結婚前の貯金は離婚の財産分与でどうなる?証明する方法は?
「結婚前の貯金は、離婚するときに財産分与の対象になるのか」
「結婚前の貯金だと証明する方法を知りたい」
離婚をするときには、財産分与(婚姻中に二人で築いた財産を公平に分け合うこと)をすることになります。財産分与の対象となるのは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産である共有財産であり、基本的に割合は2分の1です。
このとき、原則として結婚前の貯金は、夫婦が協力して築いたわけではないことから、特有財産とみなされ財産分与の対象にはなりません。
ただし、独身のときから使用していた口座を、そのまま結婚した後も使い続けている方もいらっしゃると思います。
この場合は、口座にある預金が特有財産か共有財産かどうかの区別が難しくなってしまいます。
口座にある預貯金の一部が特有財産であると立証できなければ、共有財産とみなされ、財産分与の対象となることがあります。
今回は、結婚前の貯金が共有財産とみなされる可能性や、結婚前の貯金の残高が減っている場合の財産分与、結婚前の貯金と共有財産を精査する方法について解説します。
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目次
結婚前の貯金と立証できなければ原則として共有財産に
原則として、結婚前の貯金は財産分与の対象とはなりません。ただし、場合によっては共有財産とみなされ、財産分与の対象となることもあります。
独身のときから使用していた口座を、そのまま結婚した後も使い続けるというのはよくあるケースです。
独身時代の口座をそのまま2人の口座として使っていた場合や、婚姻中に2人で協力して得た収入が入金されていた場合、独身時代に貯めたお金は特有財産に、婚姻中に貯めたお金は共有財産になります。
同居期間が長くなり、口座の残高が増えたり減ったりを繰り返している状態では、婚姻前と婚姻中の財産について区別をつけるのが難しくなってくるため、全体が共有財産とみなされる可能性が高まります。
結婚前より預貯金の残高が減っている場合は?
「もともと結婚前からあった預金の残高が、結婚生活で減った場合の財産分与はどうなるのか」と気になる方もいらっしゃると思います。
預貯金の残高が減っているといっても、「減ったまま」なのか「減ったけれども、もとに戻った、あるいは増えた」といったケースがあるでしょう。
今回は、結婚前よりも預貯金の残高が減っている場合の財産分与について解説します。
結婚前より預金の残高が減ったままになっている
たとえば、以下のようなケースが該当します。こちらの例を用いて、結婚前からあった一方の配偶者の預貯金の残高が減っている場合の財産分与を考えます。
結婚前より預金の残高が減ったままになっている例
夫(婚姻前の預金:300万円)妻(婚姻前の預金:0円)
夫は結婚後、妻に口座管理をすべて任せていた。離婚後、夫が自分の口座を見ると、生活費などに充てられたのか100万円まで減少していた。
財産分与は、婚姻中に蓄積されたプラスの財産を分けるものになります。
そのため、「300万円から100万円になったままである」ということは、200万円がマイナスになったままということになり、この預金が財産分与の対象になることはありません。
すなわち、結婚前より預金は減ったままになっているという場合は、財産分与の対象とはならないということを覚えておきましょう。
結婚前より預金の残高が減った後、もとに戻ったり増えたりしている
たとえば、以下のようなケースが該当します。こちらの例を用いて、結婚前からあった一方の配偶者の預貯金の残高が減っている場合の財産分与を考えます。
結婚前より預金の残高が減った後、もとに戻ったり増えたりしている例
夫(婚姻前の預金:300万円)妻(婚姻前の預金:0円)
夫は結婚後、妻に口座管理をすべて任せていた。離婚後、夫が自分の口座を見ると、生活費などに充てられたのか一時100万円まで減少し、現在は500万円になっていた。
結婚前より預貯金の残高が減っている場合の財産分与の方法として、以下のような考え方があります。
婚姻前より残高が減っている場合
- 最も少なかったときの残高を特有財産とみなす
- 別居時の口座残高を共有財産とし、2人で分け合う
- 婚姻中の入出金をすべて精査し、特有財産と共有財産を特定する
1.最も少なかったときの残高を特有財産とみなす
最も少なかったときの残高である100万円を、「結婚前からあった預金300万円が100万円に減ったもの」として、特有財産とみなすケースです。
この場合は、最も少なかったときの残高である100万円を、現在の500万円から引いた400万円を夫婦の共有財産とみなし、400万円を財産分与することになります。
そのため、計算式は以下のようになります。
1のときの計算式
夫の預貯金:(現時点の)500万円-(同居中の最も低い金額)100万=(夫婦の共有財産とみなされた)400万
妻の預貯金:なし
それぞれの取得分:400万÷2=200万
→夫は妻に200万円を渡すことになる
結婚前から預金していた口座が家計の支出のためなどに用いられ、特有財産なのか共有財産なのか区別がつかないという場合は、「別居時の額から、同居期間中に達した最も低い額を控除した額」が財産分与の対象となるケースがあります。
