自分で開示請求する方法・注意点!開示請求のやり方と開示請求書の書き方
インターネット上で誹謗中傷を受けたとき、誹謗中傷を受けた本人には発信者情報開示請求権があるため、自分ででも開示請求自体は可能です。
この記事では、自分で開示請求する時にも使える「発信者情報開示請求書」を例に、書類の書き方やポイントを解説します。
また、自分で開示請求したいという方のなかには、弁護士に依頼して弁護士費用が発生するデメリットを避けたいという方も多いです。
しかし、自分で開示請求することにも一定のリスクはありますので慎重に検討してみてください。
目次
発信者情報開示請求は自分でできる?
発信者情報開示請求は一定の要件が設けられており、そのなかには「発信者情報開示請求権を持つ人」も定められています。
発信者情報開示請求の権利を持つ人
発信者情報開示請求は自分でもできます。
開示請求権者は「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」と定められているからです。
もしくはその被害を受けた人の代理人も開示請求できます。具体的には、委任を受けた弁護士、本人が未成年であれば親権者である親などがあげられるでしょう。
発信者情報開示請求書の書き方のポイント
開示請求には「発信者情報開示請求書」を送付する方法があります。
一般社団法人テレコムサービス協会が設置する「プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会」では書式を検討・作成して公開しており、通称テレサ書式として広く知られているものです。
ここからはテレサ書式にもとづいて、発信者情報開示請求書の記載項目と書き方のポイントを解説します。
発信者情報開示請求書(テレサ書式)の記載項目は以下のとおりです。
記載項目
- 貴社が管理する特定電気通信設備等
- 掲載された情報
- 侵害された権利
- 権利が明らかに侵害されたとする理由
- 発信者情報の開示を受けるべき正当理由
- 開示を請求する発信者情報
- 証拠
- 発信者に示したくない私の情報
書式はプロバイダ責任制限法 関連情報Webサイトで公開されています。記載項目の書き方とポイントをひとつずつみていきましょう。
貴社が管理する特定電気通信設備等
発信者情報の開示を請求したいURLを記載します。掲示板やSNSなどのトップページのURLではなく、問題の投稿がなされたURLを記載しましょう。
掲示板の場合はスレッドのURLとレス番号、ブログ記事であれば個別の記事のURLのように、開示を請求する投稿を特定できるURLを記載してください。
掲載された情報
開示請求のきっかけとなった問題の投稿内容を記載しましょう。その内容をコピーペーストして記載しても構いません。
量が多い場合には別添資料を付けることも可能です。
侵害された権利
投稿によってどんな権利が侵害されたのかを記載します。具体的には、名誉権、プライバシー権などがあげられるでしょう。
どういった権利侵害と表現すべきか悩むときには、弁護士に相談をして助言をもらうことも有効です。
権利が明らかに侵害されたとする理由
先の項目「侵害された権利」と整合性が合うように、投稿内容が権利侵害をしている理由について記述します。
たとえば「〇〇は前科があると記載されたが、このような記載は私の社会的評価を低下させるものであり、事実でもないため名誉権の侵害にあたります」などのように、投稿が自分のことを指しており、かつ権利侵害にあたることなどを明確にわかるような記載が必要です。
この書類を受け取るプロバイダはネット上の書き込みのすべてを把握しているわけではありません。そのため事情が分かるようにくわしい記載が必要です。
発信者情報の開示を受けるべき正当理由
当てはまる理由をすべて選択します。
基本的に、インターネット上の投稿に対する開示請求は「損害賠償請求権の行使のため」にマルをつけることになるでしょう。
開示の正当な理由
- 損害賠償請求権の行使のため
- 謝罪広告などの名誉回復措置の要請のため
- 差止請求権の行使のため
- 発信者に対する削除要求のため
- その他(具体的に記入)
たとえば、著作権侵害の被害を受けている場合は「差止請求権の行使のため」を選択したり、出版物で名誉毀損の被害にあった場合は「謝罪広告などの名誉回復措置の要請のため」を選択したりする場合があります。
開示を請求する発信者情報
