不妊で離婚を考えている人へ|不妊で離婚できるかを解説
「不妊や不妊治療、妊活は離婚の理由になる?」
「不妊の離婚で相手に慰謝料を請求できる?」
不妊や不妊治療、妊活がきっかけで、夫婦関係が悪化してしまい、離婚を考える夫婦もいます。
そのような方に向けて、この記事では、不妊を理由に離婚できるか、妊活や不妊治療に非協力的な夫と離婚できるかなど、不妊と離婚の問題について分かりやすく解説します。
不妊を理由とする離婚問題に直面しておられる方は、今大変お辛い状況だと思います。どうぞ専門家や周囲の方を頼り、法的な問題についてはいつでも弁護士にご相談ください。
不妊で離婚を考えるタイミング
妊活や不妊治療について夫が非協力的
夫が妊活について非協力的だと、離婚を考えてしまうことがあるかもしれません。
「子どもが欲しい」と望んでいるのに、「今日は疲れているから」と夫に性交渉を断られてしまうこともあるでしょう。
不妊治療についても、「治療方法をどうするかについて話し合えない」「真剣に向き合ってくれない」など、夫婦間で温度差があると、離婚を考えてしまうケースがあります。
妊活や不妊治療のなかで不仲になった
妊活や不妊治療をおこなうなかで、夫婦の仲が悪くなってしまい、離婚を考えてしまうことがあるかもしれません。
夫婦間で妊活や不妊治療への向き合い方に温度差が生じ、妻は「真剣に向き合ってくれない」、夫は「もうやめたい」などと、お互いの気持ちがすれ違ってしまうというのもよくあるケースです。
また、長年治療を続けていても効果が出なかった場合、夫婦間で「このまま治療を続けるのか、やめるのか」の選択に相違があれば、関係が悪くなってしまい、結果として修復が困難になってしまうということも考えられます。
どちらかに不妊の原因があると発覚した
不妊治療を進めたり、検査を受けたりする中で、夫婦のどちらかに不妊の原因があると発覚した場合も、離婚を考えてしまうことがあるかもしれません。
たとえば、妻側に不妊の原因があると発覚した場合、妻側が「申し訳ない」と思いつめてしまうケースがあります。
夫側に不妊の原因があると発覚した場合も、夫側が「別れたほうがいい」と考えてしまうこともあるでしょう。
不妊を理由に離婚できるケース
「妻の不妊」「男性不妊」のみを理由に、離婚裁判で離婚が認められる可能性は低いです。
裁判離婚が認められるためには、法定離婚事由(離婚が法的に認められるための理由)が必要になります。法定離婚事由とは、以下の5つです。
法定離婚事由(民法770条1項)
- 1号:不貞行為(浮気、不倫)
- 2号:悪意の遺棄(一方的に家出した上、生活費を渡さないなど)
- 3号:3年以上の生死不明
- 4号:強度の精神病
- 5号:婚姻を継続しがたい重大な事由
もっとも、不妊がきっかけとなり夫婦間で様々なトラブルが生じるケースがあります。ここでは、不妊や、それに起因する問題で離婚が認められるケースについて解説します。
妊活などに非協力的で、長期間セックスレスになっている
どちらかが子どもを欲しており、「妊活をしたい」「不妊症の治療をしてほしい」などと相手に伝えても、相手が要求をつっぱねて治療せず、結果としてセックスレスになっているという場合は、離婚が認められる可能性があります。
不妊治療の途中から相手方が協力的でなくなり、性交渉を拒否するようになるケースも、裁判離婚できる可能性があります。
関連する判例
入籍後約5か月内に2~3回と性交渉の回数が極端に少なく、そのうち妻との性交渉を拒否し、ポルノビデオを見ながら自慰行為をするようになったなどの夫の行為が、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして、妻からの離婚請求が認められた裁判例があります(福岡高判平5・3・18)
なお、一般的にセックスレスで離婚が認められる目安は、1年以上性交渉がない場合と考えていいでしょう。
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子どもが欲しいのに、不妊症であることを隠して結婚した
「子どもがほしいと前から言っており、相手も承諾していたにもかかわらず、結婚後に実は不妊症だったと相手に言われた」というケースです。
子どもが欲しいという気持ちが強いということを認識していたにもかかわらず、相手が不妊症であることを隠していたという場合は、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当し、離婚が認められる可能性があります。
