ネットで悪口を書かれたら犯罪?開示請求して名誉毀損を訴えることは可能?

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悪口を書かれた!

ネットで悪口を書かれたとき、匿名による悪意におびえたり、デタラメを書かれて苛立ったりと、受け止め方は様々です。

悪口を言ってくるアカウントをブロックしたり、コメントをできないようにしたり、インターネットを見ないようにしたりと一定の自衛は取れるでしょう。

しかし、ネットの悪口の怖いところは、拡散によって広まるのが早かったり、面白おかしく嘘が上書きされていったりとエスカレートしてしまうところにあります。

そのためネットでの悪口を無視することが必ずしも正しいとは言えません。

なによりも一人で悩まないことが大切です。ネットで悪口を書かれたときにどんな訴えができるのか、犯罪にあたるのか、投稿者の特定はできるのかなど様々な疑問についてみていきましょう。

ネット上の悪口に対して訴えることはできる?

ネットの悪口を「訴える」ときには「刑事責任」と「民事責任」について整理が必要です。

刑事責任を問うために訴えるとは、相手に刑事罰を受けさせるということです。もっとも刑事罰を負わせるかどうかを決めるのは個人ではなく、検察や裁判所が判断します。

民事責任を問うために訴えるとは、損害回復の金銭を求めることです。被害者が相手に損害賠償請求をしたり、原告となって裁判を起こしたりする方法があります。民事部分については、警察や検察は関与しません。

刑事責任と民事責任についてもう少しくわしく説明します。

(1)刑事責任を訴える|刑罰を負ってほしい

書かれた悪口が個人の感想や評価にとどまらず、名誉毀損的な内容であったり、誰かの身に危害を与えるような内容である場合には、刑事告訴や被害届の提出に踏み切ることも重要な判断です。

とくに悪口を名誉毀損や侮辱罪に問うためには告訴が必須です。

告訴を受けた警察は、犯人を特定し、呼び出しをして取調べをするか逮捕して身体を拘束します。刑事事件の被疑者とされた者は、最終的には検察官に刑事処分を受ける流れです。

再犯防止を狙うためにも、刑事事件化することも視野にいれることも重要になります。

どういった犯罪行為に問えるのかは本記事内「ネットで悪口を書かれたらどんな犯罪に問える?」をご覧ください。

補足

もっとも告訴自体は加害者を特定できていなくても制度上可能ですが、ネット上の悪口については投稿者を特定してから行うことがほとんどです。

(2)民事責任を訴える|損害賠償請求をしたい

悪口を書かれたことで被った損害は、民法上の不法行為として損害賠償請求が可能です。民事責任を負わせるためには匿名の誰かやアカウントが実在する誰なのかを特定せねばなりません。

「このアカウントの人が言った」ではなく「この投稿は〇〇という人物によっておこなわれた」ということが特定です。投稿者を特定するためには「発信者情報開示請求」という法的手続きを取る必要があります。

発信者情報開示請求によって投稿者の住所や氏名が分かれば、まずは内容証明で損害賠償請求をおこなうことが大半です。

ただし、相手方がなんら返答してこなかったり、金額に納得できない場合などは民事訴訟の検討が必要なケースもあるでしょう。

特定については本記事内「ネットで悪口を書かれたら開示請求はできる?」をご覧ください。

ネットで悪口を書かれたらどんな犯罪に問える?

ネット上での悪口は、単に個人を不快な思いにさせるだけではなく、法規範に触れる犯罪行為に該当するとして「〇〇罪」として処罰の対象となる可能性があります。

ネットでの悪口と関連のある代表的な犯罪は、名誉毀損罪侮辱罪信用毀損罪業務妨害罪などです。

犯罪になる誹謗中傷

  • 名誉毀損罪 
  • 侮辱罪
  • 信用毀損罪
  • 業務妨害罪

名誉毀損罪や侮辱罪|悪口で嫌な思いをした

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して、人の名誉を毀損する行為をいいます。一方で侮辱罪は公然と人の名誉を毀損する行為です。

