不妊による離婚は可能?離婚の仕方や慰謝料請求のポイントは?
- 不妊は離婚の理由になる?
- 不妊による離婚の仕方は?
- 不妊で離婚した場合の慰謝料はいくら?
不妊や不妊治療がきっかけで、離婚を考える夫婦もいます。不妊をきっかけに夫婦関係が悪化してしまったためです。
そのような方に向けて、この記事では、不妊を理由に離婚できるか、慰謝料請求できるかなど、不妊と離婚の問題について分かりやすく解説します。
不妊を理由とする離婚問題に直面しておられる方は、今大変お辛い状況だと思います。どうぞ専門家や周囲の方を頼り、法的な問題についてはいつでも弁護士にご相談ください。
不妊による離婚は可能?
不妊による離婚とは?
不妊や不妊治療による考え方の違いで、話し合いの末、離婚する夫婦もいます。
また、不妊や不妊治療がきっかけとなり、派生して、夫婦間で様々な問題が生じることとなり、裁判離婚に至る夫婦もいるでしょう。
不妊が離婚で問題になる場合、以下のようなケースがあるでしょう。
不妊による離婚
- 夫が妊活に非協力で、しだいに不仲になり、夫婦関係が冷め切った。
- 配偶者が不妊治療に非協力的。子供を授かりたいので離婚したい。
- 妊活中に旦那が浮気。不倫相手が妊娠し、離婚を切り出された。
etc.
不妊で離婚できるかは離婚方法による?
不妊を理由に離婚できるかどうかは、離婚方法によります。
離婚には、大きく分けて、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚の3つがあります。
下の図をご覧ください。
不妊がきっかけで離婚する方法
⑴協議離婚
協議離婚とは、夫婦が話し合い、離婚届を提出し、受理されることで離婚を成立させる方法です。
協議離婚は、離婚の原因を問わず、夫婦が離婚に合意すれば離婚することができます。
つまり、夫婦で離婚について合意できたのであれば、不妊を理由に協議離婚することは可能です。不妊治療を拒否された場合も、離婚に合意できれば、離婚することができます。
協議離婚する場合、財産分与などの重要な取り決めについては、公正証書にまとめておくのが安心です。
財産分与とは?
財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を、離婚する際に分けること。
将来不払いがあったときに、すぐに強制執行できるよう強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておくと良いでしょう。
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⑵調停離婚
調停離婚の場合も、協議離婚同様、夫婦が合意すれば、離婚原因を問わず調停離婚が成立します。
通常、夫婦での話し合いがまとまらず協議離婚ができない場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
離婚調停では、男女各1名ずつの調停委員が、当事者双方から事情を聴きます。調停委員は、一方の主張を相手方に伝え、お互いに合意できる結論を調整していきます。
ただし、離婚調停を申立てたからといって、離婚だけが唯一の結論になるわけではありません。
調停委員を通し、お互いに本心を伝え合う中で、「一度別居して冷静になる期間を置く」「もう一度円満な家庭生活を送れるよう同居を続ける」という合意に至るケースもあります。
離婚あるいは、夫婦関係の修復をめざすという2つの選択肢があるわけですが、そのいずれについても合意に至らなかった場合は、調停は不成立になり終了します。
調停不成立の場合に、どうしても離婚をしたいときは、再度、話し合いによる協議離婚をめざすか、離婚訴訟の提起を検討することになります。
ただし、次の項目で述べるように、裁判離婚には条件があります。
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⑶不妊のみを理由に裁判離婚はできない
協議離婚ができず、離婚調停も不成立になった場合、離婚訴訟を提起するという選択肢もあります。
裁判離婚とは、離婚訴訟を提起して、裁判で離婚をする方法です。
離婚訴訟を提起した原告の請求が認められれば、相手が離婚に同意にしなくても、強制的に離婚が成立するのが、裁判離婚です。
ただし、不妊のみを理由に、裁判離婚することは難しいものです。
裁判離婚が認められるためには、法律上の離婚原因(法定離婚原因)が存在しなければなりません。
法定離婚原因は、以下の5つです。
法定離婚原因(民法770条1項)
- 1号:不貞行為(浮気、不倫)
- 2号:悪意の遺棄(一方的に家出した上、生活費を渡さないなど)
- 3号:3年以上の生死不明
- 4号:強度の精神病
- 5号:婚姻を継続し難い重大な事由
不妊は、特別の事情がない限り、上記5つの法定離婚原因のいずれにも当てはまりません。
したがって、不妊のみを理由に裁判離婚することはできません。
もっとも、不妊がきっかけとなり夫婦間で様々なトラブルが生じるケースがあります。
そのような場合、具体的事情によっては裁判離婚できる可能性があります。
次の項目で、詳しく見ていきましょう。
⑷不妊以外に法定離婚原因がある場合、裁判離婚が可能
相手方配偶者が離婚に合意してくれなくても、裁判離婚できるケースもあります。
裁判離婚できる可能性があるケースは、法定離婚原因があると認められる場合です。
不妊をきっかけに起こり得る問題として、考えられる法定離婚原因のあたる事情としては、以下の①から④があります。
不妊をきっかけに起こる問題(一例)
