名誉毀損の成立要件と慰謝料相場!名誉毀損にならないケースも解説

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名誉毀損の成立要件

名誉毀損とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する(社会的評価を低下させる)行為のことです。犯罪として刑事責任を求めることや(刑法230条)、民法上の不法行為による慰謝料の請求が可能です(民法709条)。

他人の悪口や嘘のうわさを流すといった誹謗中傷行為は、名誉毀損に該当する可能性があります。

本記事では、名誉毀損が成立する要件や、名誉毀損を受けた被害者が加害者に請求できる刑事上や民事上の責任について解説を行います。

名誉毀損の対象となる人が特定されるという同定可能性が必要であること、名誉毀損に該当しない例外的な違法性阻却事由があることなども網羅的に説明するので、最後までお読みいただき、弁護士への相談も検討していきましょう。

名誉毀損の成立要件|名誉毀損で訴えるための条件とは?

名誉毀損で訴えるには、名誉毀損の成立要件をすべて満たしている必要があります。名誉毀損の成立要件は、公然と事実が摘示されていて、名誉を毀損していることが要件です。

名誉毀損の成立要件

  • 公然性:不特定または多数の者によって認識される状態であること
  • 事実摘示性:事実を摘示していること
  • 名誉毀損性:人の社会的評価を低下させるような内容であること

それぞれについて詳しくみていきましょう。

公然性|不特定多数の目にさらされていること

公然性とは、不特定または多数の者によって認識される状態であることをいいます。

具体的には、インターネットやSNS上での投稿や、新聞・雑誌・テレビなどの報道などが該当します。

また、特定の少人数を対象とした場合でも、伝えた相手から不特定の多数人に伝わる可能性がある場合には、公然性が認められるでしょう。

逆に、不特定多数の目にさらされていないと判断された場合には名誉毀損は成立しません。本記事内「名誉毀損における「不特定多数」が認められない場合とは?」の説明もあわせてお読みください。

事実摘示性|具体的な事実が書かれていること

事実摘示性とは、具体的な事実を摘示していることをいいます。書かれている内容が嘘でも、本当のことでも関係ありません。

なお、事実の摘示がなされず、主観的な評価にすぎない場合は侮辱罪が成立する可能性があります。

たとえば、「バカ」「ブス」といった表現については侮辱罪の適用となる可能性があるでしょう。

名誉毀損性|社会的評価を下げる内容であること

名誉毀損性とは、人の社会的評価を低下させるような内容であることです。

具体的には、犯罪行為を行ったと誹謗中傷したり、社会的に評価を低下させるような噂を流したりすることが該当します。

逆に、社会的評価を下げるような内容とまではいえないと判断された場合には、名誉毀損は成立しません。

【重要】ネット上の誹謗中傷は個人特定(同定可能性)も争点

名誉毀損においては、対象である人がどこの誰であるのかが個人特定されている必要があります。

実名こそ書かれていなくても、イニシャルや伏字、源氏名であっても、内容から第三者が個人を容易に特定できるといえるのであれば、同定可能性があると考えられています。

名誉毀損と同定可能性については、関連記事『ハンドルネーム・伏字・源氏名への誹謗中傷で名誉毀損は成立する?』もあわせてお読みください。

名誉毀損の被害で民事責任は問える?

慰謝料請求の根拠と金額(名誉感情の侵害)

名誉毀損は、不法行為に該当するとして、民事上の損害賠償請求の対象にもなります。

民事上においては、「故意または過失によって事実または意見論評を不特定または多数の人に広め、人の社会的評価を低下させた場合」に、名誉毀損に該当するとして、損害賠償請求が可能となるのです。

事実だけでなく、意見や論評であっても該当する点に、刑事上の責任との違いがあります。名誉毀損が不法行為に該当する場合に請求できる民事責任の内容は、慰謝料や名誉を回復させる措置があげられます。

  • 慰謝料:精神的苦痛に対する賠償
  • 名誉を回復させる措置:謝罪広告、取消訂正記事の掲載等

なお、慰謝料の相場は個人の名誉毀損で10万円から50万円程度企業の名誉毀損であれば50万円から100万円程度が相場とされています。

名誉毀損の民事責任について請求するには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 名誉毀損の成立要件が満たされていること
  • 名誉毀損によって損害が発生したこと
  • 損害と加害者の行為との因果関係があること