名誉毀損罪と侮辱罪は「公然と人の名誉を毀損する」点は共通していますが、事実の摘示性に違いがあります。

名誉毀損罪と侮辱罪の成立要件の違い

公然性事実摘示性名誉毀損性
名誉毀損罪ありありあり
侮辱罪ありなしあり

それぞれの意味をもう少し深く掘り下げてみます。

公然性とは何か

インターネット上で誰でも見られる掲示板やSNSで悪口が書かれた場合には「公然性」が認められる見込みです。

一方で、1対1のダイレクトメール形式やEメールでは公然性があるとはいい難く、悪口を言われても名誉毀損や侮辱罪の成立は難しい可能性が高いでしょう。

事実摘示性とは何か

事実の摘示性とは具体性と考えておいてください。

たとえば、「前科がある」「不倫している」などは具体的な事実と共に、一般的には良くないとされる事柄を述べています。

逆に「アホ」「ブス」などの悪口は具体性がなく、事実摘示性がないと判断されるでしょう。

つまり、「前科がある」「不倫している」などは名誉毀損罪、「アホ」「ブス」などの具体性のない悪口は侮辱罪を検討していくことになります。

名誉毀損性とは何か

名誉毀損性とは、一般的に社会的評価を下げるような内容の悪口を指します。

「野菜が食べられない」「毎朝コーヒーばかり飲んでいる」などは一般的な嗜好のことであって、とくだん社会的評価を下げるものとは言えません。

言われた本人にとっては不快なものかもしれませんが、一般的に社会的評価を下げるものとはいえないのです。

名誉毀損か侮辱罪かは弁護士に聞いてみよう

ネットで書かれた悪口が名誉毀損なのか侮辱罪なのかは内容次第です。そのため、どちらか見当をつけたい方は弁護士との法律相談で聞いてみることをおすすめします。

もっとも名誉毀損や侮辱罪にあたる表現がなされていても、それが誰のことを言っているのかが分からないと犯罪としては成立しません。これは「同定可能性」といい、ネット上の悪口では問題になりやすいです。

関連記事では名誉毀損や侮辱罪の成立についてくわしく解説しているので、あわせてお読みください。

信用毀損罪|嘘を言いふらされて迷惑している

信用毀損罪の構成要件は「虚偽の風説を流布し」または「偽計を用いて」、「人の信用を毀損」することです。

例えば次のような悪口が虚偽であれば信用毀損罪にあたる可能性があります。

信用毀損罪の例

  • 焼肉の〇〇のA店でバイトしてるけど、客の食べ残しを再利用している。
  • コンビニ〇〇のB店は感染症に罹患している従業員に接客させている。
  • 通販のCショップで購入した商品壊れててたんだけど。
  • D銀行はつぶれるらしい。早く預金を下ろさないとお金が返ってこなくなるよ。

要件についてくわしくみていきましょう。

虚偽の風説を流布とは?

「虚偽の風説の流布」とは、真実ではない情報を意図的に広めることです。

偽計を用いるとは?

「偽計を用いる」とは、人の業務を妨害する目的で人を欺くことをいいます。

あるいは、他人が知らないことや他人の勘違いにつけこむ意味も含まれるものです。

人の信用を毀損するとは?

「信用を毀損する」とは、人の社会における財産上の信用を害することです。

あるいは販売される商品の品質に対する社会的な信用も含まれます。

「人」とは個人だけでなく法人(企業)に対する悪口であっても、その企業そのものや商品の評価を下げられたときには信用毀損罪に問える可能性は十分あるのです。

業務妨害罪|脅しのような言葉や虚偽の流布で業務に悪影響

業務妨害罪は「威力業務妨害罪」と「偽計業務妨害罪」にわけることができます。どちらも業務を妨害する行為を対象としますが、その方法に違いがあるものです。

罪名方法
威力業務妨害罪威力
偽計業務妨害罪虚偽の風説を流布または偽計

威力とは威勢、人数、四囲の状況から、客観的にみて被害者の自由意志を制圧するものをいいます。

虚偽の風説流布や偽計とは、真実ではないことを意図的に広めたり、人を欺いたり、無知につけこんだりすることです。

業務妨害罪を具体例で検証

たとえば店の悪口を書かれたときを例に考えてみましょう。

「ここの店員は態度が悪かった。明日も店に行って店内を荒らしてやる。覚悟しておけ。」

店側は営業を取りやめたり、警備をつけたりして業務を妨害されます。「威力業務妨害罪」の適用を考えることになるでしょう。

「ここの店員は態度が悪かった。客に釣銭をごまかして、そのぶんを懐に入れている。」

わざと嘘を書き込んだ場合、店は店員への聞き取り調査を強いられたり、店員個人は嘘によって名誉を傷つけられたりします。「偽計業務妨害罪」や「名誉毀損罪」など広く検討すべきでしょう。

このように店に対する悪口についても、法的対処が取れる可能性は十分あります。

弁護士に相談をして、どういった対応が取れるのか検討してみましょう。

ネットで悪口を書かれたら開示請求はできる?

ネットで書かれた悪口がその人の権利を侵害していると認められたときには、「発信者情報開示請求」により匿名投稿者の住所・氏名・メールアドレスなどの開示を受けられます。

どんなときに発信者情報開示請求が認められるのかを確認していきましょう。

発信者情報開示請求ができる条件

発信者情報開示請求には複数の要件があり、その要件のひとつに「権利が侵害されたことが明らかであること」があります。

ここでいう権利とは、名誉毀損や侮辱罪といった犯罪にあたるもののほか、書かれた人の名誉感情の侵害も含みます。

名誉感情の侵害とは、自尊心や自分自身の価値など「その人の人格」を侵害することです。

重要

書かれた悪口が社会通念上許されず、限度を超えていると判断されたときには、相手への損害賠償請求をおこなうために発信者情報の開示を受けられます。

発信者情報開示請求の要件

権利侵害以外にも発信者情報開示請求の要件があります。以下に発信者情報開示請求の要件を示します。

発信者情報開示請求の要件

  • 請求相手が開示関係役務提供者に該当すること
  • 自己の権利を侵害されたとする者であること
  • 特定電気通信による情報の流通であること
  • 権利が侵害されたことが明らかであること
  • 正当な理由が存在すること

