「婚姻を継続し難い重大な事由」とは?わかりやすく解説します

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離婚について夫婦間で合意できなかったり、離婚条件で折り合いがつかないと、最終的に離婚訴訟を提起することになります。

離婚請求が認められるために重要なのが「婚姻を継続し難い重大な事由」の有無です。

この記事では、どのような事情があれば「婚姻を継続し難い重大な事由」があるといえるのか、具体例や裁判例を挙げながら、わかりやすく解説します。

「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる事情は?

「婚姻を継続し難い重大な事由」の意味

離婚訴訟で離婚が認められるためには、裁判上の離婚原因である法定離婚事由(民法770条1項)が必要です。

この中で特に重要なのが、「婚姻を継続し難い重大な事由」(同条項5号)です。

「婚姻を継続し難い重大な事由」の意味について、判例は、「夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復が全くない状態に至った場合」と判示しています(最判昭62.9.2)。

以下では、「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる具体的な事情をご説明します。

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性格の不一致

実務上、最も多い離婚の申立て理由は、性格の不一致です。

しかし、夫婦とはいえ違う人間である以上、性格の不一致は多少あって当たり前です。そのため、性格の不一致のみを理由に離婚訴訟を起こしても、離婚が認められることはほぼありません。

性格の不一致を理由に離婚したい場合は、その他の離婚原因も併せて主張する必要があります。

さらに、性格の不一致によって婚姻生活に重大な悪影響が及んでいることや、別居中に相手方が婚姻関係を修復するための具体的な努力を何らしなかったことなどを主張すると離婚が認められやすくなります。

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長期間の別居

別居が長期化すればするほど、婚姻生活は破綻していると認められやすくなります

離婚請求が認められるために必要な別居期間は、一般的に3〜5年程度です。

もっとも、別居期間のみではなく、同居期間と対比した場合の別居期間の長さ、未成熟子の存否、別居後の生活費の分担状況、離婚後の他方配偶者への経済状況への配慮などを総合的に考慮して「婚姻を継続し難い重大な事由」の有無が判断されます。

なお、有責配偶者からの離婚請求の場合、離婚が認められる別居期間は長くなります。有責配偶者の典型例は、不貞行為(不倫、浮気)をした配偶者です。

過去の判例・裁判例の動向を見ると、別居期間が10年を超えると、有責配偶者からの離婚請求が認められやすくなるようです。

他方、別居期間が10年を超えない場合は、別居後の婚姻費用の分担状況や離婚により他方配偶者が経済的に困窮しないかといった事情が総合考慮されて離婚の可否が判断されます。

例えば、不貞行為をした夫が妻に対し離婚訴訟を起こした場合、、別居中に十分な婚姻費用を支払続けてきたか、離婚に際して十分な額の財産分与が提案されているかなどの事情が考慮されます。

家庭内別居で離婚できる?

離婚を考えている方の中には、家庭内別居をしているケースも少なくないと思います。

しかし、真剣に離婚を成立させたいのであれば、家を出て別居をする方が適切です。

なぜなら、離婚成立のために必要な別居期間に家庭内別居が含まれるかどうかはケースバイケースだからです。

物理的に距離をとった方が、相手方に離婚に向けた真剣な意思が伝わりやすく、協議離婚が成立する可能性も高まります。

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不貞行為にまで至らない男女関係

配偶者が不貞行為(不倫、浮気)をした場合、法定離婚事由(民法770条1項1号)に当たります。

しかし、1号の不貞行為は、異性と性的関係をもった場合に限られます。

したがって、異性と性的関係をもったことを証明できなければ、1号を理由とする離婚は認められません。

もっとも、異性と性的関係をもった場合でなくても、夫婦共同生活を破綻させるに至った場合は「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し、離婚請求が認められる可能性があります

例えば、人目を忍んで2人で何度も面会している事情や、2人の関係が親密であるといった事情(もともと交際関係にあったなど)を主張立証していくことが重要になります。

DV

家庭内暴力、いわゆるDVは「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当します。

配偶者に対する暴力だけでなく、子どもに対する暴力、虐待も離婚事由になります。

暴言・モラハラ

暴言や重大な侮辱、長時間にわたる説教などは精神的な暴力に当たり、いわゆるモラハラに当たります。

モラハラも「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当しうるものです。

もっとも、モラハラは、身体的なDVと違って客観的な証拠が残りにくい面があります。

そして、相手がモラハラを否定するケースが多く離婚問題が長期化する可能性があります。

このような場合は、まずは別居して、相当期間の別居を経てから離婚手続きをとるのも一つの方法です。

過度の浪費や借金、ギャンブル

過度の浪費や借金、ギャンブルによって、生活費を入れない場合は「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)に当たる可能性があります。

また、借金などの金銭問題に加え、不貞行為やDVなど、その他の離婚原因に当たる事情があれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められやすくなります。