①不貞行為
②DV・モラハラ
③長期間の別居
④セックスレス
当初は夫婦で協力して妊活し不妊治療を行っていたものの、中々妊娠に至らず、夫婦関係が悪化してしまう場合もよくあるものです。
夫婦関係が悪化すると、そこから派生して夫婦間に様々なトラブルが生じる場合があり、これらの問題が生じてしまうケースがあります。
①不貞行為
不貞行為は、民法770条1項1号の法定離婚原因に当たります。
メールやLINEのやりとりだけでなく、配偶者と不倫相手がホテルに長時間滞在していることがわかる写真などの証拠があると、裁判で有利に働きます。
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②DV、モラハラ
DVやモラハラは、同条項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当します。
録音・録画、診断書、警察などへの相談記録があると、離婚に際して有力な証拠になります。
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③長期間の別居
別居が長期にわたるほど、同条項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められやすくなります。
実務では、3、4年程度の別居期間があると離婚が認められる可能性が高くなります。
④セックスレス
婚姻関係において、性関係は重要な要素であるため、性交渉が長期間ない場合、婚姻関係が破綻していると認められやすくなります。
性交することができるにもかかわらず、具体的な理由のないまま性交渉を拒否し続けているケースも、同様に裁判離婚できる可能性があります。
不妊治療の途中から相手方が協力的でなくなり、性交渉を拒否するようになるケースも、この類型に当てはまり、裁判離婚できる可能性があります。
裁判例の中には、入籍後約5か月内に2~3回と性交渉の回数が極端に少なく、そのうち妻との性交渉を拒否し、ポルノビデオを見ながら自慰行為をするようになったなどの夫の行為が、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして、妻からの離婚請求が認められた裁判例があります(福岡高判平5・3・18)。
また、婚姻に際し妻に自分が性交不能であることを伝えず、同居から別居するまでの約3年半の間、性交渉がなかった事案で、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断し、妻からの離婚請求が認められた裁判例もあります(京都地判昭62・5・12)。
そのため、自分に不妊原因があると自覚しながらこれを告げず婚姻して、婚姻後も性交渉をもたない場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し、裁判離婚できる可能性があります。
結論は具体的事情によって変わりますので、お悩みの方は、ぜひ一度弁護士に直接相談してみることをおすすめいたします。
⑸合意や法定離婚原因がない場合、まずは別居を検討
不妊を理由に離婚したいと思ったものの、法定離婚原因に当たる事情がない方は、別居をしてみるのも一つの方法です。
別居することでお互いに冷静になり、もう一度夫婦として生活を送ろうというきっかけになる場合もあります。
他方で、別居したことで離婚の決意が固まる方もいらっしゃるでしょう。
その場合は、離婚後の暮らしを具体的に考え、別居中から仕事やお金について着実に準備しておく必要があります。
実務では、夫婦双方の有責性(婚姻関係が破綻した責任の程度)が同じ場合は、3、4年の別居期間で裁判離婚が認められるケースが多いです。
婚姻期間が短く、相手方の有責性の方が高く、未成熟子がいない場合は、さらに短い別居期間でも離婚が認められる可能性があります。
未成熟子とは、成人年齢に達しているかどうかに関係なく、社会的・経済的に自立していない子どもを意味します。
なお、別居した場合、配偶者の収入の方が高ければ、婚姻費用の請求が可能です。
婚姻費用は、請求時から支払義務が生じるため、別居後はできる限り早めに請求するようにしましょう。
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不妊で離婚慰謝料は請求できる?金額はいくら?
不妊を理由とした慰謝料請求はできない?
基本的には、不妊を理由とした慰謝料請求は認められ難いものです。
不妊を理由に離婚を考えている場合、相手方へ慰謝料請求したい方もいらっしゃるでしょう。
しかし、不妊のみを理由に相手方へ慰謝料請求することは、特別の事情がない限り、できません。
慰謝料請求できるのは、相手方が主な離婚原因をつくった場合、すなわち相手方が有責配偶者である場合に限られるからです。
女性不妊であれ、男性不妊であれ、不妊について本人に責任はありません。
したがって、たとえ相手方に不妊原因があるとしても、そのことのみを理由に慰謝料請求はできないのです。
不妊以外の理由もあれば慰謝料請求可能?
不妊とは別に、相手方の違法行為があれば慰謝料請求できます。
例えば、以下のような場合は慰謝料請求ができる可能性があります。
離婚と慰謝料請求
- 相手方が不貞行為をした(不貞相手にも慰謝料請求できる)
- 相手方が暴力を振るったり、モラハラをするようになった
- 相手方が生活費を渡さなくなった(悪意の遺棄)
- 相手方が性交渉を拒否し、セックスレス状態が長期化した
etc.
離婚慰謝料の相場金額は50万~500万円?
