誹謗中傷の投稿者を特定する「発信者情報開示請求」を解説
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監修者:アトム法律事務所 代表弁護士
岡野武志

はじめに
ネットに悪質な書き込みが行われた場合、「発信者情報開示請求」という方法を使って投稿者を特定することが可能です。誹謗中傷を根本的に解決する方法として、法律上の手段を使って書き込んだ者を特定するのです。ここでは、発信者情報開示請求の具体的な流れと、どのような場合にそれが可能なのかを解説していきます。
目次
発信者情報開示請求は2つのステップが必要
Step① コンテンツプロバイダへの情報開示請求
まずは、コンテンツプロバイダに対して、情報開示を求めます。コンテンツプロバイダとは、ブログサイトやSNSなどの情報提供事業者のことを指します。たとえば、アメーバブログのサイトやTwitterなどがそれにあたります。
コンテンツプロバイダが保有している発信者情報は様々あります。ログ情報とよばれるIPアドレスやタイムスタンプが重要な情報になります。IPアドレスの情報提供を受けることで、どのインターネットプロバイダを経由して情報が書き込まれたかをたどることができます。
重要
- ログ情報の保存期間は3ヶ月程度の場合が多く、急いで開示請求の手続きを進めなければ特定が困難になってしまいます。
Step② インターネットプロバイダへの情報開示請求
コンテンツプロバイダから提供を受けた情報をもとに、インターネットプロバイダに対して契約者情報の開示を求めます。インターネットプロバイダは、顧客の個人情報を出すことになりますので、通常は任意で提供してくれることはなく、訴訟手続き(発信者情報開示請求訴訟)を要することがほとんどです。
発信者情報開示請求訴訟に勝訴することで、インターネットプロバイダから情報提供を受けることができます。発信者のアクセスログの調査に時間がかかる場合には、ログ情報が消去されないよう発信者情報消去禁止の仮処分を裁判所に申し立てることもあります。
最新情報|発信者特定の方法は簡略化の方向へ
この現状を受けて、プロバイダ責任制限法が改正されました。2022年10月1日より一度の開示請求でコンテンツプロバイダとインターネットプロバイダからそれぞれ情報提供を受けられるようになりました。
開示請求のポイント5つ|プロバイダ責任制限法4条1項
(1)開示請求の法的根拠は「プロバイダ責任制限法」
発信者情報開示請求は、「プロバイダ責任制限法」に根拠を求めることができます。この法律は、正式には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といい、ネット上で権利侵害ある書き込みが行われた場合における、①ネットサービスプロバイダ側の損害賠償責任の制限と、②発信者情報の開示を請求する権利について規定されたものです。
特定の個人に対する民事上の権利侵害があった場合に、発信者情報の開示を請求することができるものとされています。この法律を根拠に、悪質な書き込みをされ誹謗中傷で苦しんでいる人は投稿者の特定に踏み切ることができます。
(2)誰が開示請求できる?
「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」が開示請求権者とされています。つまり、インターネット上で誹謗中傷を受け、名誉権やプライバシー権などの権利侵害を受けた被害者の立場にある者が、開示請求できることになります。
(3)誰に対して開示請求できる?
「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し」開示請求ができるとされています。これは、コンテンツプロバイダとインターネットプロバイダのことを指しています。
(4)何を開示してもらえる?
「開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)」が開示の対象とされています。発信者の特定につながる「氏名」や「住所」が開示の対象となっています。
(5)どんな場合に開示請求ができる?
次の2つの場合に、開示請求をすることができます。
1号
「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。」
「権利が侵害された」ことと、それが「明らかである場合」と言えなければなりません。そのため、例えば「◯◯さんには前科がある」と書き込まれたと主張するだけでは不十分で、この書き込みが不法行為であることを説明できなければいけません。
詳しい解説
Aさんが大勢の前で「Bさんは前科がある」と言ったとしても、その情報が真実であり、みんなが知りたい情報であった場合は、Aさんの発言が不法行為とならないことがあります。通常、不法行為にならないということは、Aさんが主張しないといけませんが、発信者情報開示の場面では、Bさん側がAさんの発言が「不法行為とならない場合ではない(=違法である)」と主張しなければなりません。
2号
「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。」
ここでの権利侵害とは、名誉権やプライバシー権といった具体的な権利を侵害されていることを指します。名誉権やプライバシー権などの権利侵害を受けた場合の対処方法や法的責任の追求方法については、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてみてください。
発信者情報が開示されるまでの期間は?
現行の制度ではどれくらい時間がかかる?
発信者の特定に関して、現在の制度だと、コンテンツプロバイダとインターネットプロバイダへの各開示手続きが必要です。
二段階の裁判手続きを経なければならないため、発信者の特定には時間がかかってしまいます。発信者を特定できるだけの情報を取得できるまで、およそ10カ月程度を要すると考えておきましょう。
※従来は2段階に分けて開示請求手続きを行う必要がありましたが、法改正(改正プロバイダ責任制限法)により2022年10月以降はワンアクションで行えるようになりました。これによって発信者を特定するまでにかかる時間は短縮されることが期待されます。
誹謗中傷・悪質な書き込みはネットに強い法律事務所に相談する
悪質な書き込みに対して「特定」後にできること
誰が悪質な書き込みをしたのか、氏名や住所が特定できた場合、その後の対応にはいくつか選択肢があります。ただ相手を知りたいだけという理由では情報開示はできません。
実際の被害状況をもとにどのような対応をすべきか、専門家と相談のうえ検討することをおすすめします。
- 損害賠償を請求する
- 刑事告訴をする
- 再発防止のための警告を発する
匿名投稿者を特定する発信者情報開示請求の弁護士費用については、記事『誹謗中傷対策|削除依頼・発信者特定にかかる弁護士費用』をご参考になさってください。
法律事務所に相談することがおすすめの理由
発信者情報開示請求は、高度な法的判断が必要となる手続きです。さらに、インターネットの仕組み上、発信者を辿れる期間が限定されています。
弁護士との打ち合わせを考慮してお住まいのお近くで民事事件を扱う法律事務所を探し、相談してみましょう。
発信者を特定後、裁判によって損害賠償を求める場合には、相手方に資力が無い場合は、空振りに終わるというリスクもあります。また、損害賠償請求が認められるにしても、最終的な解決に至るまで1年~長期に及ぶケースがあります。自分自身の時間や金銭面の負担を考慮して慎重に検討しましょう。
発信者情報の開示できなかった場合にはどうすべきか
既に発信者情報が失われていたり、発信者が匿名性の高いネットワークからアクセスしていた場合には開示に至らないことがあります。投稿がまだインターネット上にある場合は、多くの人の目に触れないよう早急に削除すべきケースがあります。
ネットトラブルに詳しい法律事務所への相談を検討しましょう。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了