旦那の親が原因で離婚|義実家ストレスや親を優先する夫を理由に有利に別れる方法

結婚や離婚は夫婦2人の問題といえど、互いの親も重要な存在であることは間違いありません。他人同士だった人たちが家族になるのですから、義母や義父と相性が良くないこともあるでしょう。
義両親とうまくいかず離婚に至ってしまうケースもあり、実際に離婚調停を申し立てた人のうち約7%が「家族親族と折り合いが悪い」を理由として挙げています(令和6年司法統計 家事編より)。
「義実家と関わりたくない」「夫が味方をしてくれず孤立している」と悩む方にとって、その辛さが法的に離婚原因として認められるかは切実な問題です。
この記事では、妻が旦那の親を嫌う理由や、旦那の親が原因での離婚や慰謝料請求が法的に認められるためのポイントについて解説します。
目次
旦那の親が原因で離婚したいと感じるよくあるケース
配偶者の親との関係に深く悩み、離婚を決意する方は多いです。具体的には、以下のような理由が挙げられます。
義両親の過干渉
義両親の過干渉には、多くの妻が悩まされています。
例えば、何にでも口出ししてきたり、勝手に家に入ってくるなどの行為は、過干渉であると考えられます。
親としては息子夫婦を心配して善意で行っていることも多いため、注意しづらいのも厄介なポイントです。
義両親と価値観が合わない
義両親とは世代も離れていますし、過ごしてきた環境も違います。価値観が合わないのは当然ともいえますが、自分たちの価値観からあれこれ口出ししてくるのは、気持ちの良いものではありませんよね。
旦那の親の介護をしたくない
親世代には「嫁が義両親の介護をするのは当たり前」という価値観を持つ人もいます。
義両親は、旦那の親といえど他人です。自分の親の介護もあるのに、無料で他人の介護までしろと言われれば、離婚を考えるのも無理はありません。
嫁姑問題に疲れた
嫁姑問題という言葉で知られる通り、姑と嫁との関係にはトラブルが起きやすく、厳しい嫁いびりを苦にして離婚を決意する方もいます。
例えば、義母による執拗なあら探し、無視、陰口などの体験談はよく目にします。
自分の親の悪口を言う
自分に対する悪口はまだ我慢できても、自分の親を悪く言われるのだけは耐えられないと感じる方も多いです。
「お母さんに教わらなかったの?」「親の教育が悪いのね」などと言ってくる義両親とは、信頼関係を築くことは難しいでしょう。
夫が常に親の味方をする
最も深刻なのがこの問題です。
義実家とのトラブルそのものより、夫が妻を守ろうとせず親の肩を持つという絶望感が、離婚の決定打になります。
旦那の親が原因で離婚は可能?重要なのは夫の対応
夫婦が合意すれば、旦那の親が原因で離婚できる
離婚には、「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3つの方法があります。
協議離婚は、夫婦が話し合って離婚を決定する、最も基本的な離婚方法です。夫婦が合意できれば、基本的にはどのような理由で離婚しても良いですし、柔軟に離婚条件を決めることができます。
したがって、夫が離婚に合意してくれれば、義両親との関係を理由に協議離婚をすることができます。
当事者間の話し合いでの解決が難しければ、家庭裁判所の離婚調停を利用して話し合うことができます。離婚調停とは、家庭裁判所の調停委員会が双方から話を聞き、中立的な立場から意見を調整して、夫婦の合意を目指す手続きです。
調停離婚でも、当事者双方の合意があれば、義両親を理由に離婚することができます。
旦那の親だけが原因の裁判離婚は難しい
調停を行っても合意に達しなかった場合や、相手が調停期日への出席を拒んだ場合は、調停は不成立となります。
その後は、家庭裁判所に離婚裁判を申し立てることが可能です。
ただし、裁判で離婚が認められるには、5つの法定離婚事由のうちいずれかが存在する必要があります。
法定離婚事由
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない強度の精神病
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由
結婚はあくまで夫婦2人の問題であるため、義両親と仲が悪くても、それだけで裁判離婚できる理由にはなりません。
決定打は夫の調整義務違反と協力義務違反
義実家との不仲そのものは離婚理由になりにくいですが、それを夫がどう対応したかによっては、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」として離婚が認められる可能性があります。
