精神疾患で離婚できる?離婚が認められる精神病や離婚方法の解説

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精神疾患

夫が精神疾患にかかった場合、夫婦は助け合って生活する義務があるため、妻は看病し、場合によっては夫の分まで働くことまで求められます。

夫の看病に、仕事に家事、子どもの育児まで、家のことを自分ひとりが背負わなければならない状況もあり得ます。

しかし、そのような生活を一生続けることまで法は強制しておりません。

病気の程度や離婚後の生活などの事情を考慮して離婚が認められることがあります。

主に統合失調症や躁うつ病といった精神病を理由に離婚が認められるケースが多いです。

この記事では、精神疾患を理由に離婚ができるか、離婚が認められる精神疾患の種類、精神疾患の配偶者と離婚する手続きや離婚条件について解説いたします。

精神疾患の夫とは離婚できる?

精神疾患の夫と合意ができれば離婚できる

相手と離婚の合意ができれば協議離婚をすることができます。

また、たとえ夫婦だけでの話し合いが進まず協議離婚ができなくても、家庭裁判所での調停を通じて相手と合意ができれば、調停離婚をすることができます。

しかし、重度の精神疾患の場合、配偶者との意思疎通が困難であることも少なくありません。

その場合、裁判で離婚を認めてもらう方法があります。

精神病は法定離婚原因にあたれば離婚できる

精神疾患は、法定離婚原因にあたれば裁判離婚することができます。

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

民法第七百七十条

配偶者が強度の精神病にかかって、回復の見込みがない場合、現行法上は4号の法定離婚原因にあたるとして裁判離婚が認められることになっています。

しかし、裁判実務において、たとえ精神疾患があっても4号ではなく5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として判断される傾向にあります。

実務の傾向も受けて、2024年5月に成立した民法改正では、4号の精神疾患を法定離婚原因から削除することになりました。

早ければ2025年中にも精神疾患の規定が削除されることになります。

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精神疾患の離婚の現行法上と実務上の扱い

民法770条1項4号の「回復の見込みのない強度の精神病」は、法定離婚事由の一つとして定められていますが、現在はこの規定はほとんど適用されていません。

その背景には、以下のような事情が挙げられます。

「回復の見込みのない強度の精神病」の認定は、高度な医学的専門知識を必要とする 複雑な判断であり、医師の間でも必ずしも見解が一致するとは限りません。

近年では、医療技術の進歩により、統合失調症などの疾患においても治療法や症状改善薬が開発されており、以前のように容易に「回復の見込みがない」と判断できないケースが増えています。

また、精神疾患を抱える配偶者に対して離婚を強制することは、精神病者に対する差別感情を助長するとの批判もあります。

そこで、配偶者が精神疾患を抱える場合であっても、5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に基づいて争われるケースが一般的となっています。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

5号の規定は個々の具体的な事情を総合的に考慮するものとなっており、4号よりも柔軟な判断が可能です。

また、4号の規定は民法改正によって削除されることが決まっています。

精神疾患は法定離婚原因の考慮事情のひとつ

5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、「夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復が全くない状態に至った場合」を指します。

具体的には婚姻生活が破綻しており、夫婦関係を回復させる見込みがなく婚姻生活を継続しがたい状態であれば、5号にあたるとして離婚が認められることになります。

5号に該当するかは、精神疾患の程度だけでなく、婚姻生活を破綻させる問題行為の有無や程度、別居期間や子どもの有無、生活環境など夫婦に関するいっさいの事情を考慮して判断されます。

精神病患者が離婚後も生活できるような準備が重要

精神疾患の問題については、裁判では病状だけでなく、それまでの看病状況や、「具体的方途」があるかどうかも考慮されます。

「具体的方途」とは、精神病患者が離婚後も療養し十分に生活できるような具体的な措置や方法を指します。

「諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当」

最判昭和33年7月25日

上記は4号について述べた判例ですが、この考え方は5号の問題として考える場合もあてはまります。

離婚後も自立した生活を送ることが困難な相手を残す場合、生活費や療養費の支払い、施設への入居、配偶者に代わる保護者の選定など、ある程度相手が生活できる見込みを具体的に立てることが必要です。

これらの準備が不十分な場合、裁判所は離婚を認めない可能性があります。

裁判例

今まで生活の余裕がないにもかかわらず療養費の支払いをしていた夫が、将来的にも可能な限り妻の療養費を支払うと主張して離婚を求めたケースでは、方途の見込みがあるとして離婚を認めています(最三小判昭和45年11月24日)。

離婚が認められる精神疾患の種類

躁うつ病や統合失調症は離婚が認められやすい

過去の判例から、離婚が認められやすい精神疾患は主に統合失調症や躁うつ病などの強度の精神病です。

離婚が認められやすい精神疾患は、以下のような疾患です。

  • 統合失調症
  • 双極性障害(躁うつ病)
  • 偏執病
  • 頭部外傷やその他の疫病による精神病など

しかし、これらの疾患にあたるからといって直ちに法定離婚原因が認められるわけではなく、精神疾患以外の事情も考慮して離婚するのが相当であるか、判断されます。

離婚が認められにくい精神疾患

依存症や認知症は、離婚が認められにくい精神疾患になります。

離婚が認められにくい精神疾患は、以下のような疾患です。

  • 軽度なうつ病
  • アルコール依存症
  • ノイローゼ
  • 薬物依存症
  • ヒステリー(転換性障害・解離性障害)
  • 神経衰弱性
  • 認知症など