関連する判例
婚姻に際し妻に自分が性交不能であることを伝えず、同居から別居するまでの約3年半の間、性交渉がなかった事案で、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断し、妻からの離婚請求が認められたものがあります(京都地判昭62・5・12)。
不妊治療中などに配偶者が不貞行為に及んでいる
「どうしても子どもが欲しい」と考えた配偶者が、ほかの女性と不貞行為に及ぶケースがあります。
なかには、心理的な要因によって妻にだけED状態になってしまうという方もいらっしゃるようです(妻だけED)。
妻以外の女性と不貞行為に及んだ場合は、法定離婚事由の一つである「不貞行為」に該当しますので、離婚が認められる可能性があります。
なお、法定離婚事由である「不貞行為」については、性交渉や性交類似行為(手淫、口淫、前戯、裸で抱き合うなどといった行為)が該当します。
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相手が不妊を理由に離婚することに同意している
相手が不妊で離婚することに合意している場合は、協議離婚というかたちで、夫のEDを理由として離婚することができます。
協議離婚とは、夫婦が話し合い、離婚届を提出し、受理されることで離婚を成立させる方法です。不妊治療を拒否された場合も、離婚に合意できれば、離婚することができます。
話し合いがまとまらず離婚調停に進んだ場合でも、双方が合意できればどのような理由でも離婚することができるので覚えておきましょう。
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ほかに不妊に起因する法定離婚事由がある
不妊に関する問題のほかに法定離婚事由があるという場合も、離婚することができます。
たとえば、以下のようなケースが該当します。
- 妊活中に旦那が浮気。不倫相手が妊娠し、離婚を切り出された。
- 妻に不妊治療をすすめると、逆上して暴力を振るわれた。
逆に、以下のようなケースでは、離婚が認められにくいといえます。
- 夫が妊活に非協力で、しだいに不仲になり、夫婦関係が冷め切った。
- 配偶者が不妊治療に非協力的。子供を授かりたいので離婚したい。
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不妊を理由に離婚するときの慰謝料請求は?
不妊を理由とした慰謝料請求は難しい
不妊を理由に離婚を考えている場合、相手方へ慰謝料請求したい方もいらっしゃるでしょう。
しかし、不妊のみを理由に相手方へ慰謝料請求することは、特別の事情がない限り、できません。
慰謝料請求できるのは、相手方が主な離婚原因をつくった場合、すなわち相手方が有責配偶者である場合に限られるからです。
女性不妊であれ、男性不妊であれ、不妊について本人に責任はありません。
したがって、たとえ相手方に不妊原因があるとしても、そのことのみを理由に慰謝料請求はできないのです。
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また、「相手が妊活に非協力的だったから」という理由だけで慰謝料請求が認められることもありません。
不妊以外の理由もあれば慰謝料請求が認められる可能性も
不妊とは別に、相手方の違法行為があれば慰謝料請求できます。
例えば、以下のような場合は慰謝料請求ができる可能性があります。
不妊の離婚と慰謝料請求
- 相手方が別の女性と不貞行為をした(不貞相手にも慰謝料請求できる)
- 不妊治療をすすめると逆上し、暴力を振るったり、モラハラをするようになった
- 不妊治療の話し合いでもめた結果、相手方が生活費を渡さなくなった(悪意の遺棄)
- 相手方が性交渉を拒否し、セックスレス状態が長期化した など
慰謝料を請求する理由により、慰謝料金額は異なりますが、請求金額の相場は、以下のとおりです。
慰謝料請求の理由 | 慰謝料金額の相場 |
---|---|
不貞行為 | 100万円~500万円 |
DV | 50万円~500万円 |
悪意の遺棄 | 50万円~300万円 |
性交渉の拒否 | 100万円~300万円 |
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不妊治療は離婚の慰謝料請求で有利な事情となる?
