ネットに顔を晒された!肖像権侵害で顔写真の削除や晒し犯の特定はできる?

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顔を晒されたら

ネットに顔を晒されていることを知ってしまうと、恐怖や不快感を感じるものです。

あるいは勝手に顔写真を使われてなりすましをされたり、写真からさらなる個人情報を特定されたりと、新たなトラブルに巻き込まれる可能性があります。

ネットに他人の顔を晒すことや顔写真を勝手に使うことは、人の権利を侵害するものです。しかし、それが犯罪行為かどうかは個別の判断になります。

もし、肖像権の侵害にあたる投稿をされた場合は、事態の鎮静化と拡散を防ぐためにも、法律事務所へ対処法を相談されることをおすすめします。

ネットに顔を晒されたら肖像権侵害といえる?

ネットに顔を晒されることは肖像権侵害にあたる可能性があります。民法上の不法行為として賠償請求が可能です。ただし犯罪行為かどうかは内容によります。

まずは肖像権について理解しておきましょう。

肖像権とはどんな権利?

肖像権は自分の顔や姿態をみだりに「撮影」や「公表」などされたりしない権利です。肖像権を保障する明文の規定はありませんが、実質的に判例によってその権利性が認められています。

「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するものというべきである。」

判例(京都府学連事件)

肖像権にはプライバシー権とパブリシティ権の2つがあります。プライバシー権とは人格権のことで、個人情報や平穏な私生活を守るための権利です。一般の方の多くは、プライバシー権の侵害が問題となります。

パブリシティ権とは肖像から発生する財産権のことです。有名人の顔を勝手に使って商品を売るなど、その有名人が持つ経済的価値を侵害されたとき、パブリシティ権侵害が問題になります。

肖像権侵害についての理解を深めたい方は、よくわかる解説記事『肖像権とは?|肖像権侵害の基準や対処法』もあわせてお読みください。

肖像権を侵害すると犯罪?

刑法上、肖像権を侵害すると犯罪になるという規定はありません。したがって、肖像権を侵害しても通常犯罪とはなりません。

しかし、肖像権侵害が原則として刑法上犯罪とならなくても、肖像権を侵害した行為は民事上の不法行為(民法709条)となる可能性があります。これを根拠にして、顔写真の削除や損害賠償請求などを行える場合があります。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法709条

名誉毀損罪に該当する可能性もあり

肖像権侵害行為の内容によっては、名誉毀損罪に該当する可能性もあります。顔写真とともに、人の社会的評価を低下させるような事実を公然と書き込んだ場合、犯罪行為となる可能性もあるのです。

例えば、Aさんの顔写真を添付し「Aさんは前科がある」とネット上で書き込んだ場合はどうでしょう。顔写真をネット上に書き込んだ点について肖像権侵害があります。さらに「前科がある」という事実を摘示していることから、Aさんの社会的評価を害し、名誉毀損罪に該当する可能性があります。

名誉毀損罪についてくわしく知りたい方は、関連記事をお読みください。

顔写真の晒しと肖像権侵害の判断基準

肖像権に関しては法律で明文化されていないため、肖像権侵害に該当する基準というのは明確には定められていません。

しかし、被撮影者の受忍限度内かという観点から、主に以下の点を考慮する形になります。

肖像権侵害の基準

個人(被写体)が特定可能か
拡散性が高いか
撮影場所がどこか
撮影、公開許可の有無

顔写真の晒しが肖像権侵害にあたるのかを判断する基準とともに、事例を検討していきます。

顔写真の晒しで肖像権侵害が認められやすい例

顔写真の晒しによる肖像権侵害は、「顔写真が誰なのか明確にわかるもの」「誰もがみられる場所で晒されたり、使われたりしたもの」「私的空間で撮影されたもの」「無断で撮影されて使用されたもの」において認められる可能性があります。

以下のような画像は肖像権侵害が認められやすく、投稿も削除されやすいといえます。

  • 顔がはっきり映っている写真(モザイクなどの加工なし)
  • インターネット掲示板やSNSなど公開の場
  • 自宅や病院などの私的な空間にいる様子を撮影・公開された
  • 撮影と公開の許可を出していない

許可の範囲とは?