名誉毀損してきた相手と直接やり取りをすることは大きなストレスになりますので、弁護士を立てて対応を任せることがおすすめです。

損害賠償請求は書き込み者の特定が必要

匿名掲示板の書き込みなどが名誉毀損行為に当たる場合、加害者の特定が困難といえます。

このような場合には、発信者情報開示請求によりプロバイダから発信者情報を得ることで加害者の特定が可能となるでしょう。

名誉毀損に対する民事上の責任に関する請求は、被害者が損害および加害者を知った時から3年、名誉毀損行為が終わってから20年で時効となります。

もっとも発信者情報開示請求に必要なログはおよそ3ヶ月から半年ほどで消えてしまうので、誹謗中傷の投稿がなされた日からただちに対応せねばなりません。

発信者情報開示請求の流れや開示請求にかかる期間については以下の関連記事でくわしく解説していますので、あわせてお読みください。

名誉毀損となる書き込みの削除請求も可能

名誉毀損の被害に遭った場合、ウェブサイト管理者やSNS運営会社に対して、名誉毀損の対象となるコンテンツの削除請求を行うことができます。

名誉毀損の対象となるコンテンツが掲載されているサイトに削除申請のフォームがある場合には、フォームから削除申請を行いましょう。

申請のフォームがない場合には、削除請求の理由を記載した書面を作成して、ウェブサイト管理者またはSNS運営会社に送付を行って下さい。

削除請求を行う際には、以下の点に留意する必要があります。

  • 削除請求の対象となるコンテンツが、名誉毀損に該当することを証拠に基づいて主張する
  • 削除請求を行う理由を、具体的に記載する

ウェブサイト管理者またはSNS運営会社は、削除請求を検討した上で、削除の可否を決定します。

なお、削除請求が認められない場合には、裁判所に対して、削除命令の申立てを行うことも可能です。削除請求を行うことで、名誉毀損の被害を最小限に抑えることができます。

関連記事『ネット誹謗中傷の削除依頼|弁護士が対処方法と相談窓口を紹介』では、削除、書き込みをした人の特定、警察への相談などの相談先をまとめています。参考にしてみてください。

名誉毀損の刑事罰はどうなる?

名誉毀損の刑事罰

名誉毀損罪が認められると、刑法230条により、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処されます。

親告罪であるため告訴が必要

名誉毀損罪は親告罪であるため、被害者が加害者に対して処罰を希望する旨の告訴を行うことが必要です。

告訴は口頭でも可能ですが、書面化して名誉毀損に該当する行為があったことを適切に主張すべきでしょう。

名誉毀損の被害に遭った場合、加害者への刑事罰を希望するのであれば、警察に対して告訴状を提出してください。

時効成立に注意

刑法における名誉毀損罪の公訴時効は3年間です。この3年間とは、名誉毀損行為が終わった時点が起算点となります。

また、名誉毀損罪は親告罪であることから、告訴にも期限があることに注意してください。

具体的には、犯人を知った日から6ヶ月以内に被害者が告訴をしなかった場合には、告訴ができなくなります。

告訴状に記載するべき項目や告訴費用など、刑事告訴のくわしい手続きは関連記事『刑事告訴の方法と告訴費用を解説!ネットトラブル・誹謗中傷を警察に訴えたい』で解説しています。

名誉毀損にならない違法性阻却事由とは?