悪口を書かれた全員が開示請求できるとはかぎりません。

たとえば「正当な理由が存在すること」とあるように、「悪口を書いた人の住所を突き止めて、こらしめたい」といった報復や反撃の可能性があると判断されれば、開示請求は認められないのです。

関連記事では発信者情報開示請求のくわしい方法と流れ、また開示請求が認められないケースについてもくわしく解説しているので参考にしてみてください。

悪口に対する慰謝料の相場

ネットで悪口を書かれた場合には、民法上の不法行為として慰謝料をはじめとした損害賠償請求が可能です。

慰謝料のほかにも、悪口を書きこまれて仕事に影響を及ぼした場合の損害、病院に通うことになった場合の治療費や処方薬の費用なども対象となるでしょう。

ただしどの程度まで因果関係が認められるのかは、交渉や裁判所の判断次第です。

基本的に、ネット上の名誉毀損においては10万円から50万円ほどが慰謝料の相場とされています。詳細な金額は個々に異なるので、まずは弁護士に見積もってもらうことがおすすめです。

ネット上の悪口に関するFAQ

ネットで悪口を書かれた場合のよくある質問にお答えします。

どんな悪口なら誹謗中傷といえる?

ネット上の悪口は「誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)」とも表されます。デジタル大辞泉(小学館)によると、誹謗中傷の定義は次の通りです。

「誹謗中傷」

根拠のない悪口を言いふらして、他人を傷つけること。

デジタル大辞泉(小学館) weblio辞書

誹謗中傷という言葉は法律上の用語ではなく、一般的に用いられる言葉です。

悪口、嫌がらせ、なりすまし、法律上の不法行為(権利侵害)、犯罪行為など、人や企業に対して不快な思いや恐怖心をもたらすものはすべて誹謗中傷と捉えられています。

ただし悪口(誹謗中傷)のすべてが法的対処の根拠として認められるわけではありません。刑事責任を問えるようなひどいものなのか、刑事責任は難しくても民事責任なら問える可能性があるのかなどここに異なります。

法律の専門家である弁護士に実際の投稿を見せて見解を聞いておきましょう。

悪口に対する開示請求はいつまでできる?

発信者情報開示請求に取り掛かるには早いほどがよく、プロバイダ次第ですが、悪口が書かれてから3週間をめどに行動しないと開示請求に失敗する可能性があります。

発信者情報開示請求はネットのログを辿ることになりますが、プロバイダによってログの保存期間は様々です。ログが消えてしまうと発信者情報につながる情報は失われてしまい、開示請求できない可能性が高まってしまいます。

発信者情報開示請求のタイムリミットや開示請求にかかる期間の目安は以下の記事をご覧ください。

悪口を削除するように相手に直接依頼していい?

ネット上の侮辱は、放置しておくとさらにひどい書き込みが行われたり、SNSで拡散される危険があります。いわゆる「炎上」の状態になると、完全に鎮火するには相当な時間と労力を要するでしょう。

もし悪口を書き込んだアカウントが分かっていた場合、DMで悪口の削除を依頼することも可能です。しかしかえって相手の態度を激化させたり強固な態度を取られたりする可能性もあるでしょう。直接のやり取りは慎重に行ってください。

なお、サイト管理者に削除を求めるときには、次の点に注意する必要があります。

  • 誹謗中傷の被害者本人が削除の依頼を行うか、弁護士に依頼して行う
  • 「誰に対する権利侵害か」がわかること
  • 「権利侵害性」があること

削除を求める場合にも法的主張を行い、権利侵害性があることを述べる必要があります。手続き方法は悪口を書かれたコンテンツによりますので、関連記事で手続き方法やポイントをご確認ください。

配信活動をしている以上は悪口も我慢すべき?

配信活動によって生計を立てている以上、多少の批判的な感想は受け止めるべき部分もあるでしょう。

しかし、すべてを我慢する必要はありません。どうしても我慢できない、見過ごせないほどの悪質なコメントやアンチからのDMについては一度弁護士に相談してみてください。

配信活動の方法や内容によって、個人への限度を超えた悪口だと判断される時には法的対処が取れる場合があります。

ネットで悪口を書かれたときの対処法は弁護士相談がおすすめ

ネットで悪口を書かれたとき、その心の痛みや恐怖は被害者にしかわかりません。その悪口が一般的に限度を超えたひどいものであれば、法的対処が取れる可能性があります。

ネット上で誹謗中傷・悪口・攻撃の対象となってしまったとき、大切なことは一人で抱え込まないことです

ネットに詳しい弁護士に相談し、事態が悪化するのを防ぐ方法や、炎上への正しい対応方法について情報収集を始めましょう。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了