このケースは、婚姻期間が長ければ長いほど該当する可能性が高いです。
2.別居時の口座残高を共有財産とし、2人で分け合う
別居時にある500万円すべてを夫婦の共有財産とみなすケースです。
この場合は、500万円を財産分与することになるため、計算式は以下のようになります。
2のときの計算式
夫の預貯金:(現時点の)500万円=(夫婦の共有財産とみなされた)500万
妻の預貯金:なし
それぞれの取得分:500万÷2=250万
→夫は妻に250万円を渡すことになる
ただし、公平の観点から、この場合では夫に有利に財産分与の割合が変更されることはあり得ます。
3.婚姻中の入出金をすべて精査し、特有財産と共有財産を特定する
婚姻中の入出金をすべて精査することで、厳密に「どこまでが特有財産なのか、どこからが共有財産なのか」といったことを特定し、財産分与をするケースです。
ただし、婚姻中の入出金をすべて精査するのは、複雑な作業になることが多いです。次の項でくわしく説明しているので、ぜひご覧ください。
結婚前の貯金と証明したいときのケースと方法
結婚前の預金口座をそのまま利用し、共有財産との区別が困難なケース
「結婚前の預金口座をそのまま利用している」という場合、口座にある預金が特有財産か共有財産かどうかの区別が難しくなってしまいます。
先述の通り、独身時代に貯めたお金は特有財産に、婚姻中に貯めたお金は共有財産になります。
預金の一部が特有財産であることを証明したい場合は、口座の取引履歴を開示することで、婚姻時点に「これくらいの残高があった」と証明することになります。
証明できれば、夫婦が別居をしたときの預貯金残高から、婚姻時の預貯金残高を控除したものだけを共有財産とみなすことができます。つまり、財産分与の対象となる金額を減らすことにつながります。
ただし、実際に金融機関に履歴の開示を請求しても、過去10年分の取引履歴の開示しかしてもらえないことが大半です。そのため、通帳が残っていないと、10年以上婚姻しているケースでは、特有財産としてどれだけの金額があったかを立証することが困難です。
婚姻期間が10年以上経過したうえで離婚するときは、できるだけ説得力のある状況証拠を考えていかなければなりません。不安な方は、弁護士に相談することをおすすめします。
結婚前の貯金から家のローンの頭金を出したケース
「結婚する前に、自分の口座から住宅ローンの頭金を出した」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
住宅ローンの頭金に、結婚前の預貯金があったと証明したい場合は、以下のような証拠が重要です。
重要な証拠
- 自宅の購入費用がわかる不動産売買契約書
- 住宅ローンの借入額がわかる金銭消費貸借契約書
- 頭金が特有財産から出たとわかる預貯金の取引履歴や贈与契約書 など
また、「頭金を特有財産から出していた」と立証できても、購入時よりもマンションの価格が下がっていた場合、一方が出した頭金をそのまま持っていくのは、もう一方に対して不公平であるという考えから、必ずしも頭金の金額がそのまま戻ってくるわけではない点に注意しておきましょう。
よりくわしく知りたい方は、『マンション購入後に離婚決定…どう財産分与する?ローンはどうなる?』をご覧ください。
結婚前の貯金を勝手に使われた場合は?
「独身時代の貯金について、配偶者に勝手に使われていた」という方もいらっしゃるかもしれません。
ここでは、結婚前の貯金を使われてしまった時の対処法について解説します。
結婚前の貯金を生活費として使われるケース
自分がためていた結婚前の貯金について、勝手に生活費として使用されたというケースがあります。
この場合、生活費は共同生活を維持するために使用されたと考えられるため、夫に返してもらうよう請求しても、請求が認められる可能性は小さいといえます。
勝手に生活費として使用されないよう、自分の貯金をきちんと管理しておくことをおすすめします。
結婚前の貯金を使い込まれたり借金返済に充てられたりしたケース
自分がためていた貯金を夫が遊興のために使い込んだり、勝手に借金の返済に充ててしまったりするケースもあります。
この場合は、夫が勝手に使用した分について、返還請求が認められる可能性はあります。相手が拒むことも予想されるうえに、煩雑な手続きが必要になりますので、弁護士に相談して請求を考えていくことをおすすめします。
離婚するときに結婚前の貯金で困ったら弁護士に相談!
原則として、結婚前の貯金は特有財産とみなされ、財産分与の対象にはなりません。
ただし、同居期間が長くなり、婚姻前からある口座を結婚後に夫婦で使っていた場合は、婚姻前と婚姻中の財産について区別をつけるのが難しくなってくるため、全体が共有財産とみなされる可能性があります。
結婚前の貯金について、離婚のときの財産分与で困ったことがあるという方は、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に相談すれば、口座にあるお金が共有財産なのか、それとも特有財産なのか、法的な観点から判断してもらえます。
財産分与について話がもつれたときも、専門家の目線から適切なアドバイスをしてくれるはずです。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了