開示請求する発信者情報から当てはまるものをすべて選択します。
開示請求する情報
- 発信者の氏名又は名称
- 発信者の住所
- 発信者の電話番号
- 発信者のメールアドレス
- 当該発信者のIPアドレスおよび当該IPアドレスと組み合わされたポート番号
- 携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号
- SIMカード識別番号のうち、インターネット接続サービスにより送信されたもの
- 5ないし7から侵害情報が送信された年月日および時刻
誰に対して発信者情報開示請求をおこなうのかで「開示される情報」が異なる点は留意しておきましょう。
たとえば匿名の掲示板サイトへの開示請求において、発信者の氏名や名称を開示するように求めることは難しいでしょう。なぜならサイト側もそうした個人情報は把握していないからです。
サイト管理者に対して開示請求できる発信者情報としては、「開示請求する情報」に記載した5番から8番の範囲にとどまることが大半といえます。
一方で、インターネット接続のプロバイダに対して発信者情報開示請求書を送付する際は、「開示請求する情報」における1番~4番について開示請求の対象となるでしょう。
なぜなら、プロバイダ利用にあたっての契約者情報として、発信者の氏名や住所などを把握していることが通常だからです。
誰に対する発信者情報開示請求書なのかで開示を求めることが可能な発信者情報も変わります。記入に迷う場合は、早めに弁護士に相談をしてアドバイスを受けましょう。
証拠
「添付資料」と記載し、主張を裏付ける証拠を添付します。たとえば、当該投稿のなされたページをURLが含まれるように印刷し、マーカーを引いて箇所を示すことも有効です。
発信者に示したくない私の情報
発信者に示したくない情報があればマルをつけておきましょう。
発信者に示したくない私の情報
- 氏名(個人の場合に限る)
- 「権利が明らかに侵害されたとする理由」欄記載事項
- 添付した証拠
もっとも、プロバイダ側から発信者に内容の確認をするうえで開示が必要と判断されたときには、開示可否についての確認が入ることも予想されます。
発信者情報開示請求のやり方は原則2段階
発信者情報開示請求の基本的な流れについては、原則2段階に分かれます。発信者情報開示請求書を送付しておこなうケースについて説明しますので、参考にしてください。
なお、発信者情報開示請求書による依頼はあくまで任意のため応じてもらえないことも多いです。
そこで、補足情報として裁判所の手続きを用いるケースも紹介するので参考にしてください。弁護士に依頼した場合には、最初から裁判所の手続きを活用することも多いです。
(1)サイト側に発信者情報開示請求書を送付
誹謗中傷や権利侵害のある投稿について、まず投稿のあったサイト(掲示板やSNSなど)に投稿者のIPアドレス開示を求めます。
インターネット上の多くのサイトは、匿名で、個人情報を登録することなく利用可能です。そのためサイト側に氏名や住所を開示請求しても、「その情報はない」として開示請求に失敗してしまいます。
そこで開示される可能性がある情報として、IPアドレスおよび当該IPアドレスと組み合わされたポート番号などの情報開示をまずおこないます。
(2)プロバイダ側に発信者情報開示請求書を送付
サイト側からIPアドレスなどの開示を受けられたら、その情報からプロバイダの特定が可能です。つづいてプロバイダに対して、「発信者情報開示請求書」を送付して情報開示を求めていきます。
プロバイダは契約者情報として氏名や住所などを所有していますので、今度は発信者の特定につながる個人情報の開示を求めていくのです。
発信者情報開示請求書のほかにも裁判所の手続きも検討しよう
発信者情報開示請求書による開示請求は有効な手段ですが、依頼はあくまで任意になるため、サイト側が応じてくる可能性は高いとは言えません。
発信者情報開示請求書への返答を待つ間にも、投稿が拡散されてより深刻な被害につながるリスクもあります。
そこで裁判所の仮処分命令や訴訟提起も選択肢の一つになります。また、開示請求は時間との勝負でもあるので、最初から裁判所の手続きを利用すべきケースも多いです。
開示請求の手段は弁護士相談がおすすめ
裁判所から「IPアドレスを開示しなさい」という仮処分命令が発令されれば、情報開示に応じるサイトも多いでしょう。
また、IPアドレスを元に特定したプロバイダに対して、発信者情報の開示請求のための訴訟を起こす方法もあります。