夫婦には互いに協力し扶助する義務(民法752条)があります。
妻が義両親との関係で苦しんでいることを知りながら、夫が以下のような態度をとった場合、夫側の婚姻関係を維持する努力の放棄とみなされることがあるのです。
- 妻の訴えを無視し、一方的に親の肩を持つ
- 義実家と妻の間に入って調整することを拒否する
- 「親の言うことを聞け」と妻に強要する
つまり、「義母がひどいから離婚したい」ではなく、「この問題を放置し、妻を守ろうとしない夫とは信頼関係が破綻した」という主張が、裁判離婚においては重要になります。
「義実家と関わりたくない」は正当な権利か
「義実家と関わりたくない」「会いたくない」という感情自体は否定されるものではありません。
また、法律上も、妻に対して義両親との同居や頻繁な交際を強制する権利は夫や義両親にはありません。
夫が妻の意に反して執拗に同居を強要したり、それを拒否したことを理由に生活費を渡さないなどの報復に出た場合は、夫側の落ち度として考慮される可能性があります。
旦那の親が原因で裁判離婚が認められたケース
旦那の家族との不和が原因での裁判離婚が認められた例があります。
ただし、このケースでは、妻と義両親との不仲を直接的な離婚原因として離婚が認められたわけではありません。
裁判所は、夫が妻と義両親との問題を知っていながら、家庭内の円満を取り戻すような努力をしておらず、婚姻生活を維持する意思が全くないため、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」があるとして、離婚を認めました(名古屋地岡崎支判昭和43年1月29日)。
離婚せずに義実家と距離を置くという選択肢
旦那のことは好きだけど、義両親とはやっていけないという方は、離婚せずに義実家と距離を置くという選択肢も考えられます。
例えば、遠くに引っ越す、帰省の回数を減らす、連絡を取るのをやめるといった方法があります。
この方法には、夫の理解と協力が不可欠です。夫を頼れる状況ならば、これらの方法について話し合ってみるのも良いでしょう。
旦那の親に離婚慰謝料を請求できる?
旦那の親への請求は難しい
離婚慰謝料とは、離婚の原因を作った方の配偶者が、もう一方の精神的苦痛を補償するために支払うお金です。
原則として、離婚慰謝料の請求先は夫であり、義両親との不仲が原因で離婚したからといって、義父や義母への離婚慰謝料の請求は認められません。
ただし、義両親から受けた嫌がらせ行為が不法行為といえる程度に悪質であれば、義両親に対する慰謝料の請求が認められる可能性があります。
ここでの不法行為とは、例えば暴力やモラハラ、家から追い出す行為などです。
夫への請求なら可能性がある
義両親への請求が難しい一方で、夫に対する慰謝料請求は認められる可能性があります。
夫婦には互いに協力し扶助する義務があり、夫は妻と実家(義父母)との間を調整する義務を負います。
夫がその義務を怠り、妻が精神的に追い詰められて婚姻関係が破綻したと判断されれば、その主たる責任は夫にあるとされ、夫に対する慰謝料請求が認められる可能性が高いです。
相場としては裁判例や実務上、50万〜200万円程度となるケースが多いです。
慰謝料額は、婚姻期間、夫の放置具合や妻が受けた苦痛の程度、双方の収入や年齢、離婚原因に対する責任の重さなど、個別事情を総合的に考慮して決定されます。
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離婚を有利に進めるための武器となる証拠
相手に言い逃れさせず、離婚や慰謝料請求を有利に進めるためには、客観的な証拠が不可欠です。
録音・LINE・メールの保存
離婚裁判をする場合は、婚姻関係を継続するのが難しいという証拠を用意する必要があります。
例えば、暴言や暴力の様子を録音・録画した音声や映像は、婚姻関係破綻や慰謝料原因を立証する上で強力な証拠となります。
メールやLINE等のやり取りも、暴力や暴言、義両親からの過干渉、夫の冷淡な対応などを示す内容であれば、裁判所で証拠として採用されることがあります。
スクリーンショットやデータのバックアップを取るなどして確実に保存しておきましょう。
夫の協力義務違反を証明する日記の書き方
旦那や義両親の言動を日記に残しておくと、有効な証拠になります。
特に重要なのは、単なる悪口ではなく、「夫がどう対応したか(しなかったか)」を記録することです。
以下のような形式で記録することをおすすめします。
日記に記載すべき内容
- いつ・どこで・誰が
(〇月〇日、自宅にて義母がアポなしで訪問) - 何をされたか
