ハンドルネーム・伏字・源氏名への誹謗中傷で名誉毀損は成立する?

ハンドルネーム伏字や源氏名

ハンドルネームや源氏名などいわゆる実名を使わずに活動している人への誹謗中傷や、伏字やイニシャルを用いた侮辱的な投稿は、ネット上で度々見られます。

「本名じゃないから名誉毀損ではない」「伏字で名前は出していないから名誉毀損ではない」などと言い切ることはできません。

たとえハンドルネームや伏字(イニシャル)、源氏名であっても、誹謗中傷の内容によっては名誉毀損罪に問えるケースも存在します。

ただし名誉毀損を主張する際には、それらが特定の人物と結びつくかという同定可能性が重要です。

名誉毀損になりうる条件と同定可能性

名誉毀損になりうる条件

名誉毀損罪が成立するためには、次の要件を満たす必要があります。

  1. 公然と
  2. 事実を摘示し
  3. 人の名誉を毀損する

公然ととは、不特定または多数の人の目に触れる状態をいいます。そのため、インターネット上では誰もがみられる掲示板サイト、SNSなどでの誹謗中傷は「公然性がある」と判断されるでしょう。

事実を摘示するとは、客観的に存在する事実を示すことです。具体的な事実であればよいので、その事実の真偽は問われません。

人の名誉を毀損するとは、その人の社会的評価を低下させることをいいます。そのため、その人の職業や社会的地位、品行などに関する評価を低下させる発言が該当します。

名誉毀損罪の成立要件については関連記事『名誉毀損とは?成立要件や被害者が行える法的請求の内容がわかる』で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。

同定可能性とは

ハンドルネーム・伏字・源氏名への誹謗中傷の場合にはさらに「同定可能性」が問題となるので注意が必要です。

同定可能性とは?

同定可能性とは、「書き込みに出てくる人と現実に存在している人が、他の人が見たときに同一人物だとわかること」を意味します。

書かれた人だからわかるのではなく、客観的にみてわかることがポイントです。

ハンドルネームでの誹謗中傷で名誉毀損が成立する?

ハンドルネームで名誉毀損が成立する条件

ハンドルネームから特定の個人を識別することができる場合には、名誉毀損が成立する可能性があります。

たとえば、本人の職業や所属団体、趣味など、特定の個人に関連する情報を含む場合や、インターネット上においてそのハンドルネームを本人が使用していることが広く知られており、そのハンドルネームと特定の個人を結びつけることができる場合などは、特定可能性があると判断されます。

また、誹謗中傷が広く公開された場でおこなわれていること、社会生活において本人の評価を低下させるようなものかどうかも重要です。本人の信用や名声を傷つけるようなものである場合などは、社会的評価の低下があると判断されます。

一方で、社会的評価を下げるとまでは言えない場合には名誉毀損罪には問えません。

ハンドルネームでも同定可能性があると判断される具体例

ハンドルネームが特定の人物の通称であると広く認知されている場合、ハンドルネームへの誹謗中傷すなわち本人への誹謗中傷と考えられます。

具体的には、芸能人の芸名、作家のペンネーム、会社や団体の代表者などの社会的な影響力を持つ人物のハンドルネームなどがあげられます。

一般人のハンドルネームの同定可能性

一般人の方であっても、実社会で生きる特定の人物とハンドルネームがつながる場合には、名誉毀損になりうる可能性があるでしょう。

たとえばハンドルネームと共に顔出しをしている、団体や会社などの所属を明らかにしている、実社会の友人や知人がフォロワーなどに実在する、ハンドルネームでリアルイベントを開催しているなど、様々な事情が考慮されます。

伏字やイニシャルでの誹謗中傷で名誉毀損が成立する?