被撮影者の同意があれば通常、肖像権侵害になりません。もっとも、ネット上に適法に顔写真等をアップするには「撮影すること」に加え「ネット上にアップすること」についても同意が必要です。

顔写真の晒しで肖像権侵害が認められにくい例

すべての顔画像がスムーズに削除されるわけではありません。次のようなものは肖像権侵害が認められにくいです。

  • 人物特定がむずかしい(はっきり映っていない、モザイクで隠されている、大勢映っている)
  • DMでのやり取り(非公開の場)
  • 公道や駅、イベント会場など、多くの人が出入りする場所での撮影
  • 撮影と公開の許可を出した

人物の特定がむずかしいものとしては、一部しか映っていないものや、加工によって特定が困難なもの、大勢で映っている集合写真などがあげられます。

またDMでのやり取りは公の場ではなく1:1の場であると考えられるので、権利侵害が認められる可能性は低いでしょう。

もっとも、ご自身で判断する前に弁護士に見解を聞いておくことをおすすめします。ネット上のトラブルにくわしい弁護士であれば、当該写真の投稿の前後関係や、晒されたスレッドなどから総合的に判断可能です。

弁護士への相談を検討している方は、関連記事『ネットに強い弁護士の選び方とメリット!ネットやサイバー犯罪にくわしい弁護士とは?』も参考にしてください。

ネットに顔を晒されたときの対処法とは?

ネットに顔を晒されたときの対処方法には、投稿の削除、投稿者の特定と賠償請求、被害届や告訴状の提出があります。もっとも、肖像権侵害をはじめとした権利侵害が認められた場合に限ります。

顔を晒されたときの対処法

  • 投稿の削除を請求する
  • 投稿者の特定と賠償請求
  • 被害届や告訴状の提出

投稿の削除を請求する

肖像権侵害を根拠に、顔写真等の投稿を削除請求できる場合があります。ただし投稿が削除されるには、肖像権の侵害基準を満たしていることが必要です。

勝手に使われた顔写真の削除方法は、(1)サイトに削除を依頼する方法(2)裁判所の仮処分により削除を命令してもらう方法の2つがあります。

サイトに削除を依頼する方法

ネットに顔を晒された場合には、そのサイトに対して削除を依頼しましょう。ただし削除を依頼する方法はサイトごとに異なるので、その手順はしっかり確認してください。

削除依頼をする際には、そのサイトの利用規約のどの部分に違反しているのか、どういった被害を受けているのかを明確に記載しましょう。

サイトに削除を依頼する方法については、下記関連記事を参考にしてください。

裁判所の仮処分により削除を命令してもらう方法

サイトに依頼をしても削除に応じてもらえないときには、裁判所に削除の仮処分を申し立てることも検討しましょう。申立てが認められれば、裁判所が投稿の削除を命令してくれます。

仮処分の流れ

仮処分の流れは以下の通り、まず仮処分申立て書を裁判所に提出することがスタートです。

  • 仮処分申立書を裁判所に提出する
  • 裁判所で内容が審理される
  • 仮処分に必要な担保金を納める
  • 削除に関する仮処分命令が発令される
  • 投稿が削除される

なお、仮処分は裁判所の法的手続きのひとつになるため、書類の作成や証拠の準備に念入りに取り組むべきです。

顔写真を勝手に使われたことをきちんと説明し、どういった権利侵害にあたるのかという法的問題として主張しなくてはなりません。

仮処分による顔写真削除に踏み切りたい方は、一度弁護士に相談しましょう。削除される見通しのほか、仮処分にかかる費用、弁護士費用などを確かめておくことが大切です。

裁判所へ削除を求める仮処分を申立てたいと考えている人は、くわしい解説記事『削除請求の仮処分申立てとは?ネット上の誹謗中傷や名誉毀損への法的手続き』もお役立てください。

投稿者の特定と損害賠償請求

ネットに顔を晒されたことによる肖像権侵害は民法上の不法行為(民法709条)にあたり、損害賠償請求をできる場合があります。ただし、投稿者に損害賠償請求をするには投稿者の特定が必要です。

肖像権侵害という権利侵害が認められた場合には、顔写真を勝手に投稿した人物の特定も実現できるでしょう。

投稿者を特定する方法としては、「発信者情報開示請求」の訴訟、もしくは近年新設された「発信者情報開示命令」の利用も可能です。

発信者情報開示請求/発信者情報開示命令

投稿者を特定できた場合には、肖像権侵害による慰謝料などの損害賠償請求を進めていきます。

発信者情報開示請求の仕組みや進め方、肖像権侵害の慰謝料相場についてくわしく知りたい方は関連記事をお読みください。

被害届や告訴状の提出

ネットに顔を晒されただけでは「犯罪」といえず、刑事処分を求めることは難しいでしょう。

ただし顔写真とともに「こいつ〇〇(本名)は窃盗の常習者です」などと書かれた場合には、肖像権侵害にくわえて名誉毀損罪に問える可能性があります。名誉毀損罪については刑法で「犯罪」と定められているので、警察へ告訴することで刑事処分を求めることが可能です。

顔写真を晒されたり、勝手に使われたりしただけでは、残念ながら刑事処分を求めることが難しいと判断されるケースもあるでしょう。警察へ届けたいと考えている方は、弁護士に内容を見てもらい、見解を聞いておくことをおすすめします。