双極性障害(躁うつ病)は離婚が認められやすい精神疾患です。

一方で、軽度なうつ病の場合には、離婚が認められにくい傾向にあります。

ただし、夫婦が抱える事情によってはこれらの精神疾患でも離婚が認められることがあります。

裁判例の中には、妻のアルツハイマー型認知症を理由とする離婚請求について、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたるとして離婚を認めた事例もあります(長野地判平成2年9月17日)。

精神疾患だけでなく酒やギャンブルなどで浪費癖があって生活費に困っている、疾患をきっかけにDVを受けている場合には、他の法定離婚原因を主張することができます。

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精神疾患の配偶者との離婚手続き

精神疾患の旦那との協議離婚・調停離婚手続き

精神疾患の夫と離婚する方法として、協議離婚をする方法があります。

実務上は配偶者の家族と合意して協議離婚として処理されることも多いようです。

しかし、相手が精神疾患にかかっている場合、離婚自体や離婚条件について話し合おうにも満足に意思疎通がとれないことも考えられます。

本人が合意しているわけではないため、離婚した後に離婚が無効であると主張されるといったトラブルが生じるおそれもあります。

離婚後のトラブルが心配であれば、裁判離婚も検討しておいた方がいいでしょう。

通常、話し合いで離婚できないからといって、すぐ裁判をすることはできず、離婚調停を行う必要があります(調停前置主義)。

しかし、相手が強度の精神疾患であって調停を経ることが相当でない場合には、例外的に調停を経ずにすぐに離婚裁判を起こせます(家事事件手続法257条2項ただし書)。

精神疾患の旦那との裁判離婚手続き

精神疾患の相手と離婚の合意ができない場合、裁判を通じて離婚を認めてもらう方法があります。

裁判では、主に法定離婚原因である5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるか、争うことになります。

精神病にあたるかは、専門家である医師の鑑定をもとに判断されることから、医師の診断書などの証拠も準備する必要があります。

また、精神疾患の程度以外にも離婚後に相手が十分に生活することができるか、離婚を認めるのが相当か、様々な事情を考慮したうえで判断されます。

病者の今後の療養・生活が十分にできるよう準備していることを主張・立証していきましょう。

裁判を進めるために成年後見の申立てが必要なケースも

精神疾患の夫と離婚する場合、成年後見の申立てをしたうえで、配偶者の成年後見人を相手に裁判をしなければならないケースもあります。

精神疾患の重さによっては、精神疾患になった配偶者は「成年被後見人」に相当する立場にあります。

「成年被後見人」とは、精神上の障害により事理弁識能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人を指します。

事理弁識能力とは、自分がこれから何をしようとしているのか認識できる能力であり、事理弁識能力を欠く人を相手に裁判をすることはできません。

離婚裁判において、配偶者が「成年被後見人」である場合は、配偶者のために身の回りのことを管理する「成年後見人」を被告にしなければなりません。

もし、相手が成年後見相当(自己の財産を管理・処分することができない)である場合には、成年後見の申立てで後見人を選んだうえで裁判を進める必要があります。

精神疾患の夫との離婚条件

精神疾患で離婚しても慰謝料請求は難しい

精神疾患の夫と離婚する場合、慰謝料請求が認められない可能性が高いです。

離婚慰謝料は、離婚すれば必ず請求できるわけではありません。

離婚慰謝料とは、相手の不法行為が原因で離婚した際に生じた精神的苦痛に対する賠償金です。

不倫やDV、悪意の遺棄などの不法行為があれば慰謝料請求できますが、精神疾患は配偶者を困らせたくてわざとなったわけではありません。

たとえ配偶者が精神疾患になったことが原因で離婚したとしても、慰謝料請求は認められない可能性が高いです。

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配偶者が精神疾患でも親権が取れるとは限らない

精神疾患の夫と離婚をした場合、精神疾患でない妻が必ず親権者になれるわけではありません。

親権とは、未成年の子を監護し、教育し、財産を管理する権利であって義務です。

未成年の子どもがいる場合、親権者は必ず決めなければならず、父母の協議で決められなければ調停や裁判で親権者を決めることになります。

親権を決めるうえで、最も重視されるのは離婚の責任がどちらにあるか、ではなく子どもの利益です。

子どもの監護ができる心身の健康状態のほかに、いままでの監護実績や子どもと過ごしてきた時間、経済状況なども考慮したうえで決定されます。

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病気の夫との離婚は弁護士にご相談を

精神疾患での離婚は、日常生活を送るのも困難な配偶者をひとり残すことになることから、なかなか認めてもらえません。

どのような事実があれば離婚が認められやすいのか、主張や証拠の提出について事前に弁護士にご相談いただければ、適切なアドバイスを受けられることが期待できます。

精神疾患で離婚したいと思っても、離婚が認められるケースか、ひとりで判断するのは難しく、悩みを抱え込んでしまうこともあります。

相手と相談しようにも精神疾患にかかった相手とうまくコミュニケーションがとれないことも少なくありません。

精神疾患での離婚を検討している場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了