伏字やイニシャルでの誹謗中傷でも、その内容次第で名誉毀損は成立する可能性があります。条件としては、名誉毀損罪の成立要件を満たすこと以外にも、書き込みの内容から、伏字やイニシャルが誰のことなのかを判断できることが条件です。

伏字やイニシャルで名誉毀損が成立する条件

伏字やイニシャルであっても、特定の個人と結びつく場合には名誉毀損が認められる可能性があります。たとえば、個人特定につながる固有の情報が併記されている場合です。

また、公然の場で誹謗中傷がおこなわれていることや、周囲からの評価を下げうる内容であることなども名誉毀損罪の成立要件とされています。

伏字やイニシャルで同定可能性があると判断される具体例

伏字やイニシャルであっても、次のようなケースでは本人の特定が可能で、なおかつ名誉権の侵害にあたる内容といえます。

以下に具体例を示します。

  • 大手食品加工C株式会社の人事部長M本はセクハラの常習者だ
  • 大阪の梅田駅前にあるN中学校のテニス部部長Kは万引きしている
  • 焼き肉チェーン〇〇の本店は食中毒をもみ消している

伏字やイニシャルでぼかされていても、隠されていない情報をもとにすると誰のことかを特定できる場合には、名誉毀損といえる可能性があります。

源氏名での誹謗中傷で名誉毀損が成立する?

源氏名での誹謗中傷でも、その内容次第で名誉毀損は成立する可能性があります。名誉毀損罪の成立要件を満たすことのほか、源氏名とある人物が同一であると判断できることが条件です。

源氏名で名誉毀損が成立する条件

源氏名への誹謗中傷も名誉毀損で訴えることは可能です。ただし、源氏名のみで特定の人物と結びつけることは難しいでしょう。

在籍している店舗名や、前後のやり取りなどの周辺情報と源氏名を組み合わせることで、特定の人物への誹謗中傷であると認められる可能性があります。

源氏名で同定可能性があると判断される具体例

源氏名であっても、以下のようなケースでは特定の人物と結びつきができ、名誉毀損罪に問える可能性があります。

以下に具体例を示します。

  • 新宿〇丁目の角にあるキャバクラOの(源氏名)は風俗でも働いている
  • 大阪ミナミのホスクラMのホスト(源氏名)は前科がある

源氏名であっても、併せて書かれている情報からある人物のことを指すことが明らかだと認められるものがあります。

風俗で働いていることや前科があることは、基本的には本人が公表を望んていなかったり、周囲からの評価を下げうるものと判断される可能性があります。

誹謗中傷による名誉毀損への対処法は?

ハンドルネーム・伏字・源氏名であっても、その誹謗中傷の内容次第では名誉毀損として訴えることが可能です。

名誉毀損に対しては民事責任と刑事責任の両方を問うことが出来るので、それぞれ説明します。

相手を特定して損害賠償請求(民事責任を求める法的措置)

誹謗中傷が名誉毀損となる場合には、権利侵害が起こっていることを根拠として、投稿者への損害賠償請求が可能です。

ただし損害賠償請求をするためには投稿者を特定しなくてはなりません。

投稿者を特定するためには、その投稿がなされたサイトやSNS運営者に対して情報の開示を求める方法があります。ただし任意開示依頼に応じる可能性は低いでしょう。

そのため発信者情報開示請求という裁判手続きを利用して特定することになります。

発信者情報開示請求とは何か、どういった手続きになるのかを知りたい方は関連記事もあわせてお読みください。

相手を刑事告訴(刑事責任を求める法的措置)

名誉毀損罪は「親告罪」といって、告訴がなければ刑事処分を決めるための起訴ができません。

告訴自体は相手が特定できていなくても可能ですが、ネット上の名誉毀損については、相手を特定してからの告訴がほとんどです。

発信者情報開示請求で投稿者を特定できたら、6ヶ月以内に告訴状を提出しましょう。

告訴状提出後は、警察や検察で捜査がおこなわれ、投稿者の刑事処分が決まります。

名誉毀損罪の刑罰は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金です。

刑事告訴の手続きや告訴費用については、関連記事『刑事告訴の方法と告訴費用を解説!ネットトラブル・誹謗中傷を警察に訴えたい』で解説しています。告訴状に記載すべき項目など、基本事項からわかりやすく説明しているので参考にしてください。

ハンドルネームや源氏名での権利侵害が認められた判例

発信者情報開示請求が認められた判例

「C」というハンドルネームでSNSを利用したり、あるファンサーバーの管理人をしていた原告が、「ガイジ」という蔑称表現によって名誉感情を傷つけられたこと、「バカ」という不快な表現および攻撃をそそのかすような投稿を受けたことで、発信者情報の開示を求めました。

裁判所は、ハンドルネームの使用年数や、その他に同じハンドルネームを使用していた者が存在しないことなどを踏まえ、ハンドルネームからも原告を特定できると認めたのです。