相手が不倫など離婚の原因となる行為(有責行為)をした場合、相手方の配偶者(有責配偶者)に対して、慰謝料を請求することが可能です。
ただし、有責行為の時点で、すでに夫婦関係が破綻していた場合は、慰謝料請求の対象外になる可能性があります。
そのため、慰謝料請求をする側は、不貞行為の時点では、まだ夫婦関係が破綻していなかったことを主張・立証する必要があります。
この点で、不妊治療をしていたことは、慰謝料請求をする側にとって有利な事情となるケースがあります。
関連する判例
- 夫婦で不妊治療を受けていたことが、夫婦関係が破綻していなかったことを裏付ける事情として認定された(東京地判平成30年5月11日 東京地方裁判所平成29年(ワ)第25585号)。
- 妻にかくれて多額の借金をした夫が、夫婦喧嘩の際、不妊治療について付言しながら離婚を切り出したことで夫婦関係の破綻が決定づけられた。裁判所は、元妻から元夫への離婚慰謝料80万円の支払いを命じました(東京地判令和元年5月24日 東京地方裁判所平成30年(ワ)第19053号)。
重要なのは、以下の2点になります。
不妊治療と慰謝料請求で重要なポイント
- 不妊治療に取り組んでいたことは、夫婦関係が破綻していなかったことを裏付ける事情になりうる。
- その後、相手方が有責行為におよんだ場合、離婚慰謝料の請求が認められる可能性がでてくる。
性的不能を隠して結婚し、慰謝料が認められた判例
夫が妻に自分が性的不能であることを隠して結婚し、慰謝料が認められた判例もあります。
性的不能を隠して結婚し、慰謝料が認められた判例
夫が妻に自分が性的に不能であることを隠して婚姻し、婚姻後も性交渉がなく婚姻関係が破綻した事案では、妻の被った精神的苦痛に対する慰謝料として200万円の支払いが命じられました(京都地判昭62.5.12)。
この裁判例では、自己に不利な事情をあえて伝えないのは無理からぬこととはいえ、「告知されなかった結婚の条件が、婚姻の決意を左右すべき重要な事実であり、その事実を告知することによって婚姻できなくなるであろうことが予想される場合には、その不告知は、信義則上違法の評価を受け、不法行為責任を肯定すベき場合がありうる」と判示しました。
その上で、性的不能は、子どもをもうけることができないという重要な結果に直結するから、この事実を告知しないということは不法行為に当たると判断しました。そして、性的不能を隠していた側に、離婚慰謝料200万円の支払いが命じられました。
この裁判例の考え方からすると、不妊原因があることを自覚しながら、不妊の事実を隠して婚姻し、その後、婚姻関係が破綻した場合、慰謝料請求の可能性があるかもしれません。
一方、結婚前に自覚していなかった不妊について、結婚後に判明した場合、不妊治療を義務づけることはできず、不妊治療を拒否されたことをもって離婚や離婚慰謝料の請求をするのは、難しい傾向があるといえます。
不妊で離婚を考える前に
不妊で離婚を迷っている場合はカウンセリングを受ける
「不妊で夫婦の関係がうまくいっていないものの、離婚することについて悩んでいる」という場合は、離婚カウンセラーなどの第三者に話を聞いてもらうのもよいでしょう。
場合によっては、関係を修復できたり、次にどのような行動を取ればよいかがわかったりすることもあると思います。
とくに不妊に関する問題は、デリケートな問題といえます。夫婦で抱え込まず、外部に相談してみることをおすすめします。
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離婚を考えている場合は別居してみる
不妊を理由に離婚したいと思ったものの、法定離婚原因に当たる事情がないという方は、別居をしてみるのも一つの方法です。
別居することでお互いに冷静になり、もう一度夫婦として生活を送ろうというきっかけになる場合もあります。
他方で、別居したことで離婚の決意が固まる方もいらっしゃるでしょう。
