刑事告訴の方法と告訴費用を解説!ネットトラブル・誹謗中傷を警察に訴えたい

刑事告訴の方法と告訴費用を解説!

ネット上では匿名をいいことにひどい罵詈雑言を書き連ねる人がいます。

犯罪行為といえるのではないか?」「罰を受けてほしい」といった悲しみや憤りを感じることは当然でしょう。

このようにネット上の誹謗中傷を犯罪として訴えたい場合には、刑事告訴という手続きを検討します。

結論から言えば、ネット上の誹謗中傷は内容次第で刑罰の対象となるものがあります。そして誹謗中傷が名誉毀損や侮辱にあたる場合には刑事告訴が必須です。

この記事では刑事告訴に関する基本的な情報から、告訴状の作成方法、名誉毀損罪や侮辱罪における告訴の要点をわかりやすく解説しています。

ネット上の誹謗中傷と刑事告訴に関する基礎知識

刑事告訴とは、犯罪被害者が加害者に対する刑事処分を警察や検察に求める手続きのことです。

ネット上の誹謗中傷においても重要な刑事告訴について、まずは基礎知識を確認していきましょう。

誹謗中傷で刑事告訴が必要な理由

誹謗中傷で問題となりやすい犯罪は、名誉毀損罪や侮辱罪です。この両方は「親告罪」といわれており、被害者が警察に告訴しなければ、検察が起訴できません。

起訴できないということは、裁判を起こすことが出来ないという意味です。裁判が開かれない限り、その人に刑事処分は下されません。

告訴状と被害届のちがい

告訴状と被害届の主なちがいは、提出目的と捜査の義務にあります。

告訴状は犯人に対して処罰を求めるという意志の表示を伴うものですが、被害届は犯罪被害を警察に知らせるものというあつかいです。

捜査の義務についても異なり、告訴状を受理した警察や検察は必ず捜査を開始しなくてはいけません。一方で被害届の場合、受理後の捜査は義務付けられていないのです。

刑事告訴の手続きを進めるやり方

刑事告訴の手続きを始めるためには、まず告訴状の作成が必要です。告訴状に必要な内容をしっかりと満たして作成しましょう。

告訴状が受理されると捜査が開始され、最終的には検察が加害者の起訴・不起訴を決めます。起訴された場合は刑事裁判にて懲役、罰金や科料といった刑罰が決定するのです。

刑事告訴のやり方

  • 告訴状を作成する
  • 警察署に告訴状を提出する
    ※ネット上の誹謗中傷では加害者を特定してから告訴することが事実上多い

告訴状の作成方法と警察への提出、告訴後の流れについてみていきましょう。

告訴状の作成

告訴を円滑に進めるために、告訴状を作成します。告訴状に記載するべき項目は以下の通りです。

告訴状の記載項目

記載項目概要
作成年月日告訴状を作成した年月日
宛先警察署の署長名
告訴人告訴する人の署名捺印、住所、連絡先
被告訴人訴える相手の氏名、住所
告訴理由行為と罪名、処罰を求めることも明記
告訴事実犯罪の詳細(日時、場所、犯罪の経緯)
証拠誹謗中傷のPDFや開示請求資料など

つづいて、告訴状に関して知っておきたい基本情報をお伝えします。

告訴は口頭でもできる?

告訴自体は、告訴状といった書面がなくても口頭で可能です。ただし事前に告訴状を準備することが一般的でしょう。

告訴は誰ができる?

刑事告訴ができる人は、被害者本人、被害者の法定代理人である弁護士や親権者(未成年の場合)に限られます。

仮に被害者本人が亡くなっている場合は、被害者の意に沿う形で、配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹であれば告訴可能です。

被告訴人が分かっていなくてもいい?

相手が特定できなくても、「被告訴人 不詳」として告訴可能です。

もっともネット上の誹謗中傷をはじめ、相手が誰なのかを特定できていない場合の告訴は難しい可能性が高いでしょう。

警察署へ告訴状を提出

告訴状を作成したら、警察署へ提出しましょう。検察庁でも告訴は受理されますが、まず警察で捜査がおこなわれるので、警察へ提出することが多いです。

警察署の指定はなされていませんが、今後の捜査の進捗に応じて対応が必要になることも考慮して、犯罪が起こった場所や最寄りの警察署に提出することをおすすめします。

告訴状に期限はある?

告訴は、告訴内容が親告罪であれば、犯人を知った日から6ヶ月以内でないと受理されません。犯人を知った日とは、ネット上の誹謗中傷の犯人が現実の誰なのかを明らかにできた日のことです。

親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。

刑事訴訟法第二百三十五条

告訴状が受理された後の流れ

告訴状が受理された後の流れを以下に示します。

告訴後から刑事処分決定までの流れ

  • 警察や検察で捜査がおこなわれる
  • 検察が「起訴」か「不起訴」を決める
  • 起訴されたら刑事裁判で刑事処分が決まる
  • 不起訴になったら刑事処分はないが前歴は残る
    (※前歴:警察や検察の捜査を受けた履歴。前科とは異なる。)

このように、告訴状が受理された後には警察や検察での捜査がおこなわれます。加害者が起訴された場合にはほとんど何らかの刑事処分が下され、前科がつく流れです。

刑事告訴にかかる費用はいくら?