発信者情報開示請求訴訟に勝訴すれば、発信者の住所・氏名・メールアドレスなどの情報開示を受けることが可能です。
ご自身で開示請求をやるにしても、専門家から様々な選択肢について助言を受けてから方法を決めることが得策です。
下記の関連記事でも裁判所の手続きを利用する「仮処分」や「発信者情報開示請求の流れ」を紹介していますので、あわせてお読みください。
自分で発信者情報開示請求するうえで知っておきたいこと
自分で開示請求をする人に向けて、特に知っておきたいことをまとめました。
自分で開示請求することには費用を少なくするというメリットはありますが、一方で開示請求は手間が大きいこと、開示請求失敗の恐れがあることなどのリスクについてもおさえておきましょう。
自分でやると開示請求の費用は安くおさえられる
自分で発信者情報開示請求をする場合には、最低限の費用で済ませることができます。
弁護士に依頼すると弁護士費用がかかり、法律事務所の料金表にしたがって着手金や成功報酬などが必要になる場合があるのです。
もっとも裁判所の手続きを利用するにあたって必要な費用は、自分でやっても、弁護士に依頼しても発生します。
発信者情報開示請求を弁護士に依頼した場合の費用相場を知りたい方は、関連記事もあわせてお読みください。
発信者情報開示請求は認められない可能性もある
発信者情報開示請求は必ず認められるわけではありません。とくに、どんな権利侵害が発生したのかを法的問題として主張し、認められる必要があります。
インターネット上での書き込みについてよくある問題が、同定可能性です。書き込みをされたご本人は「自分のことが書かれた」と感じても、客観的にみて誰の事か分からない場合には権利侵害は認められづらいでしょう。
インターネットのトラブルにくわしい弁護士であれば、被害内容に応じてどんな法的根拠をもとにすべきかを適切に判断可能です。
自分で開示請求をしたいという方も、まず一度法律の専門家に見通しを聞いてみることをおすすめします。
手続きに手間取ると開示請求できなくなる確率は高まる
発信者情報開示請求での投稿者特定に必要な情報であるログは、3ヶ月から半年ほどで消えてしまいます。そのため問題のある投稿から日が経っているほど、特定につながる情報が消える恐れが高まるのです。
急にネットトラブルに巻き込まれた方は書類作成や証拠収集に手間取ってしまう可能性が高く、開示請求がうまくいかないリスクが高まってしまいます。
自分で開示請求をするよりも、手続きに慣れた弁護士に任せる方がスムーズに進み、結果として投稿者の特定につながる可能性を高めることになるでしょう。
発信者情報開示請求の弁護士相談はメリット多数
自分で開示請求をやりたいという人も、一度はインターネットトラブルにくわしい弁護士へ相談しておくことをおすすめします。
弁護士相談のメリットは、開示請求の見通しや開示請求後の流れがわかること、権利侵害に応じた損害賠償請金の相場が聞けること、そして弁護士費用の見積もりを取れることなどです。
弁護士相談のメリット
- 開示請求の見通しが聞ける
- 開示請求で特定できた後の流れがわかる
- 相手に請求すべき損害賠償金の相場がわかる
- 弁護士費用を見積もってもらえる
とくに自分で開示請求しようという大きな理由は、弁護士費用への不安でしょう。
弁護士費用は法律事務所ごとに様々なので、一度ご自身のケースではいくらになるのかを聞いてみることをおすすめします。
裁判手続きとなれば裁判所に出向く必要もありますし、いざ開示請求で特定できたら相手と直接損害賠償金の交渉をすることになるなど、大きなストレスを受けることになるでしょう。
発信者情報開示請求は長期におよぶことも十分考えられますので、日常生活への支障も大きいです。
弁護士費用をかけることで得られるメリットもありますので、まずは弁護士に相談してみてから、自分でやるのか、弁護士に任せるのかを検討してみましょう。
弁護士を選ぶ際には、下記バナーより確認いただける解説記事も参考にしてみてください。
なお、ネット上での誹謗中傷やネットいじめの問題について弁護士に相談するメリットは多数あります。関連記事『誹謗中傷を弁護士に相談するメリットと弁護士ができるサポート』でもくわしく解説していますので、あわせてお読みください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了