慰謝料を請求する理由により、慰謝料金額は異なります。
慰謝料の請求金額の相場は、以下のとおりです。
慰謝料請求の理由 | 慰謝料金額の相場 |
---|---|
不貞行為 | 100万円~500万円 |
DV | 50万円~500万円 |
悪意の遺棄 | 50万円~300万円 |
性交渉の拒否 | 100万円~300万円 |
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不妊治療は離婚の慰謝料請求で有利な事情となる?
不倫など離婚の原因となる行為(有責行為)をした相手方配偶者(有責配偶者)に対して、慰謝料を請求することが可能です。
ただし、有責行為の時点で、すでに夫婦関係が破綻していた場合は、慰謝料請求の対象外になる可能性があります。
そのため、慰謝料請求をする側は、不貞行為の時点では、まだ夫婦関係が破綻していなかったことを主張・立証する必要があります。
この点で、不妊治療をしていたことは、慰謝料請求をする側にとって有利な事情となるケースがあります。
実際に、裁判では、夫婦で不妊治療を受けていたことは、夫婦関係が破綻していなかったことを裏付ける事情として認定されています(東京地判平成30年5月11日 東京地方裁判所平成29年(ワ)第25585号)。
また、妻にかくれて多額の借金をした夫が、夫婦喧嘩の際、不妊治療について付言しながら離婚を切り出したことで夫婦関係の破綻が決定づけられた事案もあります。
こちらの事案では、裁判所は、元妻から元夫への離婚慰謝料80万円の支払いを命じました(東京地判令和元年5月24日 東京地方裁判所平成30年(ワ)第19053号)。
point
不妊治療に取り組んでいたことは、夫婦関係が破綻していなかったことを裏付ける事情になりうる。
その後、相手方が有責行為におよんだ場合、離婚慰謝料の請求が可能性がでてくる。
性的不能を隠していた場合に慰謝料200万円の支払いが命じられた事例とは…
夫が妻に自分が性的に不能であることを隠して婚姻し、婚姻後も性交渉がなく婚姻関係が破綻した事案(京都地判昭62.5.12)では、妻の被った精神的苦痛に対する慰謝料として200万円の支払いが命じられました。
この裁判例では、自己に不利な事情をあえて伝えないのは無理からぬこととはいえ、「告知されなかった結婚の条件が、婚姻の決意を左右すべき重要な事実であり、その事実を告知することによって婚姻できなくなるであろうことが予想される場合には、その不告知は、信義則上違法の評価を受け、不法行為責任を肯定すベき場合がありうる」と判示しました。
その上で、性的不能は、子どもをもうけることができないという重要な結果に直結するから、この事実を告知しないということは不法行為に当たると判断しました。そして、性的不能を隠していた側に、離婚慰謝料200万円の支払いが命じられました。
この裁判例の考え方からすると、不妊原因があることを自覚しながら、不妊の事実を隠して婚姻し、その後、婚姻関係が破綻した場合、慰謝料請求の可能性があるかもしれません。
一方、結婚前に自覚していなかった不妊について、結婚後に判明した場合、不妊治療を義務づけることはできず、不妊治療を拒否されたことをもって離婚や離婚慰謝料の請求をするのは、難しい傾向があるといえます。
不妊がきっかけの離婚に向けて
不妊による離婚に向けた準備とは?
不妊による離婚に向けた準備としては、夫婦で冷静に話し合いができる環境調整や、不妊以外の離婚原因(民法770条1項各号)についての証拠収集などが必要です。
不妊により子供を授かることができないことについて、夫婦で冷静な話し合いができるように、話し合いの場所や、離婚の切り出し方を考えましょう。
夫婦二人きりでの話し合いが難しい場合も多いので、弁護士を仲介させたり、離婚調停を利用したりなどの方法もご検討なさってみてください。
また、裁判所の手続きを利用した離婚を視野にいれつつ、不妊以外の離婚原因を洗い出し、それに関する証拠収集も進めておくべきです。
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不妊による離婚を検討中の方は弁護士に相談!
不妊は非常にデリケートな問題です。そのため、不妊を理由に離婚したい場合、当事者のみの話し合いでは感情的対立が激化し、離婚問題が長期化してしまうおそれがあります。
そのような場合、専門的知識を有する第三者である、弁護士を通じて交渉するのが有用です。
弁護士は、まずはご相談者様のご事情を丁寧にお聴きします。その上で、不妊以外に離婚理由がないか検討します。
不妊をきっかけに、相手方の不貞、DV、モラハラなどの問題が生じているケースは少なくありません。
弁護士は、ご相談者様にとってできる限り有利な離婚条件にできるよう、相手方と交渉します。離婚調停や離婚訴訟など裁判所を介した手続きも、弁護士にお任せください。
弁護士は、ご相談者様のお辛い心情に十分配慮しながら、人生の再出発をサポートします。
お一人で悩まず、まずは無料相談を利用していつでも弁護士にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
次の項目で、それぞれの離婚の仕方について、確認していきましょう。