精神疾患や統合失調症で離婚できる?成立条件と別れるための手順

配偶者が精神疾患にかかった場合、看病と家事育児の両立で限界を感じ、離婚を検討する方は少なくありません。
民法改正により、「強度の精神病」を理由とする法定離婚事由は削除されます。2026年4月1日施行後に精神疾患を理由に離婚する場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかが争点となります。
この「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかは、統合失調症や双極性障害など病状の重さだけでなく、別居期間の長さ、看病をどれだけ尽くしたか、離婚後に配偶者が生活できる具体的な準備があるかなど、あらゆる事情を総合的に判断されます。
本記事では、精神疾患を理由とした離婚が認められる具体的な条件、統合失調症など疾患ごとの判断傾向、離婚手続きの流れ、離婚後の生活保障として求められる準備を実務の観点から解説します。
目次
精神疾患の夫とは離婚できる?
精神疾患の夫と合意ができれば離婚できる
相手と離婚の合意ができれば協議離婚をすることができます。
また、たとえ夫婦だけでの話し合いが進まず協議離婚ができなくても、家庭裁判所での調停を通じて相手と合意ができれば、調停離婚をすることができます。
しかし、重度の精神疾患の場合、配偶者との意思疎通が困難であることも少なくありません。
その場合、裁判で離婚を認めてもらう方法があります。
精神病は法定離婚原因にあたれば離婚できる
精神疾患は、法定離婚原因にあたれば裁判離婚することができます。
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
民法第七百七十条
現行法上は4号で「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」を法定離婚原因として定めていますが、以下の理由から、この規定はほとんど適用されず、2026年4月施行の民法改正で削除されます。
- 医療技術の進歩により、統合失調症などでも治療法が開発され、「回復の見込みがない」と判断できないケースが増えた
- 精神疾患を理由に離婚を強制することは、精神障害者への差別を助長するとの批判があった
- 「回復の見込みがない」かの判断は高度な医学的専門知識を要し、医師の間でも見解が一致しないことが多い
このため、現在の裁判実務では、配偶者が精神疾患を抱える場合でも、4号ではなく5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に基づいて争われるのが一般的です。
5号に該当するかは、精神疾患の程度だけでなく、婚姻生活を破綻させる問題行為の有無、別居期間、看病状況、子どもの有無、離婚後の生活保障など、夫婦に関するあらゆる事情を考慮して判断されます。
つまり、「配偶者が統合失調症だから離婚できる」わけではなく、「統合失調症による症状で夫婦の共同生活が事実上成立せず、婚姻関係が破綻しており、回復の見込みがない」と認められて初めて離婚が可能になります。
精神疾患が離婚理由にあたる場合とは?
精神疾患は法定離婚原因の考慮事情のひとつ
5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、「夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復が全くない状態に至った場合」を指します。
具体的には婚姻生活が破綻しており、夫婦関係を回復させる見込みがなく婚姻生活を継続しがたい状態であれば、5号にあたるとして離婚が認められることになります。
5号に該当するかは、精神疾患の程度だけでなく、婚姻生活を破綻させる問題行為の有無や程度、別居期間や子どもの有無、生活環境など夫婦に関するいっさいの事情を考慮して判断されます。
精神病患者が離婚後も生活できるような準備が重要
精神疾患の問題については、裁判では病状だけでなく、それまでの看病状況や、「具体的方途」があるかどうかも考慮されます。
「具体的方途」とは、精神病患者が離婚後も療養し十分に生活できるような具体的な措置や方法を指します。
「諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当」
最判昭和33年7月25日
上記は4号について述べた判例ですが、この考え方は5号の問題として考える場合もあてはまります。
離婚後も自立した生活を送ることが困難な相手を残す場合、生活費や療養費の支払い、施設への入居、配偶者に代わる保護者の選定など、ある程度相手が生活できる見込みを具体的に立てることが必要です。
これらの準備が不十分な場合、裁判所は離婚を認めない可能性があります。
裁判例
今まで生活の余裕がないにもかかわらず療養費の支払いをしていた夫が、将来的にも可能な限り妻の療養費を支払うと主張して離婚を求めたケースでは、方途の見込みがあるとして離婚を認めています(最三小判昭和45年11月24日)。
