでしょう。
そういった事態を防ぐために、貯金の仮差押えという手続きを利用できる可能性があります。
貯金の仮差押えを裁判所に申し立てて認められると、相手は一時的に貯金を処分することができなくなります。
仮差押えは、認められたらその間に裁判を起こすのが前提の手続きです。しかし実際には、仮差押えが認められただけでも相手に強いプレッシャーがかかるため、それだけで問題が解決するケースも多いようです。
ただし、仮差押えが認められるには厳しい条件がある上、申立人が担保金を用意する必要もあります。
仮差押えの申し立ては非常に複雑な手続きです。ご不安な場合は、弁護士にご相談されることをおすすめします。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了