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家事への非協力

家事や育児への非協力も、場合によっては「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる可能性があります。

なぜなら、民法は夫婦の協力義務を規定しており(民法752条)、家事育児への非協力はこの義務に違反する可能性があるからです。

もっとも、単に不満があるという程度では、離婚は認められません。

相手の非協力によって、夫婦共同生活が破綻し、その回復が全くできない状態にまで至っていることがわかる具体的な事実を主張立証することがポイントです。

もし、あなたの離婚意思が固い一方で、相手方が離婚に頑なに応じない態度なのであれば、別居期間を置くのも有効です。

犯罪行為・服役

配偶者に対する犯罪行為、または、それ以外の犯罪行為によって実刑判決を受けて服役した場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たります。

病気や身体的障害

配偶者が「強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」場合は、法定離婚事由に該当します(民法770条1項4号)。

「強度の精神病」とまではいえなくとも、配偶者の病気や身体的障害が「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる場合もあります。

実務上は、配偶者が病気等になったという事情のみでは離婚は認められず、配偶者の生活費や療養費を負担しているか、離婚後に配偶者に代わる保護者がいるか、離婚後の療養環境を整えているかなど、具体的な方策を立てているかどうかが重視されます。

セックスレス

夫婦関係において、性関係は重要な要素です。そのため、性交渉が長期間ない場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められやすくなります。

裁判例の中には、妻に自分が性交不能であることを隠して婚姻し、同居から別居するまでの約3年半の間、性交渉がなかった事案で、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断し、妻からの離婚請求を認めたものがあります(京都地判昭62.5.12)。

宗教活動

人にはそれぞれ信教の自由があります。しかし、過度な宗教活動によって、婚姻生活が維持できない状態になってしまった場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当します。

宗教活動が婚姻生活に与えた影響のみならず、別居期間や未成熟子の存在、離婚後の配偶者の経済状況などが総合考慮されます。

親族との不和

配偶者が、他方配偶者の親族との不和を原因に離婚したい場合、そのことのみを理由に離婚は認められません。

もっとも、他方配偶者が、親族との不和を解消するための努力を全くせず放置しているケースでは「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。

親族との不和の場合も、別居期間の長さが離婚が認められるための重要な要素です。

生死不明(3年に満たない場合)

「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」は法定離婚事由に当たります(民法770条1項3号)。

もっとも、生死不明の状態が3年に満たない場合でも「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性はあります。

離婚原因を証明するための証拠は?

ここでは、「婚姻を継続し難い重大な事由」の中で、特に主張される場合が多い離婚原因について、その事実を証明するために必要な証拠をご紹介します。

性格の不一致

性格の不一致が重大なものであったことを主張するために、本人や家族の陳述書が作成されるのが一般的です。

陳述書は、自分が体験した事実や知っている事情についてまとめた文書です。

陳述書を作成する際のポイントは、口論に至る経緯や、口論の内容など具体的な事実を説明することです。相手に対する悪感情の記載に終始しないよう注意しましょう。

別居している場合は、別居中に相手方が関係修復のための具体的な行動をとらなかったことや、夫婦間で実質的な交流がなかったことも陳述書にまとめましょう。

その他に、日記やメールも重要な証拠になります。

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長期間の別居

長期間の別居を離婚原因として主張する場合、重要なのは別居に至った経緯です。

別居に至った原因が主に相手にあることを証明できれば、別居期間が短くても離婚が認められる可能性が高くなります。

別居の経緯を証明するために、相手の言動を日頃から日記につけておくと有効です。

その他に、本人の陳述書も証拠になります。

不貞行為にまで至らない男女関係

すでにご説明したとおり、異性との肉体関係が認められなくても「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すれば離婚が認められます。

そのため、不貞行為を疑わせる証拠をできる限り集めておくことが大切です。

配偶者と不貞相手との間のメールやLINEのやりとり、ホテルの領収書の他、調査会社の報告書が証拠として提出される場合もあります。

DV・モラハラ

DVやモラハラを証明するためには、診断書や録音、録画、写真などの客観的証拠が大切です。

さらに、DVやモラハラを主張した場合、相手方はその事実を否定するケースが多いです。

例えば、「原告が先に暴力をふるった」「原告が日頃から浪費するため、そのことを注意しただけだ」などと反論される場合が少なくありません。

このような反論に備え、暴力やモラハラ被害を受けた経緯、さらに被害を受けた後の行動(専門機関に相談に行った、子どもを連れて別居したなど)を詳しく記録しておくことが重要です。

裁判では、それらの事実経過を踏まえ、原告と被告どちらの主張が信用できるか判断されます。

そのため、日記やメモに被害を受けた経緯や被害後の行動について、わかりやすくまとめておくと良いでしょう。

もっとも、身の安全が第一ですので、緊急を要する場合は専門機関に相談の上、一刻も早く安全な場所へ避難するようにしてください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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