ネット上で起こる肖像権侵害の事例

ネット上で起こりやすい肖像権侵害の事例をサイトごとに説明します。

X(旧Twitter)での肖像権侵害

X(旧Twitter)で顔写真を無断でツイートされたなら、肖像権侵害があるといえそうです。

X(旧Twitter)は気軽に投稿できるSNSであることに加え、リポスト機能も付いており、他のSNSと比べても情報が拡散するスピードが速いです。ひとたび情報が拡散してしまうと、その全てを削除することは非常に困難ですので、早急に対応する必要があるでしょう。

X(旧Twitter)における削除依頼方法は『Twitterの誹謗中傷ツイートやアカウント削除依頼方法を弁護士が解説』の記事もご覧ください。

Instagramでの肖像権侵害

Instagramでは顔写真を無断で載せることによる肖像権侵害が目立ちます。

もっともInstagramに自身で掲載している顔写真が無断転載されるケースもあるため、まずはInstagramのプライバシー設定を確認し、自己防衛を図ることが大切です。

Instagramで画像を無断転載された時の対処は『インスタグラムで削除して欲しい投稿やコメント、アカウントへの対処法』の記事も参考になります。

YouTubeでの肖像権侵害

YouTubeでは、個人の顔がわかる動画をアップする行為がよく見られます。個人の顔や姿は、通常、不特定多数の他人に見られたくないものです。そのため、個人が特定できる動画を無断でアップする行為には肖像権侵害があるといえるでしょう。

法的解説も含めたYouTube動画の削除依頼ポイントは、関連記事『YouTube動画の削除依頼方法を弁護士が解説』をご覧ください。

ブログや掲示板での肖像権侵害

ブログや掲示板でも肖像権侵害は見られます。たとえば過去の逮捕記事を顔写真付きでそのまま引用し、記事を書いたりスレッドを立てたりするケースが少なくありません。

これらは肖像権侵害といえますが、逮捕事実には公益性と公共性があるため、顔写真を削除できない場合もあります。 

顔写真の晒しや無断使用に関するQ&A

ネットに顔を晒されたり、勝手に写真を使われたりする迷惑行為に関して、よくある質問にお答えします。

勝手に写真を使われてプロフィール画像にされたら犯罪?

SNSのアカウントのプロフィール画像として勝手に写真を使われることは肖像権侵害にあたる可能性がありますが、それ自体が犯罪とは言えません。

その写真がどういった経緯で入手されたか、そのアカウントがどんな運用をされているかなど個別の事情で判断が必要です。

たとえば、あなたの写真自体が誰にも公開を希望していない私的な画像であったり、あなたや他人を貶めたりする悪質なアカウントであれば、あなたの社会的評価を低下させるものとして権利侵害を訴えることが可能でしょう。

しかし、あなたの写真自体がSNSで誰にでも公開されているもので、そのアカウント自体の運用自体に問題がないと判断されれば、犯罪行為であるとの訴えは難しい可能性があります。

なりすましの被害にあっているという方は関連記事『SNSでのなりすまし被害!削除・特定・刑事告訴などの法的措置はとれる?』にて対処法を解説しています。

顔写真から個人が特定される?

顔写真から個人が特定される可能性はあります。顔はもちろん、背景、服装といった様々な情報を複合させることで、容易に特定可能なケースがあるでしょう。

もしも「顔写真から特定した」などといわれ、身体に危害を加えることを予告されたり、金品を求められたりしている場合、相手の言動は犯罪に該当しうるものです。決して一人で悩まず警察へ被害を相談してください。

顔写真は個人情報といえる?

顔写真は特定の個人を識別できる画像ですので、個人情報保護法上で定められた個人情報にあたります。

そのためご自身のSNSに画像を投稿する際には、ご自身はもちろん、ご友人、家族など「一緒に映っている人」の権利を守ることにも配慮してください。

顔写真の他にも個人情報が晒されたという方は、関連記事『個人情報である実名や電話番号が晒されたらどうする?訴えることはできる?』もあわせてお読みください。

ネットでの肖像権侵害を弁護士に相談するときのポイント

ネット上で肖像権侵害を見つけた場合、どういった権利侵害を訴えることができるのかを見極める必要があります。

サイト側に削除を請求するにせよ、投稿者を特定して賠償請求するにせよ、法的問題として「肖像権侵害による被害」を明確にすることがポイントです。

もっともこうした法的根拠の検討は個人には難しいことが多いため、インターネットトラブルを熟知した弁護士の見解を聞いてみることをおすすめします。

肖像権侵害を理由に損害賠償請求する場合についても同様です。投稿者を特定するには発信者情報開示請求という法的手続きをしなければならず、弁護士の助力が必要となるでしょう。

なお、リベンジポルノについては特に緊急度が高い問題といえます。弁護士への相談のほか、警察への被害申告も視野に入れてください。関連記事『リベンジポルノを削除したい。ネット画像・動画への対処法と削除依頼窓口』もお読みいただき、最適な方法を採りましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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