発信者情報の開示

裁判所はプロバイダに対して、契約者情報である氏名または名称、住所、メールアドレスの開示を命じました。

この判例は東京地方裁判所 令和2年(ワ)第26406号 発信者情報開示請求事件 令和4年2月28日から抜粋しています。

名誉感情の侵害が認められた判例

キャバクラで働く源氏名「▲▲◆◆」が、インターネット上の投稿「◆◆って、相当知恵遅れだろ(笑)」などの投稿によって名誉感情を侵害されて精神的苦痛を被ったとして、慰謝料、投稿者特定のための調査費用および弁護士費用の支払を求めた事案でした。

裁判所は、「相当知恵遅れである」とした書き込みが権利侵害にあたること、同定性があることを認定したのです。

権利侵害の要点

  • 相当にネガティブな内容を含んでいること
  • 既に引退しており少なくとも本記事の投稿当時は一般私人に過ぎないこと
  • 婚姻関係は私生活上の行状に過ぎないこと
  • インターネットに接続する者であれば誰もが自由に閲覧できる匿名掲示板で投稿されたこと
  • 投稿場所は原告の専用スレッドであり、その生活圏に係る「関西」「大阪」のカテゴリーであること

なお、本判例は東京地方裁判所 令和3年(ワ)第9164号 損害賠償請求事件 令和4年3月8日の判例より抜粋しています

ハンドルネーム・伏字・源氏名への誹謗中傷に関するQ&A

ハンドルネーム・伏字・源氏名への誹謗中傷に関してよくある質問をまとめました。

誹謗中傷による名誉毀損の慰謝料はいくら?

名誉毀損の慰謝料相場は、個人であれば10万円から50万円、法人であれば50万円から100万円とされています。

ただし権利侵害の程度がひどい場合や、その他にもプライバシー侵害などが認められた場合には増額される可能性があるでしょう。

名誉毀損で訴えるために必要な証拠は?

ネット上の名誉毀損罪においては、その書き込み自体のスクリーンショットを投稿の日付やURLを含む形で証拠としましょう。

また、掲示板のスレッド内における流れも証拠となる場合があるので、一連の書き込みが連続しているものであると分かるように保存しておいてください。

他のメモに書きうつすのではなく、スクリーンショットやPDFで書き込みそのものを残しましょう。

名誉毀損における証拠の重要性や注意点についてくわしく知りたい方は、関連記事『名誉毀損で訴えるにはどんな証拠がいる?開示請求は必須?』もお役立てください。

ネットカフェからの投稿も特定できる?

どこのネットカフェから投稿されたかは特定できても、具体的にどの客が書き込んだのかを特定できるかどうかは、店の対応次第です。

ネットカフェ側は利用者の情報を持っていますので、そういった情報をもとに特定できるかどうかを確かめる必要があります。

名誉毀損以外で訴えることはできる?

名誉毀損罪の他に問題となりやすい権利侵害として、侮辱罪、プライバシー侵害などがあげられます。

侮辱罪とは、名誉毀損罪とはちがい「事実の摘示」なしに人を侮辱する行為です。「ばか」「ブス」などの容姿をけなす表現も侮辱罪に問える可能性があります。

あるいは顔写真を無断でネット上に公開する行為は、プライバシー侵害の一種である肖像権侵害に該当する可能性があるでしょう。

名誉毀損に該当しない場合でも、被害内容によっては他の権利侵害にあたる場合があります。あるいは名誉毀損の他にも権利侵害があった場合、より被害が深刻なものとして訴えていくべきです。

誹謗中傷が名誉毀損になるのか相談してみよう

誹謗中傷が名誉毀損といえるのかは、法律の知識に詳しい弁護士に問い合わせてみることが重要です。

投稿者の特定と損害賠償請求、刑事告訴などの対処法をとるためには、権利侵害が起こっていることを客観的に認めてもらう必要があります。

さらに、ハンドルネームや伏字、源氏名においては「ある人物と同一であると説明がつくのか」ということが問題視され、名誉毀損に該当するかどうかの判断の難易度は高いです。

関連記事『名誉毀損の被害は弁護士に相談!訴える条件と流れは?相談先選びのポイントも解説』も参考に、名誉毀損に該当するのかを弁護士に確かめるようにしましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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