(「家事がなっていない」「息子が可哀想」と1時間にわたり罵倒された) - 夫への相談と夫の反応
(帰宅した夫に相談し、訪問を控えてもらうよう頼んだが、「母さんは悪気がない」「お前の心が狭い」と言い放ち、取り合ってくれなかった)
このように記録することで、義両親の行動だけでなく、夫が調整役としての義務を果たさなかった事実を証明しやすくなります。
心身の不調を示す医師の診断書
義実家との関係が原因でうつ病や適応障害などを患った場合は、心療内科を受診し、診断書をもらっておきましょう。
可能であれば、医師に原因が義実家とのトラブルや家庭内の不和であることを伝えてカルテに残してもらうと、証拠としての価値が高まります。
義実家トラブルを理由に離婚するための具体的ステップ
別居で物理的・精神的な距離を確保
義両親と同居している場合や、近居で頻繁な干渉がある場合は、まずは別居を検討してください。
夫婦が長期にわたって別居しており、夫婦関係が破綻していることが客観的に見て取れる状態になった場合、婚姻を継続しがたい重大な事由にあてはまり、裁判で離婚が認められる可能性があります。
実務や判例では、5年以上の別居で破綻認定される傾向が強いですが、3年程度の別居でも認められるケースが増えています。
また、旦那の方が収入が多い場合、別居期間中は婚姻費用を請求することができます。
配偶者が離婚に前向きでない場合でも、婚姻費用を請求することで、負担を感じて離婚に応じてくれる可能性が高まります。
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合意に基づいて離婚する
義両親との不仲そのもので裁判離婚するのは非常にハードルが高いため、なるべく協議か調停で離婚を成立させるのが良いでしょう。
そのためには、話し合いを有利に進めることが重要です。
離婚の話し合いをするとなったら、義両親が介入してくる可能性が非常に高く、相手のペースに飲み込まれてしまう恐れがあります。
自分の親を同席させたり、他人の目があるところで話すなど、話し合いの方法を工夫してみるのも良いかもしれません。
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ほかの法定離婚事由で裁判離婚する
婚姻を継続しがたい重大な事由以外の法定離婚事由に該当するものがないかも確認しましょう。
旦那が不倫をしていた場合、不貞行為を理由に離婚ができる可能性が高いです。
また、旦那や義両親が結託して妻を家から追い出したり、妻に生活費を渡さなくなったりしたら、法定離婚事由のうちの悪意の遺棄にあたる可能性があります。
さらに、旦那によるDVやモラハラは、証拠によって立証することができれば婚姻を継続しがたい重大な事由として認められることが多いため、旦那の行為がDV・モラハラにあたらないかチェックしてみてください。
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旦那の親が原因で離婚する場合のよくある質問
Q. 義母と性格が合わないという理由だけで離婚できる?
性格の不一致だけでは、裁判で離婚が認められる法定離婚事由にはなりにくいのが現実です。
ただし、双方が合意する協議離婚や調停離婚であれば理由は問われません。
裁判まで見据える場合は、夫が仲裁せず放置したことによる婚姻関係の破綻を主張していくことになります。
Q. 嫁姑問題で離婚。義母に慰謝料を請求できる?
原則としてできません。慰謝料は配偶者に請求するものです。
義両親に請求できるのは、暴力や暴言、住居侵入など、法的な不法行為が成立するような悪質なケースに限られます。
Q. 義実家と関わりたくないので離婚せず絶縁はできる?
可能です。夫に理解を求め、義実家との付き合いを断つ(別居する、行事に参加しない等)ことで婚姻生活が円満に続くなら問題ありません。
しかし、夫がそれを認めず同居などを強要してくる場合は、モラハラとして離婚事由になる可能性があります。
Q. 義両親との同居を解消したいですが、夫が応じてくれません。
話し合いで解決しない場合、一方的に家を出て別居を開始することも、身を守るためには有効な手段です。
正当な理由なく一方的に別居することは、夫婦の同居義務(民法752条)に反する悪意の遺棄(民法770条1項2号)に当たると主張され、慰謝料を請求されるおそれがあります。
別居の経緯や理由によっては、後の離婚調停や裁判で不利になることもあるので、事前に弁護士に相談し、適切な対応を取ることをおすすめします。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