離婚後の配偶者の生活保障として、裁判所が評価する「具体的方途」には以下のようなものがあります。
- 療養施設への入所手続き
精神科病院や障害者グループホーム等への入所手配、費用の確保 - 成年後見人の選定
意思能力のない配偶者に対して成年後見開始の申立てを行い、専門家を後見人に選任 - 親族による見守り体制
親族に離婚後の生活支援を依頼し、了承を得ておく
これらの準備を進めていることを裁判で主張・立証することで、離婚が認められる可能性が高まります。
離婚が認められる精神疾患の種類
躁うつ病や統合失調症は離婚が認められやすい
過去の判例から、離婚が認められやすい精神疾患は主に統合失調症や躁うつ病などの強度の精神病です。
離婚が認められやすい精神疾患
- 統合失調症
- 双極性障害(躁うつ病)
- 偏執病
- 頭部外傷やその他の疫病による精神病など
統合失調症の場合、幻覚や妄想により配偶者や子どもに対して攻撃的な言動をとる、意欲低下で家事育児を一切行わない、金銭管理ができず浪費するといった問題が生じることがあります。
こうした症状が長期間続くと、夫婦の共同生活は事実上成立せず、婚姻関係が破綻していると判断されやすくなります。
ただし、薬物療法で症状が安定しており、日常生活に支障がない場合は「回復の見込みがない」とは言えないため、離婚が認められにくい点に注意が必要です。
離婚が認められにくい精神疾患
依存症や認知症は、離婚が認められにくい精神疾患になります。また、双極性障害(躁うつ病)は離婚が認められやすい精神疾患である一方、軽度のうつ病では離婚が認められにくい傾向にあります。
離婚が認められにくい精神疾患
- 軽度なうつ病
- アルコール依存症
- ノイローゼ
- 薬物依存症
- ヒステリー(転換性障害・解離性障害)
- 神経衰弱性
- 認知症など
ただし、夫婦が抱える事情によってはこれらの精神疾患でも離婚が認められることがあります。
裁判例の中には、妻のアルツハイマー型認知症を理由とする離婚請求について、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたるとして離婚を認めた事例もあります(長野地判平成2年9月17日)。
精神疾患だけでなく酒やギャンブルなどで浪費癖があって生活費に困っている、疾患をきっかけにDVを受けている場合には、他の法定離婚原因を主張することができます。
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精神疾患の配偶者との離婚手続き
精神疾患の旦那との協議離婚・調停離婚手続き
精神疾患の夫と離婚する方法として、協議離婚をする方法があります。
実務上は配偶者の家族と合意して協議離婚として処理されることも多いようです。
しかし、相手が精神疾患にかかっている場合、離婚自体や離婚条件について話し合おうにも満足に意思疎通がとれないことも考えられます。
本人が合意しているわけではないため、離婚した後に離婚が無効であると主張されるといったトラブルが生じるおそれもあります。
離婚後のトラブルが心配であれば、裁判離婚も検討しておいた方がいいでしょう。
通常、話し合いで離婚できないからといって、すぐ裁判をすることはできず、離婚調停を行う必要があります(調停前置主義)。
しかし、相手が強度の精神疾患であって調停を経ることが相当でない場合には、例外的に調停を経ずにすぐに離婚裁判を起こせます(家事事件手続法257条2項ただし書)。
精神疾患の旦那との裁判離婚手続き
精神疾患の相手と離婚の合意ができない場合、裁判を通じて離婚を認めてもらう方法があります。
裁判では、主に法定離婚原因である5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるか、争うことになります。
精神病にあたるかは、専門家である医師の鑑定をもとに判断されることから、医師の診断書などの証拠も準備する必要があります。
また、精神疾患の程度以外にも離婚後に相手が十分に生活することができるか、離婚を認めるのが相当か、様々な事情を考慮したうえで判断されます。
病者の今後の療養・生活が十分にできるよう準備していることを主張・立証していきましょう。
離婚準備の具体的ステップ
精神疾患の配偶者との離婚を検討する場合、以下の流れで準備を進めることが実務上は効果的です。
- 診断書の取得
- 別居の開始
- 離婚後の生活保障の準備
- 協議離婚・調停の試み
- 裁判での離婚請求
具体的に見ていきましょう。
診断書の取得
精神科または心療内科を受診し、病名、発症時期、治療経過、回復見込みが記載された診断書を取得します。
セカンドオピニオンとして複数医師の診断を得ると、裁判での証拠価値が高まります。
別居の開始
配偶者の症状が重く、同居が困難な場合は別居を開始します。
別居期間が長いほど「婚姻関係の破綻」の立証がしやすくなります。
離婚後の生活保障の準備
施設入所の手配、成年後見人の選定、財産分与の試算などを進めます。
地域の精神保健福祉センターに相談し、利用可能な福祉サービスを確認しておくことが大切です。