名誉毀損の要件を満たすものであっても、違法性阻却事由に当てはまる場合は例外扱いを受け、罪に問うことができません

名誉毀損における違法性阻却事由は、事実の公共性、目的の公益性、真実性の証明で、これらすべてを満たすことが求められます。

名誉毀損における違法性阻却事由

  • 事実の公共性
  • 目的の公益性
  • 真実性の証明

こうした要件を満たす場合、社会的評価が低下する事実を不特定または多数の者に伝えたとしても、名誉毀損を根拠とした損害賠償請求や刑事処分を受けません。

事実の公共性

事実の公共性とは、摘示した事実が公共の利害に関する事実であることをいいます。

公務員や政治家など公的な職業についている人に関する事実が該当するでしょう。

また、宗教団体や有名企業の幹部など社会的な影響力が強い地位の人に関する事実も対象となる場合があるのです。

この他に、起訴されていない人の犯罪行為に関する事実については、公共性が認められます(刑法230条の2第2項)。

目的の公益性

目的の公益性とは、事実摘示の目的がもっぱら公益を図るものであることをいいます。

もっぱらとは、主たる目的であることをいい、主たる目的が金銭を得るためや、恨みを晴らすためである場合には該当しません。

公務員または公務員の候補者に関する事実については、公務員としての資質や能力に全く関係のない事実を除いて公共性や公益性が認められます(刑法230条の2第3項)。

真実性の証明

摘示した事実が真実である場合をいいます。

真実である場合とは、摘示した事実の主要・重要な部分について合理的な疑いを入れない程度に真実であることを証明することをいいます。

ただし、真実であれば何でも公開していいというわけではありません。事実の公共性や目的の公益性を満たさない場合は、違法性阻却事由にはならないのです。

たとえば、「〇〇(本名)には前科がある」と述べたとしましょう。その前科が事実であったとしても、一個人の前科情報について公共性や公益性が認められる可能性はあまり高くなく、違法性阻却事由とはならないので、名誉毀損にあたる可能性があります。

違法性阻却事由の判断は弁護士に聞いてみるべき

名誉毀損に問われない例外もありますが、ネット上で一個人の名誉を害することは違法行為に問える可能性が高いです。

名誉を傷つけられたと感じた場合は、まず弁護士に相談してみて、名誉毀損に該当するかの判断をあおいでください。

「違法性阻却事由」が認められれば、発信者情報開示請求は認められません。また、このほかにも開示請求が棄却されてしまうケースは存在します。

関連記事『発信者情報開示請求が通らないケースとは?請求棄却や失敗のパターンを紹介』では、発信者情報開示請求の棄却理由についてくわしく解説しています。

名誉毀損のよくある疑問に回答!

嘘を書かれても名誉毀損で訴えることはできる?

事実の内容が嘘でも、本当でも、名誉毀損の成立要件を満たしていれば名誉毀損に問うことが可能です。

たとえば、「〇〇株式会社に勤めている(実名)には多額の借金がある」とデタラメを書き込まれたとしましょう。

  • 勤務先と実名が書かれていて本人が特定できる
  • 匿名掲示板で誰もが閲覧できる(公然性)
  • 借金があることは名誉を害する(事実の摘示、名誉毀損性)

以上の事より、多額の借金がなくても名誉毀損の成立要件を満たしています。

書かれている内容が全くのデタラメであったとき、それは名誉毀損にはならないのではと勘違いする人もいます。「事実の摘示性」の示す「事実」とは具体性のことであって、内容の真偽は関係ありません。

名誉毀損における「不特定多数」が認められない場合とは?

名誉毀損の成立要件のひとつに、不特定多数に知られる状態であること(公然性)があります。

インターネットの誹謗中傷においては、公然性が認められず、発信者情報開示請求の要件を満たさなかったり、名誉毀損や侮辱罪に問えなかったりするケースがあるので注意が必要です。

具体的には、個人間でやり取りをしたDMやLINEトーク、個人同士のメールが挙げられます。インスタグラムのDMや個人間のLINEトークについては注意してください。

なお、名誉毀損における「多数」は明確に人数が定められているわけではないので、その都度判断を仰ぐことになるでしょう。

名誉毀損罪と侮辱罪は何が違う?

名誉毀損罪と侮辱罪では、事実の摘示の有無が異なります。名誉毀損罪では事実の摘示がなされる必要がありますが、侮辱罪の成立には事実の摘示は必要ありません。

刑事罰の面では、名誉毀損罪のほうがより悪質と考えられているため、重い刑罰が規定されています。

侮辱罪については、関連記事『侮辱罪の成立要件は?名誉毀損罪との違いや侮辱罪になる言葉の具体例を紹介』でくわしく解説していますので、あわせてお読みください。

これって名誉毀損では?と思ったら弁護士に相談

名誉毀損によって被害を受けたと感じた場合には、弁護士へ相談しましょう。

弁護士に相談する場合、以下のようなメリットがあります。

  • そもそも、加害者の行為が名誉毀損に該当するのかどうかがわかる
  • 加害者に刑事罰を負わせたい場合に、告訴状の作成を手伝ってもらえる
  • 適切な金額の損害賠償請求を行ってもらえる
  • 削除請求を適切に行ってもらえる

一人で悩まず、法律の専門家である弁護士に対応策を聞いてみましょう。

関連記事では名誉毀損をされたらどんな対応が取れるのか、その後の流れ、弁護士相談のメリットや相談先選びのポイントを詳しく解説しています。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了