匿名掲示板での悪口への対処法は?誹謗中傷を名誉毀損で訴えることは可能?

匿名掲示板での悪口

匿名掲示板で悪口が書かれてしまうと、いったい誰が書いたのか、なぜ自分がこんな目に合うのかと不安と悲しみでいっぱいになってしまうものです。

そして家族や友人にも心配をかけてしまい、実生活に影響が出てきてつらい想いをしてしまいます。

結論から言えば、匿名掲示板での悪口には、書き込みの削除、相手の特定と賠償請求、刑事告訴の3つの対処法があります。そして、誹謗中傷の内容次第では名誉毀損で訴えることが可能です。

ただしいずれの方法も、悪口によって被害者の権利侵害が起こっていることを証明しなくてはなりません。

また、相手を訴えるためには、匿名投稿者の特定も必要です。この記事では、匿名掲示板で書かれた悪口への対処法と、名誉毀損で訴えるためにすべきこと、訴訟になった判例を示します。

匿名掲示板で悪口を書かれた場合の対処法

匿名掲示板で悪口(誹謗中傷)が書かれた場合、投稿の削除、投稿者の特定と賠償請求、投稿者の刑事告訴の3つの対処法があります。

それぞれの方法についてくわしくみていきましょう。

掲示板運営会社に削除依頼をする

匿名掲示板で悪口が書き込まれた場合は、まずは掲示板の運営会社に削除依頼をしましょう。掲示板運営会社は、利用規約に違反する書き込みについては削除に応じてくれる可能性があります。

削除依頼の方法は掲示板ごとに異なり、利用規約も様々です。また、どういった権利侵害を訴えるべきなのか悩ましいものでしょう。

悪口の内容しだいでは弁護士に相談し、早急に対応すべきケースがあります。

関連記事『掲示板の削除依頼したい書き込みについて弁護士に相談する方法』では、各掲示板の削除依頼方法や弁護士に相談する方法を解説しているので参考にしてください。

匿名掲示板へ削除を依頼しても削除されないときは?

掲示板運営会社が削除に応じてない場合は、弁護士に相談して、削除命令の仮処分を申し立てることも検討しましょう。

削除命令の仮処分が認められれば、掲示板運営会社は、裁判所の命令に従って、書き込みの削除に応じる見込みです。

なお、削除命令の仮処分を申立てには一定の費用がかかること、裁判所が仮処分申立てを認めるかどうかは事案によることには留意しましょう。

削除を請求するために仮処分申立てを起こしたいと考えている場合は、もっとくわしい解説記事『削除請求の仮処分申立てとは?ネット上の誹謗中傷や名誉毀損への法的手続き』も参考にしてください。

発信者の特定と損害賠償請求をする

匿名掲示板であっても、悪口によって権利侵害が生じている場合には発信者の特定ができる可能性があります。

発信者を特定する方法は、掲示板運営者に情報開示を依頼する方法と、発信者情報開示請求という法的手続きを利用する方法の2パターンです。

もっとも匿名掲示板はその匿名性を売りにしていることや、利用者の情報を慎重に取り扱うこと、表現の自由などを理由に任意開示には応じないことが多いでしょう。

そのため事実上、匿名掲示板での誹謗中傷投稿者を特定するためには発信者情報開示請求手続きを利用することになります。

発信者情報開示請求の流れ

発信者情報開示請求は次の通り、まずサイト管理者に対して「発信者情報開示仮処分」の手続きをとります。

「仮処分」とは裁判の手続きのことですが、正式な裁判を経ていると権利侵害がどんどん深刻になる場合に用いられる緊急の手続きです。

この仮処分申立てが認められたら、サイト管理者は匿名投稿者のIPアドレスなどを開示します。

IPアドレスが開示されたら、プロバイダの特定ができます。プロバイダを特定したら、つづいてプロバイダに対して発信者情報を消去しないように求める仮処分申立てをおこなうのです。

発信者情報は3ヶ月から6ヶ月で失われてしまうので、まずは情報の保全をおこないます。その後、発信者情報開示請求訴訟を提起して、その「保全した情報」を開示するように求める流れです。

発信者情報開示請求

このように、たとえ匿名掲示板であっても掲示板の管理者が保持する情報からプロバイダをたどり、プロバイダに対して法的措置をとることで発信者を特定できます。

なお、発信者情報開示請求とは異なる「発信者情報開示命令」という手続きも選べるようになりました。「発信者情報開示命令」ではこうした一連の流れを一度にまとめて行えるようになっており、被害者の負担軽減が図られています。

掲示板での中傷書き込みに関する開示請求の流れや費用について知りたい方は、以下の関連記事を参考にしてください。

発信者を刑事告訴する

刑事告訴とは、被害者が犯罪被害の事実を警察に報告し、加害者への刑事処分を強く求めることをいいます。

被害届ではなく「告訴」が必要な理由は、誹謗中傷で問題となりやすい名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪だからです。

親告罪とは?

告訴がなければ起訴されない犯罪のこと。

なお、告訴自体は相手が特定できていなくても可能です。しかし、匿名掲示板での誹謗中傷については、相手を特定してから刑事告訴することがほとんどになっています。

刑事告訴は「犯人を知った日」から6ヶ月とされているので、犯人が誰なのかを特定できた日を起算日として6ヶ月以内に告訴しなければ、加害者に刑事罰を負わせることはできません。

刑事告訴のくわしい手続きや費用について知りたい方は、関連記事『刑事告訴の方法と告訴費用を解説!ネットトラブル・誹謗中傷を警察に訴えたい』もあわせてお読みください。

匿名掲示板の誹謗中傷を訴えるためにすべきことは?