協議離婚・調停の試み
配偶者本人または家族と離婚協議を行います。合意が得られなければ調停を申し立てます。
裁判での離婚請求
調停不成立の場合、裁判で「婚姻を継続し難い重大な事由」を主張します。
診断書、看病日記、別居期間の証拠、具体的方途の準備状況を提出し、離婚を求めます。
裁判を進めるために成年後見の申立てが必要なケースも
精神疾患の夫と離婚する場合、成年後見の申立てをしたうえで、配偶者の成年後見人を相手に裁判をしなければならないケースもあります。
精神疾患の重さによっては、精神疾患になった配偶者は「成年被後見人」に相当する立場にあります。
「成年被後見人」とは、精神上の障害により事理弁識能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人を指します。
事理弁識能力とは、自分がこれから何をしようとしているのか認識できる能力であり、事理弁識能力を欠く人を相手に裁判をすることはできません。
離婚裁判において、配偶者が「成年被後見人」である場合は、配偶者のために身の回りのことを管理する「成年後見人」を被告にしなければなりません。
もし、相手が成年後見相当(自己の財産を管理・処分することができない)である場合には、成年後見の申立てで後見人を選んだうえで裁判を進める必要があります。
精神疾患の夫との離婚条件
精神疾患で離婚しても慰謝料請求は難しい
精神疾患の夫と離婚する場合、慰謝料請求が認められない可能性が高いです。
離婚慰謝料は、離婚すれば必ず請求できるわけではありません。
離婚慰謝料とは、相手の不法行為が原因で離婚した際に生じた精神的苦痛に対する賠償金です。
不倫やDV、悪意の遺棄などの不法行為があれば慰謝料請求できますが、精神疾患は配偶者を困らせたくてわざとなったわけではありません。
たとえ配偶者が精神疾患になったことが原因で離婚したとしても、慰謝料請求は認められない可能性が高いです。
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配偶者が精神疾患でも親権が取れるとは限らない
精神疾患の夫と離婚をした場合、精神疾患でない妻が必ず親権者になれるわけではありません。
親権とは、未成年の子を監護し、教育し、財産を管理する権利であって義務です。
未成年の子どもがいる場合、親権者は必ず決めなければならず、父母の協議で決められなければ調停や裁判で親権者を決めることになります。
親権を決めるうえで、最も重視されるのは離婚の責任がどちらにあるか、ではなく子どもの利益です。
子どもの監護ができる心身の健康状態のほかに、いままでの監護実績や子どもと過ごしてきた時間、経済状況なども考慮したうえで決定されます。
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精神疾患で離婚についてよくある質問
Q. 統合失調症でも症状が安定していれば離婚できない?
薬物療法で症状がコントロールされ、日常生活に支障がない場合は「回復の見込みがない」とは言えないため、離婚が認められにくくなります。
一方で、薬を飲んでいても幻覚や妄想が続く、家事育児ができない、金銭管理ができないなど、夫婦の共同生活が事実上成立していない場合は、婚姻関係の破綻として離婚が認められる可能性があります。
Q. 離婚後の配偶者の生活保障はどこまで必要?
裁判所は「具体的方途」があるかを重視します。具体的には、精神科病院や障害者グループホームへの入所手配、成年後見人の選任、財産分与や定期的な療養費の支払い、親族による見守り体制の確保などが該当します。
これらの準備がある程度整っており、離婚後も配偶者が療養・生活できる見込みがあれば、裁判所は離婚を認める傾向にあります。逆に、準備が不十分だと離婚請求が棄却されるリスクがあります。
Q. 精神疾患を理由に離婚しても慰謝料は請求できる?
精神疾患そのものは配偶者の故意や過失によるものではないため、慰謝料請求は原則として認められません。
ただし、精神疾患をきっかけにDVや生活費を渡さないなどの不法行為があった場合は、それらを理由に慰謝料請求できる可能性があります。
離婚慰謝料は相手の不法行為に対する賠償であり、病気そのものは不法行為にあたらない点に注意が必要です。
病気の夫との離婚は弁護士にご相談を
精神疾患での離婚は、日常生活を送るのも困難な配偶者をひとり残すことになることから、なかなか認めてもらえません。
どのような事実があれば離婚が認められやすいのか、主張や証拠の提出について事前に弁護士にご相談いただければ、適切なアドバイスを受けられることが期待できます。
精神疾患で離婚したいと思っても、離婚が認められるケースか、ひとりで判断するのは難しく、悩みを抱え込んでしまうこともあります。
相手と相談しようにも精神疾患にかかった相手とうまくコミュニケーションがとれないことも少なくありません。
精神疾患での離婚を検討している場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