刑事告訴の手続きには費用がかかりません。もし告訴状を郵送するなら内容証明で送るため、内容証明郵便料金がかかります。

しかし実際のところ、刑事告訴に必要な告訴状を作成したり、そのあとの加害者対応まで考慮して弁護士に依頼する人が多いでしょう。

またネット上の誹謗中傷を刑事告訴するためには相手の特定が重要です。そのため誹謗中傷の刑事告訴は、特定費用も含めると100万円以上の費用はかかると考えておきましょう。

ひとつずつわけて説明します。

刑事告訴を弁護士に依頼した場合の費用

刑事告訴を弁護士に依頼する場合は、30万円から50万円程度の費用がかかります。ただし、各法律事務所ごとの費用体系があるので、詳細は法律相談時に確認しておいてください。

そのほかにも確認しておくと良いことは次の通りです。

  • 弁護士の受任範囲はどこまで?
    告訴状の作成のみなのか、告訴後の加害者対応も任せられるのか
  • 弁護士費用の内訳には何があるか?
    着手金、成功報酬、実費の意味を確かめておきましょう
  • 弁護士費用はいつ支払うのか?
    事前に支払うのか、事件終了時に支払うのかを確認しましょう

刑事告訴を司法書士や行政書士に依頼した場合の費用

刑事告訴における「告訴状」の作成を、司法書士や行政書士に依頼した場合の費用は数万円程度と考えられます。ただし司法書士や行政書士ごとに費用体系が異なるので、依頼前に必ず確認してください。

警察に提出する告訴状は行政書士、検察庁に提出する告訴状は司法書士に依頼可能です。

刑事告訴のための加害者特定費用もかかる

告訴自体は「相手不詳」としても可能ですが、事実上、相手がどこの誰なのかを特定できていないと難しいです。そこで、匿名の相手を特定するための手続き「発信者情報開示請求」にかかる費用も用意せねばなりません。

発信者情報開示請求は裁判所の手続きですので、裁判所の手続き費用として数万円がかかります。また、その手続きは煩雑なので弁護士に任せるケースも多いです。

発信者情報開示請求による加害者特定から刑事告訴までまとめて弁護士に依頼する場合は、数十万円から100万円以上が必要と考えておきましょう。

発信者情報開示請求にかかる弁護士費用の内訳を知りたい方は、関連記事『発信者情報開示請求の費用相場と内訳は?弁護士費用は相手に請求できる?』を参考にしてください。

刑事告訴にかかる費用のまとめ

刑事告訴にかかる費用について下表にまとめました。なお、くわしい費用は各法律事務所、司法書士、行政書士により異なるため、あくまで目安になります。

刑事告訴にかかる費用

刑事告訴費用
全て自分でおこなう無料
弁護士に告訴を依頼30万円から50万円程度
司法書士や行政書士数万円程度

なお、説明した通り、ネット上の誹謗中傷においては相手方の特定ができていないと、刑事告訴は事実上難しいです。

相手を特定する費用が別途かかる点に注意しておいてください。

誹謗中傷と刑事告訴に関してよくある質問

ネット上の誹謗中傷と刑事告訴に関するよくある質問にお答えします。

誹謗中傷はどんな罪で刑事告訴できる?

誹謗中傷の内容次第ですが、ネット上で問題となりやすいのは名誉毀損罪や侮辱罪です。

名誉毀損罪

名誉毀損は、公然と事実を摘示して人の社会的評価を低下させる(名誉を害する)行為をいいます。

名誉毀損罪の刑罰は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金とされており、刑法230条に定められている通りです。

名誉毀損罪が成立するかどうかのポイントは「事実の摘示」と「同定可能性」といえるでしょう。事実の摘示とは、誹謗中傷の内容に具体的な事実を含んでいることです。

「あほ」「バカ」などの言葉ではなく、「前科がある」「不倫している」などの具体性が求められます。

同定可能性とは、誹謗中傷の対象者と実在する人物が結びつくことです。客観的にみて、誰に対する誹謗中傷なのかがわからないかぎり、権利侵害は認められません。

名誉毀損罪については『名誉毀損とは?成立要件や被害者が行える法的請求の内容がわかる』の記事を読むとさらに理解が深まります。

侮辱罪

侮辱罪は、事実の摘示なく、公然と人を侮辱する犯罪のことです。

侮辱罪の刑罰は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料とされており、刑法231条に定められています。

名誉毀損罪とは違い、具体的な事実を示さずに「あほ」「ばか」「ブス」などとけなす行為が該当するでしょう。

ただし名誉毀損罪と同様に、現実に存在する誰に対して侮辱しているかを特定できないかぎり、権利侵害は認められません。

関連記事『侮辱罪の成立要件は?名誉毀損罪との違いや侮辱罪になる言葉の具体例を紹介』では、侮辱罪の具体例を示してわかりやすく解説していますので、参考にしてください。

行政書士に告訴状作成を任せることはできる?