その場合は、離婚後の暮らしを具体的に考え、別居中から仕事やお金について着実に準備しておく必要があります。
実務では、夫婦双方の有責性(婚姻関係が破綻した責任の程度)が同じ場合は、3~4年の別居期間で裁判離婚が認められるケースが多いです。
婚姻期間が短く、相手方の有責性の方が高く、未成熟子がいない場合は、さらに短い別居期間でも離婚が認められる可能性があります。
未成熟子とは、成人年齢に達しているかどうかに関係なく、社会的・経済的に自立していない子どもを意味します。
なお、別居した場合、配偶者の収入の方が高ければ、婚姻費用(夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用)の請求が可能です。
婚姻費用は、請求時から支払義務が生じるため、別居後はできる限り早めに請求するようにしましょう。
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離婚原因の証拠を集めておく
「いろいろ手を尽くしたけれど、やはり離婚したい」という方は、不妊以外の離婚原因についての証拠を集めることが重要です。証拠を集めることができれば、慰謝料請求も認められやすくなるでしょう。
不妊や不妊に関する離婚原因の証拠には、以下のようなものがあります。
不妊や不妊に関する離婚原因の証拠
- 夫婦の生活スケジュールがわかる表
- 妊活中のセックスレスで悩んでいることを記した日記やメール
- 不妊や不妊治療、妊活について夫婦で話したときの録音
- 不妊治療やEDの治療履歴・通院履歴・診断書
- 不妊治療やED治療をすすめたときの録音、会話、反応を記した日記 など
「妊活に非協力的な夫が、実は不貞行為に及んでいた」というケースもあります。不貞行為を示すのに重要な証拠としては、以下のようなものがあります。
不貞行為を証明するのに有効な証拠
- 不貞行為を撮影した写真や動画
- 肉体関係があったと推測できるSNSやLINE
- 浮気中の会話の録音データ
- 浮気中に行ったお店の領収書
- 身に覚えのない避妊具や性交渉に使う道具
- 浮気相手の家に行っているという履歴がわかるもの
- 浮気相手と関係のある手紙やプレゼント
- 浮気をしたと認める自認書
- 浮気についての第三者の証言
- 探偵事務所の調査報告書 など
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夫から不妊を理由に離婚を突き付けられたら?
不妊の原因がこちら側(妻側)にあり、夫から不妊を理由に離婚するよういわれることがあるかもしれません。
「妻の不妊」「男性不妊」のみを理由に、離婚裁判で離婚が認められる可能性は低いです。そのため、離婚したくない場合は、離婚を拒否する立場をとることが重要になります。
ただし、不妊治療をしていたり、真剣に不妊について悩んでいたりするときにパートナーから「別れよう」と言われてしまうと、「この先もパートナーと一緒にいるのが辛い」と思うのも無理はありません。
相手の発言がモラハラに該当する可能性もありますので、場合によっては離婚を考えるのも一つの手です。
不妊による離婚を検討中の方は弁護士に相談!
不妊は非常にデリケートな問題です。そのため、不妊を理由に離婚したい場合、当事者のみの話し合いでは感情的対立が激化し、離婚問題が長期化してしまうおそれがあります。
そのような場合、専門的知識を有する第三者である、弁護士を通じて交渉するのが有用です。
弁護士は、まずはご相談者様のご事情を丁寧にお聴きします。その上で、不妊以外に離婚理由がないか検討します。
不妊をきっかけに、相手方の不貞、DV、モラハラなどの問題が生じているケースは少なくありません。
弁護士は、ご相談者様にとってできる限り有利な離婚条件にできるよう、相手方と交渉します。離婚調停や離婚訴訟など裁判所を介した手続きも、弁護士にお任せください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了