匿名の相手を訴えるためには、証拠の保存相手を特定弁護士に相談の3つを行うべきです。

匿名の書き込みも証拠として保存

掲示板に悪口を書かれた場合には、その悪口そのものをスクリーンショットとして保存して証拠をとっておきましょう。なお、証拠をとる際には次の点に注意してください。

  • 投稿された日付や時間がわかるように保存
  • 投稿されたURLがわかるように保存
  • 投稿された掲示板のスレッドがわかるように保存
  • 悪口が続いている場合、その一連の流れやつながりがわかるように保存

また、名誉毀損を主張する場合には「悪口の対象と実在する人物が結びつくこと」という同定可能性が重要です。ネット上の名誉毀損について、同定可能性がないと名誉毀損は成立しません。

ある一つの書き込みだけではわからなくても、一連の流れから合理的に考えて特定できることもあります。証拠にあたりそうなものはすべて保存しておき、弁護士への相談時に見せるようにしてください。

名誉毀損における同定可能性について知りたい方は、関連記事も参考になります。

匿名の相手が誰なのかを特定する

悪口の投稿者を訴えるためには、投稿者が実在する誰なのかを特定する必要があります。前述の通り、刑事告訴自体は匿名相手でもできますが、事実上、特定してから行うことが多いです。

匿名の相手が誰なのかを特定するための「発信者情報開示請求」は裁判所の手続きになるので、様々な書類を用意したり、証拠を集めたりして慎重かつ早急に着手せねばなりません。

匿名掲示板の投稿者を特定するためには、法的手続きにくわしい弁護士に相談し、特定の見通しについて聞いておきましょう。

開示請求の基準については関連記事『開示請求の基準とは?法的措置をとるべき誹謗中傷の例と成功率アップの方法』でもくわしく解説しています。

権利侵害にあたるのかは弁護士に相談する

匿名掲示板で書かれた内容が名誉毀損といえるのか、法的問題として訴えることができるのかの見通しは、法律の専門家である弁護士にたずねましょう。

名誉毀損で訴えるためには、名誉毀損の構成要件を満たす必要があります。

名誉毀損の構成要件
  1. 公然性:不特定または多数の者に認識される状態である
  2. 事実摘示性:具体性のある事実を摘示している
  3. 名誉毀損性:社会的評価を低下させる内容である

ただし、名誉毀損の構成要件を満たしているかどうかを、本人が冷静に判断することは難しいです。

たとえば、事実の摘示性がなく名誉毀損にあてはまらないからといって諦めるのではなく、つづいて侮辱罪を検討するなどの広い視野も、弁護士ならではの発想といえるでしょう。

一方で、公共性・公益性・真実性の3つすべてが認められるとき、「違法性阻却事由」といって名誉毀損が成立しないケースもあります。

名誉毀損が成立しうるのか成立しない場合にはどういった権利侵害を訴えるべきなのかを知るためには、弁護士への相談を検討しましょう。

匿名掲示板での誹謗中傷を訴えた判例を紹介

匿名掲示板での悪口について、名誉毀損やプライバシー侵害などの権利侵害を訴えた判例を紹介します。

判例1.匿名掲示板・SNSでの誹謗中傷で100万円以上の賠償

本判例は、匿名掲示板およびSNSに誹謗中傷が書き込まれたことを訴えるものでした。原告2名の名誉権や静穏に暮らす権利が侵害されたことを認め、1名には167万2,000円、もう1名には508万3,320円の賠償が命じられたのです。

この事案では、原告2名の実名をフルネームで記載しており、つづいて所属する学校名の記載があったことなどから、同定可能性が認定されました。

また、犯罪名を羅列することや犯罪行為をおこなっているとも受け取れる罵詈雑言が並べられたことなどから、誹謗中傷が名誉毀損にあたると判断したのです。

このほか、原告の生命に危害を加える旨を予告して不安をあおった点についても権利侵害を認めました。

本判例は東京地方裁判所 令和3年(ワ)第11706号 損害賠償請求事件 令和4年4月28日より抜粋しています。

判例2.匿名掲示板の悪口はプライバシー侵害と名誉毀損である

本判例は、匿名の掲示板の書き込みによるプライバシー侵害や名誉権侵害を訴えるものでした。裁判所はそうした訴えの一部を認め、100万円を超える賠償金の支払いを命じたのです。

この事案では、原告の実名および顔写真、住民票上の住所や携帯番号が掲載されていました。そのため同定可能性について、大きな争いはありませんでした。

原告は個人事業主として働いているものの、公には個人情報が知られないように営業活動をしてきたと主張し、裁判所においても個人情報の晒しがプライバシー侵害にあたると判断したのです。

また、原告が詐欺師であるような投稿をしたり、趣味が風俗通いと記載したことは、社会的評価を下げるものであり、名誉毀損にあたると判断しました。

本判例は東京地方裁判所 令和2年(ワ)第23232号 損害賠償請求事件 令和3年11月5日より抜粋しています。

匿名掲示板での誹謗中傷・悪口で訴えるなら弁護士に相談

匿名掲示板の悪口も、内容によっては相手を名誉毀損で訴えることができます。

ただし相手を特定することがポイントになり、複雑な法的手続きが必要であること、発信者情報が削除されないうちに取り掛かることなど、様々な難所があるでしょう。

まずは弁護士に相談して、悪口の内容を見てもらってください。そして、法的対処をとるべきなのか、どういった対応策がとれるのかのアドバイスをもらいましょう。

また弁護士費用はかかりますが、弁護士費用体系の説明も聞いておき、必要に応じて依頼を検討していくべきです。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了