刑事告訴は行政書士に任せることもできます。ただし弁護士と行政書士では取り扱い範囲が異なるので、被害者として何を求めるかで検討してください。

たとえば、告訴状を作成することは弁護士も行政書士も可能です。しかし、刑事告訴という手続きの助言や、加害者の刑罰の見通しなどの法律相談については、弁護士のみ可能です。

さらに告訴された加害者が被害者に示談を持ち掛けたりしたとき、行政書士では対応ができません。

告訴に関する弁護士と行政書士のちがい

依頼相手刑事告訴の助言告訴状作成加害者対応
弁護士
行政書士××

一方で、告訴状作成の費用については行政書士に依頼するほうが安いというメリットもあります。

刑事事件の被害者に向けては無料の法律相談をおこなう弁護士も多いので、まずは弁護士との無料相談を通して方針を検討すると良いでしょう。

司法書士について

司法書士の業務は、検察庁や裁判所に提出する書類の作成業務です。

刑事告訴は警察署または検察庁に対しておこなうため、検察庁に提出する告訴状の作成であれば司法書士に依頼可能といえます。 

ただし弁護士のように刑事告訴の助言をおこなったり、加害者対応を任せることはできません。

誹謗中傷は民事と刑事のどちらですか?

誹謗中傷の内容によって、民事事件と刑事事件の両方で検討すべきものがあります。誹謗中傷は罪にならないといわれますが、名誉毀損や侮辱罪などの犯罪が成立するケースもあるのです。

刑事事件と民事事件の大まかな違いを以下に示します。

刑事事件と民事事件のちがい

訴える人求めるもの
刑事事件国家権力(検察)刑罰(懲役や罰金など)
民事事件一般の人損害賠償(金銭による補償)

なお、被害者として厳しい処罰を求めるという意見を言うことはできますが、最終的に、加害者に対する刑事処分を決めるのは検察や裁判所です。

またすべてのことが「刑事事件」になるのではなく、法令にて犯罪と定められていなければ刑事罰を負わせることはできません。

たとえば「プライバシー侵害」もネットではしばしば起こっていますが、プライバシー侵害だけでは法令で犯罪と定められておらず、刑事事件としては扱われません。

刑事告訴すれば慰謝料はもらえますか?

民事事件については原則警察が介入しません。そのため誹謗中傷をした人物に対する損害賠償請求については、警察ではなく、ご自身でおこないます。

誹謗中傷による慰謝料の相場や請求の流れは、関連記事『誹謗中傷の慰謝料相場はいくら?損害賠償請求の流れと注意点をおさえよう』をお読みください。

刑事告訴の弁護士費用は誰が支払う?

刑事告訴のためにかかった弁護士費用は、原則として、弁護士に依頼した被害者の負担です。

ただし民事上の請求においても同じ弁護士に依頼した場合、その費用の請求ができる可能性もあります。弁護士との契約範囲も含めて、正式に依頼する前に確認しておきましょう。

告訴状は必ず受理される?

原則として告訴は受理されます。ただし、何らかの理由を付けて告訴状がスムーズに受け付けてもらえないというケースもあるようなので、作成や証拠の準備をしっかりおこないましょう。

被害者自らで告訴状を作成することもできますが、証拠が足りない、犯罪事実がないなどの理由で、告訴が事実上できない可能性もあります。

弁護士に作成を依頼して、しっかりとご自身の被害を訴えていきましょう。

刑事告訴を検討している人はまず弁護士に相談!

ネット上の誹謗中傷を刑事告訴する場合には、投稿者の特定が欠かせません。そして、誹謗中傷の投稿者の特定も簡単なものではなく、裁判所の手続きを利用することになります。

刑事告訴においても、告訴状の作成だけでなく、その後の展開も考えると弁護士のサポートは有効です。

弁護士との法律相談を利用すると、次のような質問も可能です。

  • 書かれた誹謗中傷内容はどんな犯罪といえるのか
  • 誹謗中傷の投稿者を特定できそうか
  • 刑事告訴にどれくらいの弁護士費用がかかるか

無料の法律相談をおこなう法律事務所も多いので、まずは相談から始めてみましょう。

なお、誹謗中傷が書き込まれてから日が経ち過ぎていると、投稿者の特定が困難になる恐れがあります。できるだけ早めに相談に取り掛かってください。

誹謗中傷への対処や投稿者の特定に関するくわしい解説